流星堂の居候 - Unintended hareM -   作:津梨つな

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4-1:市街 Human defects

 

 

俺はなぜこんなところに居るんだ…。

 

 

とある日の夕方。

この町に来て知り合った一人の自宅に俺はいた。

 

一見普通のマンションの一室なのだが、住んでいる人間が問題だ。

 

丸山彩。

アイドルバンドグループ、Pastel*Palettesのボーカル担当であり

俺とは言うほど接点が見つからない人間のはずなんだが…。

 

 

 

「…で?」

「えっとー…だから、その、お願いがありまして…。」

「そこまでは聞いたよ。日菜からだけど。」

 

 

 

いつもと同じように検品作業をしていたところ、急に着信が入り

お願いがあるからここにきて、と位置情報を送られたのだ。

いつも急だなと思いつつ断ろうとは試みたのだが、「一大事なの!」と押し切られてしまった。

で、結局来てみれば待ち受けていたのはこのふわふわピンク。

言われるがままに部屋へとお邪魔した次第だ。

 

 

「日菜ちゃん、何も言ってなかったんですか?」

「あぁ、一大事だからとにかくここに来いってだけ。」

「うぅ…。」

 

 

伝達がうまくいかなかったのだろうか。

悲しげな顔だ。

 

「…その、肝心のお願いって何だね?

 俺も頑張らなきゃいけない類のやつ…?」

「あ、いえ、その、ヒロさんには居てもらうだけでいいんです!

 ついてきてもらうだけ、というか…。」

「ってことはお出かけ系なんだな…。

 そうか。俺は通行人に扮したカメラマンとしてついていけばいいってことか。」

「初めてのお使いに行くわけじゃないです!」

「なんだよ…。」

 

あれ、ちょっと憧れなんだよな。

 

「実は、カラオケ…なんですけど。」

「からおけ…?」

「はい、前に歌の練習見られたじゃないですか。

 その時に私の歌が好きって言ってくれたの覚えてて…。」

 

…ん?

声が好きとは言った気がするが歌も好きなんて言ったかな?

 

「それで、今歌のレッスンとかも特に頑張ってはいるんですけど

 自主的にも練習したくて…。

 カラオケなら、その、いっぱい歌えるかなって。」

「…俺、必要かなそれ。」

「……ぃんです。」

「あんだって?」

 

 

「…からおけ、いったことないんです。」

 

 

「………。

 それはなに、有名人だからアピールなの?世間知らずなの?」

「そんな嫌味なこと言わないで下さいよ…。

 純粋に、行く機会がなかったというか…。友達もいないですし…。」

「あー…。

 で、俺にはその初回の付添人になってほしいと?」

「んーまあそんな感じです。いやですか?」

「それこそ、日菜とかじゃダメだったのか?」

「ヒロさんと行きたいんです!

 あ、そうだ、一般の方に聞いてもらって、感想とか聞けたほうが練習になると思うし、

 日菜ちゃんが懐いてる方なら安心できそうだし…。」

 

思いつきで喋っているのか何か裏があるのか…

日菜が絡んでる可能性も怖いし、理由や俺に拘る根拠がふわふわしすぎだ。

あっ。もしかしてそれでふわふわピンク!?

 

「…聞いてます?というか今失礼なこと考えたでしょう。」

「聞いてるよ。俺が気になって気になって仕方ないからカラオケデートしたいんだろ。」

「はい。」

「」

 

 

あれ、予想してた反応のと違う。

 

 

「えっ?ちょ」

「それじゃあ時間も勿体ないし、行きましょう!」

 

話聞いてないのはどっちだよ…。

 

 

「何してるんですかー。早く行きましょー!」

 

あぁもう玄関で待機してやがる。

 

 

 

**

 

 

 

こうしてピンクに流されるままに市街地へ。

カラオケボックスに入るころには夕食時ともいえる時間になっていた。

 

「ここが…カラオケ…。」

 

喉の動きが見てわかるほど唾を飲み込む彩。

ゴクリ、と清涼飲料水なんかのCMで鳴りそうなSEが聞こえてきそうだ。

 

「…入るぞ。

 何時間くらいの予定だ?」

「え、あ!先に時間決めるんですか?」

「そりゃそうだろ。待ってる人困るだろうが。」

「あー…そういう感じなんですね。」

 

「イラッシャイマッセェー。オフタリサマデスカァー?」

「はい。一般と学生で。」

 

「オジカンハァ、オキマリデショーカァ?」

「えーと…彩、どうしたい?」

「へっ、あ、そそそ、そうれすね…。

 5、6時間くらい?でs…すかね?」

 

落ち着け。

 

「そんな歌うのか…。」

「ソレデスト、コチラノフリータイムノホウガオトクトナッテェオリマスガァ。ドリンクバァモセットデスヨォ。」

 

「だってよ。ドリンクも付くし、フリーで良いか?」

「は、はい!フリーです!」

 

「んじゃフリーで。」

「カシコマリィマァシタァ。カイダンアガッテイタダイテミギガワァノォ…」

 

 

 

**

 

 

 

「独特な店員だったな。…彩?」

「えっ、えっ、こんな感じ…個室なんですか?」

「そりゃそうだろカラオケなんだから。」

「えぇ!じゃあ二人きりじゃ…な、ないですか…。」

「あ、その段階から知識外だったのか。

 てっきりわかって誘ってんだと思ってたよ…。」

 

 

全くイメージできていなかったみたいだな。

後で聞いたんだが、広めの板間のような部屋に何組かが場所を取り

各々周りに聞かせながら歌うような店だと思っていたらしい。

いやそれもうただのレッスン室やん。

そんなガチな連中はカラオケ行かんだろう。

 

こんな調子で歌まで行けるのだろうか。

不安だが、取り敢えず一通り説明する。

 

 

「マイクはわかるとして、この機械なんだけども…。

 ほれ、持ってみ。」

「えっえっ、これ、どこ持ったらいいんですかっ。」

「どこでもいいよ持ちやすいところで、置いてもいいし…

 って、よりにもよって何で画面ガッツリ掴むんだよ。」

「わかんないですよぅ…。」

 

「はい、これペン持つ。

 で画面触る。ここで曲探せるから…そう、そこで曲名入れて…。」

「ここ?…あ、これですね…。」

「で、この赤いの押したら…」

「えい」

 

 

pipipipipipipipipi…

 

 

「え、なんか鳴ってますよ?

 うわぁ曲が!」

「ほら、歌詞出てるから。歌って歌って。」

「え!あっ、え!?しゅ、しゅわぁ」

「何故最初から歌う!

 遅れたんだから途中から歌わなきゃでしょうが!」

 

 

俺の手には負えない…。

元がどれだけ要領の悪い子かはわからんが、これじゃあカラオケの練習だけで終わりかねない。

機械の扱いこそ飲み込みは早いものの、ハウリングで驚いて泣き出したり

歌の最中で噛んだ結果恥ずかしくなって演奏中止したり。

本当に、俺来ないほうがよかったんじゃ…?と何度も思った。

 

 

 

「はぁ…。」

 

 

 

あまりにも居た堪れなくなったため、ドリンクバーに逃げてきたが…。

どうしたもんかなぁ。

結局聞いたところで歌が上手いかどうか、技量やら技術に関しては尚更だが

全くわからん。

楽器なら多少はわかるが歌となると難しい。

せめてよくカラオケに行くような人間若しくは普段から歌を歌う人間が居れば

少しは練習にも活かせるのではないだろうか。

現状機械についてしか意見言えてないし。

 

 

「頭痛くなってきたぞ…。」

 

「あれ!?大樹さん??」

 

いつの間にかコップを満たし終えたことに気づかず長い事考えに耽っていたのだろう。

後ろには数名の待機列ができかけており、その先頭は見知った水色だった。

 

「あ、す、すみません。ご迷惑おかけしました…。

 花音ちゃんも来てたのか。」

 

ほかのお客さんに謝罪はきちんとしなければいけない。

マナーである。

 

「はいー。大樹さんもカラオケとか来るんですね~。あはっ…意外かも。」

「意外性で言ったら君の方が意外だよ。」

「そう、かもしれないですね…。

 それはそうと、さっきすごーく考え事してましたよね??

 何かあったんですか?」

 

 

言うべきか言うまいか。

 

 

「まあ色々とね。

 花音ちゃんは今日は誰と来てるの?」

「…どうして誰かと来てる前提で訊くんですか?」

「迷子になってないからかな。」

 

「………。」

「で、誰かと来てるんでしょ?」

「確かに人と、きてますけど。

 紹介しませんよ??」

「…別にしてもらわなくてもいいけどさ。」

 

「…私じゃない人にばっかり興味持つんだから…」

「なんか言った?」

「いいえー。

 それより、大樹さんは?多分ですけど、一人で来てはいないですよね?」

「あぁうん、知り合いとね…。」

「ふーん。市ヶ谷さんじゃない女の子と来たって感じですね。」

 

 

怖。

この子超能力とか持ってんじゃないの。

 

 

「超能力なんかなくても雰囲気でわかりますよーだ。」

「」

「いつも大樹さんのこと見てるんですから、それくらいわかります。」

「そんな長い付き合いじゃな…え、ストーカー?」

「ふぇぇ!?ち、ちがいますよぅ。今のは忘れてください!なしです、なし!」

 

途中物凄くガチ目な顔をしていたと思うが無しだというので流すことにした。

恐らく深層心理に刻み込まれるタイプのトラウマってやつだ。

この子、会うたびにそういう闇が滲み出ている気がする。

隠しきれなくなったのか隠さなくなったのか。

何にせよ底知れない恐ろしさを感じてしまう子だ。

そのくせ外見は天使のようなのがもう…。

 

 

「それで、誰と」

「ヒロさんー。機械、壊しちゃったかもしれないんで見てくださいー。」

 

 

色々な意味で恐ろしい今日の同行者が半泣きで寄ってくる。

設備を…壊したのか…?

 

 

「彩…ちゃん?」

「あれー?花音ちゃん??

 珍しいね!カラオケなんてー!」

「え…じゃあ大樹さんが一緒に来てるのって…。」

「花音ちゃんも知り合いなの!?

 ヒロさんって女の子ばっかり知り合いが多いんですねえ。」

 

 

「ふふ…ふふふ…。」

 

 

「花音…ちゃん、さん…?」

「あ!よかったら花音ちゃんもこっちの部屋で歌う??

 あでもそっかきっとお友達と来てるよね…。」

 

やめてやめて。

絶対今弄り出したらまずいやつだから…。

 

 

 

「―――ねえ、大樹さん?」

 

 

 

ゾクリ、と。

背中を蛇が這うような。

ただ名前を呼ばれただけなのに、絶対このあと碌な事にならないと

本能?直感?よくわからんが、俺の中の大事な部分が叫んでいた。

 

 

 

**

 

 

 

足が痺れ始めている。

もうこの混沌とした状況に置かれてどれだけ経ったろう。

 

俺と彩で入っていた部屋、カラオケボックスの一室だが

今この部屋には3人入っている。

 

気分が乗ってきたのか、フリフリと踊りながら歌っている彩。

 

テーブルを退かし作られたスペースで床に正座する俺。

小上がりの部屋だったため下がカーペットなのがまだ救いだ。

 

その前に仁王立ちし、冷たい目で見降ろしてくる花音ちゃん。

 

 

彩の歌練習はそっちのけで絶賛説教中なのであった。

理由は、「俺が女性に対してだらしなさすぎる」ということ。

全く自覚もない事なんだが花音ちゃんが怒っているならそれなりに思うところがあるのだろう。

 

 

「だいたい、大樹さんは女の子ばっかり手を出しすぎなんですよ。」

「出してないよ。」

「出してるのと一緒です!

 市ケ谷さんと一緒に住んでいながら、会う子会う子に連絡先を訊いて回るじゃないですか。

 どうしたいんですか?」

「いやそれは誤解だよ。

 殆ど俺が訊かれる側だもん。」

「えっ」

 

ホント俺のことなんだと思ってんのこの子。

 

「それで、教えちゃってるんですか?」

「拒む理由もないしね。それに、みんながみんな交換してるとかじゃないし…

 あ、そういえば最初に交換したのは花音ちゃんだったね。」

「ふぇ!?わ、私が…はじめて…。」

 

何が言いたいのかは正直分からない。

ただ、俺に対して女好きとか節操無しとかそういった類の印象を持っているのだろうと推測できる。

もしかして不機嫌なんじゃなくて風紀的な意味で怒ってるだけなんじゃ?

 

"風紀"という単語に例の氷川姉が過ぎるがまぁ置いといて。

 

 

「ま、まぁ別にいいんですけど。最近どんどん増えていくじゃないですか。

 そんなにチャット相手が欲しいなら私が相手しますからぁ。…ね?」

「…そういうわけでもないんだけど。何と説明したもんかな…。」

 

 

答えに困り彩を見ると物凄い勢いでジュースを流し込んでいた。

そら一人で延々歌ってりゃ疲れもするよね。喉嗄らすんじゃないぞ。

 

 

「もう!またよそ見して!

 今度は彩ちゃんを狙ってるんですか…?」

「そうじゃあないけどね。一応歌練習に付き合うって名目でついてきてたから

 あんまり放っとくのも可哀そうかなって。」

「それは…そうですけど…。」

 

 

「花音ちゃんも誰かと来てるんでしょ?

 あんまり放っとくのも悪くない??」

「いいんです!弟ですから。」

 

あ、弟居るんだ。

お姉ちゃんだったのか…。妹っぽい感じしてたけどな。

 

「戻ってあげなよ…。せっかく一緒に来てるんだから。」

「そんなこといって、彩ちゃんを落としたいだけなんでしょう。」

「えっ。そ、そうなんですか…?ヒロさん…。」

「いやないわ。」

「えっ。…えー。」

「大丈夫だから戻んなって。

 あ、そうだ。じゃあ今度!今度二人でカラオケ来ようぜ。な?」

「ふぇえ!?わ、私とですか??」

「嫌ならやめるけど、…要は二人で遊びたいってことなんじゃないの?

 別に彩とも遊んでるわけじゃないし、花音ちゃんの誤解も解かなきゃいけないし…。」

 

「え、えっと…それって、デートしてくれるってことですか…??」

 

??

態々言い換える必要あるか?

拘りなのかもしれないし、デートと言えなくもないしそれでいいか。

 

「んー……。まぁそんなとこかな。」

「ふ、ふえぇ…!ふぇ、ホントですか?本当ですか??

 いつにします??」

「お、おう。追々決めて行こうぜそこは…。

 あ、取り敢えずほら弟君待ってるから!戻ったほうがいい!うん、そうだ!」

 

もうコロコロ態度変わるの怖すぎるし絶対おっかない子だものこの子。

一刻も早く離れて戴かなくては。

彩も困惑した顔で見てるし。付いてきたのに放置とか本気で申し訳ないし。

 

「わ、わかりっました!!

 また連絡しますからね!ふぇぇええ…」

 

独特な鳴き声が遠ざかっていくのを確認し、最初からこう言っとけば良かったんじゃないかと

若干反省した。

次からはこれで対処したらいいや。

 

 

 

「えっと…」

 

 

 

彩が遠慮がちに口を開く。

 

「私とは、遊んでくれてたわけじゃ無かったですもんね…?

 すいません、何か…一人で勝手に張り切って楽しんじゃってました…。えへへ…。」

「……あー。

 そういう意味じゃなかったんだがな。」

 

 

一応歌の練習ということで真剣に手伝いたかった、と伝えたいのだが

果たして今伝えるべきかどうか。

目の前で年下の少女が落ち込んでいるのだ。それも目に見えて。

まずはフォローなのか?それとも思ってることをどんどん並べ立てていくべきなのか?

色々案やら考えが頭の中をぐるぐる回るが、この類の経験は俺の人生ではほぼ皆無。

初見では無理にも程があるというもの。

などと、また一人の世界に浸って考えを巡らせてしまったせいで

続けて出た言葉もしょーもない言い訳のようなものだった。

 

 

「ほら、花音…ちゃんがいると、さ?

 彩と二人で過ごす時間減っちゃうじゃん??だからその、遠ざけるために出た出任せっていうか詭弁っていうかさ…」

「ほ、ほんとですか…?」

 

最悪。

これじゃ本当に花音ちゃんの言ってた通りじゃないか。

女に手を出しまくる危ない奴、というかチャラい糞軟派野郎だ。

 

「あー…なんか自己嫌悪。」

 

 

 

**

 

 

 

そんな筈ではなかったのだが、今後の生き方について考えさせられる一日となってしまった。

お陰でその後の燥ぐ彩の声も頭に入ってこず、ただただ生返事を返すのみとなってしまうし。

その点もまた重ねて申し訳なく、気持ちはどんより、下り坂宜しく落ちていくのだった。

 

 

カラオケから出て、彩を自宅まで送り、毎度のことながら連絡先も交換したというのだが

後日メッセージで本人から聞かされるまで記憶にも残っていなかった。

ほぼ意識を向けていなかったというのが正解か。

 

 

このままではいけない。

徒らに少女たちを傷つけてしまわないためにも、もう一度自分を省みなくては。

 

 

 

 





後日ではありますが、分岐としてifルートを各キャラ分書こうと計画中です。
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