第16話 違和感
サンタローズ村に戻ってきた次の日、俺はサンチョの家へと来ていた。
「こんにちわー」
「おや、レオン君ではありませんか」
「レオン兄ちゃん!」
アベルが俺を見るや否やお腹へとダイブしてきた。
「うおっと!今日も元気だなアベル」
「レオン兄ちゃん遊ぼー!今日お父さんずっと家にいるって言うからつまんないんだ」
「そっか。んじゃ遊ぶか……て言いたいんだけどサンチョさんに用があって来たんだ。また後でな」
「え~!じゃあボロンゴと外で遊んでるから来てねー」
アベルはそう言うとボロンゴと一緒に外へと駆け出して行った。
いやはや、相変わらず元気だな。
「レオン君、私に用ですかな?」
「うん、ちょっと色々聞きたくて」
そう言うとサンチョは快く了承してくれた。
俺はいくつか疑問をサンチョに問いかけた。
内容はステータスや概念の認識についての話なのだが、主に3つ。
1つ目はHPについて。
俺はレヌール城で負傷した時の出来事を話した。
ホイミをかけたとき腕は折れているがHPが全快だった件だ。
「レオン君、そんな重傷を負っていたのですか!?」
サンチョは俺の身に起こったことに驚いていたが、質問については答えてくれた。
どうやらHPは「耐久値」に依存するらしい。
耐久値というのは見えないステータスだとサンチョは言っていた。
詳しく説明すると、モンスターから受けるダメージ量は耐久値の高い人間はダメージ量が少なく、耐久値の低い人間はダメージ量が多いらしい。
もちろんダメージ量は守備力も関係するので、さしずめ耐久値は第二の守備力といったところだ。
そして耐久値というのは、その人の体の状態によって変動するらしい。
例えば、健康な肉体を持っている人の耐久値を100と仮定すると、病気やケガなど体の状態が悪い人だと耐久値が70や50と下がったりする。
仮にその人が重い病気を患っている場合だと耐久値はかなり低く、モンスターから攻撃を受ければかなりヤバい。
最悪、ショック死のようなことが起こるらしいのだ。
つまり俺が負傷していた時の状態と言うのは、HPは最大だが耐久値が100から幾分下がっていたと考えてもらっていい。
冒険をするにあたって怪我は付き物だが、病気だけにはマジで気をつけようと思った。
2つ目はこの世界に存在する呪文と特技について。
レヌール城にてビアンカの前でスキル「カウンター」を使用したのだが、そのことについて特にビアンカから疑問を投げかけられる事はなかった。
俺としては説明(と言ってもどう説明すべきか)する必要がなくて良かったのだが、逆にこの世界の人は呪文と特技の種類や認知はどれ程なのか気になった。
サンチョいわく、『呪文や特技はたくさん種類がある事は知られているが、皆が皆全ての種類を把握している訳ではない』というのが世間一般の認識らしい。
呪文についての文献は存在はするらしいが、一般的には出回っていないようなので猶の事らしい。
だから、特技「気合いため」を見たことない人が初めてその特技を見たとしても「そんな特技もあるのか」程度の感覚だという。
元々俺はゲームを通じてこの世界にどんな魔法や特技があるのかを大方把握いたため、何となく「スキル」という本来無いはずの存在を周りに知られるのはリスキーであると先入観を持っていた。
だがサンチョから話を聞く分に、案外俺のスキルは特技程度の存在なんだと思った。
そう考えると少し肩の力が抜け安堵した。
3つ目はステータスについて。
俺はどうしてもステータス画面の存在に違和感を感じていた。
だってあまりにも非現実的だ。電子タブレットを用いている訳でもないのに文字盤が宙に表示されているのだから。
俺はステータスの位置付けについて単刀直入にサンチョに聞いた。
「サンチョさん。何でステータスって表示されるの?何でHPやMP量がわかるの?」
するとサンチョは少し難しい顔をして答えた。
「何で、と言われましても。そういうものとしか……」
……うーん。サンチョの返答からすると当然の常識としか言いようがないのか。
存在して当たり前、か。
つまり『ステータスの表示』と言うのは、俺の居た世界で言うところの『患者の容態を診るための心電図モニター』と似たような位置付けなのかもしれない。
存在するから用いる。用いるから状態がわかる。ただそれだけの事なのだろう。
(あんまり深く考えるなってことか)
俺は椅子から降り、玄関へと向かった。
「色々教えてくれてありがと!俺、アベルのとこ行ってくるよ」
「いえ、またいつでも。あまり坊っちゃんと遠くに行かないように」
「わかった」
俺はサンチョ宅を後にした。
俺は外に出るとアベルの姿を探した。
ったく、ボロンゴが増えたからってどこまで遊びに行ってるのやら。
少し駆け足で辺りを探すと――。
ドンッ!
「いって!」
俺は誰かとぶつかったようで、その場に転んでしまった。
「あ、ごめんね坊や。怪我はない?」
「いえ、大丈夫です」
俺はそう言って差し出された手を握って起き上がった。
そして相手にお礼を言おうと顔に目を向けた。
「ッ!……君は」
十代後半といったところか。相手の青年が驚きの表情を浮かべている。
それと同時に俺も驚いた。
コイツ、アベルだ。
恰好からして分かった。子どもアベルのゴールドオーブを求めてこの時代に来たのだろう。
教会の方から来たあたり、既にアベルたちは接触したのだと考えられる。
しかし――。
(何か、おかしい)
違和感を感じる。
この大人アベルはどこか様子が……。
しかし、いや……違う。
俺が驚いているのは、バッタリ出会ったからとかそういう事じゃない。
お前……。
(何でそんな悲痛な表情で俺を見るんだ)
それは決して、数年ぶりに幼き同郷の友人と再会した顔ではなかった。
(それじゃ、まるで……)
まるで、
大人アベルはスッと踵を返し、村の門へと向かい始めた。
俺は咄嗟に追いかけた。
「おい、待てよ!お前!」
大人アベルは立ち止まる。しかしこちらを振り返りはしない。
呼び止めたはいいものの、何を聞けばいいのか。
いや、何から聞いていいのかよく分からなかった。
すると大人アベルが口を開いた。
「坊や。君は冒険は好きかい?」
「……ああ」
質問の意図はわからないが、とりあえず肯定した。
「そうか。じゃあ――」
大人アベルが顔を少しこちらに向けて言う。
「君は、冒険をしない方がいい」
……え?
俺は一瞬、大人アベルの言ったことが理解できなかった。
「なあ、それってどういう……」
俺の声が届く前に、大人アベルは村の門へと歩いていく。
「ま、待て!!」
待ってくれ。
行かないでくれ。
アベル、お前は一体何を経験してきた。
何を見てきた。
(俺は……ッ!)
俺の身に、何があったんだ!
追いかけるものの、俺は門の近くで足がもつれうつ伏せに転んでしまった。
「クソッ……アベル……」
辛うじて顔を上げ前方を見る。
しかし既に大人アベルは門を通過してしまったようで、その姿を見ることはもうなかった。