ジョジョな私が魔法使い   作:よもつ

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今回は短めです





夜明け前

 

 

 

ホグワーツ2日目の朝。いつものように夜明け前に目を覚まし、動きやすい格好に着替える。同室の子を起こさないようにそおっとベッドを下りて静まり返る寮を抜け出した。向かうは城の南、大イカの棲む黒い湖だ。

 

吸って、吸って、吸って、吸う。吐いて、吐いて、吐いて、吐く。芝生を踏みしめるごとに、耳の裏の脈拍が大きく聞こえるようになる。波紋の力が体内を巡り始めた合図。

 

特殊な呼吸法によって体内にエネルギーを生み出す技術。それが波紋呼吸法。波紋の呼吸によって生み出されたエネルギーは太陽の光と同波数で、肉体に生命エネルギーを与える。その性質ゆえに太陽光に弱い吸血鬼に有効な攻撃手段になるし、治療も出来るし、達人クラスなら不老の肉体さえ手に入れる。

 

そして私は父親と同じく、生まれつき波紋の呼吸を会得していた。しかしいくらか修行を経た彼と比べ年齢1桁の私の波紋は極々弱く、初めて自分の波紋を見たときにそれはもう落胆した。これでは3部の過酷な旅についていくなど夢のまた夢、どうしようかとしばらく頭を悩ませて……単純な解決策を思いついたのだ。

 

そうだ、パパに頼もう。

 

ほんのひと月ふたつきとはいえきちんとした師匠の元で波紋を極めた彼ならきっと何とかしてくれるだろう。そんな楽観的な気持ちで私のよわよわ波紋を見せた。思惑通りパパは私を鍛えるに相応しい環境を整えてくれた、が。

 

……うっかり割れないシャボン玉を利用して実演したのが悪かった。親友の某シーザーちゃんと同じ波紋の使い方だからね、そりゃ泣くよね。詳細は省くがその日1日はずっとテディベアのごとくパパに抱っこされたまま過ごしました。

 

翌日からは呼吸法矯正マスクをして生活を送ったんだが、これがまたしんどかった。波紋の呼吸が乱れると直ぐに息が出来なくなる代物で、初期は毎日酸欠になりかけてたんだな。あのマスク付けると息ができるって素晴らしいことだってよく分かるよ……

 

矯正マスクに慣れてきたら、パパと一緒に軽い有酸素運動をした。ウォーキングから始まったそれはジョギング、サイクリングを経て最終的に水泳にまで及び、最後のは本気で死を覚悟した覚えがある。

 

激しい運動をしても波紋の呼吸が乱れなくなってようやく戦闘のイロハを叩き込まれた。パパは性格の割にきちんとメニューを決めて練習させてくれる。とても親切。意外。自分のときにいきなり地獄昇柱(ヘルクライムピラー)に突き落とされたからその経験を反面教師的にしてるのかな〜なんて思いながら日々黙々と練習していた。

 

 

 

「時は過ぎ、JOJOは立派な波紋戦士になったのです。ってか」

 

 

 

口の中で呟いて、駆ける勢いそのままに湖へ飛び込む。水しぶきの代わりに大きな波紋を起こし、水面を蹴った。今日も私の呼吸は万全だ。

 

歴代ジョジョの主題歌を口ずさみながら四肢を振るう。この湖も、今だけは私のステージ。

 

 

 

「やーみーをあっざむいて刹那を交わしてー」

「それなんの歌?」

「ジョジョの奇妙な冒険第2部戦闘潮りゅうわあああ!?」

 

 

 

いつの間に来たんだこの人。危なく呼吸が乱れて湖に落ちるところだったぞ気をつけろォ!着水面全体に満遍なく波紋を流して、涅槃像に似た格好のままツルーっと湖を滑る。相手はたいそうウケていた。

 

 

 

「おはようJOJO、随分早起きだな!」

「おはよう、あんたも似たようなもんだろ。えーと……」

「どっちかわかんない?」

「いや待て当てたい。……フレッド!」

「あったり!なあ今のどういう魔法だ?水の上を歩くなんて初めて見たぜ」

「魔法じゃあないぞ、マグルの秘境に伝わる技術のひとつさ。水面歩行はその技術の応用でね」

「すげー……俺も出来ないか?」

「1秒に10回の呼吸ができるようになれば」

「……すー、ふー……無理だよ!!!」

「練習すれば案外出来るもんだぜ。あ、上着持ってて」

 

 

 

返事も聞かないままぽい、とジャージを陸に放る。水面に指をつけ倒立をしたら、そのまま腕立てに移行。伸ばした足のバランスを崩しても波紋の呼吸を乱しても湖に落ちるしかないから、結構な集中力が必要だ。

 

もう少し波紋を極めたら、今度は水辺に浮かぶ葉の上でやってみようか。他人が聞いたら目を剥きそうなことを考えながら100を数えて体勢を戻し、陸に上がる。そろそろ夜が明けるか、クールダウンをしたら部屋に戻らないとな……

 

 

 

「ほい、体冷えるぞ」

「んあ?……あー、ありがとうフレッド」

「君、俺のこと忘れてたな?」

「バレたか。ちょうどいいや、ストレッチするから背中押して」

「はいはい」

 

 

 

前屈や腹筋を手伝ってもらってダウンを終わらせたら、背中についた草を払う。少しずつ東の空が赤らんできた。朝焼けが出たらその日は雨なんだっけ。それとも晴れだったっけ。

 

2人でのんびりと寮に戻る途中、ふと疑問を口にする。

 

 

 

「そういえばあんた、どうしてこんなに早く起きたんだ?まだ就寝時間だろ、フィルチさんに見つかったら寮監に報告されるぜ」

「寮の入口に罠仕掛けて誰が引っかかるかなって談話室でスタンバってたんだ。でもそいつの足が早すぎて罠が間に合わなかったんだよ。そんな運のいいやつは誰なんだって追ってきたら、君が湖にいたわけさ」

「……ちなみに罠の内容は?」

「ゴキブリゴソゴソ豆板」

「ギルティ」

 

 

 

お菓子を粗末に扱うのも頭文字G(模型)を降らせるのも⊂ミ⊃^ω^ )⊃ アウアウ!!そんな悪い子はデコピンです。

 

波紋の力で身体能力を上げたままバチーンとデコを弾く。するとうっかり意識を刈り取ってしまった。うーん力加減間違えたかな、パパや承太郎ならケロッとしてるんだけど。大いに反省しなければならぬ。

 

見た目より重いフレッドを背中に乗せ、たかたかと陵丘を駆け上がる。城に入る寸前に首だけ捻って様子を伺うと、相変わらず健やかに気絶している。ようやく登り始めた朝日で赤毛をきらきら輝いているのがまるで篝火のようで、息を飲むほど綺麗だった。

 

 

 

 







「あっ波紋のこと口止めするの忘れてた……やば……」

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