流星堂の居候 - Unintended hareM - 作:津梨つな
スタンプ押しまくるのが楽しいですよね。
「一睡もできなかった…。」
結局あれこれ考えてしまい、日が昇ってしまった。
正確に時計を見ているわけではないが、午前4時か5時ごろといったところか。
「…近所の散歩にでも行くか。」
眠気はほぼなく、体力もいやに有り余っているので
近くの自販機を目指しつつ少し体を動かす。
熱暴走寸前まで悶々とした頭にも長閑な雰囲気と早朝の独特な爽やかさが届く。
やはり散歩はいい。
「…ん?」
こんな時間だが、空耳でなければ歌が聞こえた気がした。
いやいくら何でもこんな時間に歌ってる奴なんか…
「―――♪――♪」
確かに聞こえる。
恐らくアカペラだ。
「うま…くはないな。」
声の聞こえるほうへ行ってみる。
流星堂から十数分歩いたほどの場所にある公園。
遊具やベンチの錆び具合を見る限りあまり利用者もいなさそうだ。
太鼓梯子の横で、ジャージ姿の女の子が一生懸命歌っているのを確認した。
あの子が発生源か。
繰り返し一部分を歌っているところを見るに、趣味や遊びというより
練習として歌っているのだと推測した。
あまりに一生懸命なので、ベンチで休憩がてら眺めてみることにした。
ピンクの髪を揺らし、体でリズムを取り、結構な声量で歌う。
確かに、早朝の公園でなければ注目を集めてしまうだろう。
どれほど経っただろうか。
疲れたのか、しゃがみ込み息を整えるピンクの子。
目的の自販機に行ってきた俺は無難にと買ってきた天然水を持って近づいてみた。
「お嬢さん。いい歌だったね。」
「…へ?」
後ろからいきなり不審者に声かけられたであろう彼女は怪しんだ目でこちらを…
…見てはいなかった。
寧ろ嬉しそうだった。
「…あ!あ、っと…聞かれちゃってましたー??
ちょっと最近振付の方に集中しすぎちゃって、歌が疎かになってた気がしたので練習してたんです。
自主練ってやつですかね。」
めっちゃ喋るじゃん。
俺この子と知り合いか何かだったっけ?と錯覚しそうになるほどだ。
「ふーん、そっかー。
で、お嬢さんは歌い手さんか何か?」
なんだっけ。インターネットカラオケマン?だったっけ。
流行ってるんでしょそういうの。
「え"」
固まるピンク。
「わ、私のこと知ってて声かけたんじゃないんですか…?」
「え?あー…俺少し前に引っ越してきたばっかだからあんまりこの辺の事詳しくなくて…
ごめんね。地域の名物少女とかそういう感じ?」
「ちがいますー!
お兄さん、テレビとか見ます…?」
「テレビは昔からあんまり見る習慣無いかなぁ。
今住んでるとこでも見ないし…。」
「あー…。」
「あ、わかった。カラオケの大会とかで有名になった人??」
「…お兄さん、わざとやってます?」
「んー…ごめん。ほんとにわかんないや…。」
ほんとにすまん。ピンクちゃん。
「…じゃあ、お兄さんにだけ特別に教えますけど…
私、アイドルやってるんですよ。」
真剣な顔を近づけて小声で教えてくれる。
嘘は言っていないのだろうが…。
「へぇ。」
「…え、それだけですか?
えー!?とかうぉー!とかないですか。」
「あ、そうか。
…えぇええ!?アイドルぅ!?」
「やめてください!なんか恥ずかしいんで…。」
リアクションもお気に召さなかったようで、ピンクちゃんは膨れてしまった。
ほんとに「ぶー」って言ってるよ。
「ごめんごめん。
で、君は何子ちゃん??名前聞いたらわかるかもしれないし。」
「そうですか…?」
口上があるとの事なので、やって頂くことにした。
「いきますっ!
――みなさんこんにちはー!
まんまるお山に彩りを。Pastel*Palettes、ふわふわピンク担当のまりゅッ…!」
思いっきり噛んだ。
恐らく肝心の名前の部分だろう。
「まりゅ…まりゅさん?」
「ちぎゃいまひゅ…」
「あーあー。舌、ちょっと切れてるよ…。
見せてごらん。」
んべっ。と舌を出させる。
深く噛み込んだわけではなさそうだが、暫くは熱いものが敵になりそうだ。
「もういいよ。」
「いひゃいでふ。」
「だろうね。」
「まりゅやまあひゃれふ」
「なんだって?」
はふはふ言っているが正直全く聞き取れないのでほっとくことにした。
そういえば、と思いメッセージアプリを起動する。
「久しぶり、今面白い人を見つけたよ。と…」
こういう類の人間をいじるのが心底好きそうな知り合いの存在を思い出し
チャットを入力する。
まだ朝も早いし迷惑かな、と逡巡したのは一瞬のことで、
ほぼ躊躇いもなく送信ボタンを押した。
いや反応早すぎじゃないですかね…。
画面を見ると"日菜ちゃん"の文字。
俺が設定したわけではなく最初からこういうアカウント名だった。
因みに初めて見たときは真面目に"白菜ちゃん"だと思った。
ゆるキャラの公式アカウントでもコンタクトしたっけ?と困惑したもんだ。
『面白い人って?ヒロくんより面白い??
るんっ♪てする??』
まあ俺なんかよりは確実に面白い子だよな。
(キャーと文字入りのキャラクタースタンプ)
「もう、お兄さん。なんで無視するんですか!!」
「…え。あ、ごめん、何か言ってた?」
「ずっと!名前!言ってました!」
「あーごめんごめん。知り合いからメッセージ来ててさ…。」
「もー。」
「ごめんね。もう一回だけ、名前言ってもらっていい?」
「丸山、彩です。これだけ言ったんだから、ちゃんと覚えてくださいね。」
「彩ね。口上から察するに、彩りって書いてあや?」
「そうです。いい名前でしょう。」
「ん、綺麗な名前だ。」
「ふふん。そうでしょう。」
改めてみるとなるほど、整った顔立ちだ。
「アイドルなのも納得だ。」
「え?名前がですか?」
「いや、可愛い顔してるなって。」
「え?え!?ナンパですか!?」
「違うけど?
アイドルって言われても驚かないくらい可愛い顔してるってことだよ。」
ステージに立つ姿も想像に難くない。
きっと映えることだろう。
「え、かわいいですか。そう、ですか…。
…よくそんな、面と向かって言えますね。」
「?変なことだったか?ごめんな?」
おっ?着信だ。
画面には"日菜ちゃん"。
…すっかり忘れてた。
「ちょっとごめんな?
…もしもし。」
『ちょっとー!面白い人がいるっていう話はどうなったのー!』
「あぁごめんごめん。
ちょうどその面白い人と喋っててさ…」
『ふーん…?じゃあ今もそこに居るの??』
「いるよ。てかよくこの時間起きてたな。」
『まあねー。おねーちゃんに寝起きドッキリしかけようとしてた!』
なにやってんだ…。
「そか、じゃあ紗夜さんにも宜しく。
切るぞー。」
『ちょちょっとまってよ!
その人、紹介してくれないの!?』
「んー、今度なー。」
『えー!?今度って言ってまた忘れるん』『ピッ』
「あれ!?切ってよかったんですか?」
「え!?ダメだった?」
「お友達じゃ…なかったんです??」
お友達…お友達か…。
「いや、ただのちょっと頭おかしい知り合いっていうか。
…うん、苦手な子。」
「ふーん…。ヒロくんそんなふうに思ってたんだ。」
「え"」
「あっ」
「…どうして、ここが…?」
急に背後より聞こえてきた声に振り返ると、まさに電話を切った相手が立っていた。
笑顔で。
「んー。なんかね。こっちかなー?こっちかなー?って歩いてたら
ヒロくんと彩ちゃんの声が聞こえたからさー。
見つけたーって思って来たのに、そんなこと言われてるなんてさー。」
む、無茶苦茶すぎる。
そんな直感だけで人を探せるのかこの子は。
怪物か何かか…?
「…日菜、ちゃん?」
「うん!おはよー彩ちゃん!」
「う、うん…おはよ…。」
なんということだ。
知り合い同士を紹介しようとしていたのか。若干disり気味で。
「…えっと…。俺は、そろそろ帰るかなぁ…。」
「え?お兄さんもう帰っちゃうんですか??」
「うーん、色々と忙しいからねぇ…。」
目を逸らしつつ上手い言い訳をと探すが、生憎焦りでそれどころじゃない。
当然、全く忙しくもない。
あ、多分今シャツの背中色変わるくらいべっちゃだわ。
「ヒロくん?さっきまで彩ちゃんと楽しそうにしてたでしょ??
どうして急に忙しくなっちゃうのかな??
あたしがいると何かまずいことでもあるの?
あ、そーか!苦手なんだっけー?頭おかしいもんねーあははー。」
「ごめんて…。」
ずっと楽しそうに笑っているがめっちゃ早口だ。
怒ってんだろうな。本音だったし。
「全然気にしてないからいーよーだ。
それより彩ちゃん、練習着なんか着て、こんな時間に何してるの??」
「あ、自主練…かな?あはは。」
「ふーん。自主練してたらヒロくんにナンパされたとかそんな感じかな??」
「おい。」
「うーん………まぁ、だいたいそんな感じかも。」
おい!
ナンパ…してないよな??
「だってね。」
口に手を添え日菜の耳元に近づいていく彩。
俗に言う耳打ちだ。
「んー?…うん。……えっ!ヒロくんが、そんなこと言ったの??」
「///」
キッとこっちを睨みつける氷川妹。
「な、なんだよ…。」
「彩ちゃんに可愛いって言ったんだ!
あたしは言われなかったのに!!いーなーいーなー!」
「か、可愛いって言ったって、アレだぞ?顔の話だぞ??」
初対面で見た目以外に何があるというのか。
言い訳になっていないが続けて
「それに、日菜はなんか可愛いって感じじゃなかったから言わなかっただけで…」
「えー!彩ちゃんばっかりずるいよー!!
あたしにも言って!!」
「…それで言われて満足なのか?」
「言ってよ!言って!はーやくー!」
ばたばた手を振り回し、まるで駄々をこねる子供のように繰り返す。
果たして依頼の挙句言われる
視覚的にも聴覚的にもかなり煩いのでしぶしぶ
「…日菜モ、カワイイヨ」
えらく棒読みになってしまったがいいだろう。
日菜はというと。
「……。」
急に静かになり、俯いてモジモジしている。
え、これでマジでいいの?
「あ、ぁりがと…。」
照れてらっしゃる!
「え?え?」
ほら見ろ、ちょろすぎてピンクも困惑だ。
「ぇと…ヒロ、くんは…あたしのこと、どう思って…」
「日菜ちゃん??日菜ちゃんってそんな感じだった!?ねえ?」
「…彩、そっとしといてあげよう。
彼女は今深刻な状態なんだ。」
「え…このまま放っとくんですか!?」
「だって、俺も居ない方向に向かってなんかぶつぶつ言ってるぞ。
絶対今ヤバい状態だろ。」
2人で彼女を見ると。
「その、あたしが頼んだとは言え、そんなこと言われたら、やっぱり真に受けちゃうというか
か、かわいいって、よく言われるけどヒロくんに言われるとまたちがうっていうか…」
こわいこわいこわい。
ベンチの右側、屑籠との空間に向かって凄い速さで何かつぶやいている。
まるで呪詛でも唱えているかのようだ。
**
「あー…あんな日菜ちゃん初めて見たな…。」
日菜は結局戻ってこなかったので放置している。
今は彩を自宅まで送っている最中だ。
「そもそも、君ら知り合いだったんだね。」
「あ、そうなんです。
さっき私アイドルやってるって言いましたけど、同じグループなんです。日菜ちゃんと。」
「は?あれもアイドルなの?」
「あれって…」
見た目は整っているとは思うが、何しろ破天荒すぎだし
グループの活動とか真っ先に破綻させそうなイメージがあるんだが。
深く知っていけばそのイメージも変わるのだろうか…?
「いつもはあんな壊れちゃうような子じゃないんですけど、本当に嬉しかったんじゃないですかね。」
そんなに嬉しいもんかね。
あまり理解ができないなと思い彩を見ると、苦笑し
「あんなに懐くのだってお姉さんくらいだと思ってました。」と付け足した。
「…なんだったっけ?グループの名前。」
「私たちですか??Pastel*Palettesです。」
「ぱすてるぱれっと…」
ちょっと今後見てみようかな。
「ん、覚えたよ。
応援するから、頑張ってな。歌とか。」
「う、歌は……うぅ。…はい、ありがとうございます!」
「上手とか下手とかよくわからんけど、声は好きだぞ。ちょっと特徴的だし。」
「もー。すぐ揶揄おうとする…」
「いやいや、好きってのは本当だ。
定期的に聞きたくなるなー。」
そのまま他愛もない話をしつつ歩くこと数分。
あとはここを曲がるだけですぐ家だというので解散することに。
「送っていただいてありがとうございます。」
「いやいいさ。丁度散歩しようと思って出てきてたしな。」
「それじゃ…」
「ん、頑張ってな。」
ぺこりとお辞儀をして角を曲がる。
姿も見えなくなったので俺も帰ろう。
有咲がいる家に。