流星堂の居候 - Unintended hareM -   作:津梨つな

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N-1:病院 懺悔には代償を

 

 

 

俺は―――

 

もう一度、"やり直したい"と思った。有咲の兄として、一人の男として、関り傷つけた全ての人に謝罪したい。

その結果がこのような事態を招いたんだとしても、何度でも立ち上がりながら、みんなに。

今更散々傷つける側だったんだ。今更少し肉体が傷ついたからなんだってんだ。俺がみんなに、有咲に与えてきた傷はもっと深い筈だろう。

 

―――だからこそ、今は目覚める時なんだ。

 

 

 

**

 

 

 

「…ぅ………む…。」

「!!!!……ひ、ヒロにい!!」

 

 

ぼんやりとした視界に映る真っ白な天井・壁・女の子の泣きじゃくる顔。

ここはどこだろうか。…ッ!!

周りを見ようとしたが体が固定されていて動けない。首も何かで固められているし、新手のイジメかぁ…?……おっ、左手だけは動くな。

 

 

「ヒロにい!今、お医者さん呼んでくるからね!!」

「……??」

 

 

隣に居た女の子がそう言い残し走り去っていく。…全く、病院内は走っちゃだめだと教わらなかったのかねぇ。

とお転婆で困る妹の姿に……妹?

 

 

「……ぁ」

 

 

俺が今何故この状態でここに居るか。こうなる直前に何があったのか。

…そして、さっきまで何を見ていたのか。

全てがまるでフラッシュバックのように脳裏を過る。思い出した…こんなことしてる場合じゃ…!!

 

 

「ぁり…さ…。ぅっ!?」

 

 

直前の事は思い出さなくてもよかったかもしれない。あの生々しい金属の感触を思い出したことによって、ソレが刺さっていたであろう各部位の痛みまで思い出してしまった。

肩が、腕が、腹が腋が腰が腿が。あらゆる場所がズキリズキリと痛みだす。思わず手放してしまいそうになった意識を必死で繋ぎ留めながら妹を待つ。

たしかさっき、医者を呼びに行くとかなんとか…。

 

 

パタパタパタ

 

 

あぁ、医者か有咲か、どちらにせよ俺にとって敵ではない者の足音がフェードインしてくる。もう少しの辛抱だな。

 

 

ガララッ

 

 

「ヒーロくんっ?起っきたっかにゃ?…うわぁ!!」

「……なんだ日菜かぁ…。」

 

 

まだ視界がハッキリしないせいでイマイチ顔は分からないが、その無駄に明るい声は氷川の妹の方。

 

 

「ちょっ!なんだって何よぅ!…ってか起きてる!喋ってる!!」

「…日菜うるさい。病院だぞ。」

「あっご、ごめん…。…お医者さん、呼んでこよっか??」

「いやいい。今うちの妹が行ってくれてるから…。」

「そ、そう?何かあたしに出来ることない??」

 

 

出来ること、できることか…。

そうか、じゃあ最初に謝るのはこの子になるのかな。

 

 

「そうだな……じゃぁ、痛みを紛らわすためにも、話し相手になっちゃくれないか。」

「ぅ?…い、いいよっ!何話す?」

「ええと…日菜ってさ、可愛いじゃん?」

「うぇっ!?い、いきなりだねっ!……自分じゃわかんないけど、そうかな。」

「前に可愛いって言った時、エラく動揺してたみたいだったからさ。謝りたかったんだ。」

 

 

入りはこんな感じで良いだろう。間違っちゃいない。

…ただ、これから謝ろうとしている内容が内容だけに、慎重に行かなきゃいけない。勘違いだったら超恥ずかしいじゃんか。

 

 

「えっ?えぇっ!?…あ、謝らなくていいよぉ!…あたしもその…嬉し、かったし…。」

「そっか…。………なぁ?」

「う、うん?」

「日菜ってさ…俺の事、どう思ってんの。」

「…………。」

 

 

い、言っちまった…!!

はぁぁっどうすんだこの沈黙。そして忘れかけていたが傷口がいてぇ。

 

 

「…ヒロくんってさ、何か不思議なんだよね。」

「不思議?」

「うん。……皆、"アイドルとして"可愛い可愛いって言ってくれるんだけど、ヒロくんってそういうの無いじゃない?」

「まぁ、最初はアイドルだと思ってなかったからね。」

「それもあるけど!…でも、それだけじゃなくて…。あたしね、ちゃんと友達みたいに関わってくれる男の人に出逢ったことってないんだ。」

 

 

まぁ…これだけ整った容姿の上この人懐っこさだもんな。そりゃ意識しちゃう男共が寄ってくるのも分かる。

 

 

「…だから、普通に弄ったり揶揄ったりしてくれるのが嬉しくって、……意識は、してたかも。」

「………うん。」

「…だから、どう思ってるのかって訊かれたら…。好き?なんだと、思う。…うん。」

 

 

よかった勘違いじゃなかった!いや良くないわ!これって一種の告白みたいなもんなんだよな?で、俺はこの子に対して謝らなきゃいけないんだよな…?

 

 

「…ありがとう。日菜の気持ち、なんつーかすっげぇ嬉しいよ。」

「!!ほ、ほんと??」

「あぁ。……だから、これからもずっとこんな関係保てたらいいなって、そう思ってる。」

「……え?」

「ごめん日菜。勘違いだったら申し訳ないんだけど、もし異性として好きだって言ってくれてるんなら、君の望む関係には進めない。

 …今回こんな姿になっちゃった原因でもあるけど、どうやら俺は無自覚に女の子をその気にさせるような行動を取っちまってたらしい。」

「…それで?」

 

 

日菜の沈んだような、とんでもないものを見てしまったかのような表情をチラチラと見やる度に、行き場のない罪悪感が胸を締め付ける。…こんな役回りはイケメン専用のポジションだと思ってたんだが、こんなにも辛いものか。

 

 

「……だから、俺は謝らなきゃいけない。俺は周りの子をそんな風には見てないんだ…。

 飽く迄友達として、いい関係を築きたかっただけで」

「あ、あはははは!!ひ、ヒロくん、勘違いしちゃって、おかしーんだぁ!!」

「…日菜?」

「……わ、わかってたから。いいの!謝らなくて!全然!

 ほら?あたしって、結構モテるし?別にヒロくんの事本気で好きだったわけじゃない……から……さぁ……。」

「………ひn」

「じゃ、じゃあねっ!あたし、これから用事あるんだった!!!ばいばい!!」

 

 

初めて普通に接してくれる男の人、か。……状況が状況なら、ここからまた違った未来があったんだろうか。

日菜が涙を見せない未来が、あったんだろうか。

今できる最善の事をしたはずなのに、手元に残ったのは言いようのない虚無感と寂寞。この選択が本当に正しいかどうか誰も分からないが…振り返り走り出す直前に見えた日菜の表情は哀しみの底を見てしまったような、見る者の呼吸を止めるような辛いものだった気がした。

 

 

「は、ははは……これが責任か。……思った以上にクるな。」

 

 

思わず零れた乾いた笑いは、またしても熟考により掻き消された体の痛みを文字通り痛感させた。

 

 

 

**

 

 

 

ガラララッ

 

 

朦朧とした意識の中、聞こえてきた扉の音は今度こそ医師と妹が駆けつける音だった。

 

 

「ひ、ヒロにいっ!駄目だよ起き上がっちゃ!」

「あり…さ…?」

「お医者さん呼んできたから!少し休もう?ね?」

「ありさ…」

 

 

宙へ伸ばした左手を有咲が力強く握りしめる。それだけで遠のいていた意識がハッキリとする気がする。

 

 

「……はぁぁ。」

「ヒロにい?」

 

 

そんなに心配そうな顔をするな。何もこれから悪くなるわけじゃあない。後はお医者さん達が快復へ向かわせてくれるさ。

周りでは、計器やら薬やらと慌ただしく病院スタッフが動き回っている。無事目も覚めたし、あとはゆっくり休むだけ…

 

 

「常盤さん。…私の顔がしっかりと見えますかな?」

「…先生?…あぁいや、まだ起きたばっかりだからか、若干ぼやけます。」

「……そうですか。では次。……あぁ、今は点滴で痛み止めを入れていますから、安心してくださいね。」

 

 

有咲に左手をしっかり握ってもらいつつ、眼鏡に白髭という如何にもな感じの医師の質問に答えていく。

言われた通り、痛みを感じなくなってきた。気がする。

 

 

「ええと、首は、動かせますかな。…無理はしない程度で。」

「……ッ!?少しは回りますが、起こすのは辛いです。」

「なるほど。…左手は……いいとして、右手はどうですかな?」

「右手ってギブスか何か付いてます?…硬くて全く動かないんですが。」

「………成程。…常盤さん。」

「はい?」

 

 

深い溜息と沈黙の後、重々しく口を開いた医師が告げた言葉。

 

 

「……貴方を拘束しているのは止血帯と包帯くらいでしてね。固定する類のものは何一つありません。

 今はまだ目覚めてすぐ、ということもありますが、最悪の事も考えておいた方がいいでしょう。」

「…というと?」

「……足は、動きますかな?」

 

 

………あれ?足ってどうやって動かすんだっけ。こう、こうか?違うな。……こう、でもないか…。

あれ、そもそも足の感覚ってどんなんだっけ?

 

 

「………常盤さん。恐らくこれから、少しの間入院して頂く事になります。その中でゆっくり着実に、リハビリをしていきましょう。

 …大丈夫、きちんとサポートできるよう体制は整えてあります。…あとは貴方の気力勝負、といった面も出てくるでしょうな。」

「……まじすか。」

 

 

どうやら俺は、体の自由が一時的に奪われた状態になってしまっているようだ。

これから傷を治して機能を回復して、と一体いつまで掛かるのか先の見えない状況になってしまったが…。

今は少しずつやれることをやっていくしかない。そしてちゃんと、関わってしまった全員にケジメをつけるんだ。

 

 

「ヒロにい……うえぇぇぇ……」

 

 

事態の重さに思わず嗚咽を漏らす妹を見つつも、不思議と気分は前向きだった。

俺にはやらなきゃいけない事がある。…この子の、立派な兄貴として生きていける様に。

 

 

「先生……長い付き合いになると思いますが、宜しくお願い致します。」

「えぇ、こちらも全力を尽くします。がんばりましょう。」

 

 

…そういえば、入院するってことはそれ相応の費用が掛かるはずだ。恐らく緊急で行われた手術に対しても発生しているはずだし…。

 

 

「先生、俺の手術代や入院費って今どういう状況になってるんです??」

「費用ですか。…なんでも、松原様という方が全額負担すると伺っていますが?」

 

 

松原……か。どうやらそっちに関してもごちゃごちゃしたことになってるようだな。

ちゃんと動けるようになったら、松原宅にももう一度行かないと。原因がどうであれ、恐らく大金であろう費用の話をしない訳には行くまい。

 

 

「わかりました。…ありがとうございます。」

「いえ。…それでは、凡その処置も終わりましたので今日の所はお休みください。

 今後の事は、また明日以降案内します。」

 

 

医師一行が去っていき、部屋に残されたのは俺と計器類とまだ泣き続ける妹。

 

 

「有咲。……何から何まで、本当ごめんな。俺、お前に謝りたいこといっぱいあるんだ。」

「うえぇぇ……。どうして、どうしてヒロにいがこんな目に合わなきゃいけないの…?ひどすぎるよ…。」

「違うんだ有咲。全部、全部俺のせいなんだよ。…こんな屑が兄貴面して、本当に申し訳ないと思ってる。」

「屑なんかじゃないよぉ!!ヒロにいは、ヒロにいは私にとって一番大事な人なんだもん!!」

「………有咲。」

 

 

あれだけ喧嘩をして、その結果こんなことになって。自業自得だと鼻で笑ってくれてもいい程の事なのに、やっぱりお前は優しいんだなぁ。

でもな、やっぱりお前にもちゃんと謝らないと、前には進めないんだ。

 

 

「少し話をしようか、有咲。」

「…うぇ?話…?」

「ん。……どうしようもない俺がやってきたこと。お前を傷つけるに至った事、全てだ。」

 

 

 

 

 

訥々と時系列などお構いなしに全てを話し終えた頃。

俺達はまた、兄妹の形に向かって視線を据えられたような気がした。

 

 

 

 




ココカラ⇒<Normal END>

もうすぐ全体で見たところの半分を迎えられそうです。
途轍もなくスローペースな投稿になってしまっていますが、読んでくださる方が居る限りきちんと完走致しますので宜しくお願い致します。

設定としては前回を分岐点とし、いくつかのルートそれぞれでエンディングを迎えるような形になります。
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