【完結】Azur Lane for Answer 作:塊ロック
「え"っ。指揮官バレンタイン識らないのかにゃ!?」
2月。
旧正月も終わり、サンディエゴ港が少し落ち着いた頃。
明石がチョコレートを発注したいと言うのでその吟味に来た訳だが。
「んー…そうだなわからん」
「えぇ…。指揮官女の子とかに貰ったこと無いのかにゃ…」
「…無いな」
顔を合わせる女性なんてほぼセレンさんしかいなかったし。
………そう言えば、リリウムが…。
いや、よそう。
あの子も俺が手に掛けたんだ。
「ユニオンは割と盛んだと思ってたけどにゃ」
「そ、そこで私に振るのか!」
クリーブランドが狼狽える。
確かに彼女はユニオンの出身だ。
「た、確かに…やるけど。私はいつも何故か貰う側だし…」
「クリーブランドは頼りになるからな」
「指揮官…私も女の子なんだぞ」
「判ってるよ。可愛くて頼りになる俺の大事な部下」
「うう…」
「はいはい惚気なら他所でやってにゃ」
「ハハハ。まぁ、クリーブランドがそう言ってるしOKしよう」
そんな訳で、サンディエゴ港にチョコレートが大量に仕入れられる事になった。
ーーーーーーーそして、当日。
「指揮官」
「おはよう、綾波」
朝、執務室でスケジュールの確認をしていると綾波が部屋に入ってきた。
「どうした?秘書艦じゃなかった筈だけど」
「どうぞ、です」
綾波が差し出したのは、可愛らしい包装に包まれた小箱だった。
「あー、これがバレンタインとかいうやつか」
「?指揮官、知らなかったんですか?」
「まぁ、明石にも言われたなそれ。前はそれどころじゃないくらい戦ってたからな…」
ネクストから降りたらちょっと寝てまた乗る。
そんな生活を幼い頃から繰り返していたらこうもなる。
「なら、綾波が一番初めですね」
「そうだな、ありがとう綾波」
綾波の頭を撫でてやる。
気持ち良さそうに目を細めた。
「失礼します指揮官ー。チョコレート貰えなさそうな可愛そうな指揮官に私から義理チョコですよ」
失礼なのはてめぇだ、と本人が知ってたら良いそうな台詞を吐きながらシュロップシャーが入ってきた。
俺の手にある箱を見て目を丸くした。
「ありゃ、流石に綾波ちゃんは渡しますか」
「です」
「バレンタインって種類あんの?」
「…噂は本当だったんですね。そうですよー。本命から義理、果ては同性に送る友チョコなんてのもあります」
「ふーん…あ、シュロップシャー。ありがとう」
「え、あ、はい。どうぞ」
貰えるならそれはそれで嬉しい。
ちゃんと指揮官として皆に慕われているって事なんだろうな。
「なんか、面白くないですね指揮官」
「しらんて」
「しきかーん。幽霊さんからバレンタインなのー」
なんとまぁ、皆俺に持ってきてくれるのね…。
ありがたいけど、なんか、多くね…?
「ご主人様、メイドの身で僭越ですがこちらを受け取って貰えないでしょうか」
「指揮官。ロドニーの気持ちです、受け取って下さい」
「指揮官。ユニオンにはチョコレートを渡す風習があるらしい。私は苦手だが…お前なら食べるだろう?受け取れ」
「指揮官。はいこれ。どう?嬉しい?え、義理かって?ふふ…勿論…本命よ。お返し、待ってるわ」
「全く…ここは浮つき過ぎね。まぁ、あの氷の中では知り得なかったこの喧騒…嫌いではないわ。だから、その…あ、あげるわ」
「指揮官。ハッピーバレンタイン。これからもよろしく。私と共に戦ってくれ」
「指揮官、ハッピーバレンタイン!チョコレート、結構自信あるぞ。食べたら感想聞かせてくれよ」
「………まさかこんな貰えるとは」
サンディエゴ港にいる艦船ほぼ全員から貰ったのではないだろうか。
…いや、赤城とネルソンが居ない。
「…赤城?」
「はい、赤城ですわ♪何か御用でしょうか」
「うおっ!?」
重桜の持つワープ技術で目の前に一瞬で現れた。
…相変わらず神出鬼没だ。
「…あー、重桜のさお抹茶、だっけ。あれ淹れてくれない?」
「珍しいですわね、指揮官様。以前は苦くて苦手だと」
「たまには、良いかなって」
「畏まりました♪少々お待ち下さいませ」
「戻りましたわ〜指揮官様〜」
10分くらいして戻ってきた。
お盆に乗せられた陶器に、緑の液体が溜っている。
…と、その横に茶菓子として何か付いている。
「…これは?」
「赤城の気持ちですわ。よかったら受け取って下さいまし?」
「…ありがとう。頂くよ」
ーーーーーー夜。
結局、今日一日ネルソンを見掛けなかった。
一体何処へ行ったのだろうか。
ネクスト…ストレイドの整備ハンガーに降りる。
俺は必ず、一日に一度はここに足を運んでしまう。
…こいつに、首輪で繋がれているから。
「指揮官」
「…ネルソン?何でここに」
「ここなら、必ずアンタは来ると思って」
「もしかして、待ってたのか?」
「ち、違うわ!ここなら探さなくても良いから手間かからないのよ!」
「そっか」
軽く笑って、ストレイドのOSを起動する。
少しずつ、中身をチェックしていく。
「ねぇ、指揮官」
「なんだ?」
モニターから目を話さず、意識だけネルソンに割く。
「アンタは、元の世界に帰りたい?」
「どうした急に」
「答えて」
「はいはい…答えはノー」
「どうして…?アンタの、産まれた世界でしょう?」
「やる事はやった。それに、ここでやらなきゃいけない事もあるし」
この世界に来た意味を、答えを探さなきゃいけない。
「それで、いいの?」
「良いさ。そう、答えたから」
世界に反旗を翻した俺に、テロリストのORCAに居場所は無い。
残してきたセレンさんが気掛かりと言えば気掛かりだが、あの日なら多分大丈夫だろうと言う確信が確かにあった。
「ねぇ、指揮官。それで…良いの?」
「良いんだ。好きな様に戦って、好きな様に死ぬ。それが俺…リンクスさ」
リンクス。
忘れてしまった自分の名前代わりの肩書。
「まだ、その偽名使うつもり?」
「当分はな…何せ覚えてない」
「何でそんな所だけ忘れるのかしら」
「さぁな。案外自分ってヤツを持ってなかったからかもな」
「自分を持ってないヤツが、セイレーンの根絶なんて大口叩けるもんですか」
「違いねぇ」
穏やかな時間。
目の前に居るのは一人の女性だと錯覚してしまう。
「で、本題に入ろうか」
「ちょ、ちょっと待って!まだ心の準備が…」
「…いやまる一日あったけど」
「う、うるさいわね…はい、チョコ。まぁ、こういうのたまにあげた方がモチベーションも上がるかもね」
「おう、ありがとう」
「それじゃ…」
「ネルソン」
「何よ…きゃっ、ちょっと、何する気!?」
ネルソンの手を取る。
「ホワイトデーで三倍返しって風習があるのをさっき聞いたんだが…一人ひとりに聞いてまわろうかと思ってて。何がいい?」
「えっ、今聞くの…そうね。大佐階級かしら」
「…一ヶ月で二階級すっ飛ばすのはちょっと厳しいかな」
「セイレーン狩れば余裕でしょ」
「それもそうか…じゃ、それまで付き合ってくれよ」
「フン…本当に、私がいないと駄目なんだから」
ちょっとだけ、今日は甘い日だった。
ちゃんとデレてくれるツンデレって難しいですよね…。
でもそれが大好きなんですよ。
ネルソンの好感度が足らないからケッコン出来ないのが本当に無念だ…。