始動
少女たちは夢に辿り着く。
子供の頃から夢を見て、輝く場所を想い描いて、ようやくそこに辿り着く。
でも、それは単なるスタートに過ぎない。
ゴールはまだまだ、その先に。
―――飛び越えろ、頂点すら置き去りにして。
『
「で?何のつもり?」
「何のつもりってなんだよ。俺は今日からプロデューサーで、お前らはその子分みたいな?そういう説明をされたい感じ?」
「プロデューサー業はそんな都合のいいものじゃないんだけど…。それより、どうしてプロデューサーに…?いやそもそも何で了承したんですか、赤羽根さん。」
1月某日。
クリスマスイヴ、クリスマス、大晦日、お正月、三が日を越え、既に冬休みも終わりに近づいた時期。
俺は自己紹介をした瞬間に志保に詰められ、襟を掴まれながら恫喝されている。こいつッ…上司を脅すなんてなんて奴だッ…。
「いや、俺は志保と大河君が知り合いだなんて知らなかったし、それに…彼は優秀なプロデューサーになる。俺が保証するよ。ちょっと口は悪いけどね。」
「ま、赤羽根さんは分かってくれてる訳だから、黙って跪くんだ、志保よ。」
「…後、すこーし態度が大きくて、ちょーっと人生舐めてるみたいだけどね。」
笑顔に見えるが、このタイプは怒っても笑顔だ。多分ヤバい。
「…ま、冗談はここまでにして、仕事の話をしようか、赤羽根さん。俺は何をすればいいんだ?優秀な事務員も増えたみたいだし、事務作業しかやることない、なんてことにはならないんだろ?」
「勿論。元々俺一人で何とかなっていたわけじゃないうえに、新しいアイドル達も入ってきたからね。流石にこれ以上はアイドル達の負担になると思ったわけだ。…何が言いたいか、分かるよね?」
笑顔は崩さず、しかしプレッシャーを強めて。怒っているわけではないだろうが、試されているような感じだ。
「足手まといを育て上げる暇はないってことだろ。それに、アイドルとの信頼構築に時間がかかってるようなどんくさいのも駄目。そしたら俺は都合いいよな?なんてったって半分くらい知り合いだ。なぁ?」
俺が周囲を見渡すと、言った通り反応を示す奴もちらほら。と、いうより765に居るなんて知らなかった奴も何人かいる。
というか殆どがそうだ。一応765のホームページを見漁ってきたのだが、どうやらあそこに書かれてるだけのメンツがアイドル全員ってわけではないようだ。
「足手まといになる気もない。基本的ステータスは優秀だから、概要だけ教えてくれれば後は自分で何とかする。分からないところはきちんと聞く。失敗は誤魔化したりしない。基本的に朝から晩まで働ける。持病は無い、通勤は電車で2駅。他に質問は?」
「…うん。君の情報は十分貰ったし、今すぐここで聞きたいと思う情報は無いよ。で、今日の仕事なんだが…無い。君にできる仕事は無いよ。」
「は?」
「そもそも中学生を働かせたりなんかできないよ。少なくとも来年度の4月までは君はここの社員じゃない。」
「じゃあなんでここに連れてきたりなんかしたんだ?大人しく4月以降に呼べば良かっただろ。」
「でも、仕事をしなければ別に何をしたっていいわけだ。だから暫くの間、君はアイドルとの交流をしてほしい。まずはアイドルの皆と仲良くなること。それが、俺が考える最高のプロデュースって奴さ。」
「アイドルとの、交流ね…。あんまりコミュニケーションは得意じゃないんだが…何とかやってみるよ。」
俺は取り敢えず、知り合いらへんから話しかけてみることにした。
「嘘ばっかり…。アイドルと仲良くなるなんて息を吸うより早いくせに…。」
「嫉妬か?志保。」
「はぁ?プロデューサーさんでも、あまり変なことを言ってると蹴り飛ばしますよ?」
「ホント怖いな、志保…最近になって、というか今月の初め辺りから段々手を出すまでが早くなってないか…?まあ、にしたってウチのアイドルだぞ?癖のある女の子ばっかりだ。大河君といえども、そう簡単には…。」
『なんや大河君!めっちゃおもろいやん~!』
『エキサイティングなアートですね!タイガ!』
『肉じゃがどうですか!?大河君!』
「…何か言うことは?」
「…大河君に教える仕事の内容、纏めておくよ。」
私とプロデューサーは、揃って溜め息をついた。
「はぁ!?高校に行かないつもりって言うの!?」
学校も始まって数日。既に始業式も終わって皆受験モードになっている時、しかし俺と静香と志保は机をくっ付けて食べていた。
勿論他の奴らも同じように集団で食べている奴もいたが、勉強を本格的に始めようとしている奴らも少なくはない。
別段進学校というわけでもないが、流石に推薦の奴らはもうすぐそこに試験が見えてるわけで。
つまりは叫んだ静香は、白い目で周囲から見られてすぐに着席して声を静める。
「…って、そんなことより、高校に行かないって正気?」
「義務教育はもう終わる。就職に関してはプロデューサー。何か問題があるか?」
「あるでしょ…!もしプロデューサーになれなかったら!?中卒じゃどこも雇ってなんかくれないよ!?」
鎮めながら声を荒げるという離れ業をやってのける静香。役に立たなそう。
「そうだとしたら?お前らだってそうだろ?受験前でもアイドル活動を続けてるわけだ。未来の可能性を切り捨てて、今の可能性に投資する。俺は本気だ。冗談でも、酔狂でも、ましてやお前らの為とかでもなく、本気だ。」
「…別に、プロデューサーを目指すことを責めてるわけじゃないよ。大河が自分の夢を持てることって立派だと思うし、私だって応援したいとも思う。でも、それは高校に行きながらだってできることじゃないの?将来の可能性を削るって言ったって、私も志保も高校には行くつもりだし、そんな中でもアイドルとしての高みを目指すための努力は欠かすつもりもない。大河ならできるでしょ?高校に行きながらだって、大河は…。」
「俺は勿論それくらいできるし、そのことについても考えたよ。でも、それは限界のある職業に限る。アイドルは体力に限界はあるし、休息だって重要な仕事だ。自分の身体を資本にするわけだからな。勉強にしたって、赤羽根さんの話じゃあ移動時間や待機時間にコツコツやれば高校の勉強にもついていけるって話だ。でも、プロデューサーに限界はない。やることなんて幾つだってある。仕事の確保、書類の提出、他のアイドルの研究。それが、52人。当然、俺だけじゃなくて赤羽根さんが担当することもあるし、アイドル本人がどうにかする問題だって多いはずだ。でも俺はそんな中途半端で終わらすつもりは無い。夢に向かってひたむきに走る奴は、それだけに集中させてやりたい。だから、俺は全部やれるようになりたい。だから時間が必要。だから高校に行かない。あんだーすたん?」
「…言ってることは分かるけど、それで大河が不幸になったら本末転倒だよ。また志保が逃げ出しちゃうよ。」
「静香、ヘッドロック。」
「…ごめんって。」
軽口を叩く静香を、一口で黙らせる志保。
どうやら力関係は確定してるらしい。
「その辺も自分で考えてるよ。ほら、これ。」
俺は机の中から一枚の紙を取り出す。
「高卒…認定試験。」
「これに受かれば高校はいかなくても大学に通う資格は手に入る。そうすりゃもし失敗しても大学に通いなおして就職することだって可能だ。」
「むぅ。ホント、大河ってこういう時入念に入念が込められてて崩せる気がしない…。志保、志保からも何か言ってくれない?」
「私は別に、止める気なんてないわ。大河の人生だし、リカバリーも考えてるし、別に問題は無いんじゃない?」
志保は飲んでいる水筒から口を離して、一旦息をついてから返事をする。
なんか娘の反抗期に対する母親見たいな返しだなこいつ。
「志保までそっち側なの…?じゃあ勝ち目ない、好きにしてよ…。」
「ま、私達が言えることはないわね、家族が賛成してるなら。」
「………………。」
「…話してないんだ。」
「バレバレすぎて悲しくなってくるわね。」
俺の決死の誤魔化しは通用せず、二人には筒抜けだ。
そう、一番の大問題。それは家族。
まだ話していないどころの騒ぎじゃない、アイドルと関わっていることすら話していない。
加蓮には話してはいるが、それも『いつ』という話はしていない。多分アイツは高校進学後、いや、多分大学卒業後の就職的な話として捉えているだろう。
まあ最悪こいつは何とかなる。相手にしなくても問題は無い。というか絶対に敵に回るとも限らない。
大問題は両親だ。
過去には加蓮がアイドルになるとかならないとか言ういざこざで、両親には多大なる心配と迷惑をかけている。
その際に俺は加蓮がアイドルになるための資金提供として、スカラシップの話をしたわけだ。
正直その時はその場しのぎさえ通ってしまえば何とかなると思っていた。
現に何とかはなったのだが、今ここでそれが効いてきている。
(今更高校に行かないとか言ったら、めっちゃ怒られそうだな…。)
スカラシップだってギリギリのラインを切り抜けたのだ。
正直今回ばかりは勘当すらあってもおかしくないレベルの話だ。
「で、どうしたらいいん?」
「それ…、なんで私に聞くんですか?絶対聞く相手間違ってますやん。」
事務所のソファで寝転がりながら、俺は見下ろすようにして眺めてくる横山奈緒に問いかけた。
既に学校で二人に話してから一週間。
静香と志保はもう受験も近いので、大きな仕事以外はレッスンにもあまり来ていない状態だ。
だから実は、話していないこともバレていない。
「そんなん私に聞かれたって、そもそも志保とか静香とか、大河には聞く相手がおるやろ?そっちに聞いたらええやん。」
「聞けるわけねーだろ。あっちには啖呵切ってプロデューサーになるって言ってんだ。しかも話してないって言ってからもう一週間だ。俺のプライドが許さねえ。」
「…ほぼ赤の他人に相談してる時点でプライドズタボロだと思いますけど。…なあ、百合子はどう思う?」
奈緒は隣の白机で読書をしている七尾百合子に声を掛ける。
どう考えても俺の対応をするのが面倒くさくなった反応だ。
「え、私ですか!?」
「私には手が負えへん…頼んだで、百合子!」
百合子に全投げする奈緒。
そして給湯室の方に鼻歌交じりに歩いていく。自分より年下に押し付けていいんですか?
「そんなこと言われましても…。えっと、両親に…プロデューサーになることを伝えづらい…でしたっけ?」
「ついでに高校にもいかない。むしろこっちのことの方が伝えづらい。キレられそう。」
「高校にも…!それは、怒られそうですね…。やっぱり、高校に行くのは社会の常識みたいになってますからね。」
「って、待ちや!よくよく考えたらなんで百合子がおんねん!」
何故か大声で走りながら戻ってくる。ギャグアニメで見たな、その動き。
「百合子!大河のしょうもない話に付き合ってる場合じゃないやろ!受験生やんか!後1ヶ月少しで試験なんやろ!?勉強しいや!ほら、帰り!」
「嫌です!家に帰ってしまったら本が読めないじゃないですか!勉強はい~や~で~す~!」
必死の抵抗虚しく、百合子は奈緒に引きずられてそのまま部屋の外まで行ってしまった。
所詮百合子は文学少女、スポーツ少女の奈緒には力では敵わないのだ。
「結局、何の相談にもならなかったな。」
そう、別に俺もただただ日和り続けてるだけではない。
志保や静香には聞けていないが、他の奴らに相談してみたりもしているのだ。
だがしかし、いかんせん場所が悪い。
『そんなことよりガールズトークしましょ!ガールズトーク!私、このみ姉さんとの馴れ初めとか聴きたいわ!』
『そんなことより野球しようぜ!野球!今なら琴葉も居ないし、今しかないって!』
『話聞いてましたか!?大河くん、なら、一から説明しなおしますよ!まずアイドルちゃん達はですね…。』
ミリオンに期待した俺が馬鹿だった。
そして今日結局なんの成果も得られなかったわけで。他の日に比べればまだマシだったが。
「さてと、どうしますかねえ。」
時期が時期、時間が時間だけあって既にシアターにはアイドルはいない。
もう誰かに相談できるわけでもなし、帰ろうとして鞄を持って事務所から出る。
「じゃ、帰るんで。まあ俺が言うことじゃないけど戸締りちゃんとしてくださいね、赤羽根さん。」
バタンとしまった扉の先で、赤羽根健治はボソッと呟いた。
「俺に頼ってくれても、いいんだぞ…。」
事務所を出て、俺は駅に向かわずに線路沿いを歩く。
いつもなら電車で帰るところだが、今は考える時間が欲しい。
考えるのに、この夕暮れの線路沿いは心地の良い空間だ。
まあ、家に居ると気が気でないというのも感想の一つだが。
(思い切って、打ち明けてもいいのか?だがそれでダメだと言われたら?今回ばっかは俺に分が悪い。言葉巧みに騙し騙しやってこれたこれまでとは違う。だって、これは非があるのは俺で、反論も弁明もできない。)
じゃあ夢を諦めるのか、と聞かれれば、答えはノーだ。
(…新居でも、探すか。一応な。)
「あら、そこのあなた。落としたわよ。」
「あ?」
思考を巡らせていた時、不意に後ろから透明感のある声が掛けられた。
後ろを振り向くと、青髪の女性が何かを持った手をこちらに差し出し、隣で銀髪の女性が眠そうにしていた。
「…へぇ、あなた、765プロダクションでプロデューサーをしているのね。」
彼女が手に持っているのは、どうやら俺が落とした一枚の紙きれ。
それは、765プロで試験用に作った俺の名刺、それを記念にと渡された一枚だ。
しかしあちらばかりがこちらの情報を握っている訳でもない。
たまたまには近いが、俺も彼女たちを知っている。
「そういうアンタらは、速水奏に塩見周子だな?346の、Project Kroneのアイドルだろ。」
「真面目に調べているみたいね。流石に優秀な事務所には優秀なプロデューサーさんがいるのかしら?」
「…もしかして、対抗意識持ってる?」
「ッ…。」
「だったら、止めてくれ。俺はまだ成り立てのぺーぺー…でもないな。なってすらいない。俺はまだ765プロのアイドルの情報を叩きこむのに精一杯だ。アンタらのことは調べ切れてたわけじゃない。たまたまProject Kroneのライブに行く機会があって、そこで見させてもらっただけだよ。」
「それはそれでムカつくわね…。えっと、北条、大河?……北条?」
「赤の他人だ。」
「…ってことは、あなたが加蓮の弟ね。隠したって無駄よ。加蓮がいつも大河大河うるさくて、嫌でも覚えちゃったんだから。」
「何が目的だ。」
「別に、目的があったわけじゃないけれど。そう言われると何か
「ああいいぜ。ならどっか話せる場所に行こうか。」
「それでいい?周子。」
「なんでもいいけど、お腹空いたーん…。」
「ふふ、それなら、カフェにでも行きましょうか。」
(そりゃあ加蓮の弟ですものね…。これくらいは考えておくべきだったわ…。)
近くのカフェに入ってから僅か1分。既に奏は後悔していた。
注文を店員に頼んで席に着き、さてどこから聞いてやろうかと企んでいた時、目の前の少年は急に口を開いた。
話を聞いてみるに、どうやら両親にプロデューサー業のことを伝えられないことを悩んでいるようで、しかしそれに対して軽く相談に乗ってやろうとしたら、待ち構えていたのは加蓮の重々しい過去を匂わせるような話と、尽力した際に請け負った代償の話。
本人は軽い気持ちで語っているつもりかも知れないが、聞くこちら側の身から言わせてもらうなら『最悪』だ。少なくとも夕方のカフェで聞くような話ではない。
「で、どうすりゃいいと思う?」
そんなの知ったことではない。と言うか何と答えさせるつもりなのだこの男は。
こちらは、大人びているだなんだと言われてもまだ高校生。
人生経験だって他の高校生と比べればあるだろうが大したものではない。
こんなに重い話に対してすぐさま答えを出せるほど大人じゃないのだ。
兎に角、今は当り障りのない答えを出して、自分自身に決めてもらうしかなさそうだ。
「大河君。あのね―――
「シューコちゃん的には、大河君が何を悩んでいるのか分かんないんだけどなー。」
「あぁ?」
私が口を開こうとした瞬間、ストローで最後の一口を飲み切った周子が、割り込んで私達の会話に入ってくれた。
彼女本人が私を想ってくれたわけではなさそうだが、結果的には助かった。
「だって、加蓮ちゃんが我儘を言ってアイドルになったのに、どうして大河君の我儘は認められないの?それってふこーへーじゃない?」
「不公平…って言ってもな。親にだって親なりの事情がある。子供二人共にそんな自由に動かれたら、困るんだろ。金だって工面しなきゃいけないし、何より子供をきちんと育てないといけない。約束だってしたわけだしな。」
「そんなの、加蓮ちゃんだっておんなじだよ。大河君だけが認められない理由にはならない。…理屈ばっか並べて、怖いんじゃないの?否定されるのが、立ち止まらされるのが。怖いんでしょ。はははー、おかしな話だよね。今まで誰よりも人の為に尽くしてきた人が、自分の望みを口に出した瞬間誰からも見放される。」
「ちょっと周子…!」
段々雲行きが怪しくなってきた。
こういう時、周子は言いたいことを言うだけ言う。相手の気持ちがどうなっても、自分が正しいと思うことを言う。
それは美徳だが、しかし棘でもある。
「…そう、だな。怖えのか、俺。そりゃそうか。『正しい』ことしか、してこなかったもんなぁ。自分で決めたことなんて、初めてだったもんな…。」
「でも、怖がる必要なんて私は無いと思うけど?じゃ、後よろしくー。」
周子は開いたカップを持ってレジの方へと向かう。
どうやら追加注文をする為に向かった様だが、説明全ては私に投げつけるようだ。
「ここで人に押し付けるの…?ホント、周子は自由が過ぎるわね…。えっと、周子が言いたかったのは多分。大河君がこれまでやってきたことは、無駄じゃなかったってことだと思うわ。大河君がこれまで誰の為に何をしてきたのかは私達には分からないけれど、人の為に何かを為せる人って言うのは、言外に周りから認められてるものなのよ。あなたが何かをしたいって主張してくれたら、きっとあなたの周りの人はあなたのことを応援してくれるわ。案外ね、人って見ているものなのよ。『正しい』ことを、してきたんでしょう?なら大丈夫よ。否定されたって、これまであなたのやってきたこと全てが否定されるわけじゃない。だから…自信を持ちなさいな。こんな時にまで、加蓮の事ばかり考えていないでね。」
「…気付いてたのか。」
「そりゃあね。こんな重い話してくるなんて、よほどの変人か、或いは、その現状を伝えて誰かに加蓮のことを想わせる優しい優しい弟君くらいしか居ないでしょうしね。」
「…帰るわ。」
「あら、北条家の血には、攻撃力は高くても、守備力が低いなんて特徴が遺伝するのかしら?」
「言ってろ。」
少年はこちらに顔も向けずに立ち去っていく。
それと入れ替わるようにして、周子が新しいカップを持って席に戻ってくる。
「あれ?大河君帰っちゃったの?」
「ええ…何とか。…そのコーヒー代、奢るわね。」
「ホントー!?ラッキー!」
周子が居なければ、胃痛で倒れていた。
これくらいは、必要経費だ。
「なあ、俺。プロデューサーになりたいんだ。」
「いいぞ。なったらいい。」
その日の夜。今日は早く帰ってきた親父とお袋、それに加蓮を加えた食卓が始まった瞬間、俺が切り出した話題は一瞬にして終わった。
「待て、は?今なったらいいって言いましたお父上?」
「言ったが?母さん、醤油取ってくれ。」
「いやいやいやちょっと待ってくれ。プロデューサーだぞ?アイドルを、プロデュースする奴。分かってる?」
「分かっているとも。娘がアイドルなんだからそれくらいは調べるさ。で、どこの事務所に入るんだ?」
「えっと、765プロだけど…。いや、そうか。つーかもう入ってるんだ。高校には行かないで、本職としてやるつもりだ。」
「何を言っているんだ!大河!」
(や、やっぱりか…。高校に行かないってのは流石に親父も―——)
「そういうのは早く言いなさい!私達が挨拶する前に入るだなんて!迷惑かけてないだろうな!」
(違うやん…全然的外れなところやん…。)
「本気で、言ってるのか?俺がプロデューサーになるのを、止めたりとか…。」
「何だ?止めて欲しいのか?」
「そういうわけじゃないけど…。じゃあ、お袋は?いいのか、これで。」
お袋と加蓮はこの間も他愛もない話をしていた。本気か?こいつら…。
「あら、別にいいんじゃない?悩んで、自分で決めたことなんでしょう?」
「お母さん、大河は止められると思ってたんだよ。人のことは死ぬまで背中を押し続ける癖に、いざ自分の番になると、自分のことが信じられずにビビッて尻尾巻いて逃げる。」
「じゃあ背中を押してあげたらいいのかしら?こう?」
「お母さん背中を押すってのは物理的な意味じゃなくて…。」
どこまで言っても、俺が予想した通りの状況にならない。
どうやら奏の言っていたことは、本当なのかもしれない。
「構わないさ。大河が幸せになれるなら、それで。後悔は、しないんだな?」
「…しないよ。」
「ならいい。頑張れよ。」
親父は俺の頭をポンポンと、赤子でもあやすかのように軽く叩く。
なんでか暖かい、大きな手だった。
「と、いうわけで。今日から正式に我が765プロのプロデューサーになる、北条大河君だ。皆も、もう何ヶ月か一緒に過ごして彼のことを分かってきたはずだから、これからは彼も頼りにして、アイドルとして頑張っていってくれ!」
「「「よろしくお願いします!」」」
「よろー。」
そうして4月。涙ながらに杏奈との学生生活を終え、静香と志保も近くの女子高への入学を決めた春先。
俺は遂に、765プロダクションの正式な社員となった。
「じゃあ、大河君から一言もらえるかな。ここからは友達感覚ってだけじゃいられないからね。」
赤羽根さんから許可をもらったので、一歩前に出てアイドル達を見据えて、俺は言葉を発した。
「大したことは言えねえが…黙ってついてこいカス共、俺が、トップアイドルに、してやる。」
新年度初の志保のドロップキック。色は勿論、黒だった。
紹介
北条大河
中学生って嘘だろもう。
北沢志保
母。
最上静香
娘。
「静香、ヘッドロック。」
力関係の縮図。
黒
勿論黒。
…なんか、シリアスだと紹介書き辛いな。
ミリシタ3周年なので2期開始です。
嘘です。他で色々やってたらこうなってました。すまんて。
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