【完結】Azur Lane for Answer 作:塊ロック
その中でリンクスは思う。
晴れ渡る空、どこまでも続く青い空。
澄み切った群青、目の前にいっぱい広がる大海原。
息苦しさの欠片もない空気。
俺は、基地から少し離れた海岸の防波堤に腰掛けていた。
たまに、一人で考えたい時……ここに来る。
「……俺、このままここに居ても良いんだろうか」
そんな事を、ぼんやりと海を眺めながら考えてしまっている。
最近は特にそうだ。
重度のコジマ汚染の影響か、ぼう、っとする事が増えた。
考え事、とまで行かずとも漠然と何かに耽っている。
何を思う、と聞かれれば……前に居た世界の事。
コジマと汚泥、瓦礫と砂漠、陰った空の世界。
あの世界でした事の行方を見ぬまま、俺はこちらへ連れて来られてしまった。
故に、思うのだ。
「帰るべき、だろうか」
と。
「……何言ってるのよ、アンタは」
見かねたからか、背後から投げられた声。
意識を向けて、振り返る。
見間違えようもない豪奢な金髪。
「ネルソン」
「アンタが居なくなったら、軌道に乗りはじめたこの計画どうなるのよ」
「クローズプラン、か……」
セイレーンを打ちくだき、閉ざされた航路を解放する。
テルミドールの真似事とは言え、割と良いセン行っていたとは思うのだったが。
「自分で言い出しておいてほっぽり出すなんて信じられないわ」
「そうだな……けどさ、時々思うんだ」
正確に言えば、シリエジオを撃破した時から。
「俺だけが、この景色を見ていても良いのだろうかって」
かつて、未来の為に今を生きる全ての人類から翼を奪った。
安全な空で生活していた富裕層全てを引き摺り降ろし……汚染された大地へと、連れ戻した。
本来なら……こんな光景が見られるのは、2世紀3世紀も後の人類達だ。
「ただひたすらに殺して……踏み躙って、そんな俺だけが……この景色を、見ても良いのかなって」
「知らないわよ、そんなの」
バッサリ。
流石にあんまりである。
「………………」
「気を悪くしても続けるわよ。アンタは言ったわよね。権利と義務があるって」
「言った……気がする」
「言ったのよ。私は聞いたわ。何のつもりか知らないけど、アンタが過去に何をしたのか私達は知らないわ」
ネルソンが隣に座った。
……潮風で、ネルソンの髪がたなびいた。
「……やっぱり、帰りたい?」
お互いに正面を向いているから、顔は見えない。
声音は……どうだろうか。
平然を装っている感じがする。
「どうかな……多分、帰れない」
「何故?」
「何となくだけど、俺もお前達と同じなのかもしれない」
「どういう事……?」
「KAN-SENはオリジナルを元にレプリカが量産される。俺も、もしかしたら……あの世界の『リンクス』を元にしてキューブから産まれた『リンクスのような物』なのかもしれない」
いつまで経っても本名だけは思い出せない。
あれだけの死線をくぐり抜けたというのにテストのシリエジオに勝率が5割を切っていた。
偽物だと判断するには些か遅すぎたのかもしれない。
「経験と、身体の乖離……そんな感じがしてた」
俺の経験だと思っていたものは、全部借り物。
「……ふぅん。それで?」
「それでって……お前、俺は」
「それを量産された私に言ってもどうしようもないのよ」
「……あ」
「でも、何となくアンタの悩みは分かるわ。仮にそうだとしたら……同じだもの、私達」
「……すま」
「謝ったら、トラファルガーの藻屑にするわよ」
「じゃあどうしろよ」
「そうね」
ネルソンが立ち上がる。
襟首を摑まれて、立ち上げさせられた。
「オイ」
「リンクス。アンタは、私の出した条件を満たしたわ。私の隣に並び共に戦う権利がある」
「………………」
「だから、もう一度……新しく問うわ」
ネルソンと向き合う。
その瞳に宿る意志は、いつだって揺らがず……自信に満ち溢れていた。
「クローズプラン。やり切るのかしら?」
……まだ、終わってはいない。
「答えは、決まってる」
好きな様に生きて、好きな様に死ぬ。
俺たちは、そんな存在だったな。
「俺は……」
一層強い風が吹く。
俺の声は、かき消されてしまったかもしれない。
「……そう」
しかし、ネルソンはそう言った。
……今まで見たことの無い、とびきり素敵な笑顔で。
次回、最終回。