戦艦三笠の苦悩   作:樋口晶子

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第4話

「三笠あなた正気なの!こんな条件を本部通さずに決めてくるなんて!何をやっていたの!あれほど三井との動きは注意なさいって」

 

「朝日姉さん、お怒りはごもっともですが調印のとき断っていれば今回日本は品物を買わせてもらえない国になっていました」

 

「そんな面子の話!」

 

「それが国というものではなくて?アームストロングは技術面で不安。なれば、多少強引であってもヴィッカースにて次世代戦艦2隻を実質1隻分の値段で購入できました。技術共用のおまけつきで」

 

「三笠!!」

 

「日露戦役にて表面上戦勝国の我々が同盟国から船を買わせて貰えなかった。そんな出来事はあってはならないのです」

 

「この三社合同の子会社北海道炭礦汽船株式会社…それぞれ出資比率は何%?」

 

「不明です」

 

「三笠!!おそらく三井とヴィッカースは癒着している。となれば今後造船が進む我が国で建造費が支払われるたび材料の発注を受けたこの会社は、出資比率の優遇を受けたヴィッカースに円を流す!これがどういうことかわかってるの!2410万8600円どころの話ではなく日本は未来永劫イギリスに搾取し続けられるということなのよ!」

 

「はい」

 

「ならどうして!」

 

「三井で足りない額は海軍から補填すべきかと」

 

「あ…あな、た…み、民間に手を出すということ…」

 

「いいえ三井には33%を出資させ残り34%を海軍の秘密口座から株式会社名義で出資します。設立時の出資額は国内5割、多くて英33%になり円の流出を最小限に留めることができます」

 

「…それには海外企業と癒着している三井を引き剥がし出資比率を聞き出しヴィッカースと波風を立てない。という無理難題を背負うことになるのよ?」

 

「朝日姉さん、それよりも私には別の考えがあります」

 

 

 

 

 

「鹿島、香取留守中あなたたちに迷惑をかけてしまったわね」

 

「いえ!三笠司令、この度のイギリス視察ご苦労様でした」

 

「私達も聞き及んでおります」

 

「そう、留守中の横須賀で変わったことはなかった?」

 

「日露戦役にて接収した艦娘6名が本国からの身柄引き渡し要求があった際、我々に抵抗。これを鎮圧いたしました。」

 

「すべてこちらの訓練日誌に記載しておりますが日露戦利艦であるポルタワ、ペレスヴェート、ポベータ、レトヴィザン、オリョールをそれぞれ丹後、相模、周防、肥前、石見と命名。第三艦隊に編入し訓練を続けております」

 

「そう、戦利艦だからと言って手荒にしていないでしょうね?」

 

「…しかし三笠提督彼女達は!」

 

「彼女達は帝国海軍横須賀鎮守府所属の艦艇よ無意味な指導は私が許さないわ香取」

 

「…かしこまりました」

 

「…お茶を…淹れました」

 

「ありがとうございます壱岐さん」

 

「屈辱よ!その名前で呼ばれる度にお前を殺したくなる!!」

 

「貴様…身の程を!!」

 

「鹿島!!」

 

「三笠司令…」

 

「壱岐、私はあなたを壱岐としか呼ばないわ」

 

「…ふ、ああいいさ!好きなだけ呼べばいい!どうせ私は祖国に帰ったとしても銃殺刑だ…ここでなぶられることと変わりはない。生きている分マシか否か私にはわからん」

 

「壱岐…」

 

「まだ言うか!私はニコライ、ニコライ1世だ!」

 

「貴女のその名前は長崎の南にある島の名称で日本の歴史書古事記には天比登都柱という名前で登場するわ。古代日本の国、邪馬台国には統治する女王卑弥呼がいたそうよ。その娘の名前が壱岐、貴女の名前。決して侮辱するための名前ではないことだけは覚えて頂戴」

 

「…東洋の猿に言いくるめられたりはしない!必ず貴様らに復讐する!」

 

「三笠司令。ご命令を」

 

「三笠提督。この香取が始末を」

 

「…他の報告が先よ」

 

「はい、国産の戦艦河内がまもなく竣工を迎えます」

 

「そう、二人ともありがとう後は私のほうでやっておくわ」

 

「しかし!」

 

「戦艦鹿島、香取両名に命令」

 

「はい!あのロシア娘を!」

 

「来る3月3日より半年にわたり皇太子裕仁親王殿下がヨーロッパを外周訪問あそばれる」

 

「え…」

 

「両名はそのご訪問に同行し裕仁親王殿下の玉身を警護せよ」

 

「…それは」

 

「…ここを離れよ。と?」

 

「そうよ鹿島あなたは御召艦、香取は供奉艦をそれぞれ勤めなさい」

 

「三笠司令!この不満分子が跋扈する鎮守府をお一人で統率なさるおつもりですか!」

 

「聞けません!三笠提督の御身をお守りいたします」

 

「畏れ多くも」

 

「はい!」

 

「今は亡き明治帝のお孫様であられる裕仁親王殿下におかれましては国内の反対派を意にかえさず欧州をご訪問あそばれたいと直々に我が海軍を頼っておいでよ。殿下は御自ら和平の使者として日本に戦火を招かぬよう各国代表と会談を希望されているにも関わらず。貴女達は殿下の叡慮を蔑ろにするというの?」

 

「しかし!」

 

「そう、なら貴女達二人を反逆罪としこの場で斬って棄てる…私にそんなことさせないで頂戴」

 

「三笠司令…」

 

「貴女達が帰ってくるまでには鎮守府を平穏にしておくわ。元よりそれが私の仕事よ今までよくやってくれたわね…今上帝を御召した鹿島ならできるわね?」

 

「…戦艦鹿島一命懸して殿下を御召いたします」

 

「香取不束ながら供奉艦勤めさせていただきます」

 

「二人とも明日から作法見習いとして宮城へ赴きなさい。殿下が二人にご挨拶されたいそうよ」

 

「はい!」

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