GOD EATER〜神喰いの冥灯龍転生〜【修正版】   作:夜無鷹

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お待たせしました。
前回の更新から4ヶ月経ったようですね。
……遅くなってすみません。

大筋は旧版と変わっていませんが、新しく書いたお話になります。
旧版にあったものがなかったり、なかったものがあったり、新しく入れてみたり……今後、展開していければいいなと思っています。

【旧版:十話 立場と距離】



第九話 イレギュラー

先日の諸々の成り行きにより住み処を移動してから、特に何の進展もなく二日が経過した。

極東支部の偵察班も今のところ姿は見えず、俺を見失って今は捜索しているのかもしれない。

 

俺としては解放された気分だ。

相変わらず昼夜関係無しに襲ってくるアラガミを除けば、比較的平穏な時間だったと言える。

 

ふとゼノになってから今までの事を振り返ると、襲撃してくるアラガミに対して『またか』と呆れ気味になるのは、成長したと取るべきか、順応したと取るべきか。

何に対して、とは明確には言い表せないのだが、『染まってきたな』とつくづく思う。

 

話が逸れたな。

 

住み処の移転先は工場跡地。

建造物は殆んどアラガミに喰い荒らされ、モヒカン数人を配置すればどっかの世紀末と遜色ない様相を呈している。

 

移動して来てからの二日間は、就寝スペース確保のため周辺の掃除をしていた。

人の拳くらいの石片がそこら中に転がってはいるが、この巨体と比べたらただの砂利同然。快適な更地に整備出来た。

小型アラガミの邪魔が入りながらも、せっせと掃除した俺を褒めてやりたいね。

 

壁の残骸なんかもあるにはあるが、全て破壊するとなると素直に面倒。定住する気が皆無な上、アラガミの姿を隠す程の面積は無いから、視界の妨げになろうと捨て置く。

 

さて、本題だ。

俺が『鉄塔の森』近辺に居座っている本来の目的は、エリックの死亡イベントを潰すこと。

折角だからという精神で介入しようと決めた訳だが、自分でもまあ何とも浅はかだなぁと……浮かれてたんだろうな。

だからと言って今更『やめた』なんて言う気もない。

 

介入する事に関して俺は、ゴッドイーターに対して一線を引くことにする。

あちらが俺に対して警戒を解くのは大いに結構だが、俺の警戒心が緩んでしまう可能性がある。つか緩む。

そうなれば、誰かが何かを企むかもしれない。たぶん。

 

頭がアホの子になった俺は、その渦中にいても、何も気付かないだろう。

そうならないために、早い段階での思考による自衛を図る必要がある。

一線を引くのは、俺自身がゴッドイーターに肩入れし、無用心に警戒を解かないための予防線だ。

 

『信用』や『信頼』は二の次三の次。

生存率向上の為、あいつらについて『知っている』状態を維持し続けなければならない。

 

……まあ、一年前のあの兄妹関係の出来事に関してツッこまれると、言い訳すら思い付かねぇがな。やっぱ浮かれてたんだなぁ……。

 

さてと、以上を踏まえ愛しのエリックをどうやって死なせないようにしようか。

焦らされ過ぎて新しい扉が開きそう。乙女心に目覚めそう。

 

誰得ルートの可能性を自身に感じつつエリック上田ルートの回避策を考えるも、大目的のみが脳内をぐるぐると回るだけで作戦の取っ掛かりさえ浮かばない。

 

行き詰まったな……。

軽く整地したスペースで腹這いになり、両前足を組んで顎を乗っける。

道路を挟んで向こう側はすぐ海。

朝日が水面を照らし、穏やかに揺らぐ波が白光を纏って輝いていた。

 

鉄塔の森(フィールド)』には俺が降り立てる空間はなく、地上でエリック達をそれとなく支援するならば、フィールド外からひょっこりアクションするか、無理やりフィールド内に降り立ち何やかんやする他ない。

前者はともかく、後者は建造物を踏みつけにするためフィールド破壊不可避。崩落にゴッドイーターが巻き添えになる事が予想される。

俺の体重でフィールドがヤバイ。

 

と、なると……地上での支援はフィールド外からのアクションが妥当だろうか。

 

フィールド上空からの介入方法は……中近距離のブレスか、遠距離ゼノビームによるオウガ打倒が候補か。

だが、正確性に欠ける。着弾地点との距離が離れるにつれ、狙った場所との誤差が生じる可能性がある。

感覚で言うなら、ブレスの場合は銃や弓矢などの射撃武器に近く、ビームは高圧洗浄機で遠くの的を狙う感覚……だろうか。

例えが武器と洗浄機という差は置いといて、射撃のスペシャリストでもない限り、狙いやすいのは高圧洗浄機もといゼノビームだ。

それでも、エリックを巻き込むかもしれないという懸念は拭えない。失敗したら『てへぺろ』じゃ済まないからな。

 

……え、じゃあ、どうするのよ俺。

フィールド外からひょっこりする?

壁からひょっこりする?

やだちょっと可愛くない? 俺、可愛いくない?

ひょっこりゼノちゃん良くない?

いやん、恥ずかしいよぉ……とか言っちゃってさ!

幼女だったら尚良、し……。

 

………。

 

俺は両手で目を覆い隠し、頭を抱える。

脳内で急激に膨らみ暴れ狂った妄想は一瞬の静寂によって鳴りを潜めていき、直前までの気分の昂りを客観的に捉え始める。

 

何だろう……恥ずかしいとか思う以前に、俺、疲れてんのかな……。全く別物だが、ランナーズハイ的な……気分がハイになるヤツ……。

あの兄妹のこともあるし、上手く言い表せないが幼女ってお前……駄目だろうよ……。

 

ヤバイ、泣けてきた……俺の精神状態に俺が泣いた。

 

他の方法考えよう……殆ど関わらず、キッカケのみを作る方法……。

 

頭を抱えたまま、目的のため思考を回す。

しかし妙案と呼べるものはなく、エリック上田ルートを絶対に回避できる介入方法は浮かばなかった。

負傷させ警戒が強化される可能性、俺の出現に気を取られオウガに殺られる可能性……俺が考えた方法は、どちらかの欠陥が必ず含まれる。

 

ならば……賭けよう。

これに含まれるのは、後者の可能性。

直接あいつらに危害を加える訳ではないが、一時的な警戒は仕方ないとする。

必要なのは、エリック達の警戒心と視野の広さ。

これは俺にもどうにも出来ない。だが、絶対に必要な要素でもある。

 

俺が提供するのはキッカケだけであり、恩を売ってマスト討伐対象にならないよう立ち回るのは決定事項。

エリックを助けるにしても、その過程であいつらを負傷させればブラックリスト入りは時間の問題となるため、少しでも敵対姿勢が強まる可能性がある介入方法は除外する。いらん敵を作らない為だな。

 

……まぁ、これだけエリック上田ルート回避について語っておきながら言っちゃ悪いが、俺の介入が意味をなさずゲームのシナリオ通りに進んだとしても、俺に実害はない。

逆に助かったとしても、害もなければ益もない。

薄情だがエリックに限って言えば、百億パーセント助ける意味がないんだよ。俺にとっては。

 

だから、完全に俺の自己満足だ。

 

さぁ、イベント介入で試される俺のイレギュラー力。

見事エリックの運命を変えることができるのか!?

そして、俺は討伐リスト除外に近付けるのか!?

次回、唸れイレギュラー力、エリック上田とは呼ばせねぇ。

 

シナリオ外の可能性を掴み取れ。

 

 

 

 

……やっぱり俺、疲れてんのかな。

 

気が付くと、朝日だった太陽が頂点に差し掛かろうとしていた。

 

ああ、そろそろ巡回の時間だ。

うまく現場に居合わせられればいいんだが……。

 

寝転がって凝り固まった身体を伸ばし、真正面の道路へと歩み出る。

地味な作戦を引っ提げ、今日で決着が付くようにと願いながら仮の住み処を飛び立った。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

『鉄塔の森』A地点。

一人の青年が周囲を見回しながら、ゆっくりと足を踏み出す。

今、共に行動する人物がいないことを考慮しアラガミが出現しないか警戒しているが、肩に余計な力が入り強張っていた。場慣れしたゴッドイーターにはない、新人の特徴である。

そんな彼の名は、伊澄ショウ。

雨宮リンドウに伴われ、一年以上前に極東支部へとやって来た。一ヶ月前に十五歳を迎えたショウは新型神機の適合試験を受け見事合格。その後ダミーアラガミとの戦闘訓練、先輩ゴッドイーター同伴の実戦を経験。

そして今回も実戦経験を積むため、別の任務に出ていた先輩ゴッドイーターであるエリック、ソーマと合流し、ミッションを行うことになっている。

 

「そう言えば、あまりいい話聞かなかったな……」

 

遠くに待機している二人の姿を捉えたショウはふと足を止め、出撃前に聞いた話を思い出す。

ミッションに赴く新人をからかうというより、先輩からの警告という意味の強かったその話は、結果としてショウの中に取っ付きにくい性格の二人という印象を与えた。特にソーマに対しては噂話を耳にしたことで言い知れぬ不安が芽生えていた。

 

「……噂は噂。誰が一緒でも、だよな」

 

ショウは自身の経験からそう呟き、エリックの奥でそっぽを向いているソーマを見据える。

一回、二回とゆっくり静かに深呼吸すると、不思議と彼に対する不安は薄らいでいた。

完全とは言わないまでも踏ん切りがついたショウは、一度止めた足を二人と合流するため再び進める。

それとほぼ同時、待機状態だった二人のうちエリックだけがショウの到着に気付き、手を振って駆け寄ってくる。

双方が一歩、二歩距離を縮めた瞬間──。

 

『緊急です! 作戦エリアに接近する敵性反応を検知しました。周囲を警戒してください!』

 

全員の小型インカムから、オペレーターを務めるヒバリの切迫した声が流れる。

突然のことにエリックは間の抜けた声を漏らし、上の空だったソーマは弾かれたように周囲を警戒し始める。

ショウも同様に近辺を見回し、いつアラガミが出現してもいいよう身構える。

──だが、いくら待てども敵影は現れない。

 

「……本当に反応があったのかい?」

 

痺れを切らしたエリックが息を吐き、髪を掻き上げながらインカムの向こうのヒバリに訊ねる。

 

『はい、こちらのレーダーでは確かに……』

 

直後、作戦エリア内を一陣の風が吹き抜けたかと思うと、数秒の間、明るかった景色が影に隠れたかのように暗がりに包まれた。

風の音だけとは到底思えない、轟音と共に。

 

刹那、形容しがたく、しかしショウにとっては聞いたことのある大音声が、その場にいる三人の頭上に降り注ぐ。

 

検知した敵性反応が上空にいると理解した三人は、その姿を確認しようと顔を上げる。

だが、上空の存在を視界に捉える寸前、ソーマが一歩前にいるエリックの襟首を鷲掴み、後ろへと投げ飛ばした。

 

「い、いきなり何を……!」

 

思わず尻餅をついたエリックは状況を理解出来ず、声が上ずる。

しかし直ぐに、ソーマが自身を後ろへ投げた理由を知った。

 

「アラガミが上から……!?」

「ボーッとするな!!」

 

驚くショウを叱咤するソーマ。

それもそのはず。直前までエリックが立っていた場所に今は、直ぐ傍の貯水タンクから飛び降りたオウガテイルが唸り声を上げていたのだから。

 

「ひぃぃぃ!!」

 

先程の自身の立ち位置とオウガテイルの立ち位置を照らし合わせ、あり得たかもしれない最悪の結果を導き出したエリック。

もしもの結果に情けない悲鳴を上げた彼を尻目に、ソーマは対峙するオウガテイルを即座に斬り倒す。

重い一撃をもろに受けたオウガテイルは、反撃する余地もなく沈黙。

そして息を吐く間もなく、第二波のアラガミ複数体がC地点に出現。

取り乱していたエリックも取り繕うように戦闘態勢に入り、援護射撃出来るようソーマの背後に行き神機を構える。

 

「おい、新型。呆気に取られている暇はない」

「あ、ああ、ここからが本番だな」

「そ、そうさ! 僕のように、華麗に戦ってくれたまえよ」

 

吠えるオウガテイルと刺を飛ばすコクーンメイデン。

近接を担う二人は降ってくる刺を掻い潜り接敵、三人目は射撃によって前衛二人を援護する。

三人で行うミッションが開始した。

 

一方でフィールドに影を落とす敵性反応は一度咆哮を上げて以降、攻撃を仕掛けてくる事も鳴くこともなく、上空での旋回をただ繰り返していたのだった──。

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

無事任務を遂行した三人は極東支部に帰投するため、『鉄塔の森』を離れ回収ポイントへと向かっていた。

 

「そう言えばあのアラガミ、ゼノ・ジーヴァだったかい? 変わらず訳の分からないアラガミだよ」

 

過去に一度遭遇した際の様子も絡め、エリックは率直な感想を述べる。

任務開始直前、上空に姿を現したゼノ・ジーヴァは結局、戦闘中も特に乱入してくる気配もないまま討伐対象のアラガミの掃討を完了し、三人の無事を見届けるかのように何処かへ飛び去っていった。

 

「まあ、追加で戦闘……ってならなくて良かったと思うんだけど……」

「僕の華麗なる姿に恐れおののいた結果さ」

 

と、自身の醜態を忘れ髪を掻き上げるエリック。

その様子にショウはどう言葉を返せば良いか分からず、苦笑いを浮かべた。

 

「……この辺りだな」

 

二人の会話には入らず、黙々と先を歩いていたソーマが立ち止まる。

風景は砂と瓦礫の終始殺風景なものだが、回収ポイントとして指定された場所は特に石片が脇に寄せられており、誰かが意図的に作り出したような空間のように思えた。

 

「ここが回収ポイントかい?」

「そうだ」

「はあー……疲れたぁ……」

 

ショウは衣服に土が付くのも憚らず、両足を伸ばし腰を下ろす。

目的地に到着した三人は帰還するためのヘリを待つのみとなり、周囲の警戒をしつつも互いに微妙な距離を取り軽く気を休める。

会話らしい会話はあまりなく、強いて言えばエリックが先輩風を吹かせ、いかにして華麗な戦闘を行うかという話をショウに聞かせていた。

 

「───今の話を肝に銘じれば、君も華麗に戦えるようになるさ」

「へー、そうなんだー……」

 

後半部分は完全に興味が失せ、何一つエリックの話が頭に入っていないショウは、締め括りの言葉に棒読みの相槌を打つ。

しかし、あからさまに無関心な態度でもエリックは気にしないどころか棒読みの相槌をポジティブに捉え、終わったと思われた華麗なる話を再び始めた。

 

「次は僕の華麗なる活躍を──」

「いや、もう満足……」

 

ショウの本音はエリックに届かなかった。

今度は脚色されたと思われる話を聞かされ始め、ショウは助けを求めるようにソーマへ視線を送るが、そっぽを向いていて救援要請を受け取ってはくれなかった。

ショウは落胆と共にうつむき、エリックの話を聞き流しながらただ砂を見る。

どこにでもある砂。まばらに見える半透明な粒が他の砂よりも綺麗だと感想を抱くのみで、集めようとも持って帰ろうとも思わない。

 

──だが。

 

「……ん? これ……」

 

そのありふれた砂の中にひとつだけ、他とは違うものを見つけた。

ショウが好奇心で拾い上げたそれは指先に乗るほど小さく、しかし異様な存在感を放つ代物であった。

半透明にも銀灰色にも見えるその結晶の内部には青白い淡光が宿っており、消え入りそうな幽かな光を結晶全体に纏わせていた。

 

「エリック、これ見たことあるか?」

 

拾った結晶を手の平に乗せ、恍惚と自身の活躍話をするエリックに差し出す。

 

「話の腰を折らないでくれたまえよ……」

 

一瞬不機嫌そうにしながらも、エリックはショウの質問を無下にすることなく差し出された結晶を凝視する。

 

「おや? 見たことないね」

「そうか……ソーマは?」

 

距離を置くソーマにも拾った結晶を見せる。

結晶は非常に小さいため傍まで近寄り注視しなければ確認できないのだが──。

 

「知るか」

 

ソーマはその場から一歩も動かず、軽くショウを一瞥した上でぶっきらぼうにそう答えた。

一名を除いて先輩が知らないと断言した結晶。

危険物という指摘は一切なく、石あるいは結晶が何らかの被害をもたらしたという話も聞かないため、新素材として調べてもらうか、お土産として妹に持って帰るか、二つの選択を天秤にかける。

 

「……渡してみるか」

 

悩んだ末、頭の中の天秤は、僅差で調べてもらう方に傾いた。

いくら危険物と指摘されなくても、未知の結晶体に変わりはない。

分からないものを無闇矢鱈に民間人、ひいては肉親に渡すわけにはいかない。

 

興味のわかないエリックの話が、二度目の締め括りを迎える。

ショウは結晶を、そっとポケットに忍ばせたのだった──。




今回の話、字数が6000字を越えました。初ですね。

以前、活動報告でリクエストして頂いた『モンハンの鉱物』の、可能そうなものを出してみました。

補足するなら、任務が終わった彼らの回収ポイントになったのは、寝床を移転する前のゼノが一年以上寝床として利用していた場所です。
一話にもちょこっと描写はしてたんですけどね。ついさっき確認しました。

他に書きたいことがあるのですが、長くなりそうなので後で活動報告に上げとこうと思います。

それでは、また次回。

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