流星堂の居候 - Unintended hareM - 作:津梨つな
好きなキャラの見たい部分を出そうとした結果本筋がブレるってありますよね。ないか。
最近、有咲の様子が変だ。
素っ気ないし、話しかけても冷たいというか無視されることまである。
何かで怒らせたかとも思ったが怒らせるほどの絡みもない。
まるで皆目見当が付かないので、万実さんに訊いてみたが
「あらあら、喧嘩でもしたの??
私に対してはいつも通りなんだけど…。」
と特に情報は得られなかった。
流石に学校の事はわからないので香澄に訊いたりもするが
学校でも普通だという。
うーん。
タイミング的には香澄と出会って、学校に行き始めたあたりから徐々に素っ気なくなっていった気がするし
学校絡みなんだろうか…。
直接聞くとしても夕方から夜にかけてしか話す時間がないし
難しいな。
因みに、メッセージは送ってない。
話しかけてもダメなんだし、どうせ無視されるだろうなと思ってのことだが。
**
「なぁ、有咲。入っていいか?」
夕食後、俺は有咲の部屋の前に居た。
理由はもちろん。
「なあって。いるんだろ??」
少しの間があり。
「…なに。」
気だるげな返事だった。
「入っていいか?」
「好きにしたら。」
好きにしていいとの事だったので入ってみる。
てっきり寝る体制にでも入ってるのかと思ったが、座椅子で胡坐をかいた有咲が目に入った。
「あのさ、最近俺にだけ冷たくしてるだろ。」
「…なんでそう思うの?」
「みんなに聞いたから、かな?」
「ふーん。みんなっていうのは、連絡先とか交換した女の子たちってこと?」
「とか、万実さんとか。」
「へえ。」
「…俺、何かしたかな。」
「別に。」
「そか。」
「……。」
「………。」
「質問終わり?終わったなら出てって。」
「………。」
何か空しくなって来た。
どうせおかしいと感じてるのも、何とかしたいと思ってるのも俺だけなんだ。
そう考えると、もうどうでもよくなるというか、無理に近づいても逆効果な気もしてくる。
「なんで黙ってるの。」
近づく。
「…なに。」
「ごめんな。」
自分でもどうしてこんなことをしてるんだかわからない。
ただ、何となく。
「えっ、ちょちょ!ちょっと…!」
でも実際近づいてみて、目の前に怒ったような悲しんだような、変な顔の有咲がいて。
ミルクみたいな甘い匂いがして、近づいたのにまだ遠くにいるような、そんな有咲の小ささに気づいて。
そんな気もなかったのに抱きしめてしまったんだ。
「え…ちょっと…どういう…」
まて。俺何してんだ。
これやばくない?
いきなり抱き着くおっさんて怖くない?
いや誰がおっさんだよ。
違う違うそういう話じゃなくて。
ただ居候させてもらってるだけでこういう関係じゃないよな俺たち。
あれ?通報案件か?
つか有咲静かじゃない?
「あ、と、その。すまん…」
離れてはみたが後の祭り。
寧ろ頭が冷静になれたからこそ、この状況のヤバさもわかる。
「……あり、さ…?」
俯いているため表情や感情は読み取れないが確実にこの状況が
"やってしまった"結果だというのはわかる。
「ご、ごめん有咲。
変なことするつもりはなかったんだけど、俺としては仲良くやりたかったってのを伝えたかっただけで…
より嫌いになったよな。ヤバいやつだよな。通報するとかそういう」
「今、どういう気持ちでしたの?」
「えっ」
その表情は見えないがさぞかし怒っていることだろう。
「だから、どうして急に抱いたりしたの?」
「――ッ!
それは、その…」
上げた顔のなんとも言えない表情に思わず息を呑んでしまった。
なんだその、恥ずかしい?とは違うし怒っているわけでもない…。
ほんのり上気した、色気すら感じる幸福そうな表情は。
「もっと普通に、仲良くしたくて…。
少し前の、有咲が学校に通い始める前みたいな、軽口交わすような関係に戻りたかったんだ。
でも、最近口もきいてくれないし。嫌われたんだなと思ってさ。」
「…え?」
「結局、俺がいることで有咲が嫌な思いをするなら
俺さえいなくなれば手っ取り早いだろ?
だからもう出て行っちゃおうかなとかいろいろ考えてさ。
でも、出て行くとしたらその前に引っかかっていた部分もあって。
そこはまあ俺の中で完結するようなもやもやだったんだけど、頭でも撫でながら
有咲にぶつけて出て行こうと思って。いや何言ってんだよって話だよな。ごめん」
「あーもう!いいよ。ごちゃごちゃしてきたからやっぱ答えなくていい!
長いし、言いたいこと伝わらないし。」
…ほんとすまんな。
俺でも何言ってるのかわからないし、なんであんなことしたのか・何がしたかったのか
もうわからないんだ。テンパってるってやつだな。
今も、そんな表情見せるせいですげえドキドキしてるし。
「…私は。」
「私はさ、…今から凄く恥ずかしい事素直に言うけど、大樹さんも恥ずかしいことしたんだからおあいこね。
…笑わないできいて。」
「あ、あぁ…。」
「急に素っ気なく・冷たく映ったって言ってたけど、嫌いになったとかじゃなくて。
どうしていいかわからなくなっちゃったんだ。
香澄とか氷川さんの妹さんとか見ててさ、大樹さんに気持ちをちゃんと見せられてるなあって。
そのうえで…香澄なんかは特にそうだけど、"懐いてます"って態度に出せてるの凄いなって。
私も本当は、仲良くしたくて、その…あ、甘え、たり、とかしたくて
でも私そんなキャラじゃないしって色々考えてるうちに普通に接するのがわからなくなって。」
意外だった。
てっきり嫌われてるもんだと思ってたし、最初の頃から変態だのなんだの言われたのもあって
きっと俺が無意識のうちに何か嫌な思いをさせたんだろうと思ってた。
それに、
今目の前で喋っている有咲は、表情も話し方も声色も
俺が知っている有咲とは違うんだ。
気の強さや気難しさなんかは微塵も感じられないし、すごく柔らかく
気持ちがすっと伝わってくるような、そんな有咲。
これが、彼女が出したかった素なのかもしれない。
これを出すに出せなくてあのような態度になってしまっていたのだとしたら…。
「それでさっき、大樹さんに、その…だ、だだ抱きしめられたときに、
もしかしたら私にもそういう接し方してくれる人なのかなって。
私が素直にさえなれたら、甘えたりしても受け入れてもらえるのかもって思って…。
だから、その…。」
そこまで言って言葉が続かないのかフラフラと視線をあちこち彷徨わせ。
やがて目は逸らしたまま小声で
「嬉しかった…の。」
胸が痛くなるほどドキドキした。
心臓病かな。
「有咲…。」
「だ、だから!私は、大樹さんが嫌いになったとかじゃなくて、ずっとずっと、好きだったってこと!」
「」
声も出なかった。
驚いたのもあるけど、素直な有咲がこんなに魅力的だと思わなかったからだ。
「その、付き合ってほしいとかそういうのかどうかは私でもまだわからないんだけど…
もっと、仲良くして、ほしいな。」
「有咲。」
「え?…ひゃっ!」
もう一度抱きしめる。
これでもかってくらいに頭を撫で繰り回す。
「有咲。
甘えたいんなら、仲良くしたいんならもっとその気持ち出してくれ。
俺、女の子の気持ちとか全然汲み取れないから、今日有咲の言葉が聞けて嬉しかったよ。
すげえ可愛いって思った。…だから、その、もっと仲良くしよう。
あ、有咲が嫌じゃないなら、べったりってぐらい可愛がっちゃうぞ。」
「大樹さん…なんか言葉遣い若干気持ち悪いよ??
…でもありがとう。大樹さんには、…大樹さんにだけは、もうちょっと素直になる、ね。」
**
自室にて。
「なんだったんだ一体…。」
どうしてああなった。
なんだあの甘い空間は。
ついやっちまった俺もどうかと思うが、一歩間違えりゃ通報案件から
あの好転は予想できないだろ。
俺はこれからどう接していけばいいんだ。
甘やかす・べったり・仲良くする…
今までの人生で女の子と絡んだ経験がほぼ皆無の俺にそんなことがわかるはずもなく。
一つ解決してすぐにまた有咲絡みで頭を痛めることになりそうだ。
…尤も、それは今までにない、幸せな悩みなのだが。
―――その眠れない夜は、不思議と苦痛ではなかった。