階段を上がっていた俺たちはいつの間にか光に飲み込まれていた。
次第に光は徐々に薄れてき、ぼんやりと周りの景色が見えてきた。
「わ~~!」
「おぉ、すっげぇ」
そこには氷の世界が広がっていた。
地面に咲く氷像のような花。
どこまでも続く凍った湖。
全てが幻想的で圧巻の光景だった。
ぼーっと景色に見惚れていると斜め前から声が聞こえてきた。
「あ!来てくれたのねッ」
蒼髪の少女がアベルに話しかけている。
(ほう、これがエルフか)
透き通った雪のような肌に、象徴と言わんばかりの尖がった耳。
艶のある髪の毛に、人形のように大きな眼。
うん、何と言うかこんな存在が目の前にいるだけでありがとうと言いたい。
俺今までアイドルにハマる奴の心境って良くわからなかったんだが何となく理解できた気がする。
そんなことを考えながらベラに対し合掌をしていると――。
「さあ、今すぐポワン様の元へ……あれ?」
ベラと目が合う。
「あ、ああッ!!!あなた、さっきの!!」
「どうも、あなたの宿帳への落書きのせいで店主にとばっちりを受けたレオンです」
淡々と自己紹介する俺に対し、ベラの表情が青ざめる。
「ご、ごご、ごめんなさい!!私、人間に気づいて欲しくてあちこちでいたずらをしてたの!私のせいで本当にごめんなさいッ!!」
心の底から申し訳ないのか、俺に対してベラは90度のお辞儀で謝っている。
まるで土下座でもするかのような勢いでちょっとビックリした。
……ったく、ここまでされちゃ大人な対応するしかねぇな。
「いいよいいよ、全然気にしてないよ。ただホンの30分程店主にガミガミ怒られただけさ。本当はアベルを探していたのに、とばっちりを受けるなんてね。キミの可愛いイタズラのせいで。たまたま宿屋に寄っただけで俺もあんな事になるとは思わなかったよ。ホントにね、見えもしない妖精が犯人だなんて店主は思わないよね。必然的にあそこにいた俺が犯人になるよね。あーあ、いいよな妖精さんは見えないから疑われもしないんだから」
「ほ…ほほ本当に……ごめんなさいッ…!!」
俺があまりにも真顔でグチグチ言うもんだからベラが涙目になって謝罪をする。
「あ、いや……。すまん、ちょっとからかっただけだ。本当に怒ってるわけじゃないから」
う……まさかベラの奴、冗談が通じないタイプだったなんて。
これがビアンカだったら「めちゃめちゃ怒ってんじゃない!」とか言ってツッコんで来そうなんだがな。
「グスッ……いえ、元々悪いのは私だから」
ベラは目に浮かべた涙を拭い、再度向き合う。
「私はベラ。ここの妖精の村の住人よ」
お互いの自己紹介が終わったところで、ベラは俺たちをポワンのもとへと連れて行った。
「ポワン様。仰せの通りに人間族の戦士を連れて参りました」
「ご苦労様、ベラ。まあ!何て可愛い戦士様ですこと」
ベラやそこらの妖精も美しいが、ポワンは群を抜くほど美しかった。
いや、美しいなんてものじゃない。何だか後光が見えてきそうなほど神々しかった。
さすが村長とだけはあるな。
良くゲームをやっていた頃にこのポワンのことを勝手に妖精の女王だと勘違いしていたのはいい思い出。
てか村長でこのレベルなら女王ってもう神なんじゃないの?
「め、滅相もありません。こう見えましても彼は……」
「フフッ、言い訳はいいのですよベラ。すべては見ておりました」
ポワンはベラの人間界での行動を監視していたのか。
じゃあベラの所業によってとばっちりを受けた俺に対しての労い、もしくはベラへの処罰なんてこともあり得るのですかねぇ。
ゲスな笑みを浮かべていると、離れてこちらを見ていたベラの顔が何故か引きつっていた。
そんなことは他所に、ポワンがアベルに声をかける。
「アベルと言いましたね。ようこそ妖精の村へ」
「こ、こんにちは」
アベルは少し緊張した様子でポワンに一礼する。
そんなアベルにポワンは、まるで我が子に向けるような優しい笑みを浮かべる。
「そんなにかしこまることはありませんよ」
ポワンは続けてこう言った。
「あなたに私たちの姿が見えるのは何か不思議な力がある為かも知れません……ですが」
そう言うとポワンは俺の方に目を向けた。
「そこの少年。あなたは特に不思議です」
その言葉に俺はビクリと驚いた。
不思議って、それって一体……。
「……どういう事ですか?」
「私もハッキリとはわかりません。ですが、恐らくアベルと同じ……いえ、それ以上に異質なものを微弱ながらあなたから感じます」
俺がアベルと同等?それ以上に異質?
ポワンの言っていることが俺には益々わからない。
……いや、もしかすると俺の存在自体が、という事なのか?
確かに俺はこの世界から見れば、文字通り異質だ。
前世の、このドラクエ5の世界を知った上で転生し、その上スキルという特異なモノを保有している。
その事をポワンはわずかながら感じ取っているということなのだろうか。
俺が難しい顔をして考えていることが伝わったのか、ポワンは優しく俺に言葉をかける。
「感じたことを口にしたまでなので、お気に障ったのなら申し訳ありません」
「い、いえ。因みにその俺の力って、ポワン様から見てどう思いますか?」
俺のスキル、いや俺の存在はこの世界にとって善なのか悪なのか。
俺の質問に対しポワンは直ぐに口を開いた。
「そうですね。率直に申し上げるのなら、非常に力強く、そして優しさを感じます。あまりそう身構える必要はありません」
優しさ、か。
正直あまりピンとは来ないが、少なくとも俺の存在がマイナスではないのであれば気にしなくてもいいか。
ポワンは改めて俺たちの方へと顔を向けた。
「アベル、レオン。あなた達に頼みがあるのですが引き受けてもらえますか?」
「うん!」
「ああ」
ポワンからある依頼を頼まれた。
内容は、春風のフルートが盗まれたことにより、世界に春が訪れなくなったから取り戻して来て欲しいということだった。
最近やけに寒い時期が続くと思ったよ。
おのれザイル絶対に許さん。いや、元はと言えば雪の女王がザイルを
雪の女王、テメー火炙りの刑な。
一通り説明を受けた後、ポワンがベラに同行するよう言い、俺たちはポワンの元を後にした。
*****
「……キミ達、恥ずかしくないの?」
現在、ベラは俺たち(主に俺)に対し軽蔑の眼差しを向けている。
「ヘッ!元はと言えばベラが何にも用意してなかったのが悪いんだろ」
「だからと言って防具屋の人が可哀想よ!」
俺とアベルは毛皮のフードを初め、ロープや燭台など様々な備品を抱えていた。
何故このような姿になっているかと言うと、事の発端はこの妖精の村の異常な寒さだった。
そもそも俺とアベルはサンタローズ村よりも寒い、この極寒の環境を耐え凌ぐほどの装備が整っていなかった。
だからベラに防寒グッズを要求したのだがこの妖精、てんで駄目だ。
何が「私に言われても困るよ~ッ!」だよ、アホか。フルート取り返す前に、道中で体温奪われて倒れるわ。
だから俺はアベルを連れて防具屋の扉を叩き、店主の目の前であたかも『極寒の地に彷徨う貧乏な兄弟』と思わせるような演出をしたのだ。
すると店主が思いのほか優しく、毛皮のフードを譲ってくれたのだ。
これに味を占めた俺は、この機会を逃すまいと店主にあれやこれやと物を要求し結果、現在に至るという訳だ。
「んだよー、店主がくれたんだから良いだろー」
「それにしてもやりすぎよ。絶対余分に貰ってるものあるでしょ」
「当たり前だろ。余分な奴はよろず屋で売ってアベルとボロンゴの武器新調する」
「うわぁ……」
そんなあからさまに嫌悪感漂わせた目でこっちを見るんじゃない、照れるだろ。
その後、防具屋の店主から慈悲で頂いた余った防具を元手に、よろず屋で石の牙とブーメランを購入した。
「よーし武器、防具も揃ったことだし行くか―」
「おー!」
「ガウッ!」
「ポワン様、こんな子たちを連れてきた私の選択は正しかったのでしょうか……」
若干1名頭を抱えている者がいるが、俺たち一同は春風のフルート奪還のため村を出たのであった。