「イテ!……ッ~、沁みるな」
俺は自宅で転んで怪我をしたところに薬草を塗り込んでいた。
最初はアベル(子どもの方)を探したついでにホイミで治してもらおうとしたのだが、思った以上にズキズキと痛むため先に治療してから探すことにした。
「珍しいわね、レオンが転んで怪我だなんて」
「まぁね……。薬草ありがと、母さん」
「しっかりしてると思いきやまだまだ子どもね」
クスリと母さんが笑う。
ハハハ、この年にもなって転んで怪我とは情けない。あ、体は子どもか。
「よし」
薬草を塗った上から包帯を巻きつけ終えた。
「んじゃアベルのとこ行ってくる」
「気を付けなさいね」
アベルを探しながら俺は考え事をしていた。
というよりも、先ほどのアイツの言葉が頭から離れないのだ。
『君は、冒険をしない方がいい』
どういう意味だ?
恐らくは俺の身を案じての発言だろうということは分かる。
だがあの雰囲気から察するに、未来の俺に何か問題があったというのは確かなのだろう。
……まさかホントに死んだとか?
え、やめて。ゲームオーバー確定の人生なんて想像したくないわ。
俺は若いうちからいつ来るかも分からない死に怯えながら冒険するの?
「ハッ!そうか!冒険なんてやめてお家でぬくぬくしろって事か!」
真顔でボケてみるがツッコミ不在という悲しい状況のせいですぐ我に返った。
「はぁ……」
無意識にため息がこぼれる。
もしも俺が未来で酷い目にあうことを大人アベルが忠告してくれているのであれば、俺がアベルの冒険に関わることは果たして本当にアイツの為になるのだろうか。
……正直わからない。
無駄死にする可能性だってあるだろう。
でも、このまま何もしなければアベルの運命はゲーム通りになってしまう確率は高い。
だが俺という存在がアベルの冒険に加わることで、少しでも物語が良い方向へと行けるのであれば俺は冒険をやめる訳にはいかない。
俺は改めて決心を固めたのであった。
気づけば宿屋の前まで来ていたようだ。
「アベルの奴どこだ?まさか建物の中とか?」
何となく宿屋の中を窓から覗き込む。
特に誰かがいる訳でもなく、カウンターの方を見ても丁度店主が席を外しているようだった。
「別のとこ探すか」
カウンターから目を離そうとした時、視界の端に何かを捉えた。
(ん?)
よくよくカウンターの方を見てみると、フワフワと羽ペンが浮いている。
そのままインクのボトルへとペン先が向かい、そして羽ペンは近くにあった宿帳へと向かった。
何だあれ。
まるで透明人間が羽ペンを持ち、宿帳へ何かを記入しているような様であった。
……えッ、えぇ!?
何!?普通に怖いッ!
この村、幽霊が出るなんて設定あったっけ!?
あれか!もしかしてこのレオン、生まれて初めての幽霊との遭遇?
あらヤダ!この光景をカメラで収められないのが何とも歯痒い。
未知との遭遇で暫く興奮していた俺だったのだが――。
(あれ?)
宿屋……宿帳……落書き……。
……あーそうか。わかったわ。
ベラだ。
大人アベルといい、タイミング的に考えてそうだろう。
どうも現実での生活はゲームとの時間感覚にズレが生じるなぁ。
まぁいいや。
早速接触と行きますか。
俺は勢い良く宿屋の扉を開けた。
「ヘイ!そこの少女、勝手な落書きは悪い事じゃないのかな?」
突然の呼びかけに驚いたのか、羽ペンがポトリと床に落ちる。
そしてベラが「まあっ!あなたには私が見えるの!?」と詰め寄ってくるかと思いきや――。
シン……。
(えーっと。あれ?)
何故俺は気づかなかったのだろうか。
先ほどの羽ペンが浮遊しているように見えていたという事は、最初から俺にはベラの姿が認識出来ていなかったということを。
ど、どうしよう。
「あーあのな、何となく誰かがいるんだろうなーってことは分かるんだよ。でもごめんな、姿や声を認識できないんだ」
何故かベラに対して変に申し訳なさが込みあがってき、つい言い訳を始めてしまった。
すると二階から宿屋の主人が降りてきた。
「坊や、何を一人でぶつぶつと言っているんだい?」
「え!?あ、いえ何でもないです」
「ふむ。……おや?」
宿屋の主人が宿帳に目を向けた。
あ、やべ。
宿帳へと落書きをした犯人はベラなのだが、俺にも主人にもベラの存在が認識できない。
となると必然的に……。
「コラッ!!坊や、宿帳に何をしている!」
ですよねー。
*****
「クソ……何で俺が」
宿屋の主人に手ひどく叱られた俺は再度アベルを探し始めた。
しかし村を一通り探してみたのだが何故か見当たらない。
「あれー?どこ行ったんだアイツ」
これだけ探して見つからないなんておかしい……。
もしかして、すれ違いでベラと一緒に妖精の村に行こうとしてるとか?
俺は大急ぎでサンチョの家へと向かった。
「サンチョさん!アベルいる?」
慌てて扉を開けた俺はサンチョに問いかける。
「坊ちゃんですか?少し前に戻ってきたので2階にいると思いますよ」
サンチョがそう言うと、地下からパパスが上がってきた。
(……という事は)
「ありがと、サンチョさん!」
俺は急いで地下へと駆け下りていった。
階段を降りてすぐ奥の部屋に行こうとした瞬間――。
「イテッ!」「いたっ!」
不意に何かにぶつかったせいで尻餅をついてしまった。
「イツツ……て、アベルか」
「あ!レオン兄ちゃん!」
目の前を見ると同じように尻餅をついているアベルとボロンゴがいた。
どうやらアベルとぶつかってしまったようだ。
「お前何で階段の方に向かってたんだ?」
「あ、そうそう!何かね、えるふ?の国が大変で来て欲しいって言われたの。だからレオン兄ちゃんと一緒に行こうと思って呼びに行こうと思ったんだー!」
なるほど。ベストタイミングだったわけだ。
それにしても、アベルがちゃんと俺を呼びに行こうと思ってただなんてレオン兄ちゃん嬉しくて泣いちゃいそう。
「オーケー、大体のことは把握した。んじゃ、ちょっくらエルフの国とやらを救いに行くか!」
「うん!」
「ガウッ!」
地下室の奥を見つめる。
そこには一部時空のゆがみが発生していた。
その中を覗くと、発光する階段が天高く続いており、俺たちは一段ずつ階段を駆け上がっていった。