流星堂の居候 - Unintended hareM -   作:津梨つな

14 / 28
嫌いなキャラクターは一人としていません。





5-4:外出 水色逃避行

 

 

「ご主人様!!」

 

 

刹那。

まさに一瞬の出来事で思考が追いつかない。

 

「!?だ、誰だ!?…あ、やわらか」

「おたえ!?」

「……有咲?…私のご主人様と抱き合ってる…はっ!?修羅場…??」

 

 

あ、この子。

さっき脱衣所で会った子だ。髪も濡れてるし肌もほんのり上気していることから察するに

――というか感触からしても、恐らくタオルを体に巻いただけの状態と思われる――

入浴は済ませたみたいだな。

んでこの子がバンドの話に出てきた"おたえ"か。

で俺がご主人様と。…ご主人?

 

 

「ねえまっておたえさん。俺全然ついて行けてないんだけど、ご主人様って何?

 誰かと勘違いしてる?」

「そ、そうだぞおたえ!いきなり抱きつくとか…それはお前、どうなんだ…。」

「???

 だって、結婚したら旦那さんのこと主人っていうでしょ?」

 

 

ケッコン?ケッコンってあの結婚?

 

 

「俺が結婚?…君と?まっさかぁ…」

「ヒロにい!?ヒロにい!結婚したの?ねえ、結婚したの??」

「落ち着け有咲。」

「……?2人とも楽しそう。」

「君のせいでてんやわんやなんやで。」

 

 

説明求む。あと君は服を着てくれ。

そんな俺の視線に込めた気持ちを汲み取ってくれたのか否かはわからないが

説明を始めてくれるおたえ氏。

 

 

「あのね、ご主人様はね。

 さっき私の体を見て、眩しい程綺麗って言ってくれたの。

 …だから、お嫁さんに貰ってもらうしかないなって思って。」

 

 

突っ込みどころが多すぎるよおたえ氏。

そもそも俺は眩しがったわけじゃないし、綺麗とも言っていない。

そりゃ、肌すげえ綺麗だったけど。

 

 

「…ッ!!」

「そんな目で見んなよ。」

 

 

有咲が物凄い顔で睨みつけてくる。

いや俺悪くないよねこの状況。

 

 

「取り敢えずさ、二人とも一回離れてくれないか?

 …今どういう状態かわかるだろ?」

「おたえが離れたら私も離れる。」

「やだ!責任取ってもらうまで離れない!」

 

 

座っている俺の正面には向き合う形で抱きついている有咲。

背中からはタオル一枚のおたえが覆いかぶさるように抱きついている。

乱れに乱れているよな。特に背中がヤバい。何の責任だよ。

 

 

「お前ら…こんなとこ誰かに見られたら…」

 

 

と居間の入り口を見やると、氷のような眼でこちらを見降ろしてくるやつがいた。

 

 

「…なにやってんの。」

「…誰?」

「はっ!沙綾…!」

「沙綾…。」

 

 

背中側から振動が伝わってくる。

この奔放な子が震えているってことか。え、そんな怖い子なのこの沙綾ちゃんは。

……俺、詰んでる?

 

 

「二人とも、離れよっか?」

「は、はい…。」

「わ、わかったよ…。」

「おぉ!めっちゃ素直に離れるじゃん。

 助かったぜ沙あ」

「話しかけないで。あとこっち見ないで気持ち悪い。」

 

 

んー。

有咲、本当に君のバンドにこの子もいるの?

兄は恐らく嫌われてしまったぞ…。

あまりにマジなトーンで罵倒されたが為に、少々傷ついたナイーブな俺だったが

流石に今回の件は弁明させてもらおう。

 

 

「違うんだ沙綾ちゃん。」

「名前呼ばないで。」

「……聞けそこのお前。」

「変態の癖に何その態度?」

「………。」

 

「な、なあ沙綾…。」

「ごめんね、有咲。…私この人無理かも。」

「有咲。…本当にコイツとバンドやんのか?」

「うん…ドラム担当なの。」

「やめとけ。話も聞かん奴はだめだ。」

「うぇぇ?だって、決めるのは香澄だし…」

「そうやって有咲に圧かけるのやめたら?

 私の事が気に入らないのはあなたの勝手、我儘でしょ?」

「圧かけてんじゃねえよ、お前が人の話に聞く気持たねえからだろ。」

「はぁ?私が悪いって訳?

 はいはいすいませんでした。それでも変態行為を働く危ない輩が居たら話も何もないと思うんですが?」

 

 

何だこの子。

 

 

「…そうかよ。

 じゃ、後は女同士仲良くやってくれ。変態は消えるよ。」

「えっ…ヒロにい…。」

「ご主人様…。」

「………さっ、みんな有咲の部屋にいこ?」

 

 

胸糞悪い。

他で会ったことでもあったか?あいつ。

何でここまで言われなきゃならねえんだ。クソッ。

 

心の中で悪態をつきつつ、この後は一体どうしようかと冷静な自分も居て。

ひとまず、あの連中がお泊り会をするなら一晩は外で過ごさなくてはならない。

いや義務とかじゃないけどね。居心地悪いし、有咲あたりが気を遣うのも忍びねえ。

 

外でも適当にぶらつくか、知り合いでもあたってみるか…。

 

 

 

**

 

 

 

「ここで…いいんだよな…?」

 

 

あの後直ぐに家を出て20分くらいか。

数少ない知り合いの中から何故あの子をチョイスしたのかは自分でも謎だが、ある少女と待ち合わせのために近くの公園に来ていた。

あのピンクのアイドルに出会った場所でもあるここは、もうすっかり暗いというのに遊ぶ子供の姿が見て取れる。

カラスが鳴いたら帰ると習わんかったのかね…などと考えていると、

 

 

「大樹!こんなところで会うなんて奇遇ね!!

 大樹も遊びに来たのかしら?」

 

 

子供のうち一人が駆け寄ってきたかと思えば馴れ馴れしく話しかけてきたではないか。

…あ。

 

 

「なんだ、こころか。

 てっきり小学生とか、それくらいの子供の集まりだと思って見てたぞ。」

「もー!あたしもう高校生なのよ??

 それに、あたしが遊んでいた皆だって、小学生なんかじゃないわ!!」

「……へ?」

 

 

こころの指差す先を見てみる。

オレンジ髪の活発そうなちびっ子と少しお姉さんっぽい黒髪の子。

…どうみても楽しそうに燥ぐ子供と保護者のお姉ちゃん(ワンチャンお母さん)にしか見えない。

 

 

「あの二人?」

「ええ!同級生なの!!」

「…あのオレンジの子も?」

「そうよ。はぐみも美咲も、あたしのお友達よ。

 本当はミッシェルも誘ったのだけれど、今日は忙しかったみたい。」

「ミッシェル…?」

 

 

うむ。

どうしてこう俺の周りには頭痛誘発剤みたいな子が度々現れるんだろう。知らん名前がポンポン出てくるよ…。

神様は俺を殺そうとしてるのか、はたまた鎮痛剤を売りつけるための製薬会社のキャンペーンか。

軽い目眩を覚え、眉間を揉みほぐしていると後ろから救いの声がかかる。

 

 

「あ、大樹さん!…ま、待たせちゃいました??」

「…おう、花音ちゃん。

 久しぶりだな。」

「お久しぶり、です…。どうしたんですか?急に会いたくなったって…?」

「実はだな」

「花音!花音も来たのね。…あら?でも今日の集まりには来られないって言ってなかったかしら??」

「うん、ちょっとね…これから大樹さんと用事があるから、それで集まれないってことだったの…。」

 

 

まだ関係が切れていなかったのか。

あの時、無理やり路上ライブさせられて以来、まだ絡まれてるとかかな?

"集まり"とか言ってたし、また無茶言われてるんじゃ…。

 

 

「場所移す?」

「ふぇ?…はい、静かなところ、行きましょうか。」

「あ、いや、別に静かじゃなくていいんだけどさ。

 ここじゃ流石に賑やかすぎるでしょ?」

 

 

流石にあの元気な金髪(こころ)の前で迂闊なことは言えないし。

聞かれてまずいわけではないが、今のこのメンタルで相手したくないだけだ。

 

 

「それじゃあ、行きましょうか?」

「あ、あぁ。」

 

「あれ?花音さん。…彼氏ですか?」

 

 

くそう!折角この場を離れられそうな流れだったのに、いつの間にか近づいていた保護者のお姉さんが話しかけてきた。

しかも花音ちゃんと知り合いなのか。何この集団。

 

 

「あ、美咲ちゃん。

 …ふふっ、そうだよ、彼氏さんなの。」

「へぇ~。花音さんも、隅に置けませんね。

 あ、じゃあこころは私に任せて、行ってください。上手くやりますんで。」

「うん、ありがとう。」

 

 

彼氏と言い切った時にはどうなることかと思ったが、この水色髪のふわふわ少女は彼の集団の操り方を心得ているらしかった。

少し心強く見えた瞬間だったのだが、感心している間にも腕を組まれてしまった。

なるほど、徹底してんな。

 

保護者のお姉さん――美咲ちゃんといったか――に手を振りその場を後にする。

個人的には、こちらの騒ぎに目もくれず一心不乱に砂場を掘り続けているあのオレンジ髪が恐怖だったのはまた別のおはなし。

 

 

 

**

 

 

 

その後腕を離してくれない花音ちゃんとともに商店街へ。

一先ず話をするならと、花音ちゃんの案内でカフェに入ることになった。

 

 

「"羽沢珈琲店"…?」

「はい、よく来るお店なんですよ。

 …カップルで入るなら、ファミレスよりもいいかと思いまして…」

「ん、なるほどね。」

 

 

カランコロン…と軽快な音と共に扉が開き、空調の効いた店内に入る。

入店した時の香りが切り替わる瞬間って結構好きなんだよな。

案内されるまま、窓際の席に向かい合わせで

 

 

「何故隣に座るんだ花音ちゃん。」

「ふぇぇ?だって、カップルですよ?隣にいた方がいちゃいちゃできるじゃないですかぁ。」

「しないよ?」

「ふぇ?」

 

 

何を勘違いしているのか知らないが、そんなつもりは毛頭ない。

ふぇふぇ言っている花音ちゃんはそのままに、俺が向かい側の席へ移動する。

不満そうにこちらを睨んでくるが、顔は可愛らしいのでこれもアリかもしれない。

オーダーを伺いに来た女性の店員さんにアイスコーヒーを二つ注文し、改めて先程の体験について話し始める。

何があったのか、どういう気分なのか、をざっと話せたつもりだ。

途中何度も隣に座っていいかと訊いてきた花音ちゃんだが、基本的には話を聞いてくれていたはずだ。

 

 

「なるほど…。

 やっぱり大樹さん、モテモテです。」

「や、そういう話じゃないんだけどさ…。」

「最後に出てきた…沙綾ちゃん?でしたっけ。」

「うん。」

「ぐっじょぶです。」

「は?」

「だって大樹さん、女の子なら見境なく手を出すところあるから…

 そうやって怒ってくれて、私はすごくうれしいです。」

 

 

あ、人選ミスったかも。

後半やけににこにこしてると思ったらそっち派か君も。

 

 

「あのなぁ…。

 花音ちゃん、…いや、花音ならちゃんと話を聞いてくれると思ったから連絡したんだよ?」

「ふぇ!?」

「さっきの話の中で俺が誰かに手を出したかね?」

「呼び捨て……大樹さんに呼び捨て……。」

 

 

そんなに呼び捨てが響いたかね。

大した意味があったわけじゃなく、元から敬称をつけるのがあんまり好きじゃないだけなんだけど。

 

 

「聞いてる?」

「ふぇぇ…す、すみません…。

 で、でも、そのおたえさんって人の裸、見ちゃったんですよね??」

「見たよ。不可抗力だけど。」

「それで、"ご主人様""責任"っていうワード…。

 …何となく、分かった気がします。」

「ほう?」

「多分、裸を見られたからにはお嫁に貰ってもらうしか…ってやつです。」

 

 

そんな()()は知らんが。

 

 

「え"、何その無茶苦茶な理論。そんな奴いる?」

「私はちょっとわかります。」

「怖」

「ふぇ!?怖くないですよぅ!ちょっとわかるってだけです!ちょっと!」

「…ふーん?…女の子ってみんなそんな感じなの?

 有咲はそういうこと言わないんだけど…。」

「有咲ちゃんの裸…見たんですか?」

「……そこは今どうでもいいだろう。」

 

 

しっかり脳内に焼き付いてるよ。

でもほら、妹だし。

 

 

「そうですか。

 ……何にせよ、もう一度ちゃんと話したほうがいいかもしれませんね。」

「俺は話したいけどさ?弁解もしなくちゃだし。

 …でも、問題はあの沙綾って子だ。」

「そうですね…。大樹さんが女の子にだらしなさすぎるとはいえ、

 そこまで嫌なこと言いますかね…?」

「ほかに何かあるとでも?」

「そこはまぁ…聞いてみないと、ですけど。」

 

 

その可能性については、先程から頭の片隅にはある。

冷静になって見えてきた可能性ではあるんだが。

"男"という存在に偏見かトラウマかでも抱えてんのかなぁ…なんてさ。

 

 

「うん。さんきゅー花音。

 ちょっとばかし冷静になれたお陰で考えも纏まりそうだわ。」

「ふぇっ?私、何の力にもなれてない気がしますけど…。」

「そんなことないよ。

 俺が落ち着くまで一緒に居てくれたじゃんかよ。何だかんだで話も聞いてくれてるしさ。

 …ありがとな。」

「えっあっそんな…。私は…好きでやってることですから…。」

「そうかい。

 …隣、座るか?」

「……いいんですか?」

「お礼に、な。…今日はカップルとして来てるんだろ?」

「ふぇぇ…。し、失礼します…。」

 

 

先程のような勢いはなく、おどおどした様子で隣の席に座る。

ふわっと甘い香りが近づき、鼻腔を擽ると同時に、不安そうな上目遣いが視界に入る。

 

 

「えと……私…。」

「ん。」

「…やっぱり、何でもないです。」

「そうか?言いたいことは我慢せず言っちゃったほうがいいぞ。」

「…じゃあ、腕。」

「腕?」

「組んでいいですか。」

「さっきも組んでたじゃん。別にいいけど。」

「さっきはその…フリだったので。」

「…あぁ、今度は、素直に組みたいと。」

 

 

こくり、と恥ずかしそうに頷く花音。この可愛さよ。断れる筈がなかろう。

…まぁ、沙綾とかいう敵に立ち向かう前に、こういう安らぎに身を委ねるのもいいだろう。

そっと回された腕は"やっぱり女の子なんだ"と再確認させるには充分な程華奢で弱さを感じるものだったが、彼女の横顔は幸せに満ちていた。

 

――win-winってことで、まぁいいか。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。