流星堂の居候 - Unintended hareM -   作:津梨つな

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投稿間隔が空いてしまっているにも関わらず読んでくださっている方、いつもありがとうございます。
評価・感想も大変励みになっております。

このままゆっくりではありますが、完走を目指していきますのでどうぞ生暖かい目で見てやってください。


6-4:山吹家 一旦弛緩

 

 

 

「おたえ、いらっしゃい。」

「うん。遅くなってごめんね沙綾。…ご主人様も。」

「まだそれ言ってんの。」

「うん。ご主人様はご主人様だから。

 …私にとって、たった一人の大事な人。」

 

 

それが謎なんです。

 

 

「それで、おたえ氏は一体何を謝りたいんだ?」

「あ、えっと…。」

「…取り敢えずさ、そんな入り口で立ってないでこっちおいでよ。」

 

 

沙綾が俺の膝をぽんぽんと2度叩く。

…は?ここに来いと?

 

 

「あ、うん!」

 

 

すすすーっと、摺り足+駆け足のような謎の移動方法で近づいたおたえ氏はそれが当然の定位置であるかのように俺の膝の上へ着陸する。

揺れる髪と同時に広がるフローラルな香り。…俺匂いの事ばっか言ってる気がするな。フェチかな。

悪戯っぽく笑みを作り、端正に並んだ白い歯を見せるおたえ氏。

見た目は美人なのに…な。

 

 

「…近いな。」

「ご主人様は、近いと嫌?」

「その呼び方はやめなさいって。」

「あ…そうだった。ヒロさん。」

「ん。」

 

 

器用に体の向きを変え、向かい合うように座り直すおたえ氏。

いやあのこれ、異性とするにはなかなか覚悟のいる体制だと思うんだが…。

 

 

「??…あっ、対面座」

「言わんでいい。」

「ふふっ、仲良しだね。」

 

 

笑ってないで助けてくれ沙綾。君がこんなところに誘導するからこうなっとんのよ。

 

 

「それで?」

「うん。ヒロさんに謝りたいの。

 …いきなり結婚って言って、ごめんなさい。」

「……あぁ、うん。」

「あの場面で喧嘩が起きたのは、答えを急ぎ過ぎちゃった私の責任。

 だから、ずっとずっと謝りたくて…。」

「えーっと…。」

 

 

恐らく論点がずれている。ずれているというか、この子は何か大きな間違いの元動いているような…

 

 

「あのさ、おたえ氏?

 君が結婚だ何だって言いだしたのって何かキッカケとかあったん?

 まさか、一目惚れってことはないだろう?俺、こんなんだし。」

 

 

なんせどこにでもいる普通の量産型を自負しているからな。

見た目だって飽く迄平凡。派手でもなければ特別地味でもない。

格好良くもなければ不細工でもない。そう、願っている。

 

 

「確かにね。大樹さんって、あまり見た目だけで一目惚れとかされるタイプじゃないよね。

 イケメンとかでもないし。」

「う、うむ…。」

 

 

まさか沙綾の方からそんなダメージを撒かれるとは思っていなかった。

お前、さっきちょっぴりいい雰囲気だっただろうにどうして…。

 

 

「一目惚れ?してないよ?

 ただ責任取ってもらおうと思っただけ。」

「…俺が何したってんだよ。」

 

「裸、見たでしょ?」

 

「…………ん?どういうこと?おたえ。」

「だから、私、ヒロさんに何も着てないところを見られたんだ。」

「…………大樹さん?」

「何かな沙綾。」

「どういうこと?」

「…さぁ。」

「どうしてそんなに壁を凝視してるの。私の目を見て、説明してよ。ね?」

「いやーなんというか…」

「???ヒロさん、凄い汗。

 暑い?脱ぐ?」

「脱ぎません。」

 

 

ちょいちょい入ってくるのやめてくれ。話が迷子になる。

それよりも、今は背中に犇々と感じるこの殺気を何とかせねば。

先程迄得かけた好感度が音を立てて削れていく気分だ…。

 

 

「沙綾さん?」

「ん?なあに?」

「その…殺気、しまってくれません?」

「あはははは。そんなもの出してないでしょ?

 もー、大樹さんは面白いこと言うねえ。」

「は、ははははは…。」

「あははははは。」

「ははははははははは!!」

 

 

もうわけわかんねえ。取り敢えずノリで笑っとけ。

 

 

「何笑ってんの?早く説明して。」

「アッハイ」

 

 

怖。

声の低さだけで四肢がもがれるかと思ってしまう程だった。

 

「そ、そもそも、裸を見ようと思って見に行ったわけではなく、あのですね、ンフー、ふ、風呂場に、向かったところですね、

 えと、アノォー、エフン、」

「雑音が多いなぁ。でも、緊張してるヒロさんも可愛いね。いいこいいこ。」

 

 

撫でないで!沙綾の目つきがきつくなるから!!

 

 

「ふーん?でれでれしちゃって…。

 それでなに?お風呂場で脱衣中のおたえに会って、まじまじと目で楽しんじゃったって訳?」

「ち、ちがうってば。ヤバいと思って、すぐに戸を閉めて俺は外に逃げ出したよ。」

「それだけ?」

「う、うん。」

「ふーん……?おたえ、本当?」

 

 

頼む。

 

 

「うん、ほんとうだよ。

 だから責任取ってもらおうと思って。結婚してもらうの。」

「その場合の責任って、猥褻系の罪に該当すると思うけど…。なかなか裸見て結婚ってなくない?ねえ。」

 

 

いや、俺に振られてもさ…。わかんないし。

 

 

「取り敢えず、どうして責任が結婚になるんだ?」

「だって、書いてあったから。」

「…何に?」

「………これ。」

 

 

見せられたのは青いスマホの画面。おたえ氏のものかな。

表示されていたのはどうやらwebページらしいが…。

 

 

「これ…って、」

「あぁ……。」

 

 

隣から覗き込んだ沙綾と目が合う。お互い何となく察したらしい。

 

 

「これ、暇なときに読んでるやつとか?」

「うん、練習疲れた時とか。休み時間とか。

 すっごいドキドキするお話。」

「web小説…か。」

「小説?…これ、ブログだから()()()()()()()()。」

「どういう理由だ。ブログに自作の小説載せる人もいるだろ??」

「えー…。じゃあこれ、作り話?」

「「うん。」」

 

 

どうやら目の前のこの超絶天然美人さんは、誰かのブログ上に公開されているオリジナル小説から様々な知識を得ているようだった。

"裸を見られたからお嫁に貰ってもらわなくてはならない。"これも確かに記述があった。

まぁ、該当箇所を見つけた時には沙綾と二人して頭を抱えたが…。

 

そこから暫くは、おたえ氏のおかしな常識を修正する作業が続く。

勿論、あのとき何があったか、どう思っていたかを沙綾に伝えることも忘れてはいない。

 

 

「…そうだったんだ。」

「うん。」

「じゃあ、別に大樹さんのことは何とも思ってないの?…その、本当に好き、とか。」

「大樹さんのことは好き。」

「!?」

「は、裸見られたからとかじゃなくて?」

「…沙綾は、裸見られたらみんな好きになっちゃうの?」

「なっ…」

「何故お前が正論で返せるんだ…。」

「ノンノン、大樹さん。お前じゃなくて、おたえ。」

 

 

ごめん、ちょっとイラっとした。

その人差し指振るのをやめろ。

 

 

「その時は確かに小説の知識で動いていたのかもしれないけど。

 でも、沙綾に対して怒った時、あれは本当に有咲を心配して大きな声を出していたんでしょ?

 私はちょっと怖くて何もできなかったけど、それでも、凄く優しい人なんだなと思って。…あと、ちょっぴり有咲が羨ましくなって。」

「はぁ。」

「私もお兄ちゃんほしい。だから、大樹さん好き。」

「あれれ、途中まで分かりかけてたのに、最後で急にわからなくなっちゃったぞ。」

「俺も。」

「大樹さん、私と結婚して、お兄ちゃんになってください。」

「…それだと、俺は今有咲と結婚してることになっちゃうんだが?」

「そうだと思ってた。」

「…それはそれで最高だな。…いってぇ!」

 

 

腰のあたりを思い切り抓られた。沙綾め。

 

 

「有咲とは兄妹なんでしょ??そういう邪な妄想しないの。」

「へいへい。」

「…沙綾も、大樹さんと結婚する??」

「こらこら、その話題で広げるんじゃない。」

 

 

沙綾も赤くなってるんじゃない。

 

 

「と、とにかく。あれは色々誤解があって揉めたってことで…いいよな?

 お互い状況も分かったんだし、引き摺るのも無しにして仲良くやろうぜ?まぁ、君ら二人が相手なら何も心配しちゃいないんだけどさ。」

「うん…そうだね。私は、まぁ、大丈夫かな。」

「私も。」

「ん…。ところでさ。」

「なに?」

「バンド、組んでるんだよな?5人で。」

「そうだよ。」

「5人、なんだよな?」

「うん。」

「おたえ氏と沙綾と、うちの有咲に香澄、あとは…」

「りみ。」

「そう、りみちゃん。

 …りみちゃんってさ、お泊り会の時にも居なかったけど、忙しい子なの?」

「?いや?なんかいつもタイミングが合わないんだよね。

 普段の集まりには来るんだけど、遊びに行こう~とかって時は大体用事があるとかで…」

「…悪い子じゃ、ないんだよな?」

「有咲とも仲いいし、大丈夫だよ。」

「そっかぁ…それならいいんだ。うん。」

 

 

有咲に害が無いなら正直何でもいいや。

 

 

「ヒロさん、本当にあれだね。」

「…どれだよ。」

 

「「シスコン」」

 

「声揃えて言うことでもないだろ…。」

「だって、本当に大好きすぎるように見えるんだもん。」

「うんうん、有咲しか見えてないって感じ。」

「ねー。そんなんじゃ、大樹さんのこと好きって言う子にも気づかないんじゃないの?」

「ははっ、そんな奴いねえから大丈夫だ。」

「はい!」

「良い挙手だ、何だねおたえくん。」

「そんな奴、ここにいまぁす。」

「そうかそうか!俺も好きだぞぉおたえくん!

 これからも有咲と仲良くしてやってくれなぁ。」

「…だめだこりゃ。」

 

 

その後はただただ他愛もない話で時間は過ぎ、一日も終わろうかという時間に。

おたえ氏は何かに導かれるように凄い勢いで帰ってしまったし、俺もそろそろお暇しようかしら。

 

 

「じゃぁ、沙綾。俺そろそろ…」

「ぇ…。帰るの?」

「??そりゃ、いくらなんでももう遅い時間だし、家の人にも迷惑だろ?」

「…帰っちゃヤダ。」

「はぁ?」

 

 

ぎゅっ。

帰ろうと立ち上がった俺の服の裾を握りしめ、上目遣いで見上げてくる沙綾。

…有咲だったらやばかった。

 

 

「泊まっていってよ。」

「急すぎるしそりゃ無理ってもんだ。

 ほら、俺も家で有咲が待ってるから――」

「有咲には私から連絡しとくから。ね?泊って行ってよ。

 …あんな話の後じゃ、一人は嫌だよ…。」

「沙綾…。」

「だめ…?」

 

 

そんな言い方されたらなぁ…。

流石にこの弱り切った状態の沙綾を置いて、「はい、さようなら」じゃ薄情すぎるよな…。

 

 

「…わかった。ご家族にはどう説明するんだ?」

「ありがと…。家族にはうまいこと話すけど…そのまま伝えても問題なさそうだけどね。」

「わかったよ…。今日だけは、傍に居るよ。」

 

 

あ、沙綾からも入れてくれるみたいだけど、

やっぱ俺からも有咲に連絡しなきゃな…。

 

 

 




タイトルに反してどんどん有咲の出番が減ってますね…。
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