七難八苦戦記   作:戦国のえいりあん

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再興軍の総大将・尼子勝久登場!
ついに尼子再興軍が結成です!


第七話 再興軍結成

 

 尼子家最後の生き残りである尼子誠久の娘を探すために宗秀たちは京へと歩みを進めていた。宮津にたどり着いた一同はそこから徒歩で京を目指すことになり、その道中でめぼしい寺を手当たり次第に調べながら少しずつ京へと向かっていた。しかし、その娘に関する情報は全くと言っていいほど手に入らず、代わりに手に入る情報は現在の京の状況と不穏な噂ばかりたった。

 

 聞いた話よると現在の京は、畿内を中心に強い勢力を持つ三好家と足利将軍家との権力闘争が激化し、京の周辺は戦続きとなっているらしく、さらに三好家の家臣で悪名高い松永弾正久秀によって京の町は荒らされ、その治安は最悪なものになっているそうなのだ。

尼子家の娘の安否を案じる中、一同は京の町へと足を踏み入れた。

 

 

・山城国 京の町

 

 

「…酷いな」

 

「噂には聞いていましたが、まさかここまでとは…」

 

 宮津から数日、京の町に到着した宗秀たちは町の凄惨な光景を見て言葉を失っていた。建物のほとんどは焼き討ちにされ黒煙が立ち上がり倒壊している建物も数多かった。さらに辺りには死体が散乱し盗賊や野盗もうろついている有り様だった。文字通り今の京は規律の行き届かぬ無法地帯だと言ってよいだろう。

 

(この様子じゃ無事かどうかも怪しいな…)

 

 見たところ建物だけでなく寺も破壊され焼き討ちにされているようだった。これでは探す以前に生きているのかどうかも分からない。この事態にはさすがに久綱も戸惑いと焦りを隠せなかった。

 

「…生きていることを願うばかりだ」

 

 娘の生存が半ば絶望的であると感じながら一同は京の町の探索を始めることになった。だが、やはり多くの寺は焼き討ちにされているか野盗たちによって荒らされていた。

 

「本当に酷いな、規律が無いと人間はここまでするものなのか」

 

「無理もありません、京は応仁の乱以来戦が繰り返されていたそうですし」

 

「その勝手な戦のせいで関係の無い人たちが大勢死ぬんだよな…」

 

 自分のいた現代がいかに平和で安全な世界だったのか…宗秀は思っていた。現代には警察という民を守る組織があり公平な規律によって秩序が保たれ人々が平和に暮らしていた世界…そんな世界で生まれ育った宗秀にはこの光景は信じがたく受け入れがたいものだった。

 

(こんなことが、許されていいのか…)

 

 このような犠牲者を無くすためにも早くこの戦乱を終わらせなければ、と宗秀は思うがすぐに我に帰る。

 そんな大層なことが自分にできるはずがないのだ…

 

 そのような綺麗事を言う資格など自分には無い。戦国に革命をもたらし後世にまで語り継がれたあの『織田信長』のような人並み外れた才能や人々を惹き付ける魅力があるわけではないのだから。

 

「…とにかく、京の残ってる寺をくまなく探そう。期待は薄いがひょっとしたら無事かもしれない。急ごう!!」

 

「宗秀殿…そうですね!!きっと大丈夫ですよ!」

 

 そうだ…今、俺にできることを精一杯やればいいんだ、と宗秀は心にそう言い聞かせた。その後、宗秀たちは京の町をくまなく捜索し娘がいないか訪ねて回った。その途中で盗賊と野盗に襲われそうになったことが何度かあったが、その度に鹿之助と十勇士たちが返り討ちにしたので事なきを得た。

 

 しかし、やはり娘は見つからなかった。何件か被害を免れた寺があったが宗秀たちが訪ねた全ての寺に少女はいなかったのだ。そして、いつしか日が暮れ辺り一面が薄暗くなる中、宗秀たちは京の最後の寺を訪問しようとしていた。

 

「ここで最後か」

 

「うむ…ここに居なければ、完全に手詰まりだ」

 

「だ、大丈夫です!!きっとここに居ますよ!!」

 

「居ればいいんだがな…」

 

 だが、宗秀たちも半ば諦め気味になっていた。ほぼ丸一日、京の町を歩いて回ったが少女はおろか人などほとんどおらず、これまで訪ねた寺もほとんどが無人だったのだ。

 

 宗秀たちが訪ねた最後の寺は「東福寺」という寺で、ここも他と同様に荒らされていた。静まり返った境内に宗秀たちは足を踏み入れると早速、呼びかける。

 

「御免!!誰かおらぬか?」

 

「すまん!誰かいないか?」

 

 すると寺の奥から警戒しながらぼろぼろの法衣を纏った坊主が現れた。杖を突きながら弱々しい歩みで宗秀たちの前にやって来る。

 

「…このような古寺に何か用ですかな?見ての通り金目の物は野盗どもにすべて奪われ何もありませぬが」

 

「いや、少し聞きたいことがありましてな。用が済めばすぐに立ち去り申す」

 

「聞きたいこと?何でございますかな…?」

 

「十年ほど前、この寺に赤子が預けられてはおらぬか?娘なのだが…」

 

「……」

 

 その言葉を聞いて突如、坊主の表情が真剣になる。

 

「…失礼ながらどこでその話を?貴殿らは何者なのじゃ?」

 

「…!!何かご存知なのか?わしは尼子家に縁のある者で立原源太兵衛久綱と申す。この者たちも同じく尼子家に関わりを持つ者たちだ」

 

「…やはり、来られたか。拙僧の苦労は無駄ではなかったのじゃな」

 

「その口ぶり…まさか…!」

 

「…如何にも。この寺には尼子誠久様の娘、孫四郎様が居られます。訳あって拙僧が保護しておりました」

 

 なんという幸運か娘は無事だったのだ。もう見つけられないと諦めていた矢先、奇跡的にその少女に巡り会うことができたのだ。

 

「驚いたな、まさか本当に見つかるなんてな」

 

「ほ、ほら!宗秀殿!!私が言ったとおりでしたよ!!」

 

「そんな汗だくの顔で言われても説得力がないぞ」

 

「「「鹿之助様おめでとうございます!!尼子家ばんざーい!!」」」

 

 鹿之助や十勇士たちも諦めかけていた少女の廻り合いに喜びを隠せなかった。これで彼女を尼子再興軍の旗頭として擁立すれば大義名分を得たことで堂々と毛利家と戦うことができるのだ。

しかし、問題はここからでその少女に再興軍の総大将になってもらうよう説得しなければならないのだ。

 

「是非、孫四郎様とお話がしたい。お頼み申す」

 

「…こんな所で立ち話もなんでしょう。皆様どうぞ中にお入りくだされ」

 

 坊主に案内され宗秀たちは東福寺の本堂へと足を踏み入れた。やはり内部もひどく荒らされており床と壁の所々はひび割れ破損した仏像や木箱や道具が散乱していた。

 

「見苦しい本堂で大変申し訳ございませぬ…」

 

「いや、お気になさらず」

 

「では、孫四郎様を呼んで参ります。暫しお待ちを…」

 

「宗秀殿!もうすぐ会えますね!孫四郎様というのですか…どんなお方なのでしょう?」

 

「あ、ああ…そうだな」

 

 ようやく探し求めていた少女と対面できると一同は息を飲んでいた。しかし、それと同時に宗秀は悩んでいた。これから自分たちの前に現れるのは年端もいかぬ少女で、その少女を自身の身勝手な都合で戦場に引き込もうとしている…この町の惨状を見て戦をまったく知らない子ではないはずだが戦の経験の無い民として暮らしてきた少女が急に一軍の大将になるなど無茶な話であり、もちろん彼女にとっても迷惑な話かもしれないと考え始めていた。

 

 間もなくして坊主は一同の前に戻って来た。坊主の後ろを内端な足取りで付いて来る少女、そう彼女が尼子一族最後の生き残り…孫四郎だった。

 

「皆様、孫四郎様をお連れしました。」

 

「…お、お初にお目に掛かります。孫四郎と申します」

 

 少し緊張しているのかぎこちない仕草で宗秀たちに御辞儀する。その姿は一同の想像とはかなり違い坊主と同じくぼろぼろの巫女装束を身に付けたとても武家の娘の姿とは思えない出で立ちだった。紫髪に赤色のグラデーションが入ったロングヘアーに琥珀色の瞳の容姿で、年齢はやはり十二か十三ぐらいだ。

 

「貴方様が孫四郎様ですな」

 

「は、はい!あ、あの…ただの寺娘である私に何かご用でしょうか…?」

 

「孫四郎様…貴方様はただの寺娘などではありません。貴方様は武家の娘…尼子誠久様の娘なのです」

 

「わ、私が…武家の娘?ひ、人違いではないでしょうか?確かに私は父の顔は知りませんが」

 

 やはりと言うべきか坊主は孫四郎に自らの出生を知らせず今まで彼女を育ててきたのだろう。これまで隠していた真実を坊主が淡々と打ち明け始めた。

 

「孫四郎様、貴方は間違いなく武家の娘なのです。これまで隠していたのは貴方の身を案じられた誠久様の気遣いなのです」

 

「わ、私の父が…?」

 

「はい、誠久様は粗暴で傲慢なお方ではありましたが、孫四郎様…貴方のことだけは心の底から大切に思われていたのです。自身の死後、貴方がご立派になられるその時まで見守って欲しいと拙僧に頼まれたのです」

 

 さらに坊主に孫四郎の保護を依頼したのはその誠久を暗殺した晴久だったという真実も聞かされたのだ。聞けば晴久は誠久たち新宮党を疎ましく思いはしたものの心の底から憎んでいた訳ではなく、家中を統一するためとは言え誠久たちを暗殺しなければならないことを申し訳なく感じていたそうなのだ。さらにあの傍若無人な誠久も実は娘を愛する一人の父親だったということ驚き、そんな誠久の弔いのために縁のあったこの東福寺に幼かった孫四郎を託したのだ。

 

「…そんなの…急に言われても…わ、私は…」

 

「孫四郎様…申し訳ございませぬ。ですが、これもすべて貴方をお守りするため、現にこうして貴方は今日まで生き延びることができたのです」

 

「……」

 

 孫四郎は何も話せなかった。急に自分の出生を知らされ気持ちの整理ができずに混乱していたのだ。今日までただの寺娘として生きてきた自分が実は武士の娘であり、さらに毛利家によって幽閉されてしまった尼子義久を除けば自身が数少ない尼子家の血族の一人だということに。

 

「孫四郎様、心中お察し致します。…ですが、ご無礼を承知でお願い致します。どうか我らの願いをお聞きください!!」

 

「…お願い…ですか…?」

 

「はい、孫四郎様。どうか尼子再興の旗頭になって頂けませぬか?我々には貴方様が必要なのです!」

 

「…え…?わ、私が…?」

 

「今や尼子一門で生き残ったのは義久様と孫四郎様だけなのです。再興軍の総大将になることができるのは貴方様しか居られないのです」

 

「そうです!孫四郎様!どうか我らにお力をお貸しください!!」

 

「「「お願い致します!!」」」

 

 久綱と鹿之助、さらに十勇士たちが孫四郎に向かって土下座する。彼らにとって尼子家再興は悲願でありそして今こうして生きている理由でもあるのだ。そのためには孫四郎が再興軍の総大将になるしか方法は無い、彼らにとっては偽りの無い切実な願いだったであろう。しかし、孫四郎の気持ちは違っていた。

 

「あ、あの…その…わ、私は…戦なんて…」

 

「な、何卒、何卒お願い致します!我らには孫四郎様が必要なのです!」

 

「し、心配ありませんよ!!孫四郎様は再興軍の旗頭になっていただくだけでいいのです!戦は私や十勇士たちにお任せください!」

 

 孫四郎の様子から察するにあまり乗り気では無さそうに見えた。いきなり出会った武士たちから自軍の総大将になって欲しいなどと言われたら誰でも困惑する筈だ。それを察した久綱たちも明らかに焦りを見せ、口調がだんだんと早口になっているのが宗秀にも分かった。

 

「孫四郎様、拙僧がこれまで貴方を育てて来たのもいつか来るこの時ため…どうか尼子再興の旗頭として立ち上がるのです」

 

「お、お師匠さま…そんな…」

 

「お願い致します!!」

 

「どうか、お願いします!!さあ!!十勇士たちよ!お前たちも孫四郎様にお願いするのだ!」

 

「「「孫四郎様!!お願い致します!!」」」

 

「…ぅぅ…」

 

 どうやら坊主も孫四郎が再興軍の総大将になってもらいたいと考えているようだ。しかし、これらのやり取りを見ていた宗秀は何とも言えない気持ちになっていた。これではどう見ても自分たちが無垢な少女を無理矢理言いくるめようとしているようにしか見えなかったからだ。

 

 ふと孫四郎を見るとその腕は小刻みに震え、若干涙目になっていた。いったい自分たちは何をしているのか…彼女の気持ちも考えずに自分勝手な事ばかり言っている。まるで自分たちは傲慢な権力者のようだった。彼女を無理矢理、再興軍の総大将にしてもきっと彼女は自身の出自を呪いながら死んでいってしまうだろう。

 

 そうではない…こうして彼女に会いに来たのは強引な方法で説得するためではない。すると、これまで黙っていた宗秀が口を開いた。

 

「孫四郎、聞いて欲しい。俺たちは君を総大将にしたいと考えているが、無理矢理という訳じゃないんだ」

 

「……」

 

「怖い思いをさせてすまない…いきなりこんな事を言われても困るよな?」

 

「……」

 

「でも、この話…個人的には断って欲しいと思ってる」

 

「…え?で、でも…皆さまは私が必要だって…」

 

 む、宗秀殿っ!?な、何を言っているのですかっ!!?と慌てる鹿之助たちを気にせずに宗秀は話し続ける。

 

「確かに尼子家再興のためには君が必要だ。でも、戦なんて怖いだろ?今までそういう光景を何度か見てきたはずだ」

 

「……はい。怖いです…思い出すだけで手が震えます…もう、あんなの見たくありません…」

 

「だったらはっきりと断ればいい、俺たちは君を人生とは何も関係のない戦争に巻き込もうとしているんだ」

 

「……」

 

「はっきり言って無謀な戦になる、相手は中国八ヵ国を支配する毛利家だ…勝算はほぼ零に近い、そんな戦に君を巻き込みたくないんだ」

 

 鹿之助たちと共に尼子再興のために戦うとは言ったがやはりこんな幼い少女を勝ち目のない戦争に参加させたくなかったのだ。

あんな思いするのは自分だけでいい、彼女にはこのまま老いて死ぬまで平穏に暮らしてほしいと思っていた。

 

「だから、君の正直な気持ちを聞かせて欲しい。遠慮しなくていいんだ、どっちを選んでも俺は君の選択を尊重するよ」

 

「……」

 

 俺が伝えたいことは伝えた…後はこの子次第だ、と宗秀は孫四郎の決断を見守る。すると先ほどまで震えていた彼女の手がぴたりと止まっていた。そして僅かな静粛の後、孫四郎が話し始めた。

 

「…ほ、本当に…私が必要なのですか?」

 

「ああ、君の力が必要だ。君がいれば俺たちは堂々と毛利家と戦うことができる」

 

「……分かりました。この孫四郎、未熟者ですが協力させてください」

 

 その一言に後ろで青ざめていた鹿之助と十勇士たちが歓喜の声を上げ、久綱も思わず安堵の表情を浮かべていた。

 

「本当にいいのか?後悔は無いんだな」

 

「…はい、私なんかをこれほど必要として下さる皆さまのお気持ちを無下にできません…それに…」

 

「それに?」

 

「嬉しかったんです…!初めて誰かに必要として貰えたことに」

 

 孫四郎は微笑んでいた。恐らくこの決断も彼女の本心からなのだろう。まだ小学生ぐらいの子供なのになんと芯の強い心を持っているのかと宗秀は驚いていた。

 

「…父上にも言われた気がしたんです。お前も武士の娘なら逃げるなって」

 

「強い子だな君は、きっと君の親父さんも誇りに思ってるよ」

 

「…あ、ありがとうございます!戦は怖いですけど…一生懸命頑張ります!どうかよろしくお願いします!」

 

「ああ、言い遅れたが俺は清河宗秀だ。これからよろしくな」

 

「はい、宗秀さま。どうか皆さまに御仏のご加護があらんことを…」

 

 こうして孫四郎は尼子再興軍の総大将として宗秀たちと共に戦うことになり孫四郎はその直後、『尼子勝久』と名を改め、ここに尼子再興軍が結成したのだった。

それと同時に彼らの数々の苦難の始まりでもあった…

 




次回からしばらくほのぼの回が続きます。
後、原作の時系列で言えば織田家が桶狭間の戦いで勝つ前ぐらいです!良晴も登場させるつもりです!
…かなり先の話ですけど
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