「お疲れさん。どうだったすか、はづきさん。」
「大変でしたよ~。大河君、どうして私なんかに任せたんですか~?」
俺は病室から直接765プロに帰ることはせずに、色々な店で時間を潰してから事務所に戻った。
丁度、新人組の練習が終わり、全員が家に帰される頃に。
「それに、今日皆初めてのレッスンだったんですよね~?もし大河君がいられないにしたって、他のトレーナーさんに頼んだ方が良かったんじゃ~?」
「だからっすよ。アイツらの綻び、多分俺じゃ見つけられない。綻ぶ前に、俺はどうしたって見つけて、どうにかしちまう。それじゃ、一時的に直してやっただけだ。いつまた罅が入るか分からない。」
「だから全部壊してから罅のないよう取り戻す…ですか~?面倒くさいことしますね~。自分の実力に思い悩むのではなく、自信を持ってなお、そんなやり方をするなんて~。大河君らしくないですね。直せるなら、何度でも直せばいいのに。」
「…そうしてやれるなら、俺もそうしてやるけどな。」
「まあ、他のプロダクションの経営方針に口を出したりはしませんよ。私は所詮事務員ですから~。それより、あんなに空気の重い場所でトレーナーさせたんですから、ちゃんと報酬は払ってもらいますよ?」
「マッサージと、283への貸し、でしたっけ?別に283プロに何かすることは構わないっすけど、765プロ優先で動かせてもらいますよ?」
「それでいいですよ~。私、マッサージしてもらえればいいですし、その条件はプロデューサーさんが付け足しただけなので~。」
「…そういや、283のプロデューサーには会ったことねえな。どんなやつなんすか、そいつ。」
「ふふっ、秘密でーす。」
いつものように、何を考えているのか分からないような顔で、はづきはそのままソファに倒れこんだ。
「…って馬鹿野郎!他所の事務所で寝ようとしてんじゃねえこのクソ事務員!」
まあ、万年睡眠不足事務員が俺程度の騒音で起きる訳が無く。
たまたまサイドカーを付けてきていた自分に、感謝をするしかなくなる事態に陥った。
「そもそも、開いてんのか…?」
一応恩を受けた相手で、しかし家なぞ知ったこっちゃなく、自宅に連れて帰るわけにもいかないため、俺ははづきを連れて283プロにまで来ていた。
283プロに着くと、一応電気はついていて、誰かはいるようだった。
というか誰かいないんじゃ困る。はづきの家は知らないし、流石に事務所に捨てて帰る訳にも行かない。
サイドカーからはづきを背負って、283プロの階段を上る。
扉を開けて中に入ると、ソファに座った茶髪の女性が、俺を驚いた顔で迎えた。
「あ…えーっと…。」
「あー…。俺は怪しいヤツじゃなくてですねー…。」
そういえば、完全に失念していたが、一般人はアイドル事務所に入ることなど普通は許されない。765と346に入り慣れた俺は、そういった一般常識を忘れていた。
ついでに言えば知り合いがいれば大丈夫だろうと思っていたが、283の知り合いは高校生しかいない。今の時間では家に帰されているだろう。
「はづきさんを送ってきた、って言ったら信じてくれます?」
「はづきを…。」
今考えた言い訳では、さすがに納得してはくれない。
はづきはいつも寝ているが、流石にどこでも、とまでは行かない。
道端で倒れ込んだり、運転中に寝たりとかはしない。事件や事故になるような寝方はしない。
だが今は、見た感じ事件だ。
知らない男が、はづきを背負って事務所に押しかけている。
誘拐事件か、脅迫事件か、茶髪の女性もやや緊張した顔つきをしている。
(…今からでも、甘奈を呼ぶか?でもこんな時間に高校生を1人で歩かせるのもなぁ…。アイツ、アイドルなわけだし…。)
「あの…失礼ですけど、お名前伺ってもいいですか?」
「ああ、俺すか?北条大河ですけど。」
「まぁ!」
手を叩いて、急に朗らかな笑顔になる女性。
それはそれで怖い。
「あなたが甜花ちゃん達が話してた大河君ね!さあさあ、座って座って。」
「はぁ…。」
何故かソファに座らされ、暖かいお茶を注がれ、手厚くもてなされる俺。
理由は分からないが、『甜花の言ってた』ということは、なにかあいつらが話したのだろうか。
「まあ、もてなしてくれるのはありがたいんだが、そもそもあんたは誰だよ。どっかで見た事はあるけど、なんか出てこねーや。」
「あっ…ごめんなさいね。名乗りもせずに。私は桑山千雪っていうの。甘奈ちゃんと甜花ちゃんと『ALSTROEMERIA』っていうユニットを組んでます。甘奈ちゃんと甜花ちゃん、知ってるでしょ?」
「なーる…。どっかで見たとは思ったが。またアイドルかよ。で?なんでお茶なんか出したん?俺、はづき置いて帰るつもりだったんだけど?」
「お礼…言いたくて。」
「お礼?俺ら初対面だけど?なんかお礼されるようなことしたっけ?」
「まあ、私が直接してもらったわけじゃないし、私がお礼を言うのも変なことかもしれないんだけど。…でも、言いたくて。甘奈ちゃんと甜花ちゃんを、笑顔にしてくれてありがとうって、伝えたかったの。」
「アイツらを…?そりゃあ、連れだしたりはしたけれど、それは刺激と社会復帰のためで、別にアイツらのためになってたかどうかなんて考えてねえよ。特に甘奈は甜花と一緒だったからよかったけど、283プロでの時間も大切にしたかったんじゃねえのか?」
「でも、甘奈ちゃん、最近元気なかったから。甜花ちゃんも、外に出て、自分の好きなことをやれて、自分に少し自信が持てたみたいで。全部仕掛け人は大河君なんだろうな、って私は思ってるの。大河君って、凄い人だなって。」
「凄いことなんてねえよ。俺は適当に生きて、適当にやりたいことやってるだけだ。それで他人が救えるなら、ラッキーだろ。」
「それが、凄いことだと思うの。100パーセント誰かの為になるのならきっと誰しも行動を起こせると思うわ。だって、成功するなら、それをして得られるメリットの方が多いんだもの。それでも多くの人が踏み出せないのは、失敗して、失うのが怖いからだと思う。それでも前に踏み出すことって、すっごく勇気のいること。」
桑山千雪は、窓の外の月を見つめて呟いた。
「大河君は、凄い子なのね。」
「…それは、多分違うよ。俺が凄いんじゃない。凄いのは、アンタらだよ。失敗するのが怖くない訳ないだろ。怖えよ。いつだってクソ怖ぇ。人の人生を背負う勇気もねぇし、人の夢を抱える強さもねぇ。でも、アンタらはそれでも進むだろうが。アンタらはそれでも止まらないだろうが。人の助けなんか借りなくたって、独りでだって、アンタらは突き進むだろうが。だから俺は手を貸すんだよ。独りで進んで倒れられるくらいなら、二人で進んで共倒れだ。そっちの方が、まだ近くに居られる。ちょっとは怖くなくなるだろ。」
「…甜花ちゃん達が気にいるのも分かるわね。大河君、本当に二人の事考えてあげてる。」
「もう帰ろうぜ。俺は褒められるのが苦手なんだ。照れるからな。」
「ふふ…可愛いところもあるのね。」
そんな冗談を言い合いながらも、千雪さんとついでにはづきを送っていった。
「だから翼!ここのステップはもう少しゆっくりにしてって…!」
「えー?ここはもっと速い動きにした方が見栄えするってー。次の動きにもスムーズに繋がるし。なんで静香ちゃんはゆっくりにしたがるの?」
「それはッ…!」
2回目の合同練習。その雰囲気はハッキリ言って『最悪』の一言に尽きた。
5人が5人とも個々人で練習を積み重ねていて、それが故に一人ずつのダンスや歌声は悪くないのだが、全員で合わせるとなると一切の調和が取れずにバラバラになる。
理由は単純明快で、リーダーの静香はハッキリと分かっていて、でもそれを指摘できない。
(やっぱり、こうなったか…。)
翼と、他メンバーとの、技術差。
元よりオーディションからダンスはトップクラスだったらしく、ダンスだけで言うならば新人クラスははるかに凌駕している、とは赤羽根さんの談だが、実際に見れば素人の俺でも分かり易すぎるくらいに格差が表れていた。
それに必死で喰らいつこうとしているのが静香、しかし運動神経からか無理矢理体を動かしている感じが否めない。
瑞希は踊りに関しては完璧とも言えるが、どこか機械的で躍動感が無い。
未来と紬は技術的にも体力的にも付いていくのがやっとと言ったところか。
どこまでもバラバラで、そして翼が一人で突っ走っていく。調和など取れるわけも無い。
…開始からもう一時間も経つ。そろそろ動き時だろう。
「悪い、ちょっと仕事があるから抜けるわ。お前らでレッスンしておいてくれ。」
わざとらしげに溜め息をついてから、それだけ告げてレッスン室から出ていく。
「ちょっと、逸り過ぎじゃない?まだ入ったばかりなのに、そんな育て方でいいの?」
ドアの外では、志保が壁に背を付けて待ち構えていた。
腕を組んで何故だか偉そうに。何処視点なんだ貴様。
「さぁね。んなもんは俺にも分からねぇよ。でもどこかでぶつからなきゃいけないんだ。今ぶつかっておくべきじゃないか?」
「ここで躓いて、立ち上がれなくなったら?」
「この問題は、時間を置けば解決する問題じゃない。上達した後なら、受け止められる問題か?」
「それも…そうね。でも、アイドルに持つ『夢』の像は、きっとそれぞれ違う。あまり一つの方向だけからのアプローチは危険だと思うわよ。」
「わあってるよ。…なんだか、最近のお前は完全に相談役だな。なんだ?ヒロインの座は降りるのか?」
「花嫁修業よ。いいお嫁さんはいい相談役にもなれないといけないもの。」
「…そんなこと真顔で言われても、反応に困るぞ。」
「ごめんなさい。今日はもう、解散にしましょ。」
酷く暗い声をした静香の声によって、ようやく重い雰囲気の練習に一区切りがついた。
しかし誰も達成感や高揚感を見せず、皆が皆重い空気のままへたり込んだ。
その中で一人、静香だけが扉の外へと出ていった。
誰にも話しかけることなく、誰にも頼ることなく、でもどうしようにもどうにもできない。
きっと、5人が5人とも感じている。彼女ではリーダーには力不足だと。
でも、それを言い出すことは誰にもできない。だって、じゃあ自分はリーダーになれるかと考えれば、答えはノーだからだ。寧ろ彼女はよくやっている方だろう。皆の不満を爆発させず、何とか心の内で留めさせている。
それも、きっと限界だろう。翼のフラストレーションもいつ暴発するか分からないし、紬も自分が足を引っ張っていることは理解している。未来も、この現状をどうにもできないことを歯がゆく感じている。
(そして、それはきっと私も―――。でも。)
真壁瑞希は、立ち上がった。
その場で足踏みをすることは、もうしない。
覚悟を持って立ち向かうことは、もう教えてもらったから。
「白石さん。話したいことがあります。」
それから3日後。再びの合同練習の帰り道に、瑞希は紬を呼び止めた。
振り向いた彼女の表情は酷いもので、覚えたてのメイクでは目の下の隈を隠し切れなかったようだ。
「…真壁さん。何の用ですか?私、これから行かなきゃいけないところがあるのです。」
「それは、話をしてからでも遅くないと思います。一度抜けると言ってしまっては、戻ってくる時にきまりが悪いでしょう。」
「ッ…。なんで…。」
「分かります。そんなに思いつめた顔をされたら、尚更。」
驚いたような表情、しかしきっと、誰もが気付けるはずだ。あんなに思いつめたような顔で、失敗する度に覚悟を決めているような顔をされては。
「でも、私が抜けるのが一番だと思います。私以外の皆さんなら、伊吹さんのパフォーマンスに十分ついていけます。ユニットとしての調和を見てもらうなら、その方が―――」
「駄目です。抜けさせません。白石さんを含めたあの5人で、きちんと赤羽根プロデュサーの許可を得て、皆さんと一緒にデビューしましょう。」
「でもッ…。うちが下手やから…!皆に、迷惑かけてしまう…。だったら…!」
白石紬は、下を俯いて告白した。自分の弱さを認めて、でもそれから逃げ出そうとしている。
それを、真壁瑞樹は許さなかった。
「迷惑。そんなもの、好きなだけかけてください。形ができない部分は確認しながら練習しましょう。追い付かない部分は、ゆっくり踊るところから始めましょう。どれだけかかったって構いません。何度だってやりましょう。」
「なんでッ…!うちなんかに、なんでッ…!?」
「白石さん。あなたも、夢を見たのでしょう。進む先に、未来を見たのでしょう。だったら、そう簡単に希望を捨てないでください。眼の下の隈も、体にできた痣も。あなたがたくさん努力したことは分かります。でも、あなたは一番簡単で、一番重要な努力をしていない。」
「…。」
「仲間に、頼ることです。あなたの練習を一番間近で見ていて、そしてあなたの努力の懸命さを知っていて、そして私達ユニットのことを一番知っている。私達に。」
「真壁…さん…。」
「私も、完璧に教えられるとは限りません。ダンスが得意とは言えませんから。でも一人でやるよりは、二人。違いますか?」
「……もう少しだけ、頑張ってみます。」
少女の行く先は、90度変わってレッスンルームへと変わっていた。
「つーことで、今日も合同練習な訳だが…翼、ちょっと来い。他の奴らは練習始めとけ。」
5人ユニットの発表が来週に迫った日曜日、昨日も練習だったこともあり午後からの練習だが、始める前から俺は翼だけを連れて別室に連れていった。
既に翼のレベルは完璧に近い。これ以上の練習は必要ないくらいに。しかしユニット活動ということで他と合わせるレッスンは必要な訳だが、そうなるとむしろ周りのレベルがそこまで達していない。
「つまりは、お前はしばらくレッスンに参加する意義が無いってことだ。」
「えー!?やったー!しなくていいんですねー!?」
「ま、悪いがその代わりに別の事をやってもらう。少なくとも、本気でやっても褒められない今のレッスンよりは楽しいと思うぜ。」
「気づいてたんですかー?だったらもっと早く止めてくださいよー。」
「じゃあそこで質問だ。何故お前は静香に叱られてたと思う?答えは簡単だ。紬が下手だから。ここまではいいな?」
「…まぁ、分かってはいましたけど。でもそれはどうしようもないことじゃないですか。下手だから抜けて、とは言えないですし。」
「だったら教えてやればいいだろ?お前の得意分野なダンスなわけだし。」
「ちゃんと教えましたけど、何度やっても変わらなかったんです。だからもう面倒かなって。」
「そういうことだよ、俺が今言いたかったことは。」
翼の言葉を遮って、俺はある部屋の扉を開けた。
そこはまた別のレッスン室で、しかし壁に大きなスクリーンが下げられており、部屋の真ん中にはプロジェクターがあった。
そして俺はプロジェクターの横に、鞄から出した大量のDVDを置いた。
「お前がどうしてこうにもダンスが上手いのか。それは確かにお前の運動神経もあると思うが、俺の考えは集中力にあると思っている。元からダンスは得意だったが、最近もっと周りと差ができているのを分かってはいるんだろ?そのレベルアップは、鏡の前で踊ることが基本となったから。お前の観察眼は、鏡に映せばミスを見逃さない。だからだ。だから俺はこの部屋を用意した。」
一枚のDVDを束の中から抜き取り、DVDプレイヤーに入れて再生する。
その映像は、5人の集合練習の動画、ダンスレッスンの動画だった。
しかしそれは後ろから撮られていて、記念やプロモーションには見えない動画だった。
「見極めてみろ。お前と他の違いを。何がどう違うのか、何が悪いのか。どう間違っているのか。星井美希なら、それくらいすぐに終わらせるぜ?」
この単語を出すことは、少し卑怯な気がしたが、でも、それで翼は実際に動き出した。
何より、この興味津々な目を見れば、止めることすら引けてしまう。
(あっちのフォローに入るのは、まだ…。いや、でもな。)
俺はその部屋でノートPCを広げ、自分の作業を進めることにした。
「大河君、今、いいかい?」
翼が画面に向かってから約二時間。紙とペンを掴んだ翼は、延々と何か読めない図のような文字のようなものを書き殴り続けていた。
その時に、赤羽根さんが入ってきてそう言った。
俺は翼の方を一瞥するも、どうやら赤羽根さんが入ってきたことにも気付いてない様子。
「…少しだけですよ。」
俺は渋々とパソコンを脇に置き、赤羽根さんに連れられるまま一つの部屋に入った。
そこはあまり使われていない倉庫。俺も存在は知っていたが使ったことなど一度もない。
「で?何の用ですか?」
「君の、アイドルの育て方についてだ。」
「…俺の指導方法に関して、赤羽根さんは口を挟まない。少なくとも来週の五人のライブまではそう。違いましたか?」
「確かにそうだね。でも俺は君のそんなやり方を認めたくはない。」
「…そんなって、どんなですか?」
「自覚がないとは言わせないよ。君は分かってあの5人をそのままにしている。大河君、プロデューサーは時にアイドルに試練を与えることもある。でも、それは放ったらかしにしていいって言うことじゃないんだ!」
赤羽根さんの大声が、狭い倉庫内に響く。
この男は、怒るときも、叱るときも、いつだって諭すようなものだった。
そんな赤羽根さんが、声を荒げて怒鳴っている。これだけ見ても、彼のアイドルに対する想いというものは凄まじいものだと分かるだろう。
でも、だからこそ俺はそれを否定する。
「嫌ですね。」
「なっ…!?大河君、君、本気で…!」
「俺は、試練を与えてるつもりはないですよ。試練を与えられる奴は、自ら手を伸ばしてそれを掴みとった奴です。手すら伸ばしてないアイツらに、試練を与えてやる気なんて毛頭ないです。」
「大河君、君は…。」
「今、あの中で手を伸ばしたのは一人だけ。一人はそれを掴んだだけで、一人はぶら下がった餌に飛びついただけ。もう二人は、或いは駄目かも知れませんね。」
「無責任なことを言うな…!大河君。君は彼女達のプロデューサーなんだ!」
「ああ、俺がプロデューサーだ。手を伸ばす気が無いなら、俺が直接つかんで引きずり上げる。…大人しく手を伸ばしておけば簡単だったんですがね、まぁ。」
「…君のその考え方は分かる。でも…俺には我慢できない!見ていられないんだ!困っているアイドルを、何もせずにただ黙っているだなんて!」
「何とかしますよ。何とかできる。それに赤羽根さんだって対策はしているんでしょう?ビビり過ぎじゃないですか、流石に。」
「…君は、君は―――
「じゃ、俺はもう行きますよ。これ以上は翼に怒られますからね。」
少年が開け放ったドアが閉まるのを、赤羽根はただ見守ることしかできなかった。
―――自信過剰になっている訳ではない。彼は出来ないことを弁えられる人間だ。
―――対処できなくなっている訳ではない。彼は他人に頼ることのできる人間だ。
では、この違和感は、どこから来ている?
「大河!分かった!」
元の部屋に戻り、PCを再び開いてから約40分。
翼が俺には読めない字で書いてあるノートを広げ、自慢気に俺に見せてくる。
「…まずは言語化から始めような。お前、それを一字一句説明できるか?指示語は一切使わず。「ここはこう」じゃあ誰にも伝わらない。部分を指定して、方向を指定して、程度を指定しろ。そこまでできたら持ってこい。俺はアイツらの様子見てくるから。」
「えー?面倒くさいんですけどー!折角ここまで絞り込んだのにー…。」
「あと少しだろ。頑張ってみろ。最後までやり遂げれば、何か見えてくるかもしれないぞ。」
これで一つの問題は解決。試験は来週だが、このペースなら十分に間に合う。
鼻歌にダンスでも付けたくなるような陽気な午後が始まると思えば、そんなわけもなく。
「…思ってたよりも、だいぶ早かったな。」
俺が4人のレッスン室の扉を開けると、分かり易いくらいにひどい雰囲気が漂っていた。
紬は足を抱えて座り込み、未来と瑞希がそれを慰め、静香の姿は無かった。
この状況だけで、何があろうなど聞かずとも分かるというものだ。
「瑞希。静香は、どこまで言葉にした?」
「…何も、です。何も言わずに、走っていってしまいました。」
「なるほどね…。」
なら、全員言葉にせずとも理解はしているわけだ。
問題は対処法と、それの伝え方。
「…瑞希、紬のこと、頼めるか。」
「はい…。何とかしてみせます。だから、プロデューサーは…。」
「わーってるよ。静香のことを一番分かってるのは俺だ。俺が行くしか…。」
一人、脳裏に浮かんだ奴がいたが、しかしそれは一瞬で掻き消えた。
独りでは、どうにもならないことがある。それはたとえどれほど優秀な人間でも。
人に頼ることも知らない、雛鳥ならば尚更。
どこ行くにもアテは無く、壁に背中を預けて足を抱えて、うずくまる。
変われたと思っていた。変われたと信じていた。
でも、結局それは、ダメダメだった私が『普通』になれただけで、まったく特別なんかじゃなくて、何も、できない。
「また、ここにいたのね。2年前から、何も変わってない。」
「…志保。」
「中学二年生の時、大河が静香に話しかける前から、私は静香を知っていたわ。あの時も、あなたは階段の下のスペースで、そうやって蹲って泣いていた。あの時は、静香がイジめられて泣いているなんて思いもしなかったわ。あなたのしている眼は、助けを求めているような眼じゃなかった。」
「………。」
「それはきっと、助けを求めていなかったんじゃなくて、助けを求めても誰も助けてくれると思っていなかったから。…でも、今は違うんじゃない?静香には、友達ができて、仲間ができて、好きな人もできた。頼れる人に、どうして頼らないの?」
「…じゃあ、一体誰に助けを求めればいいって言うの!?誰かにこの問題が解決できるの!?誰かに解決も出来ない無理難題を押し付けて!それで、頼り切って、依存して!…じゃあ。それじゃあ!私は、いつになったら、大河みたいになれるの…!?」
「…静香のいう独り立ちにどういう意図があるのかは知らないけれど、少なくとも、人は
「…無理、だよ。独りで生きるなんて。絶対。」
「じゃあ、どうして誰にも頼らないの?無理だと分かっているのなら、誰かに頼ればいいじゃない。大河に頼れないから何?静香、あなたはこの前の一件で何を学んだって言うの?」
「何を…って、私は何も成長できてない。何も学べなかった。だって、今だって私はどうしたらいいか分からない…!誰かに頼ってその場を凌いで、一体何になるって言うの!?」
「答えが出せないことは、静香がここで蹲っていていい理由にはならないわ。」
「じゃあ…じゃあ!志保が答えを教えてくれるって言うの!?誰も傷つけずに!誰も不幸にならずに!どうにかできるって言うの…!?」
「私にはどうにもできないわ。人間関係なんて門外漢だもの。だから、立ちなさい。答えが出せないなら答えを知っている人に聞けばいいのよ。折角この事務所に入ったんだから、ここである必要性を見いだしなさい。」
志保は私の腕を掴んで無理矢理立たせ、強引に引っ張る。
私は、それにされるがままに連れていかれるだけだった。
「プロデューサー…!静香さんは…!」
「どうやら俺が行く必要はないみたいだ。あいつには優しい優しいプリンス様が付いてるみたいだしな。」
志保が静香を連れていったのを見届けて、俺は声をかけることを諦めてレッスン室に戻った。
紬は既に帰路についたのか、姿は見えなかった。
「紬は一人で帰したのか?」
「やはり、マズかったでしょうか…。一人の時間も大切かと思ったのですが…。」
「判断は良かっただろうな。でも、紬は一人で考えると考え込み過ぎて自滅するタイプだ。支える奴がいる。俺が行ってもいいけど…瑞希、もしできるならお前に―――」
「行ってきます。元はといえば、最年長の私がやるべきことなのですから。」
「悪いな。面倒事ばっかり押しつけちまって。」
「ですが、これはいつかはぶつかる問題です。白石さんにも、最上さんにも、私にも。…任せてもらえるなら、それは私にとってきっと光栄なことなのだと思いますから。」
「無理はすんなよ。お前が潰れなくても、紬は分からない。まだ日が浅すぎてどこまで踏み込めるかなんてさっぱりだからな。」
「…分かっています。でも、行ってきます。」
駆け足で出ていく瑞希の後ろ姿を見送って、そして俺は立ち尽くす未来に向き直った。
「で、だ。俺が、何を言いたいか分かるか?静香も、紬も、他人に任せて、お前に何を言いたいか、分かるか?」
「…。ごめんなさい。私、何にも―――」
「そんなことが聞きたいんじゃねぇよ、俺は。俺はお前の根幹が知りたい。」
俺の言葉に、未来は困惑しながらもキョトンとした顔を浮かべる。
「静香が何を想っているかも、瑞希が何を願っているかも、紬が何に怯えているのかも、翼に何をするべきなのかも、多分俺は分かってる。対策も取ってある。未来だけが、お前の事だけが、俺は分からない。リーダーに手を挙げるだけの勇気があって、でも手を差し伸べることはできなくて。現状を打破しようとしなければならないことは理解していても、でも何もしない。お前が一番理解に遠い。」
「………。」
「何か、あったんだろ?お前みたいなタイプの奴が動けない理由ってのは、大抵経験則によるものが多い。過去に何かやらかして、それがトラウマになってしまうタイプの。」
「…あの、私、実は―――
「いいよ、話さなくて。俺が知りたいのは何が怖いのかと、それを受けてどうしたいのかだけだ。わざわざ辛くなる話なんてしなくていい。…もっとも、お前が誰かに話して、それで何かが救われるってんなら聞いてやるけどよ。それが辛いなら、無理すんな。」
「………」
「紬が、離れていくことが怖いのか?お前が何かアクションを起こすことで、お前が何か言葉をかけることで、アイツがいなくなってしまうのが。」
未来は、言葉を発することなく、ただ頷いた。
(意外だな。未来みたいなタイプはそういうのは度外視して突っ込むタイプだと思ってたが。…それ以上に過去にトラウマがあるって事か?或いはその時の境遇が紬と似たものだった、ってことか…。)
「何とかしてやる…っていう約束はできない。紬がこれからどう動くのかは、俺にも読み切れない。でも、お前が想いを伝える場を用意してやることはしてやる。伝える言葉は、決まってるか?」
今度は、彼女は首を横に振った。
「それだけは。それだけは俺は変わってやれない。俺の言葉が必要なのは、紬じゃない。俺がたとえあいつにどんなに必要性を説いたとしてもそれじゃきっと届かない。届いたとしてもそれは表面上だけだろうし、ステージの上に立てば俺は隣には居てやれない。未来、お前が言葉を届けるんだ。これはお前にしかできないことだ。」
「でも…私、怖いん、です。私が変なこと言って。それで、紬ちゃんが、夢を…。」
「諦めることになったら、か。それは冒涜だぜ、未来。」
「ぼう…とく…?」
「その考え方は、紬に対して失礼って事だよ。お前が何かを言う。それで紬が諦める。それならそこまでだ。アイドルっていう職業は、人の発言一つ二つで歪められるくらいなら、そいつはそもそも器じゃないって事だ。夢を思い描くのは一瞬でも、夢を叶えるまでは長い長い道になる。誹謗中傷だって受けるだろうな。たかが仲間の一言すら受け止められないくらいなら、今諦めた方が紬の為だ。」
「そんな…!」
「で、お前は紬がちょっと言われたくらいで、アイドルを諦めると思っているわけだ。」
「そんなことないです!紬ちゃんは、アイドルになりたいって心の底から思ってて! …あ。」
「んだよ。きちんと分かってるじゃねーか。お前の過去は過去で、紬は紬だ。まだ会って一月も経たない奴に、何かしてやりたいくらいに信頼を置けるなら、そいつは充分すげーやつだろ。だったら、お前らしく笑って、それで言いたいこと言ってやれ。お前らしくあれ。それで何か躓いたら、周りが何とかしてくれる。俺が何とかしてやる。ぶつけたい思い、明日までの宿題だ。」
頭を軽くぽんぽんとしてやれば、彼女はいつものような屈託のない笑顔で元気に返事をした。
「はい!」
「結局、何の解決にもなっていないと思うけどね。」
「ずいぶん厳しいんですね、プロデューサー。」
そうして、未来、静香、翼、紬。瑞希、5人の仮ユニットのテストの日となった。
シアターのライブ会場を借りてのテスト、客席に見物人はちらほら居て、初ライブとしては中々にハードルの高いものと言えるだろう。
その客たちは勿論765プロに所属するアイドルで、先輩で、技術的にも上にいる立場の者だ。ひ弱なメンタルではいつものパフォーマンスを見せられない。
それに、今日使う機器は曲を流すものだけで、歌やダンスの実力が如実に出てしまう。
それに又聞きとはなるが、どうやら色々といざこざもあったようで。
まあ、初めて組むユニットともなれば多少何かが起こることはよくあることだが、それにしても中々に大きな問題だったようだ。
それは北条大河によって解決されたみたいだが、しかし彼女達の技術差は一週間で埋まるようなものではない。
一人の突出した天才は、『合わせる』という考え方を持たない。
「自分で出した課題とは言え、少し無理を言いすぎたかもな…。」
「それが分かってて言い出したくせに。プロデューサー、人が悪いですね。」
「気にしてるんだ、言わないでくれ律子…。」
隣に座るのは審査員の一人として選んだ秋月律子。その他の審査員としては社長に加え、春香、千早、ジュリア、麗華などなど、それぞれが一線級の活躍を見せるアイドル達だ。
まあ交友が深いアイドル達なのが唯一の不安要素だが、彼女達は真面目だ。贔屓目で見ることはしないだろう。
「そう言えば、春香。なにか途中で相談されてたみたいだけど、なんだったんだ?」
「そうですね…。一言で表すのが難しい相談内容だったんですけど、端的に言うんだったら、技術の差、についてです。」
「まあ、それについてか。いいアドバイスはあげられた?」
「うーん…。正直、あんまり自信はないんですけど、その壁は、私も…私達もぶつかったものでしたし。」
春香は横の席で眠る美希の寝顔を愛おしそうに眺めながら呟く。
「でも、思っていることを…。いえ、思って
今回は、彼女達の為に大河君以外の人も立ち上がったようだ。
しかし、それだけではどうにもならない。時間と言うどうしようもない障壁がある以上、少しばかりの助力があっても変えられることなど一掴みだ。
そうして幕が上がり、立ち並ぶ5人の姿が見える。
しかにそこに赤羽根の思い描いていた少女たちの姿は無く。
不安や憧れの表情の差はあれど、誰もこの状況に恐れを抱いていることなどなさそうだ。
「おいおい…。一体どんなマジックを使ったっていうんだ、大河君…。」
ステージが始まり、そして歌が終わり、そして会場には静寂が訪れた。
その一幕は、ジュリアのそれが無ければ拍手すら忘れるような完璧なもので、それが意味することは、赤羽根の思惑は完膚なきまでに敗北したということだけだった。
春日未来は想いを伝えた。
『私は紬ちゃんと一緒がいい!一緒にアイドルやりたい!』
最上静香は気持ちに気付いた。
『誰かに楽しさを伝えるなら、まずは私達が楽しまなくちゃ。』
伊吹翼は喜びを知った。
『そう!ほらね!出来たでしょ!?』
真壁瑞樹は友達になった。
『たとえテストが失敗しようと成功しようと、これで私達はずっと友達です。』
そして、白石紬は諦めなかった。
『もう一度、お願いします!』
テストの結果など言うまでも無く、つつがなく終了し。
そして5人は765プロダクションの正式なアイドルとなった。
時は既に夜遅く、真っ暗な事務所の中にパソコンの光だけが灯っている。
パソコン画面を見つめていた大河が文字を打つ手を止め、大きく背伸びをすると、事務所に照明が付いた。
「こんなくらいところで作業すると、目が悪くなるわよ。」
「お疲れっす、律子の姉御。いやいや、一人でこんな広い部屋の電気使ってたら勿体ないっすよ。」
「あんたの765プロのイメージってどうなってんのよ…。流石にこの程度で経済面が終わったりすると思ってないわよね?」
「え?でもこの事務所アイドルも雇えないくらい貧困だったんじゃないんすか?」
「一体いつの話をしてるのよ…。今は50超のアイドルをプロデュースする大手事務所よ!人数じゃあ他の事業も手掛けている346プロには勝てないけれど、アイドル事務所といえば5本指には入るくらいの有名事務所なのよ?自覚はある?」
「ま、流石に冗談ですよ。でもまあ、節約は大事だね、ってことを実行に移しているだけですって。」
なんていうしょうもない掛け合いを流して、律子の姉御はソファに座った。
別に仕事が残っている訳でもないようで、背もたれに背を預けて肩をもみほぐしている。
「つーか、アンタアイドルでしょうが。こんなところで道草食ってないでさっさと帰って寝たらどうですかい。寝不足はお肌の敵っすよ。」
「今はそんな余裕ないわよ。時期も時期で、しかも新人がデビューするんだから、事務仕事だってたくさん増えるし、それを音無さんと新人ちゃんで捌くのは無理があるわ。私も事務員として仕事をこなしているところよ。」
「そりゃあ、新人のプロデュース係としては万々歳ですわ。頼りになるっすね。」
「…にしても、凄いわね。大河君。ぺーぺーの新人を、たった3ヶ月でデビューさせるなんて。養成所に通っていたわけでもない新人のデビュー時期としては中々早いもんよ。問題を抱えているなら尚更ね。」
「そんな大したことはしてないですよ。アイツらがアイツらなりに頑張った。俺はその手助けをしただけです。」
「それが凄いって言ってんのよ。何せ大河君が高校生になるまでは私がプロデュースしていたし。レッスンしかしていなかったにしても、私にも問題点は見えていたわ。そして、それは私には解決しきれないことも。大胆な解決方法でびっくりしたわ。
「…もしかして赤羽根さんになにか頼まれました?どうやって俺が問題解決したのか聞いてこい、みたいな。」
「…勘の鋭い子ね。その通り、プロデューサーにそれとなく聞いてみてくれないか、って頼まれたわよ。というか、その様子じゃプロデューサーに何か聞かれたとき断ったでしょ。わざわざ自分で聞きに来ないって事は。」
「まあ、そりゃ身内とは言え出世が絡めばライバルですからね。教えてやる義理は無いって言うか。」
「そこをなんとか、ってお願いしたら?」
「他言無用でいいならって返しますよ。律子の姉御にはいろいろ世話になってますからね。」
「それはプロデューサーにも当てはまることじゃないのかしら?」
「俺はプロデューサーっていう職業が大っ嫌いなもんで。赤羽根さんにはその職業を恨んでもらってください。」
「大河君もプロデューサーでしょうに…。まあ、黙っているって約束すれば聞けるわけね。なら聞きたいわ。どうして紬をセンターに置いたのか。どうして翼があそこまで人に教えられるようになっているのか。どうやって、あそこまで崩れたユニットが復活したのか。」
「…見てたんすか。趣味の悪いこった。」
「プロデューサーにお願いされてたのよ!私の趣味みたいに言わないで!大河君は新人だから、どうしようもなくなりそうだったら助けてやってくれって。絶対プロデューサーには頼らないからって。…そう言われていただけだからね!」
「まあそりゃそうでしょうけど。赤羽根さんのことですから保険かけてるのは分かってましたし。で?なんでしたっけ?紬をセンターに置いた理由?そんなん紬が下手くそだからっすよ。1週間という限られた期間の中での話としては頭がおかしいくらいには上達しましたけど、そのレベルの練習をユニットのメンツはやっているわけですし、上達速度は周りの方が上ですし。だからこそセンター。片側に紬を置けば対称側の人間との差が目に見えるようになる。だから比較対象のいないセンターかつ技術差が割れないように後ろに置いて歌メインで張らせた。それだけですよ。」
「なるほど…って納得がいく話じゃあないわね。よくもまあ、プロデュース業を始めて一ヶ月でそんな思い切ったことをできるわね…。」
「この方法も、ギリで採用したその場凌ぎの案ですけどね。翼の対称におけるレベルまで静香がダンスを仕上げたからこの無茶苦茶な方法を採用したんすよ。翼が理論を手に入れただけであそこまで自分に取り入れることができるとは思っていなかったですけど。どうやら静香は理論派だった、ってことでしょうけど。」
「それも、気になるところね。翼が静香にダンスを教えているところ、私もチラッと見たけど、あんなに丁寧に人に教えられるような子じゃなかった。確かに翼のダンス技術が飛びぬけているのは認めるけど、説明するのは壊滅的に下手だったわ。完全に感覚だけでダンスをやっているタイプで、あの子が人にダンスを教えられるとは思えないけど?」
「翼はダンスを教えていたわけじゃないっすよ。アイツには自分のダンスの動きを見せて、完全な位置を覚えさせた。指の動き、腰の捻り具合、膝の使い方。それを静香と紬に徹底的に指導させた。それだけっすよ。静香と紬が努力したから仕上げきれたってことで。俺が特に何かをしたわけじゃない。」
「そう?私は十分すごいことだって思うわよ?思いつくことはいつだって天才の特権で、採用することはいつだってリーダーの証よ。誰にでもやろうと思えばできることだからこそ、誰にもそう簡単にはできない。ファーストペンギンっていうのは、若い子にしかできないのかもね。」
「俺を持ち上げたって無駄ですよ。俺が伸びてどうこうなる話じゃない。俺がしてやれることなんて、アイツらを支えてやることくらいっすから。それしかしてやれないからこそ、できることは何だってしてやる、それだけですよ。」
「そう。…次の仕事は決めてるの?プロデュサーからはこのテストに合格したら、ある程度自由にやらせてもらえるって言うのは聞いていたけど?」
「当初の予定通り、あの5人を引き続きプロデュースしていくつもりですよ。赤羽根さんも余裕ができるまでは5人を集中的に支援してくれって言ってましたし、今の俺がこれ以上抱えられるのかも判別付かないですし。取り敢えずあの5人をユニットとして形にしていく、当面はそうさせてもらおうと思ってます。」
「5人組のユニットねぇ…。まあ大河君のことだから心配はないと思うけど、人数が多いユニットは色々問題にぶつかることが多いわ。助けが必要だったら、ちゃんと言うのよ。」
「ホント、頼りになる姉御っすねぇ。」
そうして、彼らにとって長い長い二週間が終わった。