【完結】Azur Lane for Answer 作:塊ロック
あの日から、俺は手空きの時間ずっとシュミレーターと向き合っていた。
今日で一ヶ月だ。
データ上に残されたシリエジオのデータと戦闘すること、既に50を超える。
勝率は……5割。
たかがデータにこの戦績である。
「………………鈍ったな」
結論としては妥当な判断である。
よくよく考えてみればこちらの世界に来てからロクに対ネクスト戦闘などしていなかったのだ。
相手にしたのはセイレーンに量産型、そしてスピリット・オブ・マザーウィル。
なんと言うか、極端な相手であった。
「聞き捨てならんな」
「……加賀?」
廊下の曲がり角に、白い狐が腕を組んでもたれ掛かっていた。
ちなみに本日の副艦は別である。
「私には鈍った、と聞こえたが」
「え?あぁ……まぁ、そうだな」
「我々を使役する人間がそんな腑抜けた事を抜かすなど許されない」
「……分かってるさ」
相手が居ないのだ。
今まで。
「お前の強さは重々承知している……私がお前に従っているのは、お前が私より強いからだ」
「加賀?」
はて、今日はやけに饒舌だな。
「私より弱い事など、我慢ならんぞ」
そう吐き捨てると、加賀は歩き去って行った。
「……何だったんだ?」
「恐らく、彼女なりの激励かと存じます」
いつの間にか背後にベルファストが居たのでちょっと驚いた。
「……何でまた」
「ご主人様は、此処の所思い詰めた様な顔をしています。それが原因ではないでしょうか」
「そんなに……?」
「はい。ご覧になりますか?」
用意が良いのか、ベルファストが手鏡を取り出す……胸元から。
何でお前そんな所に仕舞ってるの?
鏡に写されたのは、少しやつれてしまった顔だった。
「……これは、酷い」
「ええ。私を救って下さったご主人様は、もっと凛々しいお顔でした」
「お前、あの時俺の顔見てないだろ」
「あら、なんの事でしょうか」
ふふっ、と不敵に笑っている。
なんか俺遊ばれてない?
「それと、ロイヤルの力添えで先日拿捕したグラーフ・ツェッペリン様をアズールレーンへ正式にお迎えする事になりました」
「……まさか、本当に?」
以前から、ツェッペリンについてこちらで預かりたいと打診していたが……色良い返事が貰えなかった。
どうして今になって。
「女王陛下のご厚意による物です」
「クイーン・エリザベスが……?」
「これまでのご主人様の戦績から算出した褒章も兼ねて、だそうです。ご主人様はユニオン預かりのお方ですが……もしロイヤルの所属となるのなら、それ相応の地位を保証しますとも」
……やられた。
ロイヤルに少しだけリードを握られかけている。
「それ、俺に素直に話して良かったのか?」
「……何故、でしょうか。私がご主人様にロイヤルへ来て欲しいと……そう思ったからでしょうか」
面食らった。
いや、だってそんな事言われるとは思っていなかったから。
「メイドが出過ぎた真似を致しました。忘れて下さい」
ベルファストが逃げる様に去ろうとする。
俺は……その手を引き止めた。
「……ご主人様?」
「ベルファスト、腹減ったわ……何か用意してくれない?」
「えっ……」
実は、ベルファストが着任してから彼女へ仕事以外の頼み事をしたことが無い。
彼女も相当驚いているようで……花が咲くような笑顔を浮かべた。
「畏まりました。少々お待ちください……!」
パタパタと去って行った。
「……ちょっと、思い詰めすぎてたかな」
少しだけ、肩の力が抜けた気がした。
結局、この後加賀も呼んで軽食の運びとなった。
……昨夜の残りのカレー。
不思議と、昨夜より美味しく感じた。
「……少し良い顔になったじゃないか」
「茶化すなよ、加賀」
少しずつでも良い。
前に進めているのなら。