流星堂の居候 - Unintended hareM - 作:津梨つな
朝。
そうか、もう朝か。
眠ったという感覚はなく、瞬きしたら目の前が朝になった、くらいの感覚を味わっていた。
ぐっすり眠れたと取るべきか、はたまた眠れた気がしないのでまだ眠り続ける必要があると取るべきか…。
振り返ってみると、最近はいつもこんな感じな気がする。
最初に感じたのは確か、あのお泊り会の日の翌朝だったか…。
あの時も、何だか怠さが抜けきっていないような、変な感覚に戸惑った。
まぁ色々ありすぎた一日だったし、体もかなり疲弊していたのかもしれない。
とはいえ、それが
「まずは原因を……と。ふぁああぁぁぁ…。まだ寝るか…。」
確か今日は休みのはず。もう少し、休眠を取らせてもらおう。
起こしかけた体をもう一度布団に倒し、そこで異変に気が付いた。
「……おい、
同じ布団に潜り込み、むにゃむにゃと口を歪ませる妹。
学校は??今何時だ??いや、そもそも何してんの??色々聞きたいことはあるが俺も眠い。
「…まあいいか。」
起きてから聞くとして、取り敢えずもうひと眠り頂く事にした。
「おいで」と眠っている妹に声をかけると、もぞもぞと寄ってくる。
抱き枕にして、再度の眠りへと落ちていくのであった。
**
「で、だ。」
「…うん。」
起きた時にはもう夕暮れ時だった。
だが、二度寝の直前とは明らかに違う点があって、そこについて説教中だ。
「お前さんは、俺を罪人にでもしたいのかい。」
「んーん。」
「そうか。それなら、俺の上から降りなさい。」
「…はい。」
「そして服を着なさい。」
「…えー。」
「えーじゃない。」
流石に驚くだろう。
二度寝から覚めたら、隣で大人しく寝ていたはずの妹が自分の上に下着姿で寝ているんだもの。
何がしたいんだ。
「何がしたいんだ。」
おっと、口からもつい出てしまったぜ。
「なんかね、ぎゅってされて寝ているうちに変な気分になっちゃって…。
暑くなってきたし、脱いだほうが布団気持ちいいからそうしたの。」
「上に乗った理由は。」
「…寝相?」
「そんなんで片付けるかね。」
寝起きでぼーっとしつつも、ごそごそと服を着ていく有咲。
まぁ、部屋着だしそんなにしっかり着込む必要もないのだが。
「……ねえ、ヒロにい。」
「なんだい。」
「前できなかったちゅー、…今しちゃダメかな。」
「今?…でも、お互い寝起きだし…」
「じゃあおはようのちゅーも兼ねて。」
「なるほど、挨拶のキスなら外国じゃ当たり前だもんな。」
「うん。…しよ?」
あぁやめろ。首を傾げるんじゃない。
それは俺から選択肢を奪う行為だぞ。
「…有咲。」
「ん………。」
静かに、そっと。
決して生々しいものではなく、軽く触れるだけのキス。それでも唇同士、
あぁぁ…やってしまった…。ついに、兄妹の一線を越えてしまったのだ俺は…。
「……えへへ。」
あぁだめだ。こんなの好きになっちまう。
「おはよう、だよ?ヒロにい。」
「ぅ…お、おはよう…。」
俺の人生初を捧げた相手は、世界一可愛い妹だった。
**
夕食の後、自室でぼーっと過ごす。
結局あの後は、何だかまともに有咲の顔も見れないまま、いそいそと食事だけして逃げるように自室に飛び込んでしまった。
まさか、あんなに恥ずかしく思うものだったとは。俺は女子か。
い、いかんいかん。思い出したらまた顔が熱く………ん?
「あれ、俺スマホどこやったかな。」
いつも右のポケットに入れて持ち歩いているはずのスマホが無いことに気づいた。
道理で右腿が寂しいわけだ。
飯を食っているときは触らないし、その前に居た場所といえば…
「…部屋、いくか。」
そういえば飯の前に有咲の部屋に行ったんだった。確か、バンドの練習のために本格的なキーボードを買うから一緒に見てとかなんとか…。
…うん。恥ずかしいとはいえ連絡手段は必要だ。と、意を決して取りに向かおうと思ったその時だった。
「ヒロにい、電話だよ。」
「お?」
今まさに向かおうとしていた部屋の主から声をかけられる。
いつの間に部屋に入っていたのかね君。
「さんきゅ。…やっぱ有咲の部屋に置きっぱだったか。
…誰からだ?」
「えっと…………ん!」
質問には答えず、保留になったスマホを突き出してくる。
画面にも電話番号しか表示されていないので誰かわからないが…
…は?あいつが、俺に電話?
あの件以来、顔こそ合わせるものの挨拶一つ交わさなかったってのに、ひと月も経って何だってんだ。
思わず低い声が出てしまったか。
視界の端の有咲がびくっと体を震わせる。
じゃ、切るから。」
会って直接、頭下げたいな…って。」
通話終了っと。
初対面であれだもんな。公共の場で大声の喧嘩とかしたくねえし。
そもそも謂れの無い罵倒とかなら洒落になんねえし。
「……ヒロにい。」
「あぁ、ごめんな。怖かったか?」
「…んーん。沙綾、何て?」
「別に……直接会って謝りたいんだと。断ったけど。」
「えっ…。」
「謝罪求めてるわけじゃねえし、ほら、ウマが合わない奴なんて居て当然だろ?」
「……どうして。」
「ん?」
「…どうして、聞いてあげないの。」
「聞いたところで謝ってもらう気ないし。」
「今ヒロにいがやってること、あの時の沙綾と同じだよ。言い分聞かないで突き放すような言い方で。
…あの後、沙綾凄く落ち込んでさ。暫く、元気もなくなっちゃって。
本当に反省したから、本当に、謝りたいんだと思う。」
「…うっせぇ。」
分かってるさ。つまるところ、これは俺の、子供のような我儘を通しただけだからな。
あの時、面と向かって怒りをぶつけてみてわかった。あいつはただの偏見や差別であの物言いをした訳じゃないって。
…そういえば花音も言ってたっけ。あんな態度を取らせるだけの、それに起因するだけの何かが、過去にあるんじゃないかって。
分かってんだよ。でも、それを聞いたらどうしていいかわからなくて。聞いてしまったら、あの時の俺の行動さえも間違いのような気がして、怖いんだ。
「ヒロにい?会ってあげて?」
「…嫌だ。」
「沙綾の言葉、聞いてあげて?ね?」
「無理だよ。」
「……なんでわかってくれないの。」
「ちっ…。お前もあいつの肩持つのか。バンド仲間だもんな。
そうかよ、じゃあ精々慰めてやったらいいんじゃないかね?仲良しなんだからさ。」
あぁ…やっぱり子供だ俺。
「…わかった。もう、そんなヒロにいなんか嫌い。」
「え」
「部屋にも入ってこないで。ちゃんと沙綾と和解するまで話しかけないで。
…もうちゅーもしないから。」
あぁ、有咲が行ってしまう……。
…クソッ、俺の妹に感謝しろよ沙綾。
別に俺の意思で、会ってやるわけじゃないんだからな。妹に嫌われたくないから、仕方なくだからな。
そう心の中で言い訳しつつ、スマホを手に取った――
**
週末。
万実さんに休みをもらった俺は、市街の、とある店の前に居た。
雑貨屋…のような店だと思うそれは、ごちゃっとしたゴミ捨て場の様な場所であまり居心地のいいものでは無かったが目印としてはそこそこいい。汚くて目立つ。
指定された時間までは…はぁ、ちょっと早く来過ぎたか。
どう時間をつぶしたものかとキョロキョロしていると、面倒なものを見つけた。
それはこちらに気づくと走り寄ってきて…
「ドーン!!」
「ぐっ…。」
止まるということを知らないかのように突っ込んできたのは、
掛け声からするにわざとだな。
「こんなとこで何してんだチュチュたん。」
「ふふん。特に何もしてないわ。」
「なんだ、ぶらついてるだけか。」
「Playspotに行こうか迷っていたら、お兄ちゃんを見つけたのよ。」
「ぷれい…あぁ、ゲーセンか。
俺もそんなに暇じゃないんだ、ほれ、行った行った。」
時間があるといっても前みたいに引っ張りまわされちゃ構わん。
今日ばかりは追い払うことにした。
「ま!失礼ね。Livestockか何かと勘違いしてるんじゃなくて!?
Get irritatedよ!」
「何言ってんだかわかんねえよ。…俺はこれから待ち合わせなの。だから遊んでやれないんだ。」
「待ち合わせ…?お兄ちゃんが??」
「そうだが?」
「…あのカスミって子?変な髪形の。」
「違う。」
「妹さん?」
「いや。」
「またChasing womenってわけ?オサカンね。」
「意味は分からんが悪口だな?それ。」
「……別に、どうこう言う気はないんだけれど、一つ、Admonitionよ。」
スッと目を細めて真剣な表情になる妹その2。
「仲良くするのは良い事だわ。平和ってイイコトだもんね。
…でも、上っ面ばっかり良い人ぶってると、最後に全員が傷つくことになるわ。
これから何をする気なのか知らないけど、程々にしなさい。アナタの中の大事なものを、見失わないようにするのよ。」
「…お前、何を…。」
「わかった?お兄ちゃん。」
「あ…ぉ、おう…。」
「じゃ、これからGloriousなPerformanceを見せつけるために、いつものPlayspotへ行ってくるわね。
またね、お兄ちゃん。」
未だに掴み切れない妹だが、さっきまでの真剣な雰囲気はどこへやら、ゲーセンの入っている建物へと走って行ってしまった。
さっきのは忠告…いや警告、か。
何者なんだ…あいつ。
「ぁ…大樹、さん。」
「あ?」
振り返ると、奴の姿がそこにあった。
俯きがちで、とてもいい表情をしているとは言えない少女の姿。
…そうか、もう待ち合わせの時間になってたか。
「よう、沙綾。」