七難八苦戦記   作:戦国のえいりあん

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ようやく尼子再興軍挙兵です!
本格的に毛利家との戦争に突入していきますよ!


第十四話 雲州侵攻

 

 堺を発った再興軍一同はかつて宗秀たちが通ってきた宮津に辿り着くとそこから船で挙兵の地である隠岐諸島へと向かっていた。現在、行動しているのは勝久や宗秀といった再興軍の武将たちと孫市率いる雑賀衆二百のみであり、まだ挙兵の動きは悟られていないようだった。

 

 久綱の交渉により隠岐諸島を縄張りにしている丹後水軍の頭領である奈佐日本之介とはすでに話がついており付近の通航を許すばかりか上陸するまでの間、輸送船の護衛まで買って出たのだ。

 

「…なんか話がうますぎないか?縄張りを通過させるだけならまだしも護衛までしてくれるなんてな」

 

「いや、聞けば日本之介殿も心中穏やかではないと言っておった。毛利家が出雲を支配してからというもの隠岐諸島の縄張りが村上水軍に脅かされていると言っていた」

 

「なるほどなあ、そういえば毛利家と村上水軍は同盟を結んどったな。毛利家の領地が増えれば村上水軍もまた周辺の支配を広げる…互いに利用し合って勢力を拡大しとるってわけやな」 

 

 出雲が毛利家の支配地になった影響で丹後水軍の縄張りが村上水軍に脅かされているのだ。丹後水軍もそれなりの船団と海賊衆を持っているが天下に名高い村上水軍と正面から戦えるほどの戦力は持っていない。村上水軍との正面衝突を避けるためにも尼子再興軍に再び出雲を支配しその周辺の海の支配に楔を打ち込んでほしいというのが奈佐日本之介の望みのようだ。

 

「それで丹後水軍は尼子再興軍を全力で支援すると言ってもらえたのだ。…まあ、それなりに銭は使ったがな」

 

「し、仕方ありませんよ。こちらから無理なお願いをしたのですし」

 

「まあ、相手は海賊だしタダってわけにはいかないよな」

 

 しっかり通航料と護衛費を取ってくるところはさすが海賊衆といったところか軍資金の一部を彼らに支払うことになったのだ。だが、これで挙兵地である隠岐諸島へ安心して物資を運び込む事ができるのだ。

 

 その後、再興軍と雑賀衆を乗せた船は隠岐諸島を目指しゆっくりと日本海北を進んでいた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

・一週間後 隠岐諸島 

 

 宮津から出航してから一週間、尼子勝久率いる尼子再興軍は予定通り隠岐諸島に到着し原田と呼ばれる地に陣を設け駐屯していた。久綱の交渉によって隠岐を治める隠岐為清とはすでに話が通っており、この原田の地なら軍の駐屯と物資の集積を認めると許可を得ていたのだ。

 

「さて、隠岐に着くまでは予定通りだな。後は物資が届くのを待つだけか…」

 

「うむ、お主の指示通り商船は数日に分けて少しずつこの隠岐に物資を運ぶ手筈になっている」

 

「毛利家から警戒されないように一気に物資を運ぶのではなく、少しずつ運び込むことで動きを隠す…さすがは宗秀殿ですね!」

 

「…ああ、できるだけ毛利に悟られないように奇襲したいからな。こんな好機は二度とないかもしれない、確実に成功させないと」

 

 すでに宗及が手配した軍需物資を積んだ数百の商船隊は越前国の敦賀の港に待機しており、いつでも隠岐に向けて出航できる準備が整っていた。しかし、宗秀の提案で一気に物資を運ぶのではなく数十隻と少ない小隊で少しづつ物資を運ぶように指示をしていたのだ。

 

「なるほどなあ、一気に物資を運び込んだらさすがの毛利も怪しむやろな。でも、数隻の商船なら怪しまれることはあらへん」

 

「数千の軍隊が行動を起こすとなればどうしても兆候が現れるからな。だからそれを可能な限り抑えて俺たちの動きを隠す、まさか半年も経たないうち滅亡した尼子の残党が突然、背後に現れるなんて誰にも予測できないだろうさ」

 

 この動きが功を奏したのか再興軍の動きは毛利家にまったく悟られておらず、九州、そして中国地方の戦況は大きな変化があった。あれから大友家と毛利家が筑前にて戦闘を始めて数ヶ月が経とうとしていたが戦況は膠着状態に陥っていた。

 

 合戦開始当初は反毛利勢力の加勢や内応もあって両川姉妹率いる毛利軍は筑前の要所である立花山城を陥落させるなど順調だった。しかし、戸次鑑連と吉弘鎮理や諸将の奮闘で反毛利勢力を食い止めつつ動揺を抑えながらも踏み止まり、奪われた立花山城を奪回するべく進軍、これを迎え撃つために両川姉妹もまた城から出撃し両軍は南方面にある多々良川の川沿いにて対陣することになった。後の世で「多々良浜の戦い」と言われる大友軍と毛利軍による合戦の火蓋が切られたのだ。

 

 しかし、戦況は膠着状態となり両軍は小競り合いを何度も繰り返しながら睨み合う状態が続いていた。多々良川は海から繋がるいわゆる干潟であり足場が非常に悪く極めて攻めにくい地形であったことから兵の消耗を避けるため、大友軍の動きは消極的だった。対する毛利軍は逆に非常に守りやすい地形であり目的は立花山城の防衛であることからこちらも積極的に動こうとはせず両軍の思惑もあって睨み合いは長期間に渡ることになったのだ。

 

 この状況を打開するべく、本拠にいた吉田郡山城の毛利元就は残していた残存戦力を率いて長門の地へ行軍を開始し後詰めとして筑前方面へ向かったのだ。これによって出雲方面の備えはほぼがら空きの状態になり潜伏している再興軍にとってはまたとない好機となった。

 

それから数日後、密かに物資を隠岐に輸送していた再興軍はようやく全ての軍需物資を隠岐諸島に運び込むことに成功し挙兵の準備を整えた尼子再興軍はまさに今、隠岐諸島から出雲に向けて船を出そうとしていた。

 

「い、今こそ好機です!皆さま、尼子家再興のため…この尼子勝久に力を貸してください!」

 

「「おおっ〜!!!」」

 

「孫四郎様…ご立派になられましたな。うう…」

 

「はっはっは!兵庫殿、泣くのはまだ早ようござる。涙は出雲を奪回し尼子家を再興した時までに取っておくべきですぞ」

 

「…うむ、そうであるな五郎左衛門。我ら新宮党の力、存分に振るってくれようぞ」

 

「久々の戦、拙者の大太刀も疼いておりまする!」

 

 兵庫助たち尼子家古参の旧臣たちも隠岐に到着しており、ぎこちなくも一生懸命に号令する勝久の姿を見た武将たちはほとんどが涙ぐんでいた。幼くも亡き主君の忘れ形見がこうして再興軍の総大将として戦おうとする彼女の志に心打たれ士気は大いに高まっていた。

 

「宗秀、鹿之助、久綱…い、行きましょう!私はぜったいに尼子家を再興してみせます」

 

「はっ!この久綱が姫様をお支えします」

 

「はい!この鹿之助にお任せを!我が武勇で毛利家を必ず討ち倒してみせます!!…月よ、この先どんな苦難が待ち受けようとも乗り越えてみせる!我が身で存分にお試しあれ!」

 

「ああ、全力で君を助ける。みんなで勝とう!」

 

 再興軍の結成に大きく貢献したこの三人はしばらく後に"尼子三傑"と呼ばれ勝久の腹心として尼子再興軍で重きを成すことになる。こうして準備を整えた尼子再興軍は隠岐為清の案内で出雲に向けて隠岐諸島を出航したのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

・出雲 千酌湾

 

 隠岐諸島から出航して数時間、再興軍は丹後水軍の海賊衆に護衛されながら出雲の千酌湾に上陸。その後、鹿之助と十勇士たちを先鋒に近くにあった小さな砦である忠山城を瞬く間に落城させここを占領したのだ。勝久の号令と共に出雲各地に潜伏していた尼子家の旧臣や残存戦力が次々と合流しその数はあっという間に三千余りまで膨れ上がった。

 

 戦力を集結させた再興軍は忠山城から出雲の要所である真山城に向け進軍を開始した。この真山城は日本海側からの補給地点の要所であり、要害である月山富田城の補給経路を断つという意味でも重要な城だった。かつて付近には白鹿城という別の要所があったのだが、こちらは尼子滅亡と同時に廃城となり現在は真山城がその代わりになっていた。

 

「…真山城の城兵は約二百ほど…守ってる将は多賀元龍…再興軍の奇襲にかなり動揺してみたい…今なら落とすのは容易…」

 

「蛍、お手柄だぞ。よくやったな」

 

「…うん…こんなの朝飯前…」

 

 忍びの世鬼蛍により真山城の戦力や状況はすでに把握済みであり、虚を突いた完璧とも言える奇襲だったことから毛利軍はかなり動揺していた。

 

「姫様、この鹿之助にお任せください!真山城も陥落させてみせます!」

 

「は、はい。此度も鹿之助にお任せします。真山城を落とすことができれば月山富田城の補給を断ち切ることができます」

 

「さらにこっちの補給線を確保することもできる。用意した軍需物資を運び込むためにもこの城は確実に落としておきたいな」

 

 対する真山城の元龍は兵力と士気に劣ることから籠城の構えであり、一日でも時間を稼ごうと将兵たちを励ましているが思ったように士気が上がらず未だに混乱していた。

 

 こちらの真山城は鹿之助が攻略することになり、喜び勇みながら彼女は配下の十勇士たちと共に忠山城から出陣していった。忠山城と同様に鹿之助なら真山城もあっという間に落城させられるだろう。

 

「宗秀、あなたにも出撃をお願いしたいのですが」

 

「え?俺にか」

 

「うむ、お主にはこの和久羅城を攻めてもらいたい」

 

 宗秀に下された任務は真山城の南東方面にある和久羅城という山に築城された城の攻略だった。他の兵庫助や五郎左衛門などもすでに周辺の支城を落とすためにすでに不在であり、久綱もこの後に高渋山城を攻めることになっている。手の空いている将は今、宗秀しかいないのだ。

 

「あなたに兵二百をお預けします。和久羅城の攻略…お任せしてもよろしいでしょうか」

 

「…分かった、すぐに行ってくる」

 

「宗秀…ど、どうかご無事で…!」

 

「ああ!吉報を待っていてくれ」

 

(御仏よ…!どうか皆さまを…皆さまをお守りください!)

 

 こうして和久羅城攻略の任を受けた清河宗秀は兵二百と雑賀衆二百の総勢四百の兵を率いて忠山城を出陣したのだ。戦えない勝久は親衛隊と共に忠山城で出陣する宗秀の部隊の後ろ姿を祈りながら見ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

・出雲 和久羅城

 

 忠山城から出陣して数時間後、清河宗秀率いる部隊は和久羅城の麓まで進軍し上東川津という地に着陣していた。和久羅山の山頂には城と毛利軍の旗が見えている。

 

「あれが和久羅城か…」

 

「う〜ん…なかなか攻めにくそうな山城やなぁ」

 

「敵の兵数が少ないのがせめてもの救いだな」

 

 蛍の諜報によって城内の戦力と状況は宗秀に伝わっており、和久羅城の城兵は約二百で、奇襲によって忠山城が陥落したことはまだ和久羅城には伝わっておらず宗秀の部隊の存在に気づいていなかった。

 

 和久羅城は本丸から二ノ丸で構成されており、城の縄張はいわゆる連郭式で本丸から曲輪にかけて一列に並んだ構造になっていた。曲輪は簡単な柵で囲まれ、本丸に物見櫓と御殿という小さな館のような建物があった。それほど堅固という城ではないが和久羅山の地形が天然の要害となっており攻めにくい城なのだ。

 

(山城か…正攻法で攻めたら被害が増えるな)

 

「宗秀はん、どないするんや?正面からの力攻めはちょっと厳しいかもしれへんで」

 

「…宗秀様…ご命令を…」

 

 孫市と蛍は次なる指示を待っている。じっと思案していた宗秀から返ってきた言葉は彼女たちからすれば意外なものだった。

 

「少し和久羅城周辺の地形を見てみたい、案内してくれないか?蛍」

 

「…え?…そんなこと…宗秀様がしなくてもいいのに…」

 

「そうやで、そないなもん物見にでもやらせとけばええんや」

 

「いや、自分の目で確認したいんだ。やっぱり直接、現場を見てみないと分からないこともあるしな」

 

「…分かった…宗秀様がそういうなら…」

 

「孫市、念のため護衛を頼んでもいいか?」

 

「はぁ…まあ、別にええけど」

 

 その後、宗秀は蛍の案内で打刀と脇差だけを持って和久羅城周辺の偵察を開始したのだ。戦国時代で戦場の地理・地形を偵察し情報を得るのは当然だが、そのほとんどは伝令や大将の親衛隊である馬廻衆の役目なのだ。しかし、それを一軍の大将自らが行うのなど孫市や蛍は聞いたことがなかった。

 

(信じられへん、こないなことまで自分でやる大将なんて聞いたことないで…!)

 

「…宗秀様には驚かされる…ホントに型破り…」

 

「別にいいじゃねぇか、他の奴に任せたらその人間の主観や考えが入るだろ?自分で確認しないと気づかないこともあるんだよ」

 

 山頂の城兵に気づかれないように和久羅城を偵察しながら山の周辺をぐるりと回るように調査しているとある地点が目についた。

 

(…ん?この場所、他の山肌より緩やかだな)

 

 見つけた場所は和久羅城の南東でちょうど本丸の曲輪の裏側の地点になり、他の険しい山肌部分よりも傾斜が緩やかだった。これを見た宗秀はその山肌部分をよじ登り始めた。

 

「ちょっ…!?宗秀はん、何してんねん!」

 

「…危ないよ…滑ったら大変…」

 

 止めようとする二人をよそに宗秀はそこから傾斜の緩い山肌をよじ登っていく。すると、その先には和久羅城の本丸と物見櫓が見え曲輪の状況が一望できる場所に辿り着いたのだ。

 

(ここから本丸を攻められるな…よし!)

 

 気づかれないようにこっそりと来た道を引き返し、麓で待っていた蛍と孫市の元へ戻ると宗秀は今回の城攻めの作戦を伝え始めた。

 

「孫市、雑賀衆を率いてここから本丸を奇襲してくれないか」

 

「はぁああ!?ここを登っていけっちゅうんか!?」

 

「登って来たんだが、この上からちょうど和久羅城の本丸の裏手に出られるんだ。少し傾斜はあるが他の山肌よりは登り易いし、俺が登れたならなんとかなるはずだ」

 

 宗秀が考えた作戦はこうだった。まず宗秀率いる二百の本隊が二ノ丸の門に力攻めを行い、敵が正面の宗秀の部隊に気を取られている隙に孫市の雑賀衆が城の裏手から奇襲し混乱したところを同時に攻撃するという作戦だった。

 

「雑賀衆は裏手に回ったらまずは鉄砲で本丸に銃撃を加えてくれ、その銃声を合図に正面の本隊は一気に二ノ丸を攻略する。二ノ丸突破後は雑賀衆と本隊で本丸を挟み撃ちにするんだ」

 

「…ふ~ん、なるほどなぁ」

 

「まさか和久羅城の兵も本丸の背後から奇襲されるなんて思わないだろ?城内は激しく混乱するはずだ」

 

「…確かに…効果はあると思う…」

 

「これなら被害を抑えて城を落とせるかもしれない…孫市、頼む!力を貸してくれ」

 

「…あっははは!面白そうやん!ええで、その作戦でいこうや!」

 

 こうして清河宗秀率いる尼子軍と雑賀衆は作戦決行に向けて行動を開始したのだった。

 

ーーーーーーーー

 

・翌日 未明 和久羅城

 

 次の日の寅の刻、まだ夜が明けきらず微かな太陽の光が和久羅山を照らし始めたていた時、宗秀率いる尼子軍二百は城へと続く一本道に兵たちと共に布陣していた。

 

「…宗秀様…孫市と雑賀衆は予定通り…和久羅城の背後で待機してる」

 

「よし、俺たちが正面から城を攻めて城兵が二ノ丸に集結し始めた時に孫市に合図を頼む」

 

「…分かった…宗秀様…気をつけてね…」

 

「おう、合図の判断は蛍に任せるぜ」

 

 その後、蛍は音もなくその場から消えていった。宗秀は兜を被り、鹿之助から受け取った大身槍を手に持つと待機している足軽たちの先頭に立つ。この二百の兵たちはほとんどが新宮党の残党で構成されており、ほとんどが戦慣れした精鋭部隊なのだ。

 

(…大丈夫だ、うまくいく…!)

 

 戦う覚悟はとうに決めているが、自分の指揮が配下の足軽たちの命を握っていると考えるとどうしても不安で押し潰されそうになる。戦は初めてではないがやはり不安だけは隠しきれず宗秀は自分自身に大丈夫だと必死に言い聞かせながら足軽たちに向かって言い放った。

 

「よし…!いくぞ、みんな!!必ず勝とう!」

 

「「おお〜ッ!!」」

 

「おうよ!清河の大将、わしらに任せとけぇ!」

 

「久しぶりの戦じゃあ!腕が鳴るのう!」

 

「新宮党の強さを再び天下に知らしめたるわ!」

 

 号令と同時に宗秀は足軽たちと共に和久羅城の二ノ丸に向けてゆっくりと進軍を開始した。敵はまだこちらの存在に気づいておらず、忠山城陥落の知らせは届いていないこともあって完全に油断していた。ついに部隊が弓矢の届く射程範囲まで近づくと宗秀は足軽たちに弓矢を構えさせる。

 

「…よし、矢に火をつけろ。俺の合図で一斉射撃だ」

 

「き、清河様、ここは危険じゃけぇ」

 

「そうじゃ!…大将は後ろに控えてもらったほうがええ」

 

「みんなが命懸けで戦ってるのに俺だけ後方にいられるわけないだろ。俺も前線に出て戦う」

 

(…俺はもうあの時のように弱くない、みんなと一緒に戦う!)

 

 宗秀は初めて戦った第二次月山富田城の戦いを思い出していた。あの時は武器を持ったこともなく逃げることしかできなかったが今は鹿之助との訓練で武芸を習得し戦う術を持っている。

 

「…よし!攻撃開始、みんな火矢を放てぇ!!」

 

 宗秀の号令と共に配下の弓兵たちが一斉に二ノ丸の門に火矢を放つ。同時に味方が打ち鳴らす銅鑼の音が和久羅山に響き渡り、二ノ丸の門前と周辺の柵に向かって尼子軍の足軽たちが次々と攻め寄せる。

 

「て、敵襲っ!!敵襲じゃあぁぁ!!」

 

「いったいどこの兵が攻めてきたのじゃ!」

 

「み、皆の者!落ち着け、動揺してはならぬ!」

 

 まったくの無警戒だった和久羅城の城兵は激しく混乱していた。それでも城兵はなんとか二ノ丸の門で尼子軍を食い止めていたが練度の高い尼子軍の奇襲に旗色は悪く、今にも門を突破されそうなほどだった。

 

「あの旗…敵は尼子家か!?」

 

「じ、城主様ッ!二ノ丸が突破されそうです!本丸の兵も援軍に回してくだされ!」

 

「分かった!本丸の兵も二ノ丸の守備に当たれ!この城を尼子に渡すわけにはいかぬ!」

 

 和久羅城の城主の命令で本丸にいた守備兵のほとんどが二ノ丸の守備に移動していた。だが、今度は本丸の守りが手薄となり、それを見ていた蛍は本丸の背後で待機していた孫市と雑賀衆の元に現れ攻撃の指示を出す。

 

「…今が好機…孫市、頼んだよ…」

 

「よっしゃあ!待っとったでぇ!野郎ども、うちに遅れんなや!」

 

「…鉄砲がどれほどのものか…見せてもらう…」

 

「はん!雑賀衆の強さ、よーく見とれや!」

 

 孫市の号令と同時に雑賀衆が和久羅城本丸の背後から突如現れ一気に襲いかかった。背後の雑賀衆の存在に気づいた物見櫓の兵が慌てて銅鑼を鳴らして危険を知らせようとするが、すでに孫市の火縄銃・八咫烏は物見に照準を合わせていた。

 

「て、敵襲ッ!!背後から敵…」

 

「遅いわボケ、黙っとれや!」

 

 轟音と同時に物見櫓の兵は胸を撃ち抜かれていた。その直後、孫市の指示で雑賀衆たちによる激しい銃撃の嵐が本丸に向って放たれた。

 

「野郎ども、撃てぇ!!」

 

 鉄砲傭兵集団として名高いだけあって命中精度は高く、ほとんどが敵に弾丸を命中させていた。火縄銃といえば弾込めに時間がかかることで知られるが、雑賀衆たちは鉄砲の再装填の速さも別次元であり通常では考えられないほどの速さで弾を込め鉛弾の雨を敵陣に降らせるのだ。

 

「じ、城主ッ!ほ、本丸に敵が!」

 

「な、なんと…!いったいどこから現れたのだ…!」

 

「し、しかもこの轟音…噂の鉄砲では!?」

 

「馬鹿な…!なぜ尼子軍がそんなものを持っている!」

 

 奇襲に加え、本丸から聞こえる鉄砲の轟音により和久羅城内は完全に浮き足立ち城兵たちは完全に戦意を喪失していた。ちょうど足軽たちと共に二ノ丸に突入していた宗秀は鉄砲の音を聞くとこれを好機と捉え大声で叫んだ。

 

「みんな!奇襲は成功だ!敵は浮き足立っているぞ!一気に攻め落とせぇ!!」 

 

「「「おおおっ〜!!!」」」

 

 この一喝に尼子軍の士気と勢いは最大にまで高まり、足軽たちは次々と敵兵を蹴散らし瞬く間に二ノ丸を制圧したのだ。この勢いで本丸も制圧するべく宗秀と足軽たちは城主のいる本丸へとなだれ込むがそこには城主を縛りあげた孫市と雑賀衆の姿があった。

 

「お!宗秀はん〜!こっちやこっち!」

 

「孫市!うまくいったみたいだな」

 

「作戦大成功やな、お手柄やで宗秀はん」

 

「いや、今回はお前が背後から奇襲してくれたおかげだ。ありがとな孫市」

 

「えへへ〜♪どや?うちら雑賀衆は役に立つやろ!あっははは!」

 

 こうして和久羅城は清河宗秀によって陥落したのだった。敵兵の多くを討ち取り城兵は捕縛、敗残兵も数人を捕らえ自軍の損害は軽微と戦果としては上々だった。そして捕らえられた和久羅城の城主と捕虜たちは宗秀の前に引き立てられた。

 

「…無念じゃ、早く首を刎ねるがよい」

 

「……」

 

「だが、我が毛利家は決して屈さぬ!必ずや大殿が貴様らを残らず討ち取るであろう!」

 

 さすが城を任されるだけあって死も恐れず宗秀に向かって大喝していたが、後ろの捕虜たちは十中八九殺されると思っているのか怯えていた。

 そして宗秀が下した判断はこうだった。

 

「孫市、彼らの縄を解いてやってくれ」

 

「な、なんと…!我らを生かすと申すのか…!」

 

「…ええんか?殺しとかな後々面倒なことになるかもしれへんで」

 

「もう戦いは終わったんだ、余計な血は流したくない。頼む…」

 

「まあ、宗秀はんがそういうなら、それでええで!」

 

 こうして宗秀の指示で和久羅城の城主と捕虜たちは解放された。城主は情けをかけられたと感じたのか複雑な表情で去っていたが捕虜たちは宗秀に助けてくれたことを深く感謝していた。

 

「…はぁ~…!!なんとか勝ったか…」

 

 初めての采配が無事にうまくいったことに安堵した宗秀は大きくため息をつき胸をなで下ろしていた。

 

「…宗秀様…彼等を殺さないの…?」

 

「ああ、できるだけ殺したくないからな」

 

「…やっぱり、宗秀様は…あまい…」

 

「まあ、いいじゃねぇか。俺みたいなあまっちょろい大将が一人ぐらいいてもいいだろ?」

 

「…でも…そこが宗秀様の良いところ…だけど、気をつけて…その優しさは時に判断を狂わせる…」

 

「その忍びの言うとおりやで、今回はええけど時には非情にならんといけん場合もある。そこを見極めなあかんで?」

 

「…ああ、肝に銘じておくよ」

 

 その後、和久羅城攻略の知らせは蛍によって全軍に知らされ尼子再興軍の勢いはさらに増し、同じく攻略目的であった真山城も鹿之助によって陥落したのだ。

 

 千酌湾に上陸してから数日、尼子再興軍は合計で出雲の支城を六箇所を制圧し重要拠点である月山富田城への侵攻の土台を築いたのだった。

 




そろそろ毛利家の番外編も書いてみようかな?
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