加蓮Be!   作:煮卵9

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Grow up with (no) me

 

 

 

「断るやつもいるとは思ったがな。まさかお前らとは。」

 

翌日。一人ずつから答えを聞き、それぞれの答えを受け取った後、少女達は自分のためのレッスンに励みに行った。

未来は、すでに出来上がっている楽曲を聞きに、音無さんのところへ。

紬は、演劇の経験がある他のアイドルに話を聞きに。

静香と志保は、それぞれ別のトレーナーにボーカルレッスンをしに。

 

そして仕事を断った翼と瑞希は、俺のデスク前のソファに背中を預け、それぞれ思い思いの行動をしていた。

 

断るなら、志保か紬だと思っていた。

自分には過ぎた舞台だと、そう断るかもとは思っていた。

 

「断った理由、聞いてもいいか。」

 

「え?何の話?」

 

「仕事の話だよ。翼、お前の中ではデカい舞台で踊れるチャンスだったはずだろ。」

 

「えーだってその仕事。バックダンサーじゃないですか。私、手加減するの好きじゃないんです。」

 

そのやる気のない言葉の内に、間違いなく自分は頭ひとつ抜けているという自負と、ボーカルを食い潰すという未来が見えているという思いが、受けて取れた。

 

「それに私、今歌いたい気分なんです。今のままじゃ、誰かに歌を教えられないから。大河が教えてくれた、人に教えること。案外、楽しかったから。だから歌の仕事取ってきてください〜。」

 

首をソファの上に持たれさせ、翼は再びスマホで見ていた前回のライブ映像を再生する。

話は終わり、と言いたいのだろう。

 

「瑞希。お前はどうしてだ。アンドロイド役とはいえ、感情の機微を表現する仕事だ。受ければその幅も広がる。お前にとっては絶好のチャンスだと思ったが?」

 

「私は…そうですね。誰かを支える、サポートすることに楽しさを覚えました。誰かのできないことを、私が代わりにして、私ができないことを、誰かが支えてくれる。そういうチームワークというものに、憧れを覚えました。」

 

「なら、むしろ受けるべきだったろ。現場で求められるのはそういう技術のはずだ。」

 

「私が支えたいのは、会ったこともない演者さん達では無いですから。」

 

瑞希は机の上のコップを手に取り、中を飲み干す。

問答は終わりだと。私の決定は揺るがないぞ。という意思表示らしい。

話の終わり際くらい、口で言えよとは言わなかったが。

 

「…そしたら、お前らどうすかっね。他の奴らと同じように仕事をやりつつでも、多少時間は空いちまう。他の仕事はユニットごとだから三人ずつ固まって準備する必要があるし、空いた時間のレッスンって言っても何の練習をするかっていうことになるし…。適当に軽めの仕事でも―――」

 

「タイガ!シズカ貸してくれ!」

 

真面目な相談をしていた空気をぶち壊し、開け放たれた扉から顔を出したのは、勿論知り合いである。

 

「ジュリア。いい加減に学習しろ。どんなに勢いよく扉を開けても俺はYesとは言わないし、どんなにお前が笑顔でも静香は貸せない。」

 

「はぁ!?なんでだよタイガ!ライブまではそのレッスンがあるって我慢し続けてきたのに、ライブが終わってもその返事かよ!」

 

「だからさっきも言っただろうが!静香は次の仕事のために調整中で、お前のライブに貸せるほど暇じゃねぇんだよ!」

 

「それじゃ困るんだよタイガ!ライブの時間、シズカがいる前提で動かし始めてるんだから!」

 

「了承を取ってから話を進めろボケ!」

 

「うるさ~い!何の話ですか?」

 

頭の上で交わされる口喧嘩に一切気に止めることもなく小説を読み続けていた瑞希はともかく、イヤホンを貫通する大声を出していた二人に、翼はイヤホンを外して尋ねる。

 

「…ツバサか。なぁタイガ、ツバサとミズキは今暇なのか?」

 

「あぁ?まあそうだな。暫くはユニットごとの仕事と、レッスンくらいしか。」

 

「じゃあ、二人をシズカの代わりに借りてっていいか?どの道人員はいる。新人って言っても、サブボーカルくらいならできるだろ?」

 

「いやで~す。お断りしま〜す。」

 

「は?ツバサ、もう一度言ってくれるか?」

 

「伊吹さんは、嫌と言ってましたよ。ジュリアさん。」

 

「アタシはミズキじゃなくてツバサに聞いたんだ。アタシのライブが足掛かりになると胸を張って言える程じゃない。でも、新人で仕事がない状態なら、多少の好き嫌いで断っていい世界じゃないんだ。それが、アイドルっていうものだ、ツバサ。」

 

ピリついた空気。ジュリアはきっと生意気な新人を諌めるくらいの気持ちだろうが、先に逆鱗に触れたのはジュリア。俺が窘める必要も無いだろう。

 

「もしかしてジュリア先輩、私がダンスじゃない仕事を受けたくないって意味で断ったと思ってます?」

 

「違うのか?だったら、なんで―――」

 

「ジュリア先輩、今、静香ちゃんの代わりって言いましたよね。私が静香ちゃんの、代わり?まるで、私が静香ちゃんより下で、静香ちゃんが居ないからしょうがなく、みたいに言いませんでした?」

 

立ち上がった翼は、正面からジュリアを見据える。

その目は、笑ってもいなかった。怒ってもいなかった。どこか感情さえ失っているように見えるその目は、しかし目を逸らせない圧力を放っていた。

 

「私は静香ちゃんの代わりじゃない。伊吹翼。一人の、アイドル。静香ちゃんが欲しいなら他を当たって下さい。私を代役としてしか必要としてない舞台に立つつもりはないですから。」

 

飲んでいた紙パックをゴミ箱に捨て、ジュリアを一瞥して部屋を出ようとする翼に、俺は後ろから待ったをかける。

 

「待てボケ翼。ちょうどいいだろ。歌の仕事だ。伊吹翼を見せてこい。今回は、ブレーキなしで突っ込んでいいぞ。ジュリア、今のはお前が悪い。責任とって持ってけ。瑞希、支えてこい。今回のじゃじゃ馬はワケが違うぞ。」

 

「その言葉を待ってたよ、大河。本気、出していいんだよね?」

 

「その代わり仕事はダンスがメインじゃない。やれるならやってみろ。…まさか、昨日のが限界ってわけじゃねえだろうな。」

 

「勿論!」

 

目の前でトントン拍子に進む話。了承したわけでもない当人が待ったをかけるのは当然のことと、ジュリアが声を上げる。

 

「おい!待ってくれよタイガ!確かに実力を知らないままに侮ったのは悪かったけど、まだ一緒にやると決めたわけじゃない!」

 

「一遍歌わしてみろ。言いたいことはその後で聞いてやる。」

 

「…タイガがそう言うなら。でも、あんまりな出来だったら追い返すからな。」

 

「誰に言ってるんですか?ジュリア先輩?」

 

視線をぶつけながら部屋を出ていく二人。

扉が閉じられたタイミングで、瑞希も手にしていた本を閉じた。

 

「いけるか、瑞希。思ってたより翼、暴れそうだけど。」

 

「絶対はないですから。確約はできません。ですが、仲間と紡いだ時間を誤魔化すことは、絆の否定にほかなりません。」

 

「…なんか変な本でも読んだか?言い回しが分かりにくいぞ。」

 

「では、簡潔に行きましょう。結果で語りますので、まあ、期待はしていて頂けると嬉しいです。」

 

少女は小さな会釈に笑みを浮かべて、部屋を出ていく。

 

少女達は、成長した。

俺がいないことで、頼れる人間を失ったことで、背負うものも、覚悟も、より深まったのだろう。

それは嬉しいことで、しかし同時に、その成長が見られなかったことを、少し寂しくも思う。

 

(まあ、構わねえさ。)

 

彼女達の成長は、まだ始まったばかり。

続く彼女らの躍進を見据えられるだけ、幸せと言えよう。

 

 

 

 

 

 

翌日から、本格的な彼女達のレッスンが始まった。

それと同時に、俺にも圧倒的量の仕事が降り掛かってきた。

受け持つアイドルの人数は変わっていない。

そろそろ増やしても良いとも相談はしていたが、波が落ち着くまではそれも無理かもしれないとさえ思うほどだった。

 

大半のウェイトを占めているのは、移動と仕事の拒否の連絡。

移動に関しては、それぞれが別の場所で活動を始めるだけに仕方の無いこと。

紬の演劇に関してはまだ台本を渡された状態だが、既に現場入りしている。現場に慣れるためと、空気感を掴むため。

流石に初日から問題を起こされても堪らないので、俺は紬に付いている。

 

そして未来。彼女は曲の練習をするだけだが、作詞家に熱が入りすぎていて、自らレッスンルームを取り、自前でボーカルトレーナーを用意し、自分の希望の歌い方を伝授している。765のレッスン室を使ってくれた方がこちらも移動が楽で助かったのだが、既にやる気十分の作詞家にケチをつけるわけにもいかず、そのレッスンルームにも出向いて挨拶をして来た。

 

翼と瑞希は765でのユニットレッスン。ジュリアから連絡は来ていないが、拒絶されるような実力でもない。ここは問題が起きなければ放置していても大丈夫だろう。瑞希を出したのはその為だ。問題も起きないと言って過言では無い。

 

そして、静香と志保。期せずして対決という形になってしまった二人。元々赤羽根さん担当だったということで、志保は赤羽根さんが担当している。そちらに気を割く必要はない。

問題は、静香の方。

彼女にとって、一人での仕事は初めて。

勿論未来も紬もそれは同じだか、静香の場合、いつも頼ってきていた親友がライバル。

相談できる存在が居ない中で、やり抜く必要がある。

俺も他の仕事を見なければならない。ずっと横にはいてやれない。

 

その時思い出されたのは、北沢陸の顔。

 

(…いくらアイツが友達少ないからと言って、ゼロではないだろうし、最悪家族に相談もできるだろ。確かアイツ、()がいるって言ってたしな。)

 

「おっと。」

 

スマートフォンが振動し、新着メールが来たことを知らせる。

 

そんなことを気にしている場合では無い。

まずは、返信しても返信しても減らない、仕事のメールを片付けなければ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて。久しぶりだな。志保と一緒に動くのは。」

 

「そうですね。」

 

赤羽根の運転する社用車の後部座席で、窓枠に肩肘をつきながら、北沢志保はそう答えた。

今回の仕事、静香と志保は同事務所とはいえライバルになったわけで、流石に勝敗をつけるオーディション形式で共に行動するのはどうかと言う話があがり、ユニットのために借り受けられていた志保を赤羽根が担当するということで話が着いた。

 

「気のない返事だな。やっぱり大河君の方がよかったかい?」

 

「ええまあ、それは。」

 

「…あんまりストレートに言われるとくるから、できればオブラートに包んでもらえると助かるよ。」

 

「プロデューサーのこと、信頼してないわけじゃないですよ。むしろ手腕に関しては大河よりも安心できます。でも、大河の方が気楽ですし、それに…。」

 

「大河君のこと、好きなのか。」

 

「はい。」

 

「…意外だな。そういう素振りを見せるタイプじゃないと思ってたよ。」

 

「まぁ、告白する前に振られたので一々気にするだけ馬鹿馬鹿しいかなって。ひた隠しにするほどのことでもないですし。」

 

「じゃ、今回無事に一位を勝ち取って、格好いいところ見せないとだ。」

 

「勿論…そのつもりですよ。」

 

先程までの抑揚のない返事とは違い、最後の一言には殺した感情がみてとれた。

無理に感情を押し殺したような、そんな言葉の詰まり方だ。

 

「志保。はっきり言うよ。今回のオーディション、全メンバーが開示されてない以上、明確な指標を出すことは難しいけれど、現時点で一番の強敵は、765プロダクション所属、最上静香だ。そしてもう一つ付け加えるとすれば、今の志保の歌じゃ、静香には敵わない。」

 

「…随分はっきりと言うんですね。」

 

「ぼかしてあげた方が嬉しかったかい?」

 

「いえ…現実を見ない限り、理想は越えられませんから。それに、単純な力比べだけで、アイドルは語れません。」

 

「その想いは大いに結構。少なくとも前のライブは、ストロベリーポップムーンにEScapeは劣っていなかった。でも、オーディションじゃそうはいかない。あるもので戦った君達の戦い方は素晴らしいとも思ったけど、今回君を評価するのは審査員で、ファンじゃない。彼らが細かい工夫を得点としてくれるかは、分からない。」

 

「でも、ないものはないので。…増やしますよ、あるもの。時間はあんまりないですけど、できることをやらないのは性にあわないので。」

 

「そうかい。じゃ、俺もできることくらいはしておかないとな。」

 

赤羽根はスマートフォンを取り出し、下書きにあったメールを取り出す。

文書におかしな点がないかを確認し、送信ボタンを押した。

 

「…では、一つできることをお願いしてもいいですか?」

 

「なんだ?志保から頼み事なんて珍しいな。」

 

「律子さんが…もし彼女が悩んでいるようでしたら、手助けしてあげて欲しいんです。」

 

「律子が?何か悩んでいるのか?」

 

「確実ではないんですが、ライブ終わりの律子さんは少し元気がないように見えました。私達の前に出さないようにして、ですけど。」

 

「理由に何か思い当たる点は?」

 

「こんなこと言うと、失礼かもしれないんですけど。何もできなかったから。自分しかそれは出来ないと息巻いていたのに、それは自分じゃなくても良かったんだって。そう思ってるから、かも知れません。」

 

「EScapeにとって、律子は不要だったってことか?」

 

「いえ、そんな事ありません。結局、最後に私達に答えを授けてくれたのは奏多さんでしたけど、律子さんが居なければそこに立つことさえ私達にはできなかった。場所をとって、トレーナーに依頼して、ライブまで練習をすることは、当然のように見えてプロデューサーがいないとできない事で。壁を破ってくれる存在が私達には必要でしたけど、道を用意してくれる人がいなければ、壁にすら辿り着けない。当然のことです。律子さんには、頭が上がりません。」

 

「そこまで分かっているなら、自分で言ったらいいじゃないか。なんでわざわざ俺を通すんだ?」

 

「身の程は弁えています。ただの子供の身で、そこまで踏み込むのは大河くらいです。そういうことは自分より経験が深い人が言ってこそですから。私は、何も知りませんから。せめて、もっと世界を知ってからじゃないと。」

 

「だから受けたのかい?静香と競って、千早と戦う、この仕事を。」

 

「それもありますけど。…静香に言わないでくれます?これから言うこと。」

 

「…聞かれたくないのか?話すなって言うなら話さないし、無理に聞くつもりないよ。」

 

「負けたくないんです。静香にだけは。ずっと私の後ろに居て、私が手を引いて。その関係は私にとっては歪な心地良さを与えてくれていましたけど、静香は足を踏み出して、私の隣に立った。それは歓迎すべきことで、成長を祝うべきよいことで。でも…それ以上は行かせない。私が先輩で、私がアイドルとして上で、それを示したい。恋敵としても、友達としても、一人の人間としても、まだ追い越されるには早いんです。」

 

「負けたくない、か。」

 

「才能の一言で諦められないんです。静香にはあるし、私にはないけど、それでも負けない、負けられない。私が私のプライドを誇るために、絶対に、勝ちます。」

 

才能、それは今何より赤羽根が感じていること。

頼れる仲間は、時として同じ目標を競い合うライバルになり得る。

 

(俺もまだ、負ける訳にはいかないな…。)

 

「志保、今日はこの後予定あるか?」

 

「この後は事務所に戻って少し歌の練習をしてから帰ろうと思ってましたけど…なんですか?」

 

「2時間、貸してくれ。最強のボーカルトレーナーを用意した。」

 

赤羽根は、スマートフォンのメールフォルダに届いた、北上麗花からの絵文字だらけのメールを確認し、ハンドルを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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