「司令、今回の法案に関する資料と野党からの質問状それに対する規定回答です」
「ありがとう鹿島」
「後ろに控えておりますので何かあれば」
「ええ、大丈夫よ」
「喚問のお時間です」
「帝国海軍横須賀鎮守府司令長官三笠君」
「お答えします。イギリスからは今回の件に関し海軍に何かしらの連絡は受けておりません」
「では海軍はオーストリアとセルビアどちらと戦うおつもりか」
「憲法11条統帥権の独立により戦略的な発言は控えさせていただきます。加えて国権の発動たる戦争におきまして海軍が独自に戦闘行為をすることはあり得ません」
「イギリスはすでに参戦のため船を増やしていると聞いています。イギリスから打診を受けたのではないですか」
「質問が重複しておりますが重ねて回答します。イギリスからは連絡を受けておりません」
「金剛を派遣するとなれば国防はどうなるのですか!」
「そのような計画はございません」
「今回、海軍陸軍から提出された大臣現役武官制の復権ですが海軍の現場指揮官としてどのようにお考えですか」
「可決されるべき法案と考えています」
「それは軍部の政治独占と戦争がしやすいからということですか!」
「回答します。まず軍部という組織は存在しません有るのは陸軍と海軍でございます。国益の最終行使が戦争ですそこに行いやすさなど存在しません。今回の大臣現役武官制は予備役の大将で首相に都合の良い人物が推挙される現行法を改善する法案です。予備役の軍人では組織への責任がなく現代戦の知識が乏しい為、勝てない戦を国家主導で行ってしまう恐れがありますが。現役武官であればできない戦争を起こすことはありません。前首相身内の山本権兵衛が残した悪法でございますこと議員の皆様にはお詫び申し上げます」
「あなたの答弁が真実であるなら現政府に不都合な法案という訳ですが、なぜこの法案を通されようとしているのか」
「戦争をしないためにでごさいます」
「であれば軍の予算は必要ないということですか」
「陸軍は承知しかねますが海軍ではFleet in beingという思想がございます。海軍は狭義の国防であるところのため最小限の戦力の保持を有するが、あくまで防御であり他国を侵略するものではあり得ない。ですが広義の国防である国益を求める場合に台湾や朝鮮、南の委任統治領までを防備すると現存の戦力では手に余るものであります。つまり予算は足りておりません」
「海軍は現役武官制にして都合の良い内閣を作ろうとしているのではないか!」
「失礼ですが。海軍に都合の良い内閣があるのであれば見てみたいものです」
「海軍は戦好きなのではないか!」
「海軍は戦を好んで行ったことはありません。望むのは政府あるいはこれから未来、国民が豊かさを求め戦争を始めるかもしれませんが大臣現役武官制はその波を食い止めるものであります。このあとの評決では野党の皆様にもこの事をご理解頂きたく思います。」
「で?俺が大臣で三笠が軍令部総長か」
「はい、敷島姉さんにはご苦労おかけしますが」
「朝日を戻せばいいじゃねーか」
「朝日姉さんは戻るにはまだ早すぎます」
「連合艦隊はどうするんだよ。それに横須賀の連中はどうなるんだ」
「連合艦隊は解散。横須賀を軍令部の直轄組織として統合します」
「はいはい…わかりましたよっと」
「宜しくお願い申し上げます」
「三笠司令?」
「あら、河内どうぞお入りになって」
「私が…第一艦隊旗艦とはどういう」
「今の時勢にはあなたしかいないと思ったからよ」
「新型艦の金剛や比叡がいるのに…ですか」
「あの娘達はまだ若すぎるわ。改修もあるし」
「では…私は代打…というわけですか」
「河内、あなたはいつも悲観的で自分を過小評価してる」
「それは…私が不幸だから」
「演習では全滅を覚悟した突撃、不利と判断したときの撤退どれも合格よ」
「私は…」
「正直に話すわ。艦隊には大海令の軍令部の言う通りに行動してもらわなきゃ困るの。けれど現場での駆け引きに秀でた者でなきゃ勤まるはずがない。どちらも持ち合わせているのがあなたよ」
「司令…」
「最悪、全艦沈んでもあなたに任せたいの」
「わかりました」
「提督!」
「香取、落ち着きなさい」
「ドイツがオーストリア陣営に、ロシアがセルビア陣営にそれぞれ参戦を表明しました!」
「落ち着きなさい香取」
「三笠提督!」
「焦っても良いことはないわよ?」
「でも!」
「オーストリア、ドイツを撃つわよ」
「は…はい?」
「ドイツ領山東半島に対する占領作戦を陸軍と協調して立案なさい」
「は…はい!」
「河内」
「…」
「艦隊を率いて舞鶴に向かいなさい」
「わかりました」
「司令!」
「鹿島…今度は何?」
「イギリスの海軍卿戦艦デュークが非公式に三笠司令との会談を要求してきました」
「いつ日本に来るの」
「2日後には到着する模様です」
「早いわね」
「日本の参戦についてでしょうか?」
「わかったわ準備を進めて」
「はい!」
「三笠!なに考えてるデスか!!」
「そうです!ついこの前まで一緒にいたエリーの国に宣戦を布告するなんて!」
「まだその段階にないわ。作戦を立案しなさいと命令しただけよ」
「なんで準備する必要があるの!!」
「オーストリアは友好国だけれどセルビアにロシアが介入したそのロシアとはフランスが同盟を結んでいてフランスはイギリスと条約を交わしている。あとはわかるわね?」
「そんな謎理論でどうしてエリーと戦争しなきゃならないの!」
「ドイツを撃ちたいからよ」
「はぁ?」
「ロシアが参戦した時点でこの戦争の勝敗はついてるわ。それにドイツの山東半島は朝鮮の防備のためにも抑えておきたい土地よ、元々三国干渉で野放しになっていたのだけれどそれにドイツには大きな借りがあるわ。今ここでかの国を叩くメリットが大きいの」
「三笠は…三笠だけはこんな世界嫌だって…そう考えて行動してる偉い人だって思ってたのに…」
「私は聖人君子ではないのよ?日露戦役はドイツの宰相ヴィルヘルム2世が名誉欲の為にロシアを唆して起きた戦争。そんな下らないことのために初瀬姉さんは…」
「…敵打ちってこと?」
「ええ、私はドイツが憎い。初瀬姉さんを私達を死地へ追いやったあの国を私は絶対に許さないわ」
「三笠…」
「あなた達にも逢わせてあげたかったわ。初瀬姉さんは私の自慢の姉なのよ…およそ戦艦らしくない人なのだけれど、優しくて平和を愛していて。だけどもうどこにもいない」
「三笠…初瀬さんは三笠に復讐なんて望んでないデスよ」
「そうね、初瀬姉さんなら望まないわ」
「なら!」
「私がヴィルヘルムの首を望むのよ。姉さんの意思は関係ないわ」
「三笠!あなた!」
「金剛!抜錨するわよ!」
「河内待ってくだサイ!」
「戦列を乱すな!早く戻りなさい」
「いってらっしゃい」
「三笠…」