GOD EATER〜神喰いの冥灯龍転生〜【修正版】   作:夜無鷹

4 / 10

ここから、旧版とは異なった感じになります。
と言っても、大幅に変わる訳ではないので悪しからず。

【加筆修正:あり】



第四話 微かな光明

転生して一か月が経った。

俺が群れているアラガミを蹴散らして、極東のゴッドイーターに出くわして逃げるというパターンが日常として定着している。

でもね?俺は声を大にして言いたい。

 

パト◯ッシュ………ボクはもう疲れたよ………。

 

だってあいつ等、アラガミ絶対ぶっ殺すっていう思考の塊なわけでしょ?

いくら人を襲わないでアラガミばっか喰っててもさァ、一種の偏食傾向としか捉えてもらえないんだよ。ベテラン勢からは。ホントにベテラン勢は怖い。恐怖を感じる。

 

ただ、神機使いになって日が浅い新人は俺を見ると、全員じゃないが悲鳴を上げて一目散に逃げていく。

ああいう反応だと非常にありがたい。帰ったら上官やらリーダーからこっぴどく叱られるんだろうが、俺として人間相手に戦うなんてことをしなくて済むからな。

逃げても別に追いかけないし、戦っても手は出さないし、逆に俺が脱兎だし………。

 

そんなことを徹底的に心がけていたせいか、俺に対するゴッドイーター達の認識が少しずつ変化してきている気がする。先手射撃に遭遇する回数が減ったからだ。

おそらく、人を怖がるアラガミもしくは、ゴッドイーターを恐れるアラガミというレッテルを貼られているかもしれない。後のアバドン扱いになりそう。いるのか知らんけど。

とは言っても、根本的な部分は変わらない。俺は、倒すべきアラガミという認識のままだ。人によっては、俺を、人を恐れるアラガミとして先手必勝とばかりに撃ったり斬ったりしてくる。

 

逃げるからって弱いと思うなよ!

 

まあ、大抵そういう先走ったことをするのは、俺の噂を聞いた新人神機使いに多い。

そういう時は渾身の斬撃を一発受けてやると、「クッソ(かて)ェ!」と言って怯んでいただける。

あとは俺が逃げるか、ベテランに咎められゴッドイーター達が引き下がるかになる。

絶対に倒されないチュートリアルの敵みたいな立ち位置になりつつある。迷惑極まりない。

 

そんな俺は今、どんよりと暗い平原地域に来ている。

フィールド名で言うなら、『嘆きの平原』。俺はその戦闘区域を見下ろせる場所にいる。

ちょっと一眠りしようかと思い身体を丸めていたのだが、ドーナツ型の戦闘区域を徘徊している小型アラガミが急に一方向へ動き出し、何が起きたのかと気になって様子を見ていた。

 

すると、子供二人が息を切らして走っていた。紺色の髪と薄い水色の瞳を持った十二、三才くらいの少年と少女。

大人は誰一人として見当たらず、少年に手を引かれる少女が幾分年下にも見えることから、兄妹の関係だろう。

 

ま、見たからにはってヤツだな。

 

二人を追うのは、ザイゴート四体。

熱球ぶつけて即殲滅したいが、外して二人に当たったらと考えると、下りて物理攻撃で潰した方がいいか。

 

二人が通り過ぎ、後を追ってザイゴートが俺の前に差し掛かった時、飛び降りと同時に全体重をかけて二体を押し潰す。

急な乱入者にザイゴートは二人を追うのをやめ、その標的を俺へと変える。

軽く焼却処分だな。

俺は残り二体が攻撃行動に移る前に、熱球をお見舞いして燃やしてやった。

 

さあて、と……あの二人はどうしたかな。

 

キョロキョロと見回し、物陰で縮こまっている二人を見つけた。

おー、無事だったか。

で、ここからが問題なんだよねぇ……子供二人をほっとくわけにいかんでしょ?

しかし、俺はモンスター。何かしらの意思表示が出来ればいいんだが……。

 

「お、おにいちゃん……」

「大丈夫だリイサ。アラガミなんか、オレが追い払ってやる!」

 

そう言って少年が取り出したのは、ボロボロに刃こぼれしたナイフ。その切っ先を犬座りする俺に向けて威嚇している。

つか、やっぱり兄妹だったのか。そんで、少女の名前はリイサ、と……。

 

どう挨拶をすればいいのか頭を悩ませ、何もしないよりは、と鼻先を近付けてみる事にした。

距離が縮まるにつれ二人の表情は一層強張り、少女を庇う少年の手はあからさまに震え出した。手の震えに呼応し、金具が緩んでいるらしいナイフはその使い物にならない刃をカタカタと鳴らす。

 

「う……く、来るな!!」

 

ナイフを構えたまま、怯える妹を背に庇って一歩後退(あとずさ)る。

来るなと言われて近寄るのが化け物です。大丈夫、お兄さん変なことしないから。

 

さらに顔を近づけると、少年は勇ましく声を上げながらナイフを振りかぶった。

恐怖と兄としての責任のままに振ったナイフは、俺の鼻先に直撃。

ガキィンッと金属同士の接触音染みた音が響いた瞬間、拮抗することもなく瞬く間に亀裂が広がり、打ち負けた刃は無情にも空中に砕け散った。

 

「あ……父さん、の……」

 

絞り出した消え入ってしまう声。

膝をついた少年は、手元に残った(つか)をただ呆然と見つめる。

起こってしまった現実の非情さにうちひしがれていた。

 

何この罪悪感。泣きたい。

おおお俺のせいか?俺のせいだな、うん。

 

「お、お兄ちゃん!また、アラガミが……!」

 

少年の後ろで怯えているリイサが、俺から見て左手側を指差す。

またザイゴートなどの雑魚かと思いそちらを見やる。約六十メートル先に中空を漂うアラガミの姿があった。

………違う、小型じゃない。中型アラガミだ。人間の女性と蝶が融合したようなアラガミ、サリエル。あいつのレーザー面倒なんだよなぁ。

 

どうにか二人と意思疎通を図りたいのだが………他のアラガミから守るっていう姿勢を見せれば案外いけるか?

 

考えるより、今は行動か。

よし、それでいこう。

 

まず、俺はサリエルと正面から向き合う。

サリエルを追って移動しようものなら確実に二人は奴に捉えられ最悪、お陀仏。

よって俺は、一歩たりとも動くことは許されない。願わずとも背水の陣だよ!やったね!

 

………はい、ということで今回(まと)になってもらうのは、うざったいレーザーを使ってくるサリエルさんです。

 

サリエルは浮遊しある程度距離を詰めてくるが、俺の手や首が届かない場所で移動をやめてしまう。近接で戦闘に入るのは不利と判断したらしい。

意外と頭良いなチクショウめ。

サリエルはスカート部分を広げ、自身の周囲に四、五個の光球を発生させる。

 

レーザー対決か。ならばよろしい、戦争だ。

 

俺も喉のあたりにエネルギーを溜めてゼノビームの発射準備が整った時、サリエルの光球がレーザー光線に変化し向かってくる。

交わって一本に収束したサリエルの光線を、俺は渾身のゼノビームをもって真正面から迎え撃つ。

 

俺が放ったゼノビームはサリエルの光線を物ともせず、蝕むように容赦なく呑み込んでスカートを広げたままの奴をも呑み込んだ。

 

溜めたエネルギー分が全て吐き出され、ビームが収縮していく。

ビームが消えたその場には、サリエルの欠片という欠片すら残っていなかった。

我ながら末恐ろしい威力だな、ホント。

 

呆気なかったと一息つくと、真上から降ってきた複数のレーザーが俺の背中や翼に直撃した。

じんわりと仄かな熱が伝わってくる。

 

光線撃ったあとに敗北を悟って最期の足掻きをしたようだ。

ま、俺を仕留める決定打には、どう足掻いても成り得ないがな。ゼノ・ジーヴァ万歳だよ。

 

手足をゆっくり動かし、尻尾が外周の壁にぶつかりつつも、細心の注意を払いながら背後にいる二人に向き直る。

少年もリイサも目を丸くして俺を見上げていた。

 

下手に動くと、それが微動でも恐怖を与えてしまうらしい。

二人が何かしらのアクションを起こすまで、俺はその場に座って待つことにした。

すると、一分経ったくらいで少年が疑問を抱き始めた。

 

「……襲ってこない……?」

 

俺は肯定の意として首を縦に振る。

ソウデース。ワターシ、ヒト、オソイマセーン。ゼンリョウナ、バケモノデースヨ。

 

少年の後ろでじっとしていた妹のリイサが、俺の反応に興味を持ったらしく恐る恐る口を開く。

 

「アラガミさん、言葉がわかるの……?」

 

肯定。

イエスかノーで答えられる問答なら、首の動きだけでどうにかなる。会話内容は限られるだろうが、何も意思表示出来ないよりはマシだ。

 

「えっと……助けてくれたの……?」

 

大いに肯定。それはもう二人が引くぐらいの必死な首振りで。あまりにも勢い良く縦に振り過ぎて、首筋辺りから嫌な音がしたが気にしない。

ゆっくりと確実に首筋が痛み出したが、気にしない気にしない。……痛い。

 

「お前……どういうつもりなんだよ。オレたちを助けるって……」

 

眉を潜めた少年の言葉には、戸惑いと疑心が滲んでいた。

あのですね、イエスかノーで答えられる質問をください。

念じろってか。念じて通じるなら苦労しねェし、俺はエスパーじゃねェ。

タダーノ、ゼンイデース。ワターシノ、ココロノコエ、トドイテマースカ。

 

二人をじっと見つめそう念じていると、時間を置いて少年が諦めたように───。

 

「……やっぱり言葉がわかっても、話せるわけないじゃないのか」

 

と、刃の無いナイフをそっと鞄にしまいながら口を開いた。

俺の念を返してくれ。真面目に念じた俺がアホみてェじゃねェか。

少し拗ねて予期せず漏れた俺の低い唸り声に、少年はビクッと肩を震わす。

 

「ア、アラガミさんは、お名前……あるの?」

 

兄より順応の早いリイサが、突拍子もないことを聞いてきた。

名前なぁ……この容姿で人名を使ったら、威厳もへったくれも無さそうだ。だからつって、名前を覚えてるかと訊かれたら、そういう訳でもない。

まぁそれはこの際置いといて。

 

個人の感性に寄るだろうが、俺としてはモンス名を言った方がしっくりくる。喋れないがな。

ま、あるか無いかで聞かれたら、「ある」の方だろう。

 

肯定だ。

 

「そうなんだ……えっとね、わたしはリイサ!お兄ちゃんは、ショウって言うの!」

 

急にリイサの表情が明るくなった。

どういった心境の変化だ?兄弟のどっちかが駄目だとどっちかがしっかりするあの原理か?

例外は……言ってやるなよ。

 

さて、これから二人はどうするのだろうか。

大人は一人としていない。

詳しい事情を聞ければ早いのだが、まあ知っての通りだ。

どうしたもんか……。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。これから、どうするの?」

 

ナイスだリイサ。もう俺の代弁者だよ。

察してくれる奴は大好きだ。話が早く進むからな。

ハッとしたようにショウが腕を組んで考え込むが、周囲に(そび)える壁を睨んで険しい表情を浮かべる。

 

「どうする、かぁ……壁を越えようにも高くて登れそうにないし……うーん……」

「あの建物の中を通ったらどうかな?」

 

辺り見回していたリイサが指差したのは、ドーナツ型の平原周囲に点在する廃ビル。

壁を越えるには充分な高さがあり、もし建物内の階段が健在なら、ちょうど良い階で平原の外に出られる。

リイサの提案を聞いたショウは迷った後、首を横に振った。

 

「建物の中でアラガミに遭遇したら、走る以外にも階段を上がったり下りたりで、体力を多く消耗するかもしれない。隠れられる場所があれば、大丈夫だと思うけど………」

「そう、だね……体力があるわけじゃないもんね……。無理、なのかな。約束したのに……」

 

良い打開策が思い付かず、二人は次第に気が沈んでいく。

約束……まあ、詳しい経緯は知らないが、どうにも二人はここから離れなければならないらしい。

壁を越えるか……ふーん……。

俺は頭を抱えているショウの背中を、ほんの小突くつもりで鼻を近付けたのだが思いの外強かったようで。

 

「うわっ!?」

 

押した拍子に前へ転んでしまった。

 

「な、何すんだよ!お前やっぱり……!」

 

身体を反転し情けなく尻餅をついている姿勢で、ショウは俺への怒りをあらわにする。

壁を越える?俺に任せればノープロブレムだ。

俺は怒れるショウを無視し、目線と顎で自身の背中を差し示す。

気付け心の友リイサよ!

 

「……?お前、なにしたいんだよ」

「乗せてくれる……ってことかな?」

「はぁ!?」

 

俺がまた肯定の意で首を縦に振ると、尚更ショウは目を見開いて驚く。

 

ザッツラーイト!

思い切って乗っちゃいなよYOU!

こんな珍妙で善意に溢れた化け物、そうそういないゾ!

俺は早くしろとばかりにショウの服のギリギリに噛み付き、抵抗を許さずズルズルと足元まで引き寄せる。

 

「待って!ズボン、ズボン脱げる!わかったから放せよ!ズボン脱げるって!」

 

うるせェ!タ○ザンを見習えタ○ザンを!アイツ腰布一枚でジャングルヒャッホーしてんだぞ!

お前もパンいちで街を駆け回れる気概を持て!全裸で駆けろ!

変質者の仲間入りだ!うん、そりゃ駄目だ!

 

俺が口を離すと、立ち上がって土を払うショウの傍にリイサが歩み寄ってくる。

 

「お兄ちゃん……乗せてってもらお?」

「リイサ……けど」

「大丈夫!アラガミさん、まだ私たちを食べてないもん!」

 

そう俺の足元で言い切ったリイサは、浮かべた満面の笑みとは裏腹に、後ろに組んだ手はショウの死角で小刻みに震えていた。

 

決意したリイサも、観念したショウも、俺が人外だから不安が拭えない。

二人にとって、これはひとつの賭けに等しい。

俺がいくら本心から「人は喰わない」という態度を示しても、人間である二人には「アラガミだからいつか」という疑念が自然と湧く。

何となく………もどかしいな。

 

俺は二人を背中に乗せる。

 

いつまでも一緒というわけにはいかないだろう。

確かに俺は、そこらの雑魚程度だったら十中八九勝てる。

しかし、これから人の子供を護りながらとなると、その勝率は下がるかもしれない。

最悪の場合……何てこともある。

 

だからと言って、預ける当てがあるのかと聞かれたら答えられない。

 

 

───いや、ひとつだけ思い付いた。

 

俺は極力避けたい連中だ。

ただこれも賭けになる。

この二人の事情を知らないし、適性があるのかも知らない。

俺は、奴等の拠点には出向けない。明らかに迎撃対象だ。

もし二人が何やかんやで辿り着けたとして、適性が無ければ門前払いされる。

 

それでも、可能性が無いわけじゃない。

 

 

二人を、ゴッドイーターに会わせる。

 

 

両翼を広げて羽ばたく。

ここを抜けたら、視界の開けた場所に降り立って、わざとゴッドイーターに見つかるように行動しなければならない。

 

見境なくアラガミを殲滅しまくって、強力なアラガミであることを誇示した方が手っ取り早いか?

今までそういう行動は避けてきたからなぁ………。喰うためか、完全に敵対している奴しか狩らなかったもんなぁ………。

 

んー、まあ頑張ろう。死なない程度に。極東の連中に殺されない程度に。

 

分かり切った前途多難なこれからに頭を悩ませて飛び上がった俺は、『嘆きの平原』を囲む壁を二人の人の子と共に越えた。

 

 

 

目標は『ゴッドイーターに会う事』

 

 

俺は俺なりに、頑張って人助けをするよ。

 




【加筆・修正箇所】
『兄妹とのやり取り全般の変更と加筆』

今現在ゼノは文字を書かない方向になっているので、今後の加筆修正にもその影響が出ています。
文字を使った意志疎通のある話は現状、文字を使わない方向ではまとめにくくなっています。あの白いヤツの件もありますし……。

なので、旧版全ての話をこっちに持ってくるかは、未だに未定です。すみません。
リクエストを消化しつつ、書いていこうと思います。

それでは、また次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。