ドラゴンクエストⅤ 迷い込まれし転生者   作:ひな太郎

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第14話 お化け退治

「どうかお願いじゃ!この城に住み着くゴースト達のボスを追い出してくれぬか?」

「いいえ」

 

そう言った瞬間、空から雷が……落ちずに俺の脇腹にビアンカの拳が刺さった。

 

「何のために私達はここに来たのよ、バカ」

 

イテテ。ちょっとしたドラクエジョークってやつさ。

会話無限ループというシュールな光景を一度はリアルで味わいたかったんだよ。

てかマジで脇腹痛ぇ。ビアンカのやつホント容赦ねーな。

 

「そ、そうか。……すまぬ、そなた達には少々荷が重かったようじゃな」

 

あれ。もう一度問いかけないの?選択肢出ないの?

 

「じょ、冗談です!やります!私達に任せてください」

 

ビアンカが大慌てで王様に訂正する。

 

「そうか、やってくれるか!ありがとう、そなた達は誠に勇気のある者達じゃ」

 

俺の返答で暗い顔をしていた王様が、今では満面の笑みで語りかけてくる。

ドラクエの世界とは言え、やっぱりここは現実世界なんだなと改めて実感した。

ごめんなさい、反省してるんでビアンカさんはこっちを睨まないでください。

 

王様からボスの居場所を教えてもらった。

ついでに、真っ暗な通路があって進めないところがあるという旨を伝えると松明の場所も教えてくれた。

どうせ城内に戻った途端説明を受けるんだから先手を打って聞き出した。

アベルとビアンカはそんなところあったっけ、と首を傾げていたが気にしない気にしない。

 

早速、松明を求めて地下へと向かった。

 

 

 

 

 

「わあ!おっきな料理」

 

地下に到着した。

部屋を覗くとそこには釜戸や食器、調理台や調味料などがあり正しく厨房だった。

そしてアベルが釘付けになっているところに目を向けると、かなり大きなプレートに沢山の肉や野菜が盛り付けられていた。

その側には魔物2体と城のシェフらしき幽霊が1人いる。

 

一見華やかな料理に見えるが、その風貌に似つかない程の悪臭が漂っており鼻がおかしくなりそうだ。

 

「何この臭い」

 

しかめっ面でビアンカが言う。

恐らく、あの料理に使われている肉が原因だろう。

 

(何の肉だ?)

 

……料理が気になるところだが、さっさと松明を回収して引き上げよう。

 

「俺が取ってくる。お前らはここで待ってろ」

「場所はわかるの?」

「まあ、何となくな」

 

確か一番奥の壺だよな。

 

俺はコッソリと厨房へと入り、奥の壺を目指す。

 

「うっぷ……こんな味付け、私だったら吐きそうだ……」

 

シェフの幽霊が呟く言葉が耳に入った。

……やはり一般的な食用肉を用いている訳じゃないのか。考えるだけでも身震いする。

 

奥の調味料棚までやってくると、その横に壺が二つあった。

奥側の壺の中を覗くとビンゴ、王様の言っていた松明が入っていたので回収。

無事アベル達の元へ帰り、そのまま1階へと戻る。

 

 

んじゃ親分ゴーストのとこ目指しますか……と、そうだ。

 

「悪い、ちょっと武器拾ってくるわ」

「そう言えばそうだったわね」

「二人はここで待っててくれ」

 

うごくせきぞう戦で投げ飛ばした銅の剣を求め、俺は正面玄関を抜ける。

少し辺りを見渡すと地面に突き刺さった剣を発見した。

 

少し力を入れて剣を引っこ抜く。

あちゃー。結構荒い使い方したから所々刃こぼれが凄いな。

精々親分ゴースト戦までが限界だろうな。

村に戻ったら親父に手入れ頼むか。

 

俺は背中に引っ下げてある鞘に剣を収め、城の中へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「どう?使えそう?」

「んー。ちょっと刃こぼれしてるけど大丈夫だろう」

「そう。じゃあ行きま……あら?」

 

そろそろ移動しようとした矢先にアベルの姿が見当たらない。

 

ったく、アイツどこに――。

 

城内を見渡すと1階の広間の方にアベルの姿があった。

アベルはポツンとただ佇んでいて、ボーっと何かを見ている様子だ。

 

「おーい、何してんだ。早くいくぞ」

「あ、うん!」

 

俺が声をかけるとアベルはハッとした表情になりこちらに顔を向け返事をした。

 

「何か気になるのか?」

「……ここで踊ってる人達を見ていただけ。何か、皆ちょっと辛そうだったから」

 

アベルの言葉を聞き、周囲に目を向ける。

さっきまで気にもしていなかったが、よくよく考えてみれば半透明の幽霊たちがうようよと漂っている様は何とも非現実的な光景だ。

そしてこの人達は死んでもなお、望みもしない死者の舞踏会へと縛り付けられ、永遠と踊らされ続けているのだ。

 

苦しみ、悲しみ、侘しさを感じながら――。

 

目先の光景だからこそ余計にこの人達の気持ちが伝わってくる。

そんなことを考えると、急に胸がざわつき始め変な不気味さが俺を襲った。

 

(……ッ。気分がいいもんじゃねーよな)

 

どうしてか憤りを感じた。

 

「行くぞアベル」

 

アベルを連れ、ビアンカの元へと合流する。

 

「準備はいい?」

「うん!」

「OKOK、バッチリよ。でもその前に、俺いい作戦思いついちゃったんだよねー」

 

俺がニヤりと不敵な笑みを浮かべるとビアンカの顔が引きつった。

 

「アンタがそういう顔する時は大抵ろくでもない事ね」

 

 

 

 

俺は二人に作戦を伝えた。

 

さーて、我が物顔で鎮座する親玉さんにお灸をすえに行きますか。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

――王座の間。

 

「あれが王様たちの言ってた奴?」

「一人しか居ない辺り、それっぽいな」

 

俺たちは王座の間へと到着し、柱から顔を覗かせ敵の様子見をしていた。

 

「んじゃ、打ち合わせ通りよろしく」

「わかった!」

「本当に大丈夫なのかしら」

 

 

 

 

 

俺とビアンカは王座の間へと入ると、親分ゴーストは俺たちの存在に気づいたようだ。

 

「ほほう……。まさかここまで来るとはな。大したガキ共だ」

「おい見ろよビアンカ!レヌール城のオバケってやつは本当に化物見たいな顔してんのなー(棒)」

「まー!何て恐ろしいのかしらー。まるで馬にでも蹴られたような醜い顔だわー(棒)」

「なっ!?」

 

俺たちの言葉を聞いた親分ゴーストは少し頬を引きつらせた。

だがすぐに作り笑顔をし、俺たちに語りかける。

 

「ま、まあ……折角ここまで来たんだ。褒美に美味しい料理を作ってやろうじゃないか」

「えー!化物が作る料理だってよー。絶対不味いに決まってるよなー(棒)」

「きっとそうよー。あの顔面から漂うトイレのような臭い料理に決まってるわー(棒)」

 

あらー、親分ゴーストさん大分眉がピクついてますわー。

もう今にも怒りで爆発しそうな勢いだな。

 

「き、貴様ら……ッゴホン!お、美味しいから、ほら!さあ、こっちに来なさい」

「でもでも~。これ以上近づいたらマジで鼻がもげそうだし~。お前マジ臭いし~(棒)」

「さっさと馬小屋に帰って水浴びでもしてくれないかしら~。まあその体臭だと例え聖水を浴びたとしても臭い落ちなさそうだけど~(棒)」

 

散々な罵倒を浴びせ続けると、親分ゴーストはわなわなと震えだした。

 

「ガキ共!いいからこっちへ来い!」

 

そして遂に相手は怒りの頂点へと達したようで、親分ゴーストは王座から立ち上がり怒気を荒げる。

ありがとう、それを待っていた。

 

「んじゃ二人ともよろしく」

「メラ!」

 

俺の合図でビアンカはメラを発動。

親分ゴーストに命中――せずに相手の足元へと着弾した。

 

ドカンッ!!!

 

「な!なにを!?」

 

突然の出来事に相手は驚いているようだ。

だが、すまない。アンタの悲劇はこれからだ。

 

「グハッ!!」

 

親分ゴーストは悲鳴を上げながらグラッとバランスを崩す。

そのまま前のめりに倒れ込み、顔から地面へとぶつかる……ことはなかった。

 

何故かって?それはビアンカのメラにより地面に穴が空いたからだ。

 

本来ならばゲームのシナリオをなぞると俺たちはトラップに引っ掛かり地下へと転落コースだ。

だがそのトラップを逆手に取った。

 

実は1階に居た時、広間から王座の間へと繋がる天井をよく観察していた。

すると明らかにトラップの幅分、天井にかなり深い窪みが出来ていた。

そもそも城を建築する際にトラップなんて作るはずがないから、親分ゴーストが人間を落とすためだけに簡易的に作ったのだろう。

 

だから俺はこう思った。

実はあの床は意外と薄いんじゃないのか、と。

 

後は簡単、空いた穴に親分ゴーストを落としてしまえばいい。

しかし力づくで落とすのには少々リスクがある。何せこっちは複数人とはいえまだ子どもだ。万が一、力で負けてしまえば元も子もない。

 

そこでアベルだ。

 

初めに俺とビアンカで親分ゴーストの目の前に出る。

相手が俺たちに気を取られている合間に、アベルがこっそり王座の後ろへと移動する。

俺とビアンカで相手を煽り、王座から引き剥がすよう誘導する。

相手が立った瞬間、ビアンカの呪文で床を破壊すると同時にアベルが親分ゴーストの後頭部に全力の攻撃をお見舞いする、という算段だ。

 

そして見事、計画通りに事が運んだという訳である。

 

 

 

 

親分ゴーストはそのまま穴の中へと入り込み、地下へと落下していった。

 

「やった!やってやったぞ!」

「うまくいったね!」

「まさか本当に成功するとはね」

 

ビアンカがやれやれと疲れた表情だ。

いやーホントに成功するとはね。俺も正直ビックリ。

穴から下を覗くと打ち所が悪かったのだろうか、親分ゴーストは料理プレートの上でのびきっているようだった。

 

「最初に作戦を聞いたときは半信半疑だったわ。……まあ、結果的に上手く行ったから別にいいけどね。にしてもアンタ、演技下手すぎるわよ」

「そういうお前こそ下手クソ過ぎんだろ。でもその割には相手をイラつかせるボキャブラリーは豊富なのな」

「何?ケンカ売ってんの?」

 

イーッ!と俺とビアンカがいがみ合う。

その様子をアベルはケラケラと楽しんでいる。

何だこれ。

 

 

「まあ、とりあえず」

「お化け退治」

「「「大成功~!!!」」」

 

 

3人でハイタッチを交わす。

 

こうして俺たちはレヌール城お化け退治を成し遂げたのであった。

 

 


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