流星堂の居候 - Unintended hareM -   作:津梨つな

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もうこれバンド関係ないですね。
すいません。


7-2:魔窟 始末

 

 

 

「花音。……俺だ、大樹だ。」

 

 

以前来たこともあって部屋の場所は大体覚えていた。

扉の前に立ち呼びかける。…ノックはとうに4,5回している。

ここ迄来ておいて散々迷った挙句、絞り出した声の何とか弱い事か。

…それでも、

 

 

「…大樹…さん?ほんとに、大樹さん?」

 

 

返事が返ってきて、というより久しぶりにその声が聞けて、嬉しかった。

 

 

「あぁ、俺だよ花音。」

「お母さんが言ってた()()()()()って、大樹さんの事だったんですね。」

「ん……。入ってもいいか?」

「…来てくれた理由にも、よります。」

 

 

理由、理由か。

 

 

「…えーっと、だな。

 一つは、花音が学校に来ないって聞いて心配になったから。

 もう一つは…この前の件で、ケジメをつけようと思って、だな。」

「……ケジメ、ですか。」

「…うん。」

「……………。」

 

 

長い沈黙。

といっても、どっちが悪いとか俺がどうこうするとかって問題じゃない。

ただ黙って、花音の返事を待つ。

 

 

「……二つだけ、約束、してもらってもいいですか。」

「…なんだ?」

「まず今の私の、…部屋の状態を誰にも言わないでください。」

「…うん?」

「約束してもらえますか。」

「ん。……わかった。」

 

 

私の、はともかく部屋の状態??

散らかってるとかそういうのじゃなくて…?

 

 

「もう一つ。」

「うん。」

 

 

何でも来い。

 

 

「…私を、嫌いにならないでください。」

「…ん?」

「…約束、してもらえますか?」

 

 

一体中には何が待ち受けているというのだろうか。

嫌いになる?俺が?花音を?…そんなこと、万に一つもあるわけないだろうに。

俺の答えは決まっている。

 

 

「勿論。約束しよう。」

 

 

沢山の疑問と謎を孕んだ部屋。そこへ続くたった一枚のドアが、開かれた。

 

 

 

**

 

 

 

「かの……うぉっ!」

 

 

まず目に飛び込んできたのは、壁一面に貼られた大量の写真。

何かのファンだとかいうなら分からなくもない。好きな物には囲まれていたいって言うしな。

ただ、問題は被写体にあって…。

 

 

「……俺?」

 

 

全て、俺。()()()()の様々なシーンが切り取られ、四方からこの部屋を見つめている。

…おいおい、中にはリョナ系統のな雑コラまであるぞ。だいぶ趣味悪いなこりゃ…。

壁は俺で床は……凄い量の紙?だ。

 

 

「……引きましたか。」

「…引いてないと言えば嘘になる。…けど、前に来たときはもっと綺麗に片付いてた印象だったんだけどな。」

「そうですよね。」

 

 

というか、花音はどこに居るんだ?

声は聞こえど姿は見えず。おまけにカーテンを閉め切った部屋は薄暗く、目を凝らさないと足元も危うい程だ。

 

 

「…花音?取り敢えず暗いから明かりを…んぐっ!?」

 

「しーっ……ですよ?大樹さん。」

 

「!?……。」

 

 

突如として口が塞がれ、後ろから何者かに拘束される。…何者かと言ってもこの部屋には花音しかいない訳だが。

その直後に耳元で聞こえる囁き声。到底体調不良で学校を休む奴の声とは思えないほど上機嫌そうに響くそれが、口を覆う掌の甘い香りと相まって、蕩ける様に耳から脳へ。

思わず膝が折れそうになる。

 

 

「ふふっ…見ちゃいましたね、大樹さん。

 これが本当の私ですよぅ…?」

「………驚いたな。人は見かけによらないもんだ。

 で、後ろは振り返らないほうがいいよな?きっと。」

 

 

シャツ越しに伝わる感触からして、恐らく視覚的攻撃力全振りの状態で抱きついているんだろう。…物理防御力ゼロ、と言った方がいいか?

一先ず口は解放されたので首だけ動かし再度部屋の中を確認。なるほど、床に散らばっている"紙"はティッシュかなんかだな。

 

 

「振り向いてみてほしいなぁ…。ふふっ。」

「楽しそうなところ悪いが、何点か質問だ。

 こんな部屋の中でひと月も閉じ籠ってたのか?」

「もぉ、"こんな"なんて言わないでください。私にとって、最高の視線を浴びられる部屋なんですから…。

 壁中どこを見ても大樹さんが居る。何処に目を逸らしても大樹さんに見られている。これ以上の快感はないでしょう?

 …ふぇぇ…。」

 

 

恐らくは恍惚とした表情でも浮かべているんだろう。話し方、特に後半の盛り上がり様なんかは、うっとりとしたようで興奮を混ぜたようなそれだ。

"快感"とも確かに言っていたし、中毒症状のようなものでここに縛り付けられていたって訳か…?にしても俺で?わけわからん。

 

 

「あとは、さっき口を塞がれた時にも気になったんだが、君の腕何で濡れてんの。」

「腕ぇ…?…あぁ、これですかぁ。

 ちょーっとだけ、切ったんですよ。何だか寒くって。」

「寒くて切るって発想はよくわからんけど、痛まないのか。」

「…簡単なことです。」

「…あん?」

 

 

急激に声のトーンを落としたかと思うと、俺の体を拘束していた腕を解き、目の前に回ってきた。

 

 

「ぐッ……!!」

「はぁ…やっぱり目を逸らしちゃうんですね。大樹さんは。」

 

 

一糸纏わぬ姿を直視できず思い切り目線を逸らす。

…本当は裸だけに戸惑っているわけじゃない。その綺麗な白い肌に刻まれた無数の傷。…腕だけでなく、首や腹、脇腹や腿にまで刻まれた傷。

"寒かった"という言葉の指す意味は不明だが、俺には痛々しすぎる景色に見えたんだ。

 

 

「快感の中でもね、時々無性に心が寒く感じることがあるんですよ。

 体の芯、内臓ともまた違う。…体の奥底が。」

「……。」

「そんな時、貴方の事を思い浮かべながら切るんです。そうしたらね?

 …流れる真っ赤な血を見て、「あぁ、こんな私でも生きているんだな」って実感できるんです。」

「……そういう、もんか。」

「それにほら、その最中を大好きな大樹さんにこんなにも視られているなんて、興奮するじゃないですか。

 …あぁっ。あの視線、あの感覚…思い出すだけでゾクゾクしちゃう…。」

 

 

…目の前のこいつは本当にあの花音なのか?正直、表裏って言葉じゃ納得できないところまで捻れ曲がってしまっていると思う。

彼女の中の何が壊れてしまったんだろう。…よもや、この異様とも取れる状態が真の彼女の姿だということもあるまい。

困惑している間にも、机の上の様々な種類の刃物コレクションの中より一本の彫刻刀を手にした彼女は、新たな"証"を刻み始める。

ツー…と一筋入るソレからはまるで湧き上がる歓びを表すかのように液体が溢れ出る。

 

 

「あはっ。…ねえ、見てください大樹さん。これが、温もりなんですぅ。

 はぁ、はぁ…痛いのだって私にとっては愛撫と同じ、快感の為の刺激なんですよぉ。」

「君は…一体どうしてこんな…」

「……大樹さん、今日は私を、改めて()()に来たんですよね。

 …私との宙ぶらりんな関係を断ち切ることで、()()()()に来たんですよね?」

 

 

"そうだよ。俺には大事な妹が居るからね。"

そう言えばいいだけの事なのに。…花音の表情(かお)を見てしまったきり、声を出せずにいた。

何て哀しそうに笑うんだ。何て寂しそうな眼差しを向けるんだ。

そこにあるのは期待か、諦めか…。

 

 

「…私、怖いんです。今まで誰かとお付き合いしてても、ここまで相手を想う事なんかなかったから。

 突き放されるのが、大好きな人が離れて行ってしまうのが…。」

「や、別段離れはしないけど…。」

「でも、お付き合いしてはくれないんですよね?私のものになってくれない、私を受け取っても貰えないってことですよね?」

「…花音?」

 

 

正直俺も怖いよ。このままきっぱりと断ることでこの後何が起こるのか。

彼女が言ったように、突き放し"友達"という距離を保つことでどういった関係が続くのか。

もう経験が浅いからなどと言い訳はできないが、目の前の少女は紛れもなく最上位の問題を抱えている。

 

 

「…だからこの部屋を創ったんです。

 この部屋が!この部屋こそが私の生きていくべき場所なんです!

 写真の…記憶の中の大樹さんは、私を決して裏切ることはないから…。」

「…それは違うぞ花音。」

「……何です?」

「当の俺から言うのもどうかとは思うけど…。

 それじゃあ何にもならないじゃないか。現実の俺と、良い友達としてやっていくのは無理か?

 付き合うか自分の世界に引き籠るか、二択しかないのか?」

「…大樹さんって、勝手ですよね。私の中を大樹さんで埋め尽くしたくせに、そうやってあっさり突き放す。

 じゃあこの気持ち、どうしたらいいんですか!?貴方以外考えられないんです…。貴方以外、もう何もいらないんです…。」

「花音……。…えっ、ちょ」

 

 

瞳はどこか遠くの宙を見つめたように虚ろで、動きも酷く鈍い。だがそれでも言葉は途切れない。

俺への純粋な想いなのか、はたまた恨み言か。何にせよ、君の両手に訊きたいんだが、俺を脱衣させる必要どこにあるんだ。

…よくノールックでボタンやらベルトやら外せるな。

 

 

「花音、ちょ、ちょっとストップ。

 話はちゃんと聞いてるから、脱がさないでくれ。」

「ねえ大樹さん。今日だけ、一度だけで良いですから…貴方が欲しいんです。

 貴方が今この瞬間だけでも愛してくれたら…私の物に、なってくれるなら…」

「いや、下に彩もお母さんもいるからさ?じゃなくて、そういうのは違うだろ…」

「彩ちゃん…?彩ちゃんも来てるんですか??

 まさか私を()()理由って、彩ちゃんが居るからですか?市ヶ谷さんを体良く理由に使いながら彩ちゃんと???」

「それは本当に全く違うぞ。全部お前の勝手な想ぞ…うぉ!?」

 

 

ブツブツと相変わらずの虚ろな表情で呟く花音にベッドへと引き倒される。

後頭部に強い衝撃。どうやら宮棚にしこたま頭を打ち付けたらしい。視界が揺れ、思考が止まる。

 

 

「花音、おかしなことはやめろ…このままじゃ、友達にもなれなく…ゥッ」

「おかしなこと?これはもう仕方がない事なんです。よりにもよって彩ちゃんと?ありえない。

 これはやらなければいけない事。貴方が私から離れようとするなら、私から繋ぎとめたらいいだけだった。

 どうして今まで気づかなかったんだろう?もっと早く行動するべきだったよぉ、ふえぇ…。」

 

 

駄目だ。打ち所が悪かったか?どんどん視界の揺れが大きく、耳が遠くなっていく。

花音の呪詛のように垂れ流す危ない言葉も右から左へと流れていく。

何もできないまま、されるがままの状態で、マウントポジションを取られる。幸いなことに俺サイドはズボンという守りがあるからいいが相手はノーガードだ。

いつどんな間違いが起きてもおかしくない状況で、抵抗しないなんてあっていいわけがない。

 

止めなければ。

――何を?どうやって?

 

花音にこれ以上やらせちゃだめだ。

――一体何故?

 

俺には妹が。

――それは体裁を保つ為の言い訳?

 

思考が動き出す度に単純な疑問にぶつかりまた止まる。

切羽詰った状況だからこそ、頭の中で冷静な自分と熱くなっている自分、二つの観念がぶつかり合うのが分かる。

頭で考えるだけじゃだめだ。行動を、何か行動を起こさないと…!

 

 

「花音!やめろぉ!」

「ッ!!」

 

 

思わず出した声に体を震わす。

…自分でも少しびっくりした。が、如何せん耳がよく聞こえないもんで勘弁して頂きたい。

 

 

「…さっきも言ったように、俺は今日ケジメをつけに、来たんだ。

 先延ばしにしていた、返事を。」

「聞きたくない。」

 

 

お前が耳を塞いだとしても俺は言うぞ。

 

 

「俺には大事な人が居るんだ。傷つけちゃいけない、守ってあげたい大事な人が。」

「聞きたくない聞きたくない。」

 

 

伝えなきゃいけない、そのためにここ迄踏み入れてきたんだから。

 

 

「そいつは妹みたいなやつなんだけど、妹じゃなくて。

 そいつと、もっと近付きたい、深い仲になりたいって今は思ってて」

「聞きたくない!!聞きたくないっ!!!」

 

 

だからこそ、俺にしかできないこの……ッ!?

 

 

「―――――――ぐッ…ぅう…??」

 

 

息が止まる。…これは何だ。

頭が痛い。さっきしこたま打ち付けたところだな。でも今の問題はそこじゃない。…腹が熱いのは何故だ?どこかにぶつけた?まさか。

腹に違和感。…何かが入っている…?

深く刺さったそれは鋭い…

 

……刺さった?

 

 

「ぁ……ぁ………」

「ふ、ふえぇ…。大樹さんが悪いんだから、大樹さんのせいなんだからぁ…。」

 

 

鳩尾の下あたり、やや右か。鈍色の反射光を覗かせる金属質の物が、流れ出す血液の中心で痛み(生の実感)を伝えている。

ゆっくりと、脈打つように。愚かな俺を、嘲笑うように。

状況から推測するに、机の上のコレクション。それの何れかだろう。

 

あぁ…刺されたんだ。そう認識できたのは、二撃目の()()()()()()が左肩に突き刺さるのとほぼ同時だった。

 

 

「―――――ぁああ"あ"ッ!!!!!!」

 

 

思わず上げた声はまるで獣のような、自分が出したとは思えない程酷く汚い音だった。

 

 

「ぁは!ははっ!はははは!!お揃い!お揃いだよぉ!大樹さん!!

 嬉しいねっ!嬉しいねぇっ!?ぁはっ!!」

 

 

久しぶりに聞いた彼女の笑い声はまるで狂気に取り憑かれたように陽気で愉快なものだった。

その異様な状況に何故か笑みを零しながら、また後悔と妹への謝罪を抱えながら、俺の意識は途切れた。

 

 

―――有咲、ごめんな。

 

 

 

 




ひとまず書きたいところは書けたかなと。
間が空いてしまうかもしれませんが、ご了承いただけますと幸いです。
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