加蓮Be!   作:煮卵9

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瑠璃色に輝く

 

 

 

「みんなのこと、すごいなって…灯織ちゃんもめぐるちゃんも、他のユニットのみんなも みんなみんな、すごくって、素敵で、プロデューサーさんも、特別だって言ってて…私もそう思ってて…でも、そんなみんなの真ん中に立って、私…私、どうしていいかわからなくって…!みんなのこと…とっても、とっても大好きなのに……何にもできてなくって…。」

 

「自分に才能があるのか分からなくて、不安、ってことか。」

 

「うん…。」

 

真乃さんが話を終えて、俺はそれを軽く要約して返す。

それにしても、そんな悩み方をするタイプには見えなかった。彼女達は、随分仲が良いように見えたから。

 

「それは、真乃さんが目指す場所次第じゃねえかな。トップアイドルになりたいなら、自分が自信があってこれならできるっていう『強み』が無いなら、それを見つけるか、或いは作らなきゃいけない。…でも、真乃さんの目指すアイドル像が別のものなら。まあ、やっぱりあんたの悩みなんて大したものじゃなかったってことさ。」

 

「私の目指す、アイドル像…。」

 

「ああそうだ。真乃さん、そもそもあんたは、どうしてアイドルになったんだ?今、どうしてアイドルを続けてるんだよ。」

 

アイドルになった理由がどうかは分からないが、今ここまで悩んでいるということは、それなりの信念に基づいてアイドルを続けているということだろう。

だから、俺はそれを問わねばならない。それによって、彼女に対する俺のアプロ―チは180度変わるだろうから。

 

「私は、トップアイドルを目指したい…!でも、それ以上に、今はイルミネーションスターズのみんなと…283プロダクションのみんなと、一緒に羽ばたきたい!」

 

「なら、真乃さんの長所とか、何かとか、そんなのはどうでもよくないか?真乃さんには仲間が居る。隣にいてくれる誰かが居る。それの何が不満なんだ。」

 

「でも…!私、何にもできてない。何の役にも、立ててない…。」

 

「能力があることだけが、人の役に立つってことじゃないんだぜ。何かしてくれなきゃ、お前は友達を見限るのか?違うんじゃないのか。お前は、灯織や、めぐるを。能力だけ見て友人だと思ったのか。」

 

「そんな、こと…!」

 

「じゃ、相手方だって同じだよ。灯織もめぐるも、他の283の奴らも俺は殆ど知らないけどさ。でも、素敵で、特別なんだろ?じゃあ、真乃さんが何もできていなくたって、そんなの気にするやつなんているのかよ。」

 

「…。」

 

「ま、俺から言われたってどうにもならねえよな。俺にはそいつらの気持ちを予想することはできても、代弁することはできない。人の気持ちなんて、他人には分かりっこないからな。本人から直接聞くしかねえよ。」

 

「…大河、君。」

 

「だから、後は任せるよ。じゃあ、俺は行くぜ。」

 

俺は今度こそ真乃さんを置いて公園を離れる。

すると、公園の方から聞き覚えのある声二つが、真乃さんを大声で呼ぶ声がした。

 

「「真乃ッー!」」

 

信頼と信用の悩み事は、当人達が伝え合うことでしか解決しない。

他人が何と言うよりも、友人が一言言ってくれるだけで充分なのだ。

 

「やっぱり、優しいんだね、大河は。」

 

「…凛か。悪いけど、場所、変えさせてもらうぞ。思い出の場所なんて、更新されるもんだからな。」

 

「うん、いいよ。」

 

俺は凛を連れて、別の公園に歩く。

 

 

 

この辺りは公園が多く点在し、少し歩くだけで別の公園に辿り着くことができた。

凛はブランコに座り、俺はブランコの周りの柵に腰かけた。

 

「で、結局のところ相談って何なんだ?」

 

「えっと…卯月。島村卯月っていう私の友達の話なの。前に大河に話したでしょ。私がTriad Primusに入ることを決めて、見限ることになってしまった。私の、親友。」

 

「そいつが?どうしたってんだ?」

 

「私も、卯月がどうしたのかは、よく分かってないの。でも、私と、卯月と、未央。三人でnew generationsだった。でも、私がTriad Primusに入ってライブをして、未央が演劇っていう道に一歩踏み出してから、どうしてか元気が無くなっちゃって…。new generationsっていう私達を繋いでくれた何かが、少しずつ崩れていって。卯月は途中でいろんな仕事をしようとして、でもそれも失敗しちゃって。理由を聞こうにも、卯月は養成所で練習を始めて。プロデューサーに聞いても『何とかする』の一点張りで。…私達は、卯月が来るのを待っていた。でも卯月、クリスマスライブにも来なくて。舞踏会には来たんだけど、アイドルとしての活動はしないで、裏方で。それからも、全然事務所に来ないで、養成所でずっとレッスンしてて。…来週、Spring Festivalっていう春の定期ライブがあって。そこで出れないと、卯月は、もう…。」

 

「クビってことか。ま、3ヶ月も活動してなきゃそうにもなるわな。」

 

「今は、活動休止中ってことになってるけど…。」

 

「もうファン共も限界迎えてるってことか。じゃあ、もう346そのものから猶予を貰ったとしても無駄だな。その島村卯月本人が、戻る決意をしない限り無理だよ。」

 

「ねえ、どうしたら、良いと思う?私は、どうしたら…。」

 

凛は、俯いて、スカートの裾を握りしめて問う。

まるで、自分が選んだ選択を、後悔するかのように。

それを前にして、俺は無責任に答えた。

 

「別に、何にもしなくていいんじゃね?」

 

「え…。本気で、言ってるの…!?このままじゃ卯月、アイドルを辞めることになっちゃう!あんなにアイドルとして輝くことを夢見てたのに!こんな、こんな終わり方なんて!」

 

「それは、お前の勝手だろ。本人がそう思っているかも知らないで、そう思い描いてるって勘違いしているだけじゃないのか?」

 

「そんなことない!卯月は、私達に何度も言ってくれた!アイドルとして輝こうって!一緒にトップアイドルを目指そうって言ってくれた!」

 

凛は立ち上がって俺に怒鳴る。

友人は悪くないと、悪いのは自分だと責めるように。

 

「それが本当だとしたら、なんで島村卯月は事務所に来ない?どうしてライブに来ない?…別にその理由に深いものがあったって俺は知らねえよ。でも、俺は、アイドルっていう職業に対して舐めた真似してる奴を俺は認めない。悩んで進めなくなってるわけじゃない。悩むことからすらも逃げ出した奴を、俺は許せない。」

 

「大河みたいに、ううん…。加蓮みたいに、誰もがそんなに強くないよ…。何かがあって、逃げ出したくなるときだってあるよ…。」

 

「…なあ凛。可能性ってのは、掴もうと足掻かなきゃ掴めないモノなんだよ。練習してるとか、夢があるとか、そんなものは関係ないんだよ。目指すところがない奴は、何にもなれない。他人がどうこうしたって無駄だ。」

 

「じゃあ卯月の事は見捨てろって言うの!?さっきの子は助けてあげたくせに!」

 

「…真乃さんは、目指す先を失っていた。自信が無くなっていた。でもそれは彼女が気付いてないだけで、そこに有ったんだよ。でも島村卯月は違う。目指す先があるんだろ?なのにその一歩を踏み出せていない。周りに支えられてると気付いていながらも、その支えを掴もうともしない。…俺は、一人きりで生きろって言ってるわけじゃない。加蓮が周りとは違う生き方をしてきたってのは分かってる。だからこそ俺は、差し伸べられた手を振り払う奴が嫌いなんだ。それを心の底から待ち望んでいる奴に届けられないその手を、簡単に無視できてしまいそうなやつが、嫌いで、俺の手には負えない。一番の信頼を置いている人間からも助けを求められない奴は、完全な部外者の俺の言うことに耳を傾ける筈が無い。」

 

「待って、どこに行くの…!」

 

「悪いな。俺は765プロダクションのプロデューサーなんだ。他事務所のアイドルに費やす時間は無い。」

 

「待ってよ大河…!大河なら、なんとかできるんでしょ…!卯月と、私と、未央で、もう一回、new generationsとして、あのキラキラした舞台に…!」

 

「買いかぶり過ぎだぜ。俺にもできないことはある。」

 

俺は公園を出て、バイクに跨る。

今度は、少女は、涙に濡れたままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を呼び出すなんて、そう簡単にできることではないんだぞ。アポイントメントくらい取り給え。」

 

「あ、そういや昇進したんですってね。おめでとうございます。」

 

「世辞から入るということは、また頼み事か?」

 

嘆息しながらもベンチに座り、俺の差し出した無糖のコーヒーを受け取って一口飲む美城じょう…いや、専務か。

 

「いや別にあんたに媚は売らないですよ。他ルートから入ってもよかったんですけどね、あんたに聞きたいこともあって、ちょうどいいとも思ったから。」

 

「何だ、言ってみろ。」

 

「…あんた、優しいんだな。ちょっと前までは、自分の主義に会わないアイドルはどんどん潰してたんじゃないのか?」

 

「…皮肉を言う為にここに来たのか?」

 

「いいや、真剣な話をしに来たんだ。この話は導入だよ。…島村卯月の、プロデューサーに会わせろ。」

 

彼女の表情に、鋭さが灯る。

 

「…少し、意外だな。君が他所のアイドルプロデュースに口を出すとは。君みたいなタイプは自分が認めたアイドルにのみ注力する、私と似たタイプかと思っていた。」

 

「俺だって自分のトコのアイドルが一番さ。だが、今は少し時間があってな。それに凛の頼みだ。無下にはできねえ。…できることなら、人が夢を追うことは応援してやりてえからな。」

 

「…なるほど、昨日渋谷が私に島村卯月に関して言ってきたのは君のせいというわけか。しかしこんな事態になっているなら、断ったのではないのか?何故態々私を経由する。」

 

訝しげな表情でこちらを見る美城専務。

どうやらあちらさんも、こっちの真意すべてを把握しているわけではないみたいだ。

 

「理由は三つある。さっきも言った通り、一つにはあんたがどうして島村卯月を解雇しないのかを知りたかった。これは興味本位だ。別に答えがもらえなくたって構わない。」

 

「他の二つは?」

 

「島村卯月を救いに来た。これは、あんた経由じゃないと難しい話だと思ったからな。」

 

「何故私を経由する必要がある?」

 

「島村卯月の問題は、もうアイドル達だけじゃどうにもできない部分まで来ている。いや、アイドル達じゃどうしたとて裏目にでるようになっている。美嘉やら加蓮やら凛やら。知り合いなら山ほどいるもんでね。情報は簡単に集まった。…そもそもの話、あんたは問題をきちんと認識しているのか?島村卯月という破綻しているアイドルは、何故破綻したのか分かっているのか?」

 

「私は直属ではないからな。理由については分かっていない。」

 

「それじゃあ二流だ。プロデューサーとしてな。一流のプロデューサーは、その状態を確かめて戻ってこれるか吟味し、それにかける苦労とを計算して決める。」

 

「君は自分が一流だといいたいのか?」

 

「いいや三流だ。俺は、助けられなくても助ける。無理でも、不可能でも、苦労との採算が合わなかろうと。俺は誰も見捨てない。助けられなくても助ける。そう誓ったんだ。」

 

「たとえライバル事務所のアイドルだとしてもか?」

 

「だとしても、だ。」

 

専務の見極めるような視線を受け止めて睨み返すと、専務は何度目になるか分からない溜め息をついて目を逸らす。

反りの合わない俺に呆れたのか、自分の甘さに気付いたのか。自分の甘さを認めるようなタマじゃない、多分前者だ。

 

「…君なら救えるのか。島村卯月を。担当している、優秀なプロデューサーでもどうにもできなかった。それを、君のような成り立てが。なんとかできるというのか?」

 

「できるね。そもそも、俺以外に解決できるのは数えるほどしか居ねえだろうな。これは優劣の話じゃない。経験の話だ。うちのプロデューサーや、あんただって厳しいんじゃないのか?」

 

「経験?君はまだ初めて3ヶ月だろう。それで君が経験を上回ってるというのか?」

 

「プロデューサーとしての経験じゃねえ。俺は知ってるんだよ。苦しんでいるアイドルの気持ちってやつをな。」

 

俺は専務に向けて手を差し出す。

専務はその手に一枚の名刺を置いた。

そこに書かれているのは「シンデレラプロジェクト担当プロデューサー 武内」という文字。

どうやらこいつが、島村卯月を担当しているプロデューサーらしい。

 

「どーも。」

 

「待ちたまえ。理由が三つあると言ったが、まだ二つしか聞いていない。最後の一つを教えてから行き給え。」

 

「聞きたい?」

 

「聞かせろ。」

 

「…恩返しだよ、バカヤロー。」

 

さて、次はこの武内という奴に連絡を入れて話をせねばならない。

これすら失敗してしまえば、島村卯月は決して助からないのだから。

 

「顔を背けても、真面目な顔をしても、照れた赤い顔は隠せていないぞ。」

 

「カッコつけてんだからそういうのやめてくれませんかねぇ!?」

 

 

 

 

 

「で?そのプロデューサーには会えたの?」

 

「お忙しいらしいぞ。CP(シンデレラプロジェクト)っていう受け持ってるプロジェクトが、去年の年末のライブでだいぶ人気が出てきたらしくてよ。未だに仕事を請け負うのでてんてこ舞いだってさ。」

 

俺は美城専務との話を終えて、貰った番号に電話をかけたが、しかし忙しいということで事務員さんに断られてしまった。

別に俺はいつでもいいとも言ったのだが、それすらも門前払いだ。

 

「全く、大河ってばまたその辺り考えずにどんどん進んでっちゃうんだから。どうするの?その…武内さん?その人に会わなきゃ卯月ちゃんも助けられないんじゃないの?」

 

「…どうでもいいけどさ、もしかしてお前って志保よりもアイドルオタだったりするのか、静香。」

 

卯月ちゃんて。年上ぞ?ライバルぞ?一応。

 

「べ、別にそんなんじゃないから!意地悪なことばっかり言ってると、そのうどん、没収だからね!」

 

「ご無体なことするなよな。俺は飯も食わずに専務の会議が終わるまでまだ冷える中で立って待ってたんだぞ?2時間だ2時間。何をそんなに話すことがあるのかねえ。」

 

俺はうどんを一口啜る。うむ、美味しい。

 

「それも事前に話しておかなかった大河のせいじゃない。346プロダクションはアイドル事業だけが仕事じゃないから、専務になったなら仕事量も馬鹿にならないんでしょ。会えただけでもラッキーって考えなきゃ。」

 

静香が机にお茶をおく。うむ、湯気が立っていて味わい深そうな色だ。やはりお茶は熱いものに限るな。

 

「…って何事務所の給湯室で夫婦漫才してんねーん!」

 

その空気に耐えかねた横山奈緒が、大声を張り上げて割って入る。

俺と静香は別に漫才をしているわけでも夫婦な訳でもないんだけど…。

 

「「夫婦?誰と誰が?」」

 

「アンタらや!何やねんアンタら!私が給湯室に入ってからのたった数分間で何杯分の砂糖を飲ますねん!私は普通にお茶を飲みに来たのに、気いついたらブラックコーヒー飲んでたわ!」

 

「まあまあ落ち着けよ奈緒。いいか?呼吸は『ヒッ、ヒッ、フー』だぞ?」

 

「それはラマーズ法や!あーもう…!新しくプロデューサーさんが入ってくるって言われてようやくツッコミ役が増えて私が楽になるっておもたのに、なんでボケ役に回ってるねん!普通プロデューサーさんってそういうの止めてくれる役回りちゃいますん!?」

 

「俺はそういう常識とかに囚われないタイプだから。」

 

「…助けてぇぇぇ!美奈子ぉぉぉ!!!」

 

泣き叫びながら奈緒は給湯室から走り去っていく。キャラ崩壊ってレベルじゃねえぞ。大丈夫か。

 

「本当に、大河のせいでこの事務所どんどん腐ってきてる気がするわね。いや、元々の事務所の雰囲気とかを知っている訳じゃないけど。」

 

「確かにそれも一理あるな。」

 

俺は食べ終えたうどんの容器と紙コップをゴミ箱に捨て、静香と共に控室に戻る。

そこでは。

 

「にひひ…甜花のドン●ーは、負けないから…。」

 

「んふふー。杏のワ●イージに勝てると思わないでよねー。」

 

「杏奈の…ク●パに…勝てる訳…ない…。」

 

甜花、甘奈、双葉杏、諸星きらり、杏奈、百合子、徳川まつり、このみ姐さんの計8人でマ●カーをしていた。

中でも甜花と杏と杏奈は格が違う。場合によっては下5人と一周差をつけることもあるくらいだ。

それに続いてまつりや甘奈、百合子が善戦し、きらりも何とかそれに喰らいついている。

このみ姐さん?万年最下位だ。

 

「まさかここまで大きくなるとはな。俺も思わなかったよ。」

 

「別に私はいいけど、律子さんがこっちに来たら大目玉じゃないの?」

 

「それな。やばいよな。ったく、最初は甜花と甘奈だけだったてのに、ここまで広がっちまうなんてな。」

 

そう、元々はこのゲーム大会、甜花が人と触れ合う機会にと甘奈が発案したもので、元は甘奈、甜花、俺の三人だけで始めたものだったのだが、スマブラをやるようになってからは杏奈が参戦を表明し、そのまま芋づる式に百合子やまつりが吸われていき、どこで聞きつけたかガチ勢が揃うという噂の元、きらり同伴の杏が通うようになって。

まあ、それからゲーム部みたいな感じで動いている。このみ姐さんの枠は大抵そこにいた暇な奴で、メンツの中で仕事で来られない場合も誰かが吸われてくる。最早俺は入っていけない。奴らレベルが高すぎる。

 

「いくら律子さんがこっちに来ないからと言って、よく誰も止めないわよね。赤羽根プロデューサーはまだしも、社長とか、琴葉さんとか、止めそうな人はいくらでもいるのに。」

 

「このみ姐さんとかもな。止めようとして吸われてるんだからどうなんだって感じだけど。赤羽根さんはアイドル達の親交が深まることに関しては肯定的だし、琴葉だって迷惑をかけない遊びなら怒ったりはしないと思うぜ?」

 

それにこれは、俺の描いている未来への一歩にもなることだ。

律子の姉御が来たところで、俺は負けたりしない。

 

 

 

「反省しなさい、大河君。」

 

「はい…律子の姉御…。」

 

ゲームは、一日一時間までになった。

 

 

 

 

 

その晩、俺は346プロダクションの前でスマホを弄りながら時間を潰していた。

このスマホも、高校入学祝い―――入学していないがまあそれはいいとして―――で親に買ってもらったものだ。

まあ支払いは俺名義の通帳になっているので、親は承認しただけということになっているが。

最近の科学力の進歩はすさまじく、立ったままでも色々情報を纏められるようで、随分とお世話になっている。

 

「何、してるんですか?」

 

「んー、出待ち。」

 

「通報させてもらっても?」

 

「いいわけねえだろこの鬼、悪魔、ちひろ。」

 

緑の服を着ていなくても、この挑発的な態度と威圧的な口調は忘れもしない。

千川ちひろ。346プロダクションの事務員。鬼であり悪魔でもある。

俺が加蓮の付き添いで346プロダクションに初めて来た時、守秘義務とか子供はとかなんとか言われて、俺だけが応接室から追い出された。

あまりも暇だし仲間外れにされた俺は、適当に近くの部屋に入ってみた。

そこに、その頃の俺程度の身長と変わらないような、身だしなみにも全く気を遣わない金髪の女の子がいたのだった。

カー●ィをした。仲良くなった。

それで俺と双葉杏との馴れ初めは以上で、さしたる問題はないのだが、ここからが問題だった。

 

俺と杏が二人で遊んでいるのを、千川ちひろに発見されたのだった。

状況!俺!(中学生になった男!)杏!(見た目は幼女)一緒のソファ!(操作方法について教えてもらってた)はだけた幼女!(杏の基本装備だ。)

有☆罪!

と、彼女の中で審議がなされたようで、俺はそれ以来心外な幼女愛好者(ロリコン)という称号を彼女の中で得て、彼女からひどく嫌われているというわけだ。

 

「待っていても、もう年少組の子は帰ってしまいましたよ。」

 

「何で年少組を待ってるって事になってんだよ。俺が待ってるのは武内っていう男だ。」

 

「…プロデューサーさんに、何か御用ですか?」

 

彼女の声から明るい色が失われる。さっきからそんなものはなかったが。

 

「ってことはあの時の電話で拒否ったのはお前か。…いいか?今回の俺は真剣だ。下手な邪魔してんじゃねえぞ。」

 

「他所の事務所のプロデューサーと公的な場所でもない場所で、自分のところのプロデューサーさんと合わせる訳には行きません。あなたがいかに真剣であろうとも、です。」

 

「一人の少女の人生がかかっているとしても、か?」

 

「…加蓮ちゃんから聞いたんですか。それなら尚更合わせる訳には行きません。余計なことをされてプロデューサーさんの邪魔をされては、それこそ卯月ちゃんの人生が狂ってしまいますから。」

 

「そう言い始めて、何ヶ月経った。後何ヶ月待つつもりだ。プロダクションはもう答えを出してる。島村卯月は答えを出せない。武内にはどうにもできない。時間はお前らの敵だ。…なあ、どうするんだ?テメエのトコのプロデューサーを信じるのも、俺を疑うのも、お前の勝手だ。でもそのお前の勝手が、一人のアイドルの将来を殺している。今この一瞬、お前が俺を止めているこの一瞬にでも、だ。」

 

「ッ…!」

 

「千川さん。そこまでです。…私は、彼と話してみたいと思いますから。」

 

「へえ…。お前が、武内か。」

 

千川ちひろの後ろから、大柄で不愛想な男が歩いてくる。

その恐ろしい顔は、凛や加蓮から聞いていた特徴にぴったり当てはまった。

 

 

 

 

 

「ここは私が奢りますので、お二方とも好きなものをご注文ください。」

 

武内と、そして渋って着いてきた千川が横に並び、机を跨いで座っている。

俺はアイスティーを、千川はカフェオレを頼み、武内はブラックコーヒーを頼む。

無言だった俺達は、店員が机に飲み物を置いたのを皮切りに、話を始める。

 

「じゃあ、まずは聞きたい事がいくつかある。俺は人づてに話を聞いただけで、全体像を掴めている訳ではない。本来ならば島村卯月から話を聞きたいもんだが、流石にそういうわけにもいかないからな。それに、本人から話を聞けないのなら、多くの視点から問題を見つめることは大切なことだ。聞きたいことは大きく分けて三つ。一つは島村卯月が抱える問題についての理解。二つ目はお前がそれに対してとった行動。最後に島村卯月のタイムリミットだ。」

 

「タイムリミットは、今週末のSpring Festivalです。条件は島村さんの出場、及び4、5月中の出演数次第だそうです。」

 

「俺の協力する範囲は島村卯月の復活までだ。出演数の話は俺にはどうにもできねえからな。」

 

「そちらについては私の方で何とかする方法は揃えています。…ですが。」

 

「復活の方法だろ。いいからお前と島村卯月の間に何があったか話せ。分かる範囲でいい。」

 

「正直な話、私が分かっていることも多くはありません。私が知っているのは、島村さんの元気が秋の終わり頃から少しずつなくなっていたこと、彼女が一からやり直したいと言って養成所で練習をしていたこと、その二つだけです。」

 

当たり障りのない、淡々とした事実だけを述べていく武内という男。

まるでプロデューサー視点の話には聞こえない。

 

「事実なんてどうでもいい。お前の主観の話を聞かせろ。」

 

「ですが…。」

 

「人の心の問題を話してんだぞ。事実だけ抜き取って科学の話をしたいんじゃない。お前から見て、島村卯月がどう映ったのか。それを知りたいからここに来たんだ。」

 

武内は、自分の頼んだコーヒーに目を落とし、液面に映った自分を見つめている。

自分の中で、彼女―――島村卯月がどのような存在なのかを、確かめているのかもしれない。

 

「…島村さんは、笑顔が、素敵な方でした。島村さんの笑顔は、周りの方々も元気づけるような、明るい笑顔が魅力的な方で。…ですが、秋頃から、段々とその笑顔が曇ってきていて。その頃は、渋谷さんや本田さんがProject Kroneや演劇など、CPの活動から離れつつあった時なので、戸惑いから来るものだと思っていたのですが、結局のところ、CPとして活動できるシンデレラの舞踏会にも参加していただけませんでしたので…別の要因があるのかと思いました。何度かそれを問いただしたのですが、明確な答えは帰ってきませんでした。最近では、養成所にも顔を出してもらえず、家を訪問しても『体調が悪い』としか言ってもらえず…。正直、手詰まりの状況です。」

 

「その間、島村卯月はお前にコンタクトを取ってきたことはなかったのか?」

 

「いえ。島村さんは養成所からのスカウトだったのですが、『何故私を選んだか。』と一度聞かれたことがあります。」

 

「お前は何と答えたんだ?」

 

「笑顔、と。答えました。」

 

「…ちなみに、凛と本田未央の魅力は何だと思う?」

 

「笑顔です。彼女たちの笑顔は、それぞれ違う魅力があって、周囲のファンの方々を楽しませられるものだと思っています。」

 

「なるほどね…。」

 

今、武内から得た情報と、凛や加蓮、ついでに美嘉と杏ときらりから手に入れた情報を頭の中で集約する。

そして、自分が島村卯月になったつもりで考える。他者の視点からでは想像もできないようなことを、本人は考えているかもしれない。

 

「…大体掴めた。多分な。」

 

「本当ですか!?」

 

机に手を突き、思い切り立ち上がる武内。

まだ遅くない時間とは言え、夜である時間帯。この風貌の男が声を荒げれば周りの人間も気が気でないだろう。

 

「落ち着けよ。」

 

「ですが…島村さんを…!」

 

「…そういう、トコじゃねえの?お前が、島村卯月を助けられない理由。分かってない。何もしてない、何もできてない。だから。」

 

「何をッ…!プロデューサーは頑張ってます!毎日の業務をきちんとこなしながら、それでも卯月ちゃんを諦めないで必死に頑張って!あなたみたいな人に何が…!」

 

「じゃあお前は、島村卯月に対して何をしてやったんだ?」

 

「私、は…。」

 

「何もしてやらなかったんじゃないのか?踏み込まず、引きこもって、当たり障りのないアイドルへの関わり方をして。逃げてんだよ、お前は。お前の考え方が狂ってるのはどうしてきたかじゃない。どう想ってきたかだよ。お前はずっと、一体の人形を相手に寄り添ってきたんだ。でも本当はそうじゃなかった。一緒に歩んでいるのは人間だ。それもただの人間じゃない。島村卯月っていう、17歳の女の子だよ。…だから、気づかない。島村卯月が何に悩んでいるのかに。どうして苦しんでいるのかに。」

 

「………………。」

 

「なあ、才能が認められた時っていつだと思う?試合で勝った時か?収入を得た時か?企画が通った時か?そんなもんはそれぞれの価値尺度次第だ。当たり前だよな、そんなこと。」

 

価値尺度なんて人次第。でも、人のそれを理解しないままにしていいわけでもない。

 

「でも、一人の少女はそれがすっごく高かった。他人の輝きを1番強く見てやれるからこそ、それを追いついて乗り越えるのは、その少女には到底無理だった。どんなに走っても、その壁にすら追いつけない。必死に抗っても、むしろその壁は離れていくばかりだ。壁の向こうから友達が応援してくれている。でも、そのせいで彼女たちは歩みを止めざるを得なくされ、彼女たちの行く先は時間が経てば経つほどに黒く染っていく。…なぁ、耐えられると思うか。たった17歳だぞ。そんな年端も行かない少女が、それだけの重圧を受けてなお、1番大切な人達を苦しめている現実、『普通』の女の子に乗り越えられると思うか。」

 

あなたは認められている、なんて言われただけじゃ、信じられない奴だっている。他人が同じように評価を受けていて、尚且つ他人が自分より遥か上を登っているのならば、自分自身の可能性に絶望するのも何ら不思議な話ではない。それは暗に、自分は他人の下位互換だと言われているようなものなのだから。

 

「なんで認めてやらない!なんで赦してやらない!よく頑張ったなって、お前はもう既に、レベルアップを果たしているって、告げてやるだけだろ!それはお前にしかできないだろ!?ずっと競ってきた友人達や、頑張ってるかどうかなんて分からない赤の他人()でもない!一緒に歩んできたお前だけだろ!」

 

まるで天啓でも受けたような、そんな考え方は有りえなかったとでも言いたげな顔する二人。大人には、もう分からないかもしれない。大人が評価されるのは、そういう明確な条件が定められているから。

 

でも子供にはそんなものは無い。評価をするのは大抵身近な大人で、そのガイドラインに沿ってレールを歩けば褒められ、外れれば怒られる。簡単な道のりだ。

でも、アイドルとして、大人の道を一歩踏み出せばそれは全く異なったものとなる。

ファンという、存在さえあやふやな沢山の大人たちが、自分勝手に自分達を評価する。

そこに優劣も正解もなくて、何をすれば正しい道を行けるのかなんて分からない。

それを導くのが、プロデューサーの役目だ。

 

「それで全てがどうにかなると思うなよ…!島村卯月はもうギブアップ寸前だ。きっと誰がなんと言おうと、自分を信じることなんでできない。自分はダメなやつだと、輝けるような存在じゃないと信じているからこそ、他人の声で靡くような簡単な状況になっていない。伝えるんだよ。おまえがどう思ってきたかを。島村卯月が努力してきたことに、意味があったって教えてやるんだよ!…それで初めて、島村卯月はスタートラインに立つことが出来る。そこから階段を駆け上がれるかどうかは、島村卯月次第だ。」

 

「伝えること、ですか…。」

 

「言っておくが笑顔、なんて抽象的に言われたところで理解できない奴だっているんだ。お前が勝手に理解しているだけで、島村卯月にとってはその答えは逃げているだけにしか聞こえないかもしれない。伝えることを躊躇うなよ。伝えなきゃ、何も始まらまない。伝えて壊れることがあっても、修復することはできる。進まない以上にどうにもならないこともないぜ。」

 

武内は、俺の言葉を噛み締めて、店の机を見つめている。

千川ちひろは、それを辛そうな顔で見ている。

 

「…俺は、これで帰るよ。」

 

俺は自分の分の代金を卓上に置いて、店から出る。

どこまで行っても部外者は部外者。助言はできても解決はできない。

それができるのは、主人公(アイツ)だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、大河。」

 

「お、灯織。」

 

店から出てバイクを取りに行く途中、通りがかりに灯織に会った。

 

「…真乃さんの方は、どうにかなったのか。」

 

「うん。ありがとう。大河のおかげ。真乃は、あんまり前に出て話すタイプじゃないから、ああいう機会を作ってくれて、本音で語れて、良かったと思います。」

 

「俺も一応お前に礼を言っとくよ。体験っていうのは大きなもんだからな。似たような奴が、想いを伝えるのが下手な奴が、同じような悩み抱えてることもある。その解決は経験済みだ。まあまあ楽で助かったぜ。」

 

「…?」

 

意味が理解出ていなさそうに首をかしげる灯織。分かられるのも面倒だ。放っとこ。

 

「ああいや、分かんなくていいよ。分かんないように話してるし。」

 

「…大河はいつも私の知らないところで話を解決させるからモヤモヤします。」

 

「はっはっはー。お前にだけは言われたくねえ。ほれ。乗ってけ。」

 

俺は灯織にヘルメットを投げ渡す。

勿論彼女は取れずに頭にガコンッと当たる。

 

「………………。」

 

「いや、取れろよ…。んな恨めしそうな目で見ても謝らないからな。」

 

「…それはいいですけど、乗ってけ、とは?」

 

「送っていくっていってんだよ。もう夜だぞ。勘付け喪女。」

 

「も、もじょ…?」

 

ゴチャゴチャ面倒なので無理矢理ヘルメットを着けさせ後ろに乗せる。

こいつの家は確か俺の家と逆方向。

確か一駅だか二駅だか隣で、橋を渡らなければいけなかったはずだ。

 

夜の明かりが灯る街並みが、綺麗な川の水面に映り、それを美女を後ろに乗せて眺めながら走る。

これはこれで風情が…あるわけねーだろ灯織だぞ。

 

「大河っ!速い速い止めて止めて無理無理むーりぃー!」

 

「うるせえ!黙ってろマジで事故るぞ!後、腹に手ぇ回して掴まるのはいいから絞めるのを止めろぉ!」

 

絶叫は闇夜に消え、腹痛は朝まで続いた。

 

 

 

 

 






加蓮の誕生日に投稿もコメントも残さない加蓮主役のアイマス小説を書いてる奴がいるってマ?

マジです。



記念日がないと投稿できないんかこの猿ゥ!

猿です。



加蓮…出てないしね…。



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