流星堂の居候 - Unintended hareM - 作:津梨つな
「ヒロにい?どしたの?」
「んー……?ちょっとなぁ……。」
「そっかぁ…。」
カラオケ事件から数日。
色々課題を見つけてしまったあの日以降。
あまりに人生の中で出会うことのなかった問題な事もあって、向き合わずに過ごしていたツケが回ってきていた。
正直なところ、任された仕事に熱中していれば誰とも関わらずに済む。
たまに来るメッセージに返信するくらいだし、面と向かって話しているわけでもないので
文章を送信前に一旦考える時間もある。
そんな環境に甘んじてか、
起床→朝食→香澄と有咲と戯れる→見送る→蔵の整理・検品・管理に熱中する
→有咲帰ってくる→可愛がる→夕食やら何やら→有咲可愛がる→眠る
と、完全に敷地内だけで完結する毎日をルーティンの様に繰り返していたのだ。
が。
そのルーティンが今日、崩れてしまった。
蔵が片付いてしまったのだ。
大凡片付くこともないと高を括っていたあの煩雑とした蔵だったが
べったりになった有咲が片付けを手伝ってくれるという素敵ハプニングにより
綺麗サッパリ、どんどん収納できるぜ!といった具合に片付いて…。
案内されて当初見たあの"工房"のような蔵も居心地がよくて好きだったのだが…。
お陰で夕方からずっとこんな感じだ。
有咲の部屋に入り浸り、胡坐をかいた上に有咲を乗せ、後ろから抱き抱えるようにして撫で繰り回す。
和室独特の雰囲気とも相まって、これが非常に落ち着くのだ。
程よい重さと柔らかさと良い匂いがささくれだった気持ちを落ち着かせ
新しい世界へと…。
「ねえ、ヒロにい?髪ぐっちゃぐちゃなんだけど。」
「んー…もう少し…。」
「もう…。別に、いいけど。」
「…あのさぁ、有咲。」
「なに?」
「俺ってモテそうかな。」
「…頭でも打ったの?」
「……どう思う?」
「モテそうとは思わないけど…好きな人でもできたの…?」
「それはないけど。
…ほら、トラブルって防げるなら未然に防ぐべきじゃん?」
下から意味がわからないといった視線を向けられる。
いきなり言われても何のこっちゃだよな。
「……まぁ、女の人絡みではトラブルになりそうだよね。」
「そう思う?」
「うん。みんなが勘違いしちゃいそうなこと、言ったりやったりするじゃん?
あっ、…私にしたみたいに、急に抱きしめたりとかしてないよね?」
「それは有咲にしかしてないよ。」
「そ。ならいいんだけど。」
抱きしめはしてないが…。
確かに、振り返ってみればナンパ扱いされたりするってことはそう映るってことだよな…。
「俺、どうするべきかな。」
ポロっと。
特に有咲に向けて吐いた言葉ではないのだが、無のトーンと言えるような平坦な声で出てしまった。
「…さぁ、わかんないよ。
よいしょっと。」
急に撫でていた手を退け立ち上がる。
「えっ、…有咲?」
「お風呂入ってくるね。…ずっとくっついてたから汗かいちゃって。」
「お、おう。」
「私にはよくわからないけど、急に変な方向に走ったりしないでね。
ヒロにい、突然変なことしたり言ったりするから、迷ったら私に言ってみて。
行き詰まってどうしようもなくなっても…気が済むまでくっついてあげたり、
話相手になってあげるくらいはしたいからさ。」
ぱたん、と静かに襖を占めて風呂場の方に歩いていく。
「そっ…かぁ…。」
年下、いや、妹に気使わせてちゃだめだよなぁ…。
甘えさせてやらなきゃだってのに…。
「もっとしっかりせんとな。」
問題にも彼女らにも、そして自分の弱点となっている部分にも
立ち向かう時なのかもしれない。
スマホを握り、自室へと向かった。
**
「さて、まずは誤解されてそうな人から見つけていこう。」
現状連絡先を交換した中で
取り敢えず話すだけでなんとなく伝わってくる花音ちゃんは置いておこう。
香澄、彩、日菜……あれ、ほぼ該当しねえ?
順に整理してみよう。
まず香澄。
すごく良い子だし懐いてくれてるなってのは感じる。
でもあれが異性に対しての
それこそ有咲のように、年上のお兄さん的な印象として懐いているだけではないのか。
これはもう少し関わってみる必要があると思われる。
で日菜。
どういう意図かはわからないがやたらと連絡が来たり会いに来たりする。
会いに行こうと思って場所も知らないところから会いに行けるのもどうかと思うが
何かしら見えざる物に引合されるように頻繁に遭遇する。
本人からは特に感情やら想いといった部分は見られないが、この前の「かわいい」の一件
を考えるにまあそういうことなのだろうか。
これも勘違いだと相当恥ずかしい、というかイタい事になり兼ねないので探る必要がある。
そして彩。
恐らく何もないと思われる。
あってカラオケ友達?くらいか。
ただ日菜や花音と繋がりがあるため、今後も繋がりは続きそう。
…と、整理はしてみたものの。
結局何もわかってないんだよな。
当たり前だけど、人の気持ちなんか読めっこない。
結局は直に触れあって、言葉を交わして探らなければいけない。
勿論、もう勘違いさせてしまうような言動は控えたうえで、なるべく傷つけないようにだ。
怖い。
自分で意識していなかった自分の行動に注意して接するという状態。
一体何が正解なのか学ばないまま、答え合わせも正解発表もない試験を受けるようなものだ。
未知とは恐怖なんだな。
ほんの少ししか関わっていない、紗夜さんやこころに対してだって
何かを間違えて接しているのかもしれない。
可能性はいくらでもある。
もしかしたら。
そういった勘違いだとか一方的な思いだとか、経験値が足りないからわからないだけなのでは?
そうだ、そうだよ。
今までその経験がないからこそ未知なんだ。ってことは―――
―――女性経験を積めばいいんじゃないか?
**
「ヒロにい。…おーい、起きないの??」
翌日の朝。
体を揺すられる感覚で意識が浮上する。
「ヒロ…あ、おきた?」
「……おきた。」
「おはよ。」
「……。」
いつかとは逆のこの状況。
そんなに遅くまで寝ちゃってたかな。
「…おきないの?もうお昼だよ。」
「君、学校は?」
「んーん。今日は香澄も居ないから休むことにした。」
「ふーん。」
そうか、だから部屋着のままなのか。
完全に寛ぎモードの時は割とそういうだらしない格好だよな。俺も人の事言えないけど。
ただなんだ、その、自分の体の発育具合は知っておきなさい。
暖かくなったからと言ってそんなタンクトップ一枚じゃ…
「…胸見てるでしょ。」
「…見られて困るなら襟の閉じたものを着なさい。」
「別にヒロにいしか見ないからいい。」
「あそ。……えい。」
「ちょ!」
布団に引きずり込む。
最初こそ驚いたように声を発したものの、すぐに抵抗せず倒れ込む。
「俺まだ眠いんだけど、有咲はどうする?」
「…起こしに来たって言ったでしょ?
ばあちゃんが呼んでたんだよ。仕事の話って。」
「…まじかぁ…。」
「寝るの??」
「いや…仕事の話なら行かないとなぁ…。」
言葉とは裏腹に体は起きそうにない。
有咲を乗せている感覚が心地よすぎて動きたくない。
「………起きたくない気分だなぁ。」
「…また後で寝たらいーじゃん。」
「……そうするかぁ…。」
渋々天国から離れる。
有咲にこの後はどうする予定か聞くと「どうせすることないからヒロにいと一緒にいる」だそうだ。
一緒に居間へと向かう。
「万実さん…?
あっ、すみません、寝坊しました…。」
「いいのよ~。よっぽど疲れてたのねぇ。」
「はい、いえ、まあ。
それであの、仕事の話って…。」
「あぁ、それなんだけど。
実はね、お願いするお仕事がなくなっちゃったでしょ?」
「はい、今は検品と管理だけお手伝いしている状態ですね…。」
「元からお給料をあげたりしているわけではないからあれなんだけど…。
今後の事について、お話したいと思ったのよ。」
そう。
俺がここ流星堂の居候として置いてもらっていた条件が蔵周りの庶務を手伝うことだったのだが。
それが終わったということは、その条件が解除されたということで。
つまり。
ここに居る理由が失くなってしまったことを意味する。
隣の有咲を見る。
顔こそ無表情だったがその右手は音が聞こえそうなほどの力で俺のシャツを握りしめていた。
「あら?…ふふ。どうしたの二人とも、そんな怖い顔して~。」
万実さんはカラカラと笑う。
「別に、仕事が終わったから出て行ってっていう話じゃないのよ?」
「えっ」「へ?」
予想していた答えとは真逆の言葉に間抜けな声が出た。
恐らく有咲も同じ気持ちだったのだろう。
今、二人とも面白い顔してると思うよ。
「ウチからお願いできる仕事がちょっと変わるってだけよ~。
…お店の方、出てみない??」
…まじか。
ついに店員になっちゃったよ。
「もしよかったら、なんだけどねえ。
そうねぇ…。シフト制にして、たまに手伝ってもらえたらいいかしらねぇ。」
なんと、お給金迄発生すると。
遂に職に就けそうな予感…。
「是非!働かせてください!」
断る理由も何一つ見つからないので全力で頭を下げる。
給料に関しては完全に想定外だったが、これで色々自由が増えそうだ。
交流し関係を深め経験を積むという目標にも大いに影響するに違いない。
「それじゃ、明日くらいからお願いするわね~」
万実さんは終始にこにこと柔らかく笑っていた。
アットホームな職場ってこういうのが正しいんだよな、などとどうでもいいことを考えつつ
有咲に耳打ちする。
「これからも一緒に居られるな。」
急に真っ赤になった有咲は「そういうこと言うから勘違いされるんだよ」と小声で言ったのちに
はにかんだ笑顔を見せてくれた。
うん、かわいい。
これからの行動指針・目標も定まり、新たな仕事も与えられ
ここから俺の生活はどう変わっていくのだろうか。
全く見通しの利かない未来ではあるが、隣にこの少女が居てくれるおかげか
何となくどうにかなりそうな気がしていた。
ちょっと仕事が忙しめなので、投稿ペース落ちるかもです。
有咲の可愛さだけを頼りに頑張ってはいます。