流星堂の居候 - Unintended hareM - 作:津梨つな
たまに見てみると増えている評価やお気に入り登録、誠にありがとうございます。
とても嬉しく、次の創作意欲に繋がっております。
まだ暫く終わりそうにないので、どうぞ宜しくお願い致します。
「今日は、ありがとう。」
喫茶店を出て、花音を送る。
結局動くに動けず閉店時間まで居座ってしまった。
他にも常連っぽい客が居たのが幸いか。
「い、いえいえ!私こそ、腕組ませてもらった上に奢ってもらっちゃって…
なんかすみません…。」
「いいんだ、
「ふぇぇ…でも…。」
「また、デートしてくれるかな?花音。」
「は、はいぃ。私なんかで…よければ…。」
「ん。じゃあ、また気が向いたら連絡するよ。」
「もう…毎日くれたっていいんですよ?」
「あー…有咲の相手しなきゃいけないしな…
暇だったら連絡するさ。」
「はぁ…そーゆーとこですよ…。」
「ん?」
「なんでもないです。」
花音の家までは前も歩いているので迷わず行ける。
この暗さだと、花音本人は迷って帰れなさそうな予感もあり送ることにしたのだが。
「…これ、帰るまで続くの?」
「おうちに帰るまでがデートなんですよ?」
「そういうもんかなぁ…。」
依然腕は組まれたままだった。
腕を組むことに対しては何とも思わないのだが、その、強く組み過ぎているのか当たるのだ。
決してデカいわけじゃないが小さくもない、といった…いや、言うまい。
「当ててるんですよ?」
「もっと自分を大事にしなさい女の子。」
「相手が大樹さんだからいーんですよー。」
「さいですか…。」
自分に彼女が出来たら、こんな感じなんだろうか。
過去に一人として出来た試しがないので全く以てわからんけど。
隣で今にも鼻歌でも歌いだしそうなほどご機嫌な少女を見る。
「…?なんですか?」
「花音ってさ、彼氏とか居たことあんの…?」
「えっと…過去には、まぁ…。」
モテそうだもんな。
「そっかそっか。そこに関しては俺より先輩なわけだ。」
「ふぇ?…じゃ、じゃあ今大樹さんって」
「お、そろそろつくぞ。」
「………あ、はい…。」
角を曲がり、以前ドラムを運んだあの家の前につく。
が、ついても腕を解こうとしない花音は、ずっと俯いたままだ。何か考え中だろうか。
「…花音?」
「……今日、泊まっていきませんか?」
「はぁ?なんで?」
「ッ……!
き、今日、うちに誰も居ないんです。寂しくって。」
「いや…せめて同性の子に頼もうよ…。」
流石にそれはまずいだろ…倫理的?に。
誰も居ないご実家に泊まるってことは…つまり、あれだ。何も起きないはずないわけで…ってやつ。
いやいや、男の俺がそんなこと考えてちゃ、そういう気満々のやつみたいじゃんか。
ここは、断固として断らねば。
「大樹さんが…いいんです…。」
きゅっ。
腕に組みつく手に力が入る。
あ、俺だめかも。堕とされるかも。
「だ、だめだって!ほら、そういうのは
「私じゃだめですか。」
「へ?」
「カップル…私じゃ……だめ、ですか。」
え?え?ちょちょ、ちょっと待って俺泣かせるようなことした?
見間違えでも何でもなく、花音の目には確かに光る滴が…そしてこの上目遣い。
さながら即死コンボである。女の子に対して免疫がない俺なら尚更。
「…カップル、かぁ…。
取り敢えず、中にはお邪魔しようかな。泊まってくかどうかはこの後話すとして。
ずっと家の前で立ち話ってのもあれでしょ?」
「は、はい!あっ、こ、こちらどうぞ!」
招かれるままに玄関へ。
ドラムを運んだときはこのドア前までだったから、ここからは初めましてになるな。
意を決して、魔窟へと踏み入れる。
―――その姿をじっと観察している視線に気付かないまま。
**
無言のままお邪魔した彼女の部屋は如何にも女の子の部屋といったような様相で、有咲の部屋とも違いまた新鮮なものだった。
まぁ、あっちは和室ということもありあまり
うん、置いてあるぬいぐるみとか、きちんと整理整頓された落ち着きのある感じとか、人柄が表れている気がする。
全体の色調もパステルカラーで統一されており、目にも優しい。
…あ、このぬいぐるみ。
「花音?このクマ、何かのキャラクター?
メッセージくれるときもスタンプでよく使ってるよな。」
「ふぇっ?あ、はい。
ミッシェルって言うんですよ~。この町の商店街のマスコットキャラクターなんです。」
「…町のマスコットがこんな商品化されてんの?すげえ推すじゃん。」
「あはは…。こころちゃんのお家が権利を買い取ったとかで、今全国区で広めようとしているらしいんです。」
どんな家だ。
金持ちか。
「ふーん…。そりゃまたデカい話だ…おっ」
部屋の隅にある、丸くぼんやり光る物体が目に留まる。
「すっげぇ……クラゲだ。」
「あ?見つけちゃいました?
それ、水流のこととかちゃんと勉強してポリプから育ててるんです。
家でも育てられるなんてびっくりですよね?私も最初はびっくりでした。あ、そのポリプなんですけど、冷蔵庫にもいっぱい入ってますし、準備は万端!って感じです。
それにそれに、6色に色が変わる水槽なんか買ってみたりしちゃいまして、そういう備品周りとかも凄く面白いんです。
見てるだけでも癒されますし、ぷにぷにしててとってもかわいいんです。
あ、でもでも、餌とかもやっぱり多少お金はかかっちゃうのでそこはバイトとかで賄ってるんですけど。」
「花音、クラゲ好きなの?」
「好きです!!」
「…ミッシェルとクラゲならどっちが」
「クラゲです。」
「……俺とクラゲなら」
「クラゲです!あっ」
帰るか。
「じゃぁね。そろそろ帰らないと。」
「ふぇっ、ふぇっ、ちがうんです、ちがうんです。」
「…クラゲが好きなんでしょ?」
「大樹さんが大好きなんですっ。あっ…」
「おっ…。」
こうもストレートに言葉にされるとなんだろ…照れる。
有咲には言われなれているせいか、「幸せだなぁ」って思う以外は特にないしね。照れる、なんてリアクションの時期はとうに過ぎ去った。
「…そ、それで、さっきの話なんだけど。」
「は、はい。」
「どうしていきなりカップルとか言い出したわけ?
こころから逃げるための
「そ、それは…あの時は確かにそういう名目で、"彼氏さん"って言っちゃいましたけど…
でも、でもっ、大樹さんが大好きで、お付き合いしたいのは…ずっと前から、本当で…」
「そっかぁ…。」
「嫌、でしょうか…。」
嫌ではない。
これだけ可愛い子だぞ?告白されるなんて、一緒に一度あるかないかって程のビッグイベントだろう。
だが、それだけ素晴らしい状況なだけに、何か裏がありそうで。今までモテなさ過ぎて卑屈になってしまっているのかもしれないが、あまりに甘い話過ぎる。
「ちょっと…考えさせてもらってもいいかな。」
「ッ……!」
「ぅおっ!?」
飛びつくように抱きついてくる。
胸元に顔を埋められ…泣いてる?
「お願いしますっ……私、私…ほんとに大樹さんとずっと一緒に居たいと思ってますっ…!」
「…………。
花音、君が本気で俺の事を好きって言ってくれてるのは伝わったよ。
…凄く嬉しいし、そこなら感じられるだろうけどすげぇドキドキしてる。
だからこそ、な?軽い気持ちで「付き合おう!」なんて言えないなって思ってさ。
しっかり考えて、ちゃんと返事したい。…それじゃ、駄目かな?」
おぉ、我ながら良い事言えたんじゃないか。
考えさせてもらうって初戦がこんな超絶可愛い子ってのがアレだが、まぁ贅沢な体験として糧にさせてもらおう。
何せ今は対女性経験を積むのが大事だからな。
「…ん。」
ポケットに入っているスマホが震える。
誰かからメッセージでも入ったかな?
「ふぇぇ…大樹さぁん……。」
「ちょ、ちょっとごめんな。連絡来ちゃって…。」
鼻をぐすぐすやっている花音を一旦引きはがし、メッセージを確認する。
「有咲…?」
…そっか、流石に心配かけちゃったかな。
…は?
???
そんな急に怒ること?人と遊ぶことなんかよくあったやん?流石にこっちに住む気はねえよ?
…???待て待て待て。
訊きたいことが山ほど浮かぶぞ。
「花音すまん、ちょっと電話かけてきていいか?」
「ふぇぇ…すぐ戻ってきてくれますか…?」
「善処する。」
そう言い残し玄関へ。
有咲に嫌われる…?その不安感から震える手で電話をかける。
1コール…2コール…3コール…
呼び出しの音と自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる気がする。
…6コール…7コール…出た!
有咲なら、電話出たくないってさ。」
嫌な予感がした。
俺のせい、ということもあるのだろうが、恐らくこの電話口の奴が関与しているだろうと俺の直感は主張している。
なんだこいつ。
挑発するような口ぶりに、普段は決して顔を見せることのない感情が静かに浮上する。
通話を終了する。
自分で言うのもアレだが、普段"怒り"の感情が欠如しているんじゃないかと不安になるほど温厚な俺だ。
これだけ敵意を剥き出しにした上、明確に"敵"と定義付けた相手と真っ向から対峙するのは初めてかもしれない。
すぐにでも帰らなければいけない。
伝えるためにも花音の部屋へと向かう。
「花音。」
「大樹…さん??」
「実はな」
「何か、いいお知らせでも…あったんですか?」
「あ?」
「とても…笑ってるように見えるので…。」
笑ってる?
口元、頬と触れてみる。
俺の表情筋は緊張こそしているものの、確かに口角は上がっている。
あ、これあれだ。キレると笑顔になるタイプ。
「まぁ、俺の顔は良いとして。
すまん、やっぱ帰らなきゃいけないや。」
「え……。」
「さっき相談した件でやっぱり揉めそうでな。
有咲が…妹が泣いてる以上、兄貴としては傍に行ってやらんとならんしさ。」
「…また有咲ちゃん、なんですね。
私が泣いていても、有咲ちゃんが泣いてるほうが大変ですもんね。」
「あいや、そういうわけじゃn」
「いいんです!…わかってました、から。」
「花音……。」
「行って…ください……。」
「ッ…!ごめん…ちゃんと返事、するから。」
辛そうな声と同時に上げた顔は、迷子の時とはまた違った涙で濡れた、直視できないほど哀しい表情だった。
胸の痛みのあまり目を逸らしてしまったが、けじめはつける。
返事は必ずすると頭に刻み、部屋を出る。
「ごめんな、花音。」
玄関で振り返るも彼女の姿はない。
また一人の女の子を傷つけてしまった俺は、せめてもの言葉だけをその場に残し、早足気味で松原家を後にした。
シリアスは苦手です。