戦艦三笠の苦悩   作:樋口晶子

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第3話

「今日はよろしくお願い…」

 

「お待ちしておりました三笠様私、アームストロング社…っ!?」

 

「初瀬!!初瀬姉…っ!姉さん!!」

 

「あ…あの…」

 

「姉さん!!」

 

「ひ、人違いでは…?」

 

「…え」

 

「私はアームストロング社スウィフトシュア級戦艦2番艦トライアンフと申します」

 

「…」

 

「今日は三笠様の交渉窓口をさせていただきますので。よろしくお願いいたします」

 

「…失礼しました。視察団団長三笠です今日はよろしくお願いいたします」

 

 

「そうでしたか…確かにあなたの国の初瀬はここアームストロングで建造されました。そしてわたしも当時の設計図を元に生まれています、三笠様がお間違いになるのも無理はありません」

 

「申し訳ありません…」

 

「ふふ、いいんですよ…正直に申し上げて。私達の技術では貴国の要望には答えられないでしょう」

 

「それは!」

 

「次期主力戦艦として速力21ノット30cm砲となると…恥ずかしながらわが社では取り組んだことがありません」

 

「そう…ですか」

 

「わざわざ遠いところ来て選定していただいたのに…申し訳ありません」

 

「あの…あの石碑はなんですか?」

 

「ああ、わが社で建造し退役もしくは散っていった艦娘の名前を刻んでいます…彼女達を忘れないようにと」

 

「側に…近くで見せていただいて、よろしいでしょうか」

 

「…はい、そうしてさしあげてください」

 

 

 

「…吉野…高砂、久しぶりね。八島さん……初瀬…姉さん」

 

「彼女達は今も海に?」

 

「…はい、あのときは曳航などしている余裕はありませんでしたから。吉野は春日と衝突、八島さん初瀬姉さんはロシアの機雷で」

 

「…ご冥福を」

 

「私が…私が指揮していたのです…あれほど平和を愛していた初瀬姉さんを!」

 

 

 

 

「三笠、あなた自動販売機のジュース飲んだことある?」

 

「じどう?ジュース?それはなんですか初瀬姉さん」

 

「さっき街に出かけたらね、ひとの行列があって何かなーと思って並んでみたのよ!そしたらみんなこのくらいの木箱にお金を入れて蛇口から出る飲み物をコップ一杯分注がれるのを待ってるのよ!で、それを飲み干すとみんな幸せそうな顔で帰って行くの!ふふ…どんな味だと思う?」

 

「飲み物…ですか…ではお茶のような」

 

「ぶっぶー!!正解はとっーても甘いの!りんごと葡萄の味がするのよ!」

 

「りんごと葡萄…ですか」

 

「ええ!とっても美味しいんだから!三笠も今度一緒に行きましょうね!」

 

「それはそうと初瀬姉さん。これで積みです」

 

「あー!!また負けた…これで何連敗?」

 

「残念ながら1度も姉さんが勝ったことはありません」

 

「やっぱり将棋は三笠に勝てないか…」

 

「囲碁もカルタも負けたことはありません」

 

「ふふ、そうね!三笠…私はね、こうやってあなたと将棋したりあんパンを食べたりジュースを飲んだり…毎日過ごしたいな」

 

「…初瀬姉さんそれは」

 

「わかってる。みんなが安心して自動販売機に行列を作れるような毎日を守るのが私達の役目」

 

「姉さん」

 

「大丈夫!勝ち負けに滅法強い三笠がいるんだもの!今回も勝てるわよ」

 

「ロシアは簡単な相手ではありません」

 

「そうね!…でも」

 

「でも?何ですか?」

 

「誰も死なない戦争があったらいいわね!」

 

 

 

 

「…姉さん…もうあなたの笑顔は記憶の中にしか…ありません」

 

「三笠様…」

 

「申し訳ありませんミストライアンフ…商談中に」

 

「いえ」

 

 

 

「三笠様、今回はご期待に添えず申し訳ありません」

 

「こちらこそお手間をおかけしました」

 

「わが社はいずれヴィッカースに吸収されます」

 

「ミストライアンフそれは!」

 

「資本主義の社会ですから仕方のないことです」

 

「…」

 

「私達戦艦は最早過去のもの…ヴィッカースの弩級戦艦が生まれ次は何が生まれるのでしょう。そして誰が死ぬのでしょうか」

 

「あなた…」

 

「願わくば悲劇を繰り返さないことを」

 

 

 

 

「アドミラル三笠!再再訪問ということはヴィッカースに発注の依頼を決めてくださったのですね!」

 

「ミスインヴィンシブル。大日本帝国海軍次期主力戦艦建造依頼は視察団の技術士官調査報告書、御社のオライオン級戦艦様々な要因を検討した結果。ヴィッカースに委託する事を決めました」

 

「三笠!本当にありがとう!三笠ならわが社にしてくださると信じておりました」

 

「調印を済ませたいCEOのプリンセスロイヤルはいらっゃる?」

 

「はい!調印の準備でしたらすでに!…しかし」

 

「何か問題でも」

 

「プリンセスがご自身でお話がしたいと」

 

「かまわない通していただこう」

 

「かしこまりました」

 

 

 

「Yourwelcome!アドミラル三笠待っていたわ」

 

「プリンセスロイヤル、ご多忙ななかお時間をいただきありがとうございます」

 

「いいのよ!他でもない大日本帝国のしかもヴィッカース生まれ私達の先輩、三笠の為だもの」

 

「ミスインヴィンシブルから契約の内容について話があると聞きましたが」

 

「ええ!その話ね…技術共用のことだけれど。これについてわが社も一つ条件があるわ」

 

「というと」

 

「日本の三井商事わがヴィッカースこの2社による資本で日本に製鉄会社を開きたいの。ついてはその斡旋と音頭取をお願いできるかしら?」

 

「民間に口出しするのは海軍の仕事ではない。我々にできることはないと思うが」

 

「だーかーらー政府に働きかけてほしいって言ってるの!そっちの三井とは話纏まってるんだから」

 

「それは政府内における海軍の発言権の外にあることよ」

 

「えー!それさえしてくれたらあなた達のお願いぜーんぶ聞いてあげるよ?」

 

「できない相談ね。第一に新規の会社はそれぞれ出資比率は何%かしら」

 

「あら~?民事不介入じゃないの?」

 

「それすらも聞けぬのならここで出せる返答はない」

 

「いいのかなー?このままじゃ伊号計画の予算はカットされちゃうんじゃない?」

 

「それは御社に関係ない」

 

「あるわよ!お客様の財布なんだから。ふふふ…今回の伊号装甲巡洋艦2410万8600円にしてあげる」

 

「この交渉は決裂だ!」

 

「人の話は最後まで聞きなさいよね!」

 

「まだあるのか」

 

「そんなに怖い顔しないで?ここからはあなた達のメリットよ。1隻目の伊号艦についてはここバローで建造、あなたの国の技術士官を何人派遣してもいいし何年いてくれても構わないわ。そして2隻目はこちらから技術団を派遣、材料も提供するし設計図もあなた達のものよ?どうかしら?」

 

「…そのための合弁会社だと」

 

「正解正解!私達としても日本の海軍力を強くしたいのよ!この熱意。わかってもらえる?」

 

「伊号戦艦2隻分で2410万8600円でいいんだな」

 

「もちろん!それ以上は頂かないわ!」

 

「…その性能は」

 

「もちろん!現環境最高水準の超弩級戦艦をプレゼントするわ!この設計だと…そうね排水量26000t速力27ノット、主砲45口径35.6cm連装砲4基、副砲50口径15.2cm単装砲16基!世界最強じゃない!」

 

「納期は」

 

「ヴィッカースの総力を持って取り組ませてもらうわ!そうね…2年で仕上げるわ!」

 

「…了解した、竣工後の納品は我々の手で行うスエズの通行許可も合わせてお願いする」

 

「ええ!じゃあ…私達のお願い聞いてもらえるってことでいいのね?」

 

「御社にどんな思惑があってそんなことをするのかは解らないが善処しよう」

 

「三笠!befriend!ではこの契約書類に仲良く調印しましょう!」

 

「仲良くは余計だ。それと合弁会社についてだが海軍が仲立ちする以上、設立にも関与し違法性がないか監視させていただく」

 

「はいはいご自由に~もう!ツンデレさんなんだから~!あ、そうだ今回ヴィッカースを選んでくれてありがと~という気持ちを込めて三笠と朝日海軍大臣にそれぞれ日本円で40万円ずつお礼を配りたいの!受けとってくれるわよね!」

 

「わが大日本帝国海軍軍人はいかな謝礼も受け取らない!見くびるなよ小娘」

 

「…ふふ、話の通じる人だと思ってたのに…まあいいわ。要らないというなら無駄な出費がないもの。さっさと調印しましょ」

 




伊号装甲巡洋艦
後の金剛型巡洋戦艦の計画名です
本作では諸説ある金剛の建造費ですが
2410万8600円を採用しました
現在の価値で4821億7200万円ほどです
いかに帝国海軍がこの戦艦と英国の造船技術を欲しかったかわかる数字です

本作品ではヴィッカースが技術共用を渋りましたが
史実ではとても日本に好意的で率先して提供したそうです
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