GOD EATER〜神喰いの冥灯龍転生〜【修正版】   作:夜無鷹

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旧版二話分の複合、加筆した話になっております。

【旧版:第五話 遭遇、第六話 誰が為に】


第六話 本音と建前

糸が張っているような、そんな空気だった。

緊張のあまり、身体中の至る箇所から脈打つ感覚が伝わる。

小さな音の集まりが時間の経過と共に集約し増大して、次第にそれが極度の緊張によって引き起こされた心音なのだと気付く。

 

うるせェ。

意識せずとも感じる増幅された鼓動と、早鐘を打つ心臓の音が、ひどく鬱陶しい。邪魔で邪魔で仕方がない。

 

正面から睨み合う膠着(こうちゃく)状態が続く。

どちらが先に動くか。先手必勝とは言うが、必ずしもそうとは限らない。

 

 

───怖い。

 

 

下手をすれば死ぬかもしれない。

しかし、人としての記憶がある以上、最低でも一回は死んでいる。

死んだ経緯とか名前とか……諸々が虫食いだらけで抜け落ちてはいるが……。

それでも、一度死んでいるのは確実なんだ。

そう頭では分かっていても、やっぱり………怖いな。

 

 

───けど、それ以上に怖いことがあると思ってしまうのは………何でだろうな。

 

 

戦闘の口火を切ったのは、リンドウだった。

弧を描くように疾走。

 

初動を捉えた俺は、真っ向から突進。

距離は百数十メートル。簡単に詰められる。

遠距離、中距離でリンドウを潰そうと思えば、出来ないこともない。

ブレス、ゼノビーム、ビッグバン等、乱発なり飛翔して狙い撃ちなりすれば、地形変化付きで撃滅は可能だろう。

 

子供二人を巻き添えにして、何も感じないのであれば。

 

非常に残念だが俺は、そこまでの鋼鉄メンタルを持ち合わせていない。

 

双方がほぼ同時に走り出したことにより、一見長く感じるこの百数十メートルという距離は、十秒も経たずして互いが互いの近接攻撃範囲内に入るまでに縮まる。

リンドウは旧型神機。必然的に近接攻撃しか行えない。その行動制限に乗っかり、俺もこの場では近接攻撃のみを徹底して行う。

堂々と、正面からの真っ向勝負。

 

いざ、尋常に───。

 

 

 

 

 

───なんて、俺がするわけねェだろ。

 

 

 

俺の顔面に向け、リンドウが神機を振りかぶる寸前。

両の前足でブレーキをかけ、ある程度スピードを殺してから後ろ足で地面を蹴る。目前の障害物を跳び越えるように。

 

「なッ……!」

 

呆気に取られるリンドウ。

彼の真上を跳び越え着地する際、殺しきれなかった突進の余力を歩いて逃がしながら身体を反転させ、再度リンドウと正面から向き合う。

 

自身の攻撃を予測し、跳び超えて避けるとは微塵も思わなかっただろう。

何と言うか……してやったり感がある。

 

だが、俺がそんな事を思っているとは露知らず、当のリンドウは唖然とした表情から徐々に不安と恐怖、悲痛の入り交じる複雑なものへと変化していった。

 

「お前ら何してんだ!早く離れろッ!!」

 

リンドウが絶叫を飛ばした先には、呆然と座り込むショウとリイサがいる。

彼が背後に庇ってた二人は、真っ向から攻撃を跳び超えて避けられた為に、現在は俺が二人の最も近くにいる。

居場所が真逆になったのだ。

 

リンドウの予想が外れ、ゴッドイーターの彼にとってあってはならない事態になってしまった。

 

しかし二人は立ち上がるどころか、俺に敵意剥き出しのリンドウを見詰め、ただ戸惑っている様子だった。

立場の違い、視点の違い。

子供二人には、捕食されないという認識が根付いている。

逃げる理由が無ければ、逃げる必要も無くなる。

 

一方リンドウは、一向に動く様子のない二人を見てどう解釈したのか、苦々しげな表情で疾走。

百メートルくらいだった距離が五十メートル程まで縮まると、俺を見据えたまま空いている片手をウエストポーチへ伸ばす。

 

取り出したのは、スタングレネード。

それを、俺の眼前目掛け全力で投げていた。

破裂する直前、閃光によって目を潰されまいと両の瞼を閉じる。

 

直後、金属的な音を響かせ、俺の下顎に衝撃が走った。

即座に状況把握出来ず、うっすらと瞼を開ければそこには、神機を振り抜いたリンドウの姿があった。

 

誰もが称賛するであろう綺麗なアッパーカット。

衝撃が雷撃の如く顎から脳天へと突き抜け、脛をぶつけたような耐え難く鈍い痛みがリンドウの本気を報せている。

 

あ"あ"あ"あ"あ"顎割れたァァァァァ!!

絶対割れたよコレ!

ケツ顎になってんじゃねェかなコレッ!!

 

リンドウが容赦なく振りかぶった神機に、俺は抵抗の一つもしていない無防備な頭を突き上げられた。

一回目の横っ面に食らった時同様、倒れまいと前足を踏ん張ろうとしたが思うように力が入らない。

 

あ、コレ………。

 

そう察した時には、全身が脱力し重力のままにぶっ倒れていた。

ピヨッた……のか? 二擊目で?

頭上に星は回っていないが、身体を起こすために手足を動かそうとするも上手くいかない。

 

身体の自由がほとんどきかず、討伐するには絶好のチャンスだと言うのに、当の狩人(リンドウ)は目を丸くして佇んでいた。

戸惑いを隠せない、そんな様子だった。

 

「どういう事だ………?」

 

誰に問うわけでもなく、率直な疑問を呟く。

彼の正面には、少年が立っていたのだ。

倒すべき怪物と自身の間に、守る対象である子供が立ち塞がっている。

一つの例外もなくアラガミを(ほふ)ってきた彼にしてみれば、理解に苦しむだろう。

 

思考を巡らせようと理解の追い付かないリンドウとは打って変わり、何かしらの意思を持ってショウは俺に背を向けている。

 

「……あんた、いきなり何してんだよ」

 

声変わり前の高い音は喧嘩腰の言葉を紡ぎ、静かに怒りを滲ませる。

爪が食い込んでいるのではなかろうかと思うほど固く握り締めた拳は、溢れる感情を抑えるかのように、微かに震えていた。

 

そして、遅れてショウの隣に並ぶリイサ。

目一杯に両腕を広げ、自分に出来ることを成そうとする。

 

「あ、あのね!ぜのちゃんは、ぜのちゃんは悪くないの!本当だよ!だから、えっと……えっとね……」

 

普段は大声を出さない少女が、言葉足らずながらも必死に声を張り上げ伝えようとしていた。

少女の言葉に理屈はなく、段々と上擦っていく声はただ情に訴える。

 

「オレ達は、コイツに助けられたんだ。気まぐれだったとしても、それは事実に変わりないし、アラガミを何度も追い払ってくれた」

 

静かに、それでいて強く、自分達しか知らない事実を言葉と態度で示す。

神機の殴打による軽い脳震盪(のうしんとう)状態がある程度回復し、俺はゆっくりと身体を起こす。

俺が動いたことで反射的に神機を握る手に力が入るリンドウだったが、神機を構えるまでには至らなかった。

 

──否。

 

「なのに……ゴッドイーター(アンタら)は一回も、助けに来なかった」

 

敵意(神機)を向けるのは違うと気付いた。

俺からすればショウの言葉はまぁ……厳しい言い方だろうが、自分勝手なものだ。

俺が介入したことで(こじ)れてしまった可能性も認める。

運がなかったのもあるだろう。

 

だが……いや、だから、ショウの言わんとしていることは……。

 

「本当に助けてほしい時に限って、アンタらは来ない……あの時だってそうだった」

 

八つ当たりだ。

 

「一緒に行動してた人達みんな……アラガミの餌になった。何回も、何回も、何回も……それでもゴッドイーターは……来なかった」

 

悔しそうに唇を噛み締めるショウ。

一切口を挟まず聞き入るだけの想いが、言葉と共に溢れ出ている。

 

「何があっても大丈夫って……絶対に護るって……アラガミになんか負けないって……母さんも父さんも、あんなに笑ってたのに……死んだッ……!」

「お兄ちゃん……」

 

リイサが心配そうに兄を見る。

ずっと一緒にいて、自然と気付いてしまう事があっただろう。

例えば、兄だから弱いところは見せられない、とか。

何をするにしても『兄』という逃れられない立場と責任が、小さな両肩に重くのし掛かる。

 

「だから……一度も助けてくれなかったゴッドイーターより、オレは……一度でも助けてくれた化物(コイツ)を信じる方がいい」

 

言い切ったな。

困った顔をしながらも何も言わないあたり、リイサも同意見のようだ。

立ちはだかる二人を前にしたリンドウは、いつのまにか完全に臨戦態勢を解いていた。俺を警戒する視線さえも外れ、今は固い意志を宿す子供二人と向き合っていた。

沈黙が降りる。

 

き、気まずい……。

ほら折角人に会ったんだからさァ。こんなご時世だし、人間同士仲良くすべきだと思うんだよ。

よし、俺がその切っ掛けを作ってやろう。

 

無防備にいつまでも背中を向けているショウ。

俺はその背中を、鼻で軽く押してやった。

隙ありッ!

 

「うわっ!?」

 

不意打ちにショウは何の反応も出来ず、受け身もしないまま前方に倒れ込む。

その後、直ぐに振り返っては飛び出すように起き上がり、子供らしく頬を膨らませて俺の目と鼻の先にまで歩み寄って来た。

 

「何するんだよ、いきなり!イタズラするなよ!」

 

俺の親切心だ。有り難く受け取れ。

 

さらに悪戯心で牙を剥いて低く唸って見せると、ショウは怖じ気づいたのか一歩引いた。

しかし、対抗心が芽生えたというか、子供ながらの意地というか、息を飲んで引いた一歩を踏み込むと、俺を真似て歯を剥き出しにした。

 

「こ、怖くないからな!お、オレはその……助けてもらってばかりだと……じゃなくて!お前、ゴッドイーター相手にやり返したりしないから……ば、化物のくせに意味わかんねーよ!」

 

な、なんだ?何が言いたいんだコイツは?

イタズラの話じゃないのか?

頬が赤くなっている。怒っている……のか?

 

矢継ぎ早に繰り出された言葉を聞いて考えてみるが、どうも文句ばかりをツラツラと並べられているようにしか思えない。

だが聞いているうちに───気付いてしまった。

 

「何でだよ……優しくするなよ……中途半端なんだよ、お前……」

 

泣いちゃいない。涙はない。

それでも、グズっている。

 

「化物らしくいろよ……!おかしいよ、お前……!」

 

情が移った。

随分と遠回しだが、そのせいで、俺に対し芽生えてしまった感情がある。

まあ、あれだ。恥ずかしくて正直に言えねェんだな。

『心配した』なんてことは。

 

ったく、可愛い奴め。

 

「……あー……少しいいか?」

 

今まで黙っていたリンドウが、気まずさを紛らわすように頭を掻いていた。

口を挟むべきか迷っていたようで、声を聞いたショウとリイサが顔を向ければ、言いづらそうに頬を掻く。

 

「その、なんだ……悪かったな」

 

そう言うとリンドウは、新しく取り出した煙草に火を着け軽く吸い、白い煙を吐いて苦笑した。

しかし、詫びの言葉を聞き届けたショウは、どこか腑に落ちない様子だった。

 

「……オレ達にじゃなくて、コイツに言えよ」

 

と、俺を指差した。

ん?俺?俺なの?いや、何でさ。

リンドウは一切間違ったことをしちゃいないはずなんだが……ゴッドイーターってそういうもんだよな?

 

しかし彼自身は、ショウの言い分に一理あると解釈したらしい。

俺の前にいたショウと入れ替えで同じ場所に立つと、神機を地面に突き刺し、アイテムポーチすらも外して地面に置いた。

 

「………悪かった」

 

敵意はない。その分かりやすい意思表示が、武装解除。

俺でさえ、ふざけた状況だと思っている。

それでもリンドウは、誠心誠意、文句一つ言わず謝っていた。

 

大人だなァ……。

 

あ、そうだ。

ゴッドイーターに会ったら、二人を任せようと思ってたんだが……。

 

「お兄ちゃん。約束、覚えてる?」

「約束……?あ、ああ!もちろん覚えてるよ!」

 

そういえば、そんなこと言ってたな。

どう訊けばいいのか分からねぇし、思い付きもしねぇから詳細は知らないが、相当大切なものだってことは察しがつく。

 

だから二人は、必死にアラガミから逃げたのだろう。

その大切な約束を果たす為に。

 

 

だが俺は、その単語を口にした瞬間のショウの表情が気掛かりだった。

歯切れも悪く、何より───。

 

 

 

 

表情が暗く曇っていたから………。

 

 

 

 




これ書いてて思ったのが、「トラップどうしよう」でした。
スタグレは閃光玉と同じ作用だからいいとして、ホールドとか封神はどうしようかと……。
ヴェノムは毒の付与として、ホールドはシビレ罠、封神は何ぞや状態です。どっちもオラクル細胞の活動を阻害する何かしらの成分を付与するんですかね。

ま、古龍だからトラップ系は無効ってことで良さそうな気もしますが……武器スキルでの付与もありますよね。
今のところゲーム性のあるもの(回復アイテムとか)は出してませんが、その内……。

次回で旧版五話、六話分は終了です。
それでは、また次回。

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