流星堂の居候 - Unintended hareM - 作:津梨つな
手を繋いで街を歩く。
この方向は……はぁ。知り合いに会わなきゃいいけど…。
「…ヒロ、にい?」
…これだよ。
振り返ると、香澄と有咲…と見たことのない女の子がこちらに歩いてくるところだった。
学校帰り、か。
「お、おう…。今帰りか?」
「うん…。」
戸惑いつつ視線は俺の顔よりもずっと下、左手のあたりへ向いている。
チュチュが握っている手へ。
「その…。」
「あの、大樹さん?
そちらは誰ですか??」
モゴモゴと言葉を探している有咲より先に、香澄から純粋な質問が飛んでくる。
「あぁ、この子は」
「初めまして、ね。私はチュチュ。
お兄ちゃん…ヒロキの妹よ!」
うわちゃー。
思わず空いている右手で顔を覆う。
「へー!?大樹さん、妹がいたんですか!!」
「いや、あの」
「うちにも可愛い妹がいるんですよ~。
しっかりした子でー」
だめだ、この子聞いちゃいない。
「うひゃー!ちっちゃぁい!可愛い!!
私、戸山香澄っていいます!よろしくね!チュチュちゃん!!」
「カスミね、覚えたわ。」
「わぁ!手もちっちゃい!!」
…まぁ、あっちで盛り上がってるなら放っとこうか。
それよりもフォローすべきは…
「有咲。」
「…妹、いたの?
髪の色とか、全然似てないけど。」
「えーっと…色々あってだな…。
有咲みたいな、その、妹的な関係?ってのになって…」
「…はぁ?本気で言ってんの?」
「は、はは、だよな、やっぱ変だよな。
……帰ったらゆっくり説明すんよ。」
「ふーん…?」
い、いかん。
久々に怒ってらっしゃる。
それも全く隠そうとせず、察しろ察しろとばかりにオーラを放ってくる。
皮膚がピリつく錯覚すら覚えるほどだ。
「と、ところで、そちらのお嬢さんは?
有咲の友達かい??」
「…チッ」
有咲…
「は、はい!
えとえと、私、牛込りみっていいます…。」
「牛込…また随分と厳つい苗字だな。
俺は、大樹っていうんだ。有咲の……兄貴みたいなもんだと思ってくれりゃいいや。」
「あ、はい…。その、有咲ちゃんから、何となく聞いてますから…。
すごく、べったりだって…。」
有咲ぁ…!
あんまり家でのこと言わないほうがいいぞ。
俺、相当恥ずかしいことしてるからね。
有咲の方を見るが、すげえ冷たい目で睨みつけられただけで言葉一つ発してくれなかった。
「有咲…」
「…………。」
「あーりさー!なんでそんな怖い顔してるのー?
…あ、気づいたんだけど、有咲って大樹さんと喋る時だけ態度違うよね!言葉遣いとか!」
「え?」
君、普段どんな態度で喋ってんの。
「うるせぇ!そんなに違わねーだろー!?
香澄もりみも、ヒロに…大樹さんも、一緒だ一緒!」
!?
そんなやさぐれちゃってまぁ…。
外だとそういうキャラなのか、俺に対しての態度が猫をかぶった状態なのか…。
「でも、有咲ちゃん。さっき
普段はそういう呼び方なの??」
「ち、ちげーし!聞き間違いだろ!?
ほら、もういいだろ!早く、早く帰ろ!」
「あのねりみりん、有咲はね、大樹さんのこと大好きなんだよ。」
「あ"ぁ!?何言ってんだかs」
「だって、迎えに行った時とか大体大樹さんの部屋にいるし
大樹さんに会った時とかもすごく…えっと、でれでれ?してる。」
「ぁ……ぅ……。」
すっかり顔を赤くした有咲が震えながらゆっくりこっちを向く。
「………。」
「………。」
暫し無言で見つめ合う。
「か、香澄ちゃんっ。それ、多分あんまり言っちゃいけないやつ…。」
「えー?だってほんとなんだよー。
あ、りみりんも今度有咲の家行く??有咲の部屋着、すごいの!あとおばあちゃんのご飯も美味しくて…」
ウチの良さを熱弁しているようだが、俺と有咲の耳にはあまり入っていなかった。
「ヒロ、に、い…。ささs、さっきの…全部、その…」
「あ、いや、うん、香澄が言ってるだけだもんな!?別に実際にそういうの、うん、まあなんだ、えっと」
「そ、そうだよ!あんまり、きき、きにしないで」
「ねえ、さっきから何なの?
見てられないんだけど。」
「…ち、チュチュ?」
「アリサ。貴女ね、別に好きだってこと隠す必要ないじゃない?
…
「ッ!……。」
「チュチュ…。」
「私は好きよ?お兄ちゃん、面白いしね。
…そうよ、とっても面白いもの。」
なんだろう。言葉の表面とは裏腹に何か別の意味があるのか、含みのある言い方をする。
表情こそ変わっていないし、付き合いが短すぎて何を考えているか全く読み取れないが
この子は何か普通の子供ではない所まで思考が到達している気がする。
恐らく有咲を深く関わらせるのは、まずい。
確実に面倒なことになる。
「…悪い。取り乱した。
香澄、りみ、帰ろう。」
先程とは打って変わって落ち着いたトーンで言うや否や歩き出す有咲。
その項垂れたような、寂しさを感じさせる背中を二人が追って駆け出す。
「待ってよ!有咲ぁー。
大樹さんおいていくの??ねえってばー。」
「あ!まって香澄ちゃーん。有咲ちゃんもー。
…あ、す、すいません、失礼しますっ。」
駆け出す直前に振り返り挨拶をしていくりみちゃん。
礼儀正しい子だ。
「ヒロキ?いいの?貴方の妹、帰っちゃったわよ?」
「…お前、何か狙ってんのか?」
「狙う?さあね、私はお兄ちゃんが欲しいだけ。ただそれだけよ?」
「……まあそういうことにしといてやる。」
「ええ。それじゃあお兄ちゃん?私の家までEscortして頂けるかしら?」
「…家、どこだよ。」
その後、明らかに場違いとも思える高級マンションの建ち並ぶ一帯まで連れてこられた俺だが、無事何事もなくチュチュを送り届けた。
その辺に住んでいるだけでも引くレベルなのだが、着いたマンションが一つ丸々自宅だというのだから驚きだ。
絶対部屋余ってるだろ。
帰り際も「またね」と、不吉な言葉を残されたが、極力アレには関わりたくない。
なんというか、第六感が告げるのだ。形容できない不気味さがあるぞと。
すっかり暗くなってしまった道を引き返し流星堂へと向かう。
有咲とも話さなきゃいけないし、のんびりしている場合じゃないな。
**
玄関前に辿り着く。
普段であれば夕食も終えている頃だろうか。
気が重い…。
そっと戸をスライドさせ、隙間から中を覗く。
…よし、玄関には誰もいないな。
サッと音を立てないよう靴を脱ぎ、素早く自室へのルートを辿る。
一先ず誰にも会わなかった事に安心しつつ、自室の障子を開ける―――と。
「あ!」
バン!
香澄の姿が見えた気がして勢いよく戸を閉じてしまった。
ごめんつい反射で…。
中からは「え!?ひどいぃ!!」と香澄の反応が聞こえてくる。
どうやら幻覚の類では無いらしい。
「…香澄…ひとり?」
今度は静かに開ける。
「もー!びっくりしましたよー…
…ひとりですけど、勝手に入っちゃって怒ってますか??」
「いや、こっちも驚いただけだよ。
ごめんね?」
ぺたんと畳に女の子座りしている香澄の頭をぐりぐりと撫でてやる。
えへへ、と可愛らしい笑みが漏れる。かわいい。
「別にいいですよぅ。
それで…用事があって待ってたんですけど…有咲には会いました?」
「用事?…帰ってきてからここまで、会わなかったけども。」
「あれぇ??」
「ところで、結構遅い時間だけど帰らなくて平気かい?」
「はい!今日お泊り会なんです!!」
「……お泊り会?」
「あ、ちゃんとおばあちゃんに許可も貰いましたし、ウチもOK出たので!」
待て待て。
すると何か?今晩は同じ屋根の下に美少女が二人も居るってのか?
……楽しい夜になりそうね。
「そっか。まぁ、楽しんでいくといい。
…ところで用事って?」
「えっとー…それは、有咲から言ったほうがいいのかなぁ。」
「有咲から?」
「はい…ちょっと大事なこと?だと思うので。」
なんだろう。嫌いになったとか出て行けってことかな。
でもその内容なら香澄には言わないか。
…香澄も関係している?有咲と香澄の関係性の話か…?
あっ。……二人は付き合っ
「ヒロにい。」
「は、はい!」
急に後ろから声かけんなよ…。
「?そんなに驚くことないでしょ…。」
「いや、まあ、ははは…。
今日、お泊り会するんだって?」
「あー…。香澄から聞いたの?」
「ん。」
「なんか、急遽ね。そういう流れになった。
…嫌だった?」
「いやじゃないよ?友達いっぱいで楽しそうじゃんか。」
「うん…。」
心なしか元気が無いように見える。
いつもはもう少し歯切れの良い返事をする子なのだが。
「………。」
「…有咲?」
何かを言いだそうとしかけてやめる。
あっ、と口を開いてはまた結ぶを繰り返している。
「香澄、これはどういう」
「ヒロにい、晩御飯食べた?」
「えっ?…あぁ、まぁ食べてないけど、そんなに腹減ってな」
「お風呂は?お風呂入ってきたら??」
「…?うん、じゃあ入ってこようかな…?」
何だろう、なかなか喋りださないと思ったら今度は急に捲し立てだしたぞ。
すげえ風呂勧められてるし、俺そんな臭うかな…。
袖の辺りを嗅ぎつつ風呂へと向かうことにする。
ガラ、と脱衣所の扉を開ける。――と。
「…?」
「は?」
そっと閉じる。
俺が極度に疲労していないのであれば、見間違えや幻覚でないのなら、
気のせいだろうか。いやあんなにリアルな気のせいがあるか。
と悶々としていると扉の向こうからは「入ってまぁす」と気の抜けた声が聞こえる。
……誰?
次辺りから少しずつバンド要素が入ってきそうです。
音楽に関わるまで長かった…。