【完結】Azur Lane for Answer 作:塊ロック
苛烈にして熾烈。
弱肉強食を体現する彼女は、意外にも面倒見がいい。
それを知った、とある日のこと。
「もしお前が負けたら、それがお前の弱さの証明になる。弱き者が淘汰されても文句は言えない。だがお前は今や私のものだから、仇くらいは取ってやる」
ネクストに乗り、前線に出ることが決まった日。
俺はその日、加賀にそう言われた。
重桜所属艦隊、一航戦加賀。
一言で彼女を表すなら苛烈。
こと戦いにおいては従来の戦闘狂…本能のままに敵を蹂躙する空母だ。
しかし、ひとたび母港に戻ればそれは鳴りを潜める。
「…あれはどういう意味なんだろうか」
ある日の執務室で、つぶやいてしまった。
「…指揮官様?赤城が目の前に居ますのに他の女の事を口に出しますの~?」
「え、あ、口に出てたか…」
「指揮官様?」
「すまんすま…ウェッ!?近っ、近い!」
隣にある秘書艦用の机からいつのまにか立ち上がり真横から顔を覗き込んでいた。
艦船たちは例外なく美女ぞろいの為、顔が良い。
心臓に悪い職場だと改めて思った。
「いや、ちょっと加賀の事考えててな」
「加賀、ですか?」
妹の事であるためか、少し攻撃色が引っ込む。
「前にな…」
「はぁ…そうだったんですか。あの子がそんなことを」
事情を少し説明する。
合点がいったようだった。
「指揮官様も、ずいぶんとあの子から信頼されてますのね」
「そうか…?そうなのか」
「ええ。滅多な事では言いませんもの」
「…」
何というか、艦船たちから異様に好かれているような気がするのは気のせいだと思いたい。
…彼女たち船は、人との繋がりが必須だからなのだろうか。
(…だとしたら、作った奴は極度のロマンチストか…悪趣味なマッド野郎だな)
「本人に聞いてみたらどうでしょうか」
「え、本人に…?ちょっと言ってる意味が分かりませんが」
思わず敬語が出てしまった。
「お昼から名残惜しいですが、赤城はお暇させていただきますね」
「おま、仕事」
「代わりに秘書艦に加賀を指名します」
「えぇ…」
「他の子でしたら死んでもお断りですが、あの子は別。せいぜい可愛がってあげてくださいね?」
そう言い残して、赤城は執務室から出て行った。
「…マジかよ」
プランB、所謂ピンチですね…。
行けるな?俺。
「…無理だな」
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____昼過ぎ。
「指揮官。昼から姉さまに代わって私が秘書艦を担当することになった」
「あ、ああ…よろしく頼む」
どことなくアンニュイな雰囲気を醸し出す白一色の尾を持つ船、加賀が執務室に立っていた。
「全く…姉さまも最近は真面目に仕事をしていたと思っていたのに」
「まぁまぁ…あいつもよくやってくれてるし」
「戦闘では、ですが」
加賀なりに姉の事を心配しているのだろうかと苦笑する。
「指揮官。あれから大事は無いか?」
「あれから、とは?」
「とぼけるな。あの機械が指揮官にあまり良くない影響を与えているのは皆気付いている」
「…!」
コジマ汚染に、気づかれている?
ネクストはコジマ粒子という金属粒子の反応から得られるエネルギーの恩恵で動いている。
そしてそのコジマ粒子は人体…ありとあらゆる生命に対して有害である。
明石達の協力によってその影響を抑え込むことに成功した…が。
抑え込むということは、未だ少なからず影響があるという事だ。
「…慣れている。平気だ」
「お前がそういうのなら良い。だが」
一息入れて、加賀は続けた。
「弱いものはすべからく淘汰される。お前がそこで倒れるというのならその程度だということになる」
「…わかってるさ。だが俺は、お前らよりも…強い」
少なくとも、相応に潜り抜けた修羅場の数は多い。
「…いい顔をするじゃないか」
「そうなのか?」
「ああ…そうじっと見つめるな。お前を食べたくなってしまう」
「…ん?」
じりじりと、気が付けば距離を詰められていた。
「…加賀?」
「私は征服者だ…誰に対してもな」
ついに加賀が俺の肩をつかんだ。
獣の力のお陰か、腕の力が強い。
「やめろ、加賀」
「ならば止めてみせろ。お前は強いのだろう?」
「この…!」
動かない。
艦船の力を使っているのか、びくともしない。
加賀の表情が恍惚としたものになる。
そのさまがとても艶やかに見える…が、開かれた口から見える犬歯が存在感を放つ。
食べる、というのはよもや物理的な意味ではなかろうか。
「いい加減に、しろ!!」
「お」
掴まれていた腕を引いて位置を入れ替える。
そのまま加賀を壁に押し付ける形になる。
「強引だな…だが、嫌いじゃないぞ」
「お前が言うな…あと、本当に食う気だったろ…」
「ああ…お前が美味そうに見えたからな」
「冗談じゃない、こんなことで死ねるか」
「私にもなぜこんな感情があるか不思議でたまらないものだ。獣の本能だろうか」
「…」
重桜の艦船は肉体の改造により、精神面で不安定な欠陥を抱えていると聞いたことがある。
獣の一部が肉体から生えているため、そういったところに引っ張られているのかもしれない。
「気持ち悪いか?私たちが」
「別に…欲があるってことは人と同じだ」
こいつらは機械じゃない。
暖かいし感情もある。
こいつらは生きているんだ。
生きているものは美しい、気持ち悪いものではない。
「そうか…」
首に手を回されて、密着される。
一瞬ドキリとするが、
がぶり。
「痛ッ!?」
首を噛まれた、と理解するのに少し時間がかかった。
「頂いたぞ、指揮官」
「お前なぁ…」
「油断すると食べてしまう。常々警戒することだな」
いたずらが成功したような顔でほくそ笑む。
…おそらく、はっきりと首に加賀の歯型が浮かんでいるだろう。
「仕事を再開しよう、指揮官」
「誰のせいでこんな時間が…まぁ良い」
仕事を再開する。
…首が痛い。
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それから。
「指揮官様、加賀、お疲れさまでした」
夕刻を過ぎたあたりで、赤城が様子を見に来た。
「姉さま、何しに来たのですか」
「指揮官様が加賀の事を気にしてらしたので、少しお手伝いを」
「見ての通りだ」
「…ほう?加賀?何故指揮官様から貴女の匂いがこんなに濃く…」
赤城が、俺の首筋に着いた歯型を見つけた。
赤城の目が据わる。
「加賀。貴女にも譲ってあげるつもりは無かったのだけれども」
「姉さま、早い者勝ちですよ」
「言うようになったわね…」
「あ、あわわわ」
なんか修羅場が始まった。
さっさと部屋から出た方が良いのかもしれな
「指揮官様…?どちらへ行かれるのですか?」
しかし 回り込まれて しまった!!
「あ、赤城…加賀と取り込み中のようだから席を外そうかなと」
「うふふ…指揮官様?加賀の前だからって恥ずかしがらなくてもいいのですよ?」
「…どういう事だ」
「加賀の前でしたら、赤城もやぶさかではありませんわ…まぁ他の子の前で見せびらかすのも悪くは無いのですが」
「…加賀?」
「指揮官、覚悟しろ。私たちでお前を食う」
「…ちょ、誰か!プリンツ!!助けてくれ!!」
この後夜中まで逃げ回ったのは、言うまでもなかった。
「冗談じゃない!夢なら覚めry」
「うふふふふふ」
この後、様子を見に来たティルピッツにしこたま怒られた。
ここの指揮官は生身で2段QBまがいの挙動をするらしい。
重桜の空母と鬼ごっこをするうちに身につけたのだとか。
エンタープライズが、戦ってみたそうにこちらを見ている。
「やらないからな!?」
「そうか…残念だ」