流星堂の居候 - Unintended hareM -   作:津梨つな

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5-1:市街 妹増殖中につき

 

 

流星堂の店舗運営に携わるようになって早一ヶ月。

 

 

店内での対応や万実さんの補佐にも慣れを実感しだした頃。

初めての給料日を迎えた。

 

 

「大樹さぁん。はい、これ。」

 

何やらご機嫌そうな万実さん、手には茶封筒。

 

「え?あ!はい、有難く頂戴いたします。」

「うふふ、今回は初めてってことでちょっっとだけ多めに入れておいたから

 身の回りで足りない物にでも充ててくださいな。」

「あ…そんな、すいません、ありがとうございます!」

 

 

どうせ住み込みなんだし、と手渡しで受け取ることになっていたのだが

働いた実績が実感できる気がして個人的に好きだ。

 

 

「いえいえ、それじゃぁ明日からもよろしくお願いしますね。」

 

 

今日は昼までの営業の為午後からはフリーだ。

さて、軍資金も潤ったことだし早速何処かへ行こうか。

 

「…貰ってすぐ使っちまうのもなぁ。」

 

 

使い道について考えてみるが、食費や日用品に困らない居候状態じゃ

身の回りの物が不足することもない。

特に金のかかる趣味があるわけでもないし、こうなると外で使うくらいしかないのだが…。

 

知り合いは全員学生だし、こういう時に有咲はいないし。

 

結局何も思いつかなかったのでまた市街へと出向くのだった。

 

 

 

**

 

 

 

「ほほぉ、これもなかなか…。」

 

ショーウィンドウに飾ってあるマネキンを見やる。

特に買う気がなくとも懐が温かい状態というのは変に落ち着かない。

普段見ないようなものも目に飛び込んでくるし、柄にもなくプレゼントなんかも考えてしまう。

手を額に翳し、日光を嫌うようなポーズのマネキンには

真っ白なワンピース、麦わら帽子、小さな花をあしらったサンダルがセットされている。

…そろそろ夏だもんな。

 

正直、流行りだとかトレンド?だかには全く関心がないのでわからないが

有咲に似合いそうだと思って観察していたのだ。

…買わないけどな。

 

 

「写真撮っとこう。」

 

 

スマホのメモリーに残し。

またふらふらと歩いては何気なく眺める。

どれを見ても有咲に似合いそうだとか、欲しがらないだろうなとか

有咲のことばかり浮かんでしまう。

女の子の事ばかり考えるような自分ではなかったはずなのだが…いや、

女性物ばかり見ているからそうなんだろう、うんきっとそうだ。

 

頭の中の有咲を振り払うように、全く別ジャンルの場所に向かった。

 

以前探索の際に行かなかったゲームセンター。

無駄遣いする気は更々無いが、ちらっと覗いておくくらいは良いだろう。

 

 

 

**

 

 

 

さすがのゲームセンターとあっても、平日の昼過ぎはさほど混んではいない。

そこそこの広さがある上に、筐体のラインナップもよさそうだ。

プリクラやクレーンゲーム、胡散臭い占いのゲームもあるのでデートなんかにもいいだろう。

相手居ねえけど。

 

「……おっ。」

 

俗にいう音ゲー、リズムゲームの筐体の前で、一人の女の子がプレイ中だったのだが。

何ともシュールで目に留まってしまった。

 

外ハネ気味の桃色の髪を腿の辺りまで伸ばし、猫耳のようなヘッドホンを装着したその子は

軽く横揺れでノリつつ目で追えない速さで手を動かしている。

身長は俺の顎くらい…あれ?

足元を見るとプラスチック製の…踏み台。

サイケデリックな色合いで視覚をこれでもかと言わんばかりに刺激してやまないそれは

可愛らしい犬のキャラクターデザイン入りだ。

洗脳でもされそうな不気味な背景に突然ファンシーな色使いの犬。

ミスマッチなことこの上ない。

 

そもそも踏み台込みでこの身長。

 

「…子供か。にしては粋なプレイをしやがる。」

 

 

やがて。

ズゥゥゥゥゥウウンと腹に響くような低音と共に、画面には"congratulation!"の文字。

パーフェクトをやってのけたらしい。

吊り上がった口角のまま振り返った少女と目が合う。

 

 

「すっげえな!なかなか熱い捌きだったぜ!!」

 

少女が満足そうな顔をしていたのもあってつい声をかけてしまう。

 

 

「…何?ずっと見てたってワケ?」

 

瞬間。

スッと真顔になった少女から、何とも生意気そうな声が出る。

 

「知ってるわ。貴方みたいなのを、HENTAIっていうんでしょ?」

「初対面でいきなりHENTAIは無いだろ…。

 ふつーに、随分と慣れた様子でかましてたからな。つい見ちゃってたっていうか。」

「ふーん?まぁ、私のBrilliantなプレイに惹かれるなんて、結構イイ目持ってんじゃない。」

 

 

恰好つけてるだけなのか、ハーフか何かか。

言葉の端々に表われる独特なイントネーションと横文字交じりの話方にふと思う。

しかし…

 

「近くで見るとさらに小さいな…。お嬢さん、小学生か中学生くらいか?」

「なっ…!Ladyに向かって失礼じゃない?

 これでもInternationalschoolの10th gradeよ。貴方達生粋の日本人にわかりやすく言うなら…高校1年ってところかしら?」

 

 

ふーん。

何言ってんだかわかんねえや。

わかんねえけど、癇に障ったのか早口で捲し立てる様子はとても微笑ましく可愛らしい。

最後の急に目線を見降ろしに変えた瞬間なんか、ついニヤけてしまったよ。

 

 

「…ちょっと、何ニヤニヤしてんの?

 馬鹿にしてる?」

「んーん。してないよ。

 高1か…。そりゃあ確かにレディーとして扱わないと失礼だな。」

「…そうよ。わかればいいのよ。」

 

「で、そこなレディーのお名前は?」

「私は…チュチュよ。覚えておきなさい。」

「チュチュ?」

 

 

…ニックネームかペンネームか。

まぁ、なんでもいいか。

 

 

「貴方は?人に名前を訊くってことは、自分も名乗るのがMannerよね?」

「俺は大樹。常盤大樹ってんだ。」

「ヒロキ、ね…。まぁ覚えといてあげるわ。」

 

 

覚えておいてくれるらしい。

 

 

「なぁ、チュチュたん。」

「…なによ。」

「今日、学校は?

 制服着てるけど、ゲーセンなんかに来てていいのか?」

「い、いいのよ別に。私はその、セイセキユウシュウ?だから。」

「お、マジか。

 うちの妹もそうなんだよー。一緒だなぁ。」

「…妹が、いるの?」

「あぁ。まあ、血の繋がりはないし、妹みたいなやつって感じかな…。」

「ふーん…お兄ちゃん、なんだ。」

 

 

そう呟くと目の前の少女は急にもじもじと、崩れていたシャツの襟などを直し始める。

わかるわかる、音ゲーって熱中すると服乱れているのに気づかなかったりするよな。

 

 

「?…チュチュたんは、兄弟とかいないの?」

「…いないわ、一人っ子よ。

 だからその…その妹みたいなやつってのが少し羨ましいわ…。

 あっ、えっと、少しよ!?ちょっとだけだから!」

「へぇ…。まぁ、弟や妹と違って親にねだる訳にもいかないもんなぁ…。」

 

 

ねだるって言い方もどうかとは思うが。

俺も上の兄弟姉妹は居ないので、少し気持ちはわかる。

甘えてみたい感じというか、可愛がられてみたいといった願望。

小さな頃は少なからず抱いていたもんだ。

 

 

「その…妹みたいな子の話、聞かせなさいよ…」

「えぇ?別にいいけど、面白い話じゃないぜ?」

 

 

近くの休憩コーナーで自動販売機のアイスを買い、取り敢えず座れるからいいんじゃね感が伝わってくる年季の入った金属製のベンチに腰掛ける。

有咲について、日頃の様子や日常のやり取りなんかをざっと話す。

何が楽しいんだかわからないが、ニコニコして聞いているところを見るにそれでいいんだろう。

 

 

「やっぱりアイスと言えばCookie creamよね!」

 

 

アイスが旨いだけだったらしい。

それでも、話すのを止めると催促が飛んでくるので続ける。

 

 

 

―――そろそろネタ切れ感が出てきたころ。

 

「なるほどね。……いいじゃない、あなた。」

「はぁ?」

「私のお兄ちゃんになりなさい!」

「」

 

 

急にギャグでもぶっ込んで来たのかと思ったが、その目は真剣だ。

恐らく音ゲー中にノーツを追う目もこんな感じだろう。

 

 

「…いいか?他人は、兄妹には、なれないぞ?」

「それ、Boomerangだから。」

 

うっ。

 

「いやいや、だとしてもほら、いくら何でも君と俺じゃマズいだろほら年齢的にとか…」

「アリサはマズくないの?同じ高1よ?」

 

う"っ。

 

「有咲はほら……家に居候させてもらうっていう前提があったから、どうせ一緒に居るんだしいいかな的な」

「じゃあ私もイソウロウ?するわ。それでいいでしょ?」

「ダメダメ!ってか、居候の俺が許可出せるわけないだろう…」

 

「なら、お兄ちゃんになってくれる位いいじゃない。

 妹として()()()だけでいいんだから。」

 

 

おい。

何故こんなちっちゃい子に論破されそうになってんだ。

…でも言い返す点が見当たらないんだよなぁ…。

 

 

「…まぁ、いいか。因みに、チュチュのメリットってなんだ?

 あ、いや、俺自身嫌とかではないんだけど、目的がわからないっていうか…。」

「Merit?…そんなの、貴方と一緒にいられるって事以外に何かあるの?…お兄ちゃん?」

 

うっ。

 

「……わーったよ。」

「ふふっ。決まりね。……さて、と。」

 

 

頭を抱える俺を尻目に立ち上がるチュチュ。

す、と手を差し出し。

 

 

「帰るわよ?()()()()()?」

 

 

 

人を傷つけないようにと決めた挙句これだ。

望んでもいない妹?がまた増えてしまったし、宛もなく彷徨くもんじゃないな…。

 

 

 

 




今回、好きな子を出したいが為に少し話の流れをおかしくした気がします。
可愛いんですよね。
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