GOD EATER〜神喰いの冥灯龍転生〜【修正版】   作:夜無鷹

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すみません、飽き性が出てしまって少し離れてました。
しばらくこの状態が続くと思います。それでも、更新をお待ちいただけるなら幸いです。

そして、トラップの扱いに関してのコメント、ありがとうございました。
皆様の意見を参考にしつつ、もう少し考えてみようと思います。

【旧版:六話 それは誰が為に】



第七話 同じ空の下で

「お兄ちゃん。約束、覚えてる?」

 

リイサの不安そうな顔が、オレの本心を見透かしているようで言葉が詰まった。

無意識に目線が泳いでしまうほど、動揺した。

 

「約束……?あ、ああ!もちろん覚えてるよ!」

 

言葉に嘘はないけど、守らなければと思っているけど……。

 

 

それでもオレの心は、複雑な感情の狭間でひどく、揺れていた。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

その少年は、浮かない顔をしていた。

それは俺の目から見ても明らかで、調子が悪いとかではなく、バツが悪いという雰囲気のものだった。

 

「その約束っての、何なのか聞いていいか?」

 

アイテムポーチを装着し直しながら、リンドウが二人に訊ねる。

俺も興味がある。いや、興味本位で聞いちゃあ駄目な話だろうが、まあこの場にいるんだから仕方ない。ああ、仕方ない仕方ない。

 

リンドウの問いに答えたのはショウ……ではなく、兄の様子を窺っていたリイサだった。

 

「えっと……お母さんとお父さんが言ってたの。自分達に何があっても、例えいなくなったとしても絶対に、極東支部に行ってねって……」

「それが約束か」

「うん……」

 

リイサの表情に影が落ちる。両親を思い出してしまったのだろう。

ま、その約束があったからこそ、頑張ってこれたのかもしれねぇ。俺がゴッドイーターとの遭遇を第一目標にしたのも、間違いじゃなかったわけだな。

 

少し安堵したが、リンドウの反応は良いものじゃない。

口にし難い何かしらの不安要素があるのだろう。

そういえば、そんな話やってた気がするな……外部居住区に住む為の条件みたいなヤツ。

 

「パッチテスト、受かったんだ。適性はある」

 

ショウが、リンドウの不安を察した。

パッチテスト、適性……ああ、そうか。あの壁の内側に入るには、ゴッドイーターになれる素質が必要だったっけ。

 

一人適性があれば、当人とその家族は壁の外よりも安全に暮らせる。気休め程度だろうがな。

それでも、家族の安全が確保されるんだから、行かない手はない。

 

ショウだって家族(リイサ)を想って極東支部目指したんだろうなぁ………。

 

「……そうか」

「けど」

 

言葉を区切ると何故か、腹這いで待機している俺のすぐ傍へと歩み寄ってくる。

その行動をじっと見ていると、ショウは怖じ気付く様子もなく、撫でるように俺の顎へ手を置いた。

 

「偶然……そう偶然、適性があるって出ただけなんだ。本心じゃない」

 

……ん?今、何つった?

あ、ゴメンねぇ。ちょっとお兄さん耳が遠くなったみたい。

もう一回、言ってくれる?

 

他の二人も俺と同様に引っ掛かるものを感じたらしい。

誰からも目を逸らしているショウの言葉に、彼を正面に捉えたリンドウが眉をひそめる。

 

「……どういう意味だ?」

「本気でゴッドイーターになろうだなんて、思ってなかった。仕方なく……仕方なく、行こうってなったんだ……!」

 

ほーん……。

ちょっとお兄さん、頭が足りないみたい。

見た目に反して鶏並みの脳味噌しか詰まってないから、知能が低いんだよねぇ……ゴメンねぇ。

 

もう一回、言ってくれる?

 

依然としてショウにはペットを愛でるように顎を撫でられてるが、俺から少々距離を置く他二人の表情が、心無しか強張っている……気がする。

 

別に俺は怒っちゃいない。ああ、怒っちゃいない。

ただちょっとだけ、そう、ちょっとだけ………腹の底が煮え立っているだけだ。

 

「けどさ!今はコイツだっているし!他のアラガミより何倍も強いコイツが一緒なら、外にいたって心配ねーよ!リイサもそう思うよな?な!」

「そう、だけど……お兄ちゃ……」

「だよな!リイサもコイツと一緒の方がいいよな!」

 

リイサの言いかけた言葉に被せ、自分の味方であることを強調させるショウ。

満足げな彼を、口をつぐむ少女は悲しげに見つめる。

 

何をそんなに必死になってんのかは知らねぇが、とりあえず、極東支部に行きたくねぇのは分かった。

 

だが何故、一向に俺を見ようとしないのだろうか?

 

俺に歩み寄って来た時だって多少視界に入っていただろうが、目を合わせるなんてことは一切なかった。

『約束』の話が出た途端ずっと、視線は下向き。

どれだけ語気を強めようと、胸を張って言えはしない。

本人はそれを、自覚している。

 

「アラガミ倒してくれるし、何よりオレ達を護ってくれる!それに、死んだりしないし……楽しかったし……」

 

尻すぼみになる言葉。

俺から手を離し、ショウが振り向く。

 

「お前も、楽しかったよな……?」

 

(すが)るような目をしていた。

同時に、言い知れない不安を抱えているようにも見えた。

 

まぁ……分からんでもない。

両親が存命中の時は、家族揃って極東支部の居住区に住んで、ずっとアラガミに怯えず暮らせると信じていた。

その理想に向かう道中、家族が欠けるとも思わずに。

 

だからつって、同情で「はい、そうですか」と受け入れる訳にいかないんだよな、これが。

約束を(ないがし)ろにするようになってしまった責任は負う。

嫌われてでも、リンドウと共に行くよう仕向けなければ。

 

「なあ、お前も楽しかったよな?そうだよな?」

 

同意を求め、小さな手を伸ばす。

一度失った心の寄り所を、掴んで離すまいと。

 

やめてくんない?

その子供を全面に押し出した甘えの眼差し。

心にグッサリ刺さってる。心苦しいんだけど、ホント。

 

(すが)るような目を直視すれば、根底に刻まれた影すら持たない何かが締め上げられ、悶えるように騒ぐ。

 

触れようとショウが伸ばした手から顔を逸らせば、罪悪感が胸を刺す。

拒絶された事を理解出来なかったショウは一拍置いて、また近寄っては手を伸ばしてくる。

それを拒めば、また同じように……幾度か繰り返し、これではキリが無いと頭を持ち上げれば今度は前足へ──。

 

そんなショウを俺は、手で払い除ける。

受け身もなにもなく正面から決定的な拒絶の意思を浴びせられ、ショウは驚きの声すら上げずに地を転がった。

 

「お兄ちゃん……!」

 

俺とショウを交互に見、リイサは呆然と倒れている兄のもとへ駆け寄る。

少し、力が強かったかもしれない。

リイサに起こされたショウの頬や手足には、擦り傷がいくつも出来ていた。

 

痛ましいと思ってしまう。

非情になりきれてないな……中途半端、か。

こうやって揺れているのだから、確かに否定できない。

 

「なんで……オレ……わけ分かんねーよッ……!」

 

ショウは叫ぶ。俺の行動の意味が汲み取れず、突き放されたショックで頭を抱える。

 

「ぜのちゃんは言葉がわかるから、それで──」

「うるさいッ!」

 

そう言い放って耳をふさぐ。

 

俺だって、説得できるならしたい。

護ってやれる自信がないのだと、誰の為に約束したのかと、誰に生かされたのかと。

 

───まだ、家族がいるじゃねぇか、と。

 

そんな漫画みたいなセリフを並べて、ああしかし、結局は仮定の話なんだと思い至る。

文字を試しに書いてみたことはあるが、お世辞にも綺麗とは言えないミミズの這ったような字だった。

ゼノの手は大きすぎて、細かいことには向かない。

 

俺じゃあ、上手い誘導の方法が見付からない。

 

ふさぎこんでしまったショウを直視できず、顔をそらしたままどこにも飛んで行かない俺を、リンドウが静観していた。

少し顔を動かして意識を向けていると、俺の視線に気付いたリンドウはタバコの煙を吐きながら空を仰ぎ見る。

 

俺もそれにつられ空を仰げば、遠方から低い機械音が微かに聞こえてくる。

目を凝らす。

こちらへ一直線に向かってくる小さな黒い物体。

 

──帰還用ヘリだ。

 

さっさとお(いとま)した方がいいか。

あちらにとっては正体不明の怪物。俺が身動き一つとらないとしても、警戒心からそう易々と降りてきはしない。

 

それにレーダーか何かで俺の存在を確認済みで、交戦を想定した精鋭のゴッドイーターを乗せている可能性もある。

あんなちょこまか動く奴ら数人を相手にするなんざ、真っ平ごめん被る。

へ、ヘタレじゃねぇかんな! 勘違いすんなよ!

 

「さっさとどっか行った方が良いぞー。お前さんも面倒事は嫌だろ、な?」

 

諸々を察したリンドウが言う。

ありがたいが、こんなモヤモヤした心境じゃあ素直に……。

 

「ぜのちゃん、お兄ちゃんもね、分かってるんだよ。でもね、あのね、寂しくなっちゃうから、ワガママ言っちゃったの。けれど、大丈夫だよ!」

 

後押しするようにリイサが笑う。

 

「だって、わたしのお兄ちゃんだもん!」

 

妹からの最大の賛辞。込み入った理屈も根拠もないが、どんな励ましの言葉よりも強く、誇らしい。

如何なるものにも代えがたい兄妹の、信頼の証。

 

何故だか、ひどく懐かしく感じる。

 

後ろ髪引かれる思いはあれど踵を返し、ヘリが来る方向とは真逆へ歩き出す。

チラッと背後を見てショウの様子を窺うが、依然として俯いたまま。

プロペラの音を聞きながら歩き、ふと思う。

 

 

やっぱり、嫌われるのはイヤだなぁ……。

 

 

何が怖くて人間に牙を剥けないのか。

ただキャラに愛着があるからとか、元々人だったからとか、そんなちょっとした抵抗心によるものだと……そう、思っていた。

 

見覚えのあるキャラならともかく、顔の知らないモブには、愛着なんてものは通用しない。

元々人だったから。人が人を殺せるのだから、そんな理由で化物が人を殺せない道理はない。

 

じゃあ何で、と理由を突き詰める過程で思い出されるのは、あの兄妹の俺を見る目。

心臓も腹の底も、騒がしくてむず(かゆ)い。

 

俺でさえよく分からない衝動。他人にしてみれば俺の行動は奇妙に見えるだろう。

もし俺が、人に牙を剥くのを躊躇う理由を理解したのなら、それは他人が首を傾げるような、アホみたいな理由かもしれない。

 

……ま、今は深く考えなくてもいいか。

 

答えの見付からない問題を頭の片隅に押し退け、淡い白の光を放つ翼を広げる。

数度羽ばたけば風に乗った砂が周囲を漂い、巨体が宙に浮く。

 

ヘリが飛ぶ高度よりも高く、より空に近い場所で滞空し反転。慕ってくれた兄妹に激励と、別れの挨拶を。

 

深く吸い込んだ空気を全て押し出すように、人語には程遠い音を乗せて吐く。

この世界に来て初めて行った、本気の咆哮。余韻が空に吸われていく。

 

俺の声は、届いただろうか。

 

 

 

あてもなく、自由気ままに空を行く。

アラガミ喰って、差し迫る危機ってのもないからなあなあで生きて、ゴッドイーターに追っ掛けられても死ななけりゃあそれでいい。

 

嫌なものはイヤだ。

この思いに明確な理由はなく、ただ心の赴くままに俺はこれからも、生きていく。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

『グギィアゥオオォォォンッ!!』

 

空高く、透過性のある巨躯を持つ龍が咆哮を上げた。雄叫びと共に胸の赤光が、より猛々しく鮮やかに輝く。

 

咆哮の余韻が彼方へ消えた頃、巨龍は悠々と旋回し何処かへ飛び去っていった。

 

「短い間だったけどありがとね、ぜのちゃん……」

 

龍の行方を目で追いながら、少女が寂しそうに呟く。

 

「オレ……嫌われたかな……?」

 

蹲り顔を伏せた少年が、声を震わせて言った。

 

「なんであんな……正直に言えば良かったのにオレは……」

 

不安と後悔を吐き出す少年。同時に膝を抱える手にも力が入る。

 

「お兄ちゃん、たぶんだけどね、もし嫌いになってたらぜのちゃんは、鳴かなかったと思うよ? 飛んでっちゃう前に振り返ったりとかも……」

 

妹の言葉が届いていないのか、少年は顔を伏せたままで表情が窺えない。

 

「あーまあそう落ち込むな。それより、どうするんだ?」

 

そう問えば、少女は口ごもって目線を逸らす。

しかし、答えは思いの外早く出された。

 

「行くよ。一緒に」

 

少年が土を払って立ち上がる。

表情にまだ影が差しているが、薄氷色の瞳には確固たる意思が宿っていた。

 

「アイツは、約束を破ろうとしたオレの弱さを見抜いてたんだと思う。後ろめたさとか、甘えとか……だから、怒ったんだ」

 

少年は近場に落ちていた鞄を拾い上げ、軽く中身を確認してから肩にかける。

 

「オレお兄ちゃんなのに、自分のことしか考えられなくて……」

「それだけ分かりゃ十分(じゅうぶん)だ。誰かに甘えたいってのも、その歳と境遇を思えばまあ、当然だな」

「そうだけど、ずっとこのままじゃ駄目なんだ」

 

子供ながら……いや、非力な子供だからこそ、少年は決意した。

 

「オレは、強くなりたい」

 

少年の言う強さが力を持つことなのか、精神面なのか、それとも両方なのか。

何はともあれ、大切なものの為に少年は大人になろうとしている。

 

「……そうか。まだ先の話だろうが、頑張れよ新人」

「アンタだって、余裕でいられるのも今のうちだからな!」

「失礼だよ、お兄ちゃん!」

 

吹っ切れた兄妹は無邪気に笑う。

 

「だから、ゴッドイーターになれたらオレに───」

 

少年の言葉の最後の方が、降り立つヘリのプロペラ音に掻き消され聞き取れなかった。

 

「ん? 悪い、もう一回言ってくれ」

 

聞き返すと少年は口をつぐんで、何も言わずそっぽを向いてしまう。

 

この少年がこれから何を成し、得ていくのかまだ分からない。

多少の不安を抱えているが、それでも頭上に広がる空は雲一つなく澄み渡っていた───。

 

 




現在、九話を書いているのですが、書き直しに伴う物語の展開に悩んでしまって……それが前書きにある離れてしまった原因でもあります。

ゼノの咆哮を文字に書き起こしましたが、頭の中で咆哮を再生するたびディアブロスが乱入してきてました。
今でもひょっこり顔を出します。

それでは、お読みいただきありがとうございました。

また次回。

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