時は戦国、各地で数多の群雄たちが割拠し覇を競い争った時代。そんな時代の中、中国地方でも多くの群雄が中国の覇権をめぐって戦っていた。
この時、中国地方で強い勢力を持っていた主な勢力は安芸を中心に勢力を拡大し後に中国地方の覇者となる毛利氏、梟雄・尼子経久の実力で急速に頭角を現した尼子氏、中国・九州の一部七ヶ国を支配し天下にも影響力を持った大内氏、山陰を支配した山名氏など多くの名だたる大名たちがお互い勢力を争っていた。
しかし、ある事件をきっかけに中国地方の情勢は大きく変化することになった。当時、大内氏の当主であった大内義隆の家臣である陶晴賢の謀反によって討たれる事件「大寧寺の変」が起こったのである。
当主を失った大内家は後継者として九州の大友家から義隆の養子として大内義長が迎えられることとなったが、その実態は傀儡に過ぎず実権は謀反した陶晴賢によって握られていた。だが、その晴賢も安芸を支配していた毛利元就との「厳島の戦い」に敗れ自刃し、傀儡であった義長もしばらくして毛利軍に攻められて同じく自刃することになり大内家は滅んだのだ。
大内家を滅ぼした毛利家は勢いに乗り隣国の尼子家に侵攻を開始した。この時、尼子家の全盛期を築いた謀聖・経久はすでに亡く、毛利家現当主の毛利元就と長年に渡って因縁のある尼子晴久も突然の病によって急死し、その嫡男である義久がその後を継いでいた。
しかし、若輩である義久は家中をうまくまとめることが出来ずに家中は不穏な空気に包まれており、この期を逃さんとばかりに毛利家は出雲に侵攻を開始したのだ。
毛利軍の侵攻によって次々と領土を奪われ、尼子にとって命綱とも言える石見銀山を奪われただけでなく、味方していた国人や豪族も我先にと毛利に下っていた。支配していた出雲の大半を毛利に奪われもはや尼子家は風前の灯火の状況に陥っていた。
そんな戦の渦中にある出雲の国のとある町で謎の一人の青年が何やらぶつぶつと呟きながら歩いていた。
「参ったな…ここはいったい何処なんだ?」
頭を掻きながら町を歩く青年、彼の名は清河宗秀〈きよかわむねひで〉。しかし、明らかに彼だけが町の人達と比べると極めて異端に見えていた。そう見える理由は彼の服装のせいだろう。周りの人達は古風な小袖や着物を身につけているのだが彼は見たこともないような服装していたのだ。町の人たち全員が宗秀のことを凝視し珍しそうに見る者、気味悪がって逃げる者など様々だった。
(目立ちまくってるなぁ…まあ、こんなイレギュラーなのが一人歩いてたら当然か)
どうして自分はこんな場所にいるのか、それは宗秀本人にもまったく見当がつかなかった。気がつけばこの見知らぬ地へ立っていたのだ。
(この状況はもしかして、タイムスリップという奴か?)
アニメやゲームじゃあるまいし夢だろう!多分…と最初は思って自分の頬をおもいっきりつねってみたが激痛が走っただけで目が覚めることはなかった。つまりこの状況は夢などではなく現実だということだ。
(それにしても…何時代なんだ?建物から見るに昔の時代だってことは分かるが)
町の建物のほとんどが木造建築であり巨大なビルや大型マンションなどを身近で見ながら生活していた宗秀にとってこの風景はあまり見慣れない光景だった。
(…はぁ~、これからどうすりゃあいいんだ)
とにかく今は現状を把握することが最優先だが現時点ではあまりにも情報が少なすぎる。何処か聞き込みが出来るような場所はないかと周りを見渡してみる。
(情報を集めようと思ったらやっぱり酒場か?)
「そこの南蛮人、止まってください」
それらしい店はないかと探していると突然、背後から何者かに呼び止められた。振り返るとそこには甲冑姿の美少女が立っていた。
「うん?…もしかして俺のことか?」
「あなた以外に誰がいるんです」
立っていた少女は黒髪の碧眼にかなりの巨乳といった可憐な美少女だった。鹿の角をあしらった兜に何故か妙に肌を露出させた甲冑を身につけ腰に日本刀を下げていた。
「城下町に怪しい南蛮人がいると聞いて来てみましたが…」
「あ~…その、俺は別に怪しい者じゃない。なあ、ちょっと聞きたい事があるんだが」
「出雲の国の片田舎に南蛮人がいること自体怪しいです。きっと他国の間者ですね!捕縛します!」
そう言うと少女はいきなり腰の刀に手を掛け、宗秀を捕縛しようとしたのだ。
「は、はぁ!?待て待てッ!俺は別に何もしてないぞ!」
「問答無用です!」
どう考えても話が通じる子じゃないと判断した宗秀はすぐさまその場から逃げ去ろうとするが、背後から凄まじい殺気を感じ思わず脚が止まってしまう。
「…動かないでください」
少し振り向くと宗秀の首筋に少女の刀が突きつけられていた。その殺気と鋭い眼は本気であり冗談ではないと嫌でも感じられた。
「わ、分かった…言うとおりにする、勘弁してくれ」
「次に妙な素振りをすれば斬り捨てます」
そう言うと少女はゆっくりと刀を下ろす。
本気で殺されるかと思った…と宗秀は安堵の溜め息をつく。
「さあ、質問に答えてもらいます。貴方は何者ですか?」
「わ、分かったよ。それより、君こそ誰なんだ?」
「私は尼子家家臣、山中鹿之助です」
(山中鹿之助…?どこかで聞いたことがあるようなないような…)
戦国時代に詳しい者ならその名前を知らない者はいないだろう。山中鹿之助…尼子家に仕えた戦国武将でその比類なき忠義と優れた武勇で名高い勇将で、命が尽きるその瞬間まで主家に尽くした人物である。しかし、一般常識程度の歴史知識しか持たない宗秀は彼女のことが分からなかった。
「あ〜…すごく馬鹿馬鹿しい話だと思うんだが」
宗秀は少女に自分の知ることを全て話した。自己紹介と自分が五百年先の未来の時代から来たこと、この町にやって来た理由など話せる範囲で伝えたのだが…
「未来から来た?…ふざけないでください!!そんな話、信じられますか!」
…まあ、当然の反応だよなと宗秀は思った。
例えばだが初対面で出会ったばかりの人間が「私は未来から来ました!」なんて言っても信じられないだろう。
「そうだな…じゃあ、これなんてどうだ?」
そう言うと宗秀はポケットからあるものを取り出して少女に見せる。取り出したのは未来の道具であるスマートフォンだった。
「なんですか?それは」
「未来の時代の道具だ、携帯電話って言うんだ。ほら、持ってみるか?」
宗秀はスマホを鹿之助に差し出す。鹿之助は警戒しながらゆっくりとスマホを手に取ると裏返してみたり、あちこちをつついてみたりしていた。その行動が面白かったのか宗秀はにやけながら鹿之助を眺めていた。
「う~ん…これは何の道具なのですか?この突起は…って、うあああっ!!?ひ、光った!?」
スマホに付いてるスイッチを押しているとカシャッという音と共にスマホが光を放った。思わず鹿之助はその場に腰を落としてしまっていた。
「ははっ、いい反応だな」
「き、貴様!面妖な術を使って私を暗殺する気か!!」
「違うって、今のはカメラだ。ほら貸してみろ」
宗秀はスマホを取り上げると画面を操作するしてにやにやと笑いながらその画面を鹿之助に見せた。
そこには写っていたのは…
「え、ええっ!?わ、私がこの小さな箱の中にいます!!?…しかもなんですかこの顔は!!」
スマホの画面には口をあんぐりと開けて驚いてるどこか間抜けな表情の鹿之助の顔が写っていた。
「…くくっ、酷い顔だな。ほら見てみろ」
「み、見るな~!!」
鹿之助は必死にスマホを取り返そうとするが巧みに手を動かされてなかなか取り返せない。
「き、貴様~!!もう許さん!叩き斬ってくれる!!」
「おいおい、刀を使うのは反則だぞ」
スマホを操作すると画面は再び真っ黒な画面に戻っていた。ちなみに電源を切っただけで変顔写真を削除されていないなど鹿之助は知る由もない。
「…とまあ、こんな感じだ。こんな道具はこの時代には無いだろ?他にも色々見せてやりたいがあいにく今は持ってないんだ」
「むむ…」
「頼むよ、未来から来たって話は信じてくれなくてもいい、でも俺は別に怪しいことをしようとしてた訳じゃないんだ」
それでもまだ納得出来ないところがあるのか鹿之助はなかなか警戒を解こうとしなかったが結論が出たのか鹿之助は持っている刀をゆっくりと納めた。
「…分かりました。先ほどまでのご無礼をお許しください」
「ほ、本当か?」
「はい、あなたを信用しましょう」
「ありがとな、怪しい俺の話を聞いてくれて」
「い、いえ、私こそいきなり刃を向けてしまってすみません…」
やっと会話ができる人に出会えた、と内心安堵した宗秀はさっそく鹿之助に色々と質問した。その後、鹿之助から聞いた話で分かったのはこの時代が戦国時代であることと、この出雲の国で近い内に戦が起ころうとしていることを聞いたのだ。
「い、戦!?」
「はい。隣国の毛利家が我が尼子家を滅ぼそうと出雲の領内に侵攻しているのです」
言われてみれば町の建物のほとんどは無人で残っている住人も荷物を担いで町の外に逃げようとしている。町の不穏な雰囲気に思わず不安な気持ちになり、最悪の状況が脳裏に浮かんでしまう。早く元の時代に戻らなければ殺されてしまうかもしれない、そんな光景が浮かんだのだ。
(…とは言っても、これからどうしたらいい?)
行く当てもなく頼れる者もいない、そんな状況の中これから自分はどうすればいいのか?様々な思いが宗秀の中で渦巻いていた。
そんな宗秀の表情が気になったのか鹿之助が尋ねた。
「あの…清河殿?どうかされたのですか?」
「ああ…これからどうすりゃあいいのかなって思ってな。実は行く宛がないんだよなあ」
「それでしたら、我が城に来ませんか?」
「へ?」
余りにも予想外な発言に言葉が出なかった。さっきまで間者と言って斬ろうとまでしようとしていたのにあっさりと許した上、行き場の無い自分を城まで案内してくれようと言うのだ。何か話がうますぎるような気が…と疑った宗秀は鹿之助に質問した。
「有難いが…いいのか?もし、俺が本当に間者だったらどうするつもりだ?」
「大丈夫です。本当に間者ならそんなこと言いません。それに貴方は偽りを言うような人には見えませんから」
だが、本当に彼女の付いていって良いのだろうか?このまま付いていっても戦に巻き込まれることは避けらない。しかし一人で闇雲に動くのはさらに危険だろう。
「はっきり言って邪魔になるだけかもしれないが、それでもいいのか?」
「構いません、是非とも我が城に来てください。もしかしたら…貴方が居れば尼子家の窮地を救えるかもしれません!」
善は急げと言います。さあ、行きましょう!と鹿之助は宗秀の腕を掴んで歩き始めた。これから先どうなってしまうのか、そんな見えぬ不安を胸に宗秀は鹿之助の後に続いた。
後にこの二人が尼子家にとって大きな存在になることなど二人はまだ知らない。
ずっと前から織田信奈の野望の二次小説を書いてみたいと思ってました。
小説初心者が書いた駄文で自己満足の作品ですが、よろしくお願いします。