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鍵の技法を手に入れた俺たちはドワーフの元を後にし、北にある氷の館へと向かい始めた。
その道中、アベルとベラは話をしながら歩いており、その後ろを俺とボロンゴが歩いている。
その間、俺は自身のスキルについて考えていた。
スロウ――。
新たなスキルが発現した事に気が付いたのは、妖精の村からドワーフの住む洞窟へ向かっている最中のことだった。
洞窟へと到着する直前での戦闘後、自身の状態確認のためにステータス画面を開くとレベルが上がっていた事を確認した。
ステータスを確認しながら視線を下げていくと、何とスキル『カウンター』の下に『スロウ』という文字が表示されていた。
それを見た俺は驚愕と同時に嬉しさが込みあがった。
(やはり、スキルはカウンター
この世界で初めてスキルの存在を知った時は、唯一のスキル持ちの俺がカウンターを駆使すれば或いは、とか考えていた。
だがレベルを上げていくにつれ、その甘い期待は徐々に不信感へと変わっていった。
理由は簡単、あまりにも俺自身が弱すぎる。
職業が村人である以上、ステータスの上昇に難があるのは仕方がないと割り切っていた。
だがそれの補填としての技が『カウンター』1つだけというのは正直なところ心が折れそうだった。なにせ、カウンターは一発逆転のスキルという訳ではなく、あくまで敵の攻撃力と同等の力を跳ね返すだけだからだ。
そこで俺はそれに付随して、ある1つの懸念が頭に浮かんだ。
それは、MP量の多さだ。
カウンター1つが30消費するのだから、その為ではとも考えた。
でもそれにしては多すぎる。いや、多いに越したことは無いのだが、仮に今の調子でレベルとMPが上がり続ければ俺は間違いなく魔法使いに匹敵するほどのMP量を保有する。
それに対してスキルが1つのみと言うのもおかしな話だ。
つまり、俺が言いたいのは『もしかするとスキルは複数個発現するのではないか』という予測だ。
……いや、本当の事を言えばこの予測は俺の願望でしか無かった。
強さを求めていた俺は、目に見えて変化しないステータスに日々焦っていたのだ。
もしかしてそうではないのか――。
こうだったら嬉しいな――。
一度蒔かれた不安の種は、日を重ねるごとに
だから、二つ目のスキルが発現した時、俺は心の底から安堵した。
(まだ強くなれるッ――)
これが分かっただけでも十分な成果だった。
「それよりも」
今はこの『スロウ』について考えなければいけない。
スキル『カウンター』と同様、ステータス画面には名称以外に説明や使用MP量、使い方などは記載されていない。
カウンターの発動タイミングや感覚などは、体に染み付くほど練習する期間があったのだが今回はそうもいかない。
このダンジョン攻略の中で探っていくしかない。
「ったく、もう少し親切にしてくれよな」
「レオンッ!!」
そうこう考えていると前方からベラの声が聞こえた。
ハッと前を向くと、アベルとベラの目の前に魔物の群れが……て、少し多いな。
「俺とボロンゴが前に出る!アベルとベラは後方から支援してくれ!」
「わかった!ボロンゴ、突撃!」「ガウッ!!」
「了解ッ」
俺は勢いよく走り出した。
モンスターは魔法使い、スカルサーペント、マッドプラント、サボテンボール。
マッドプラントとの会敵は初めてだな。
ボロンゴが魔法使いに飛びついたのを確認し、それはその隣のスカルサーペントに攻撃を仕掛けた。
「早速だけど行くぜ……『スロウッ!』」
俺は左手を敵に突き出し、力強くスキルを唱えた。
俺の予想ではスロウという名前からしてデバフ効果、つまり相手の行動を遅くするものと見ていた。
しかし――。
「うおっ!?」
スカルサーペントの攻撃が俺へと繰り出される。辛うじて剣で受け止めたが、敵の様子を見る限りデバフ効果は見られない。
「クソッ、外れか」
敵を剣で押し除け、一旦距離を置く。
考えろ……考えろ……。
こんな事『カウンター』を探ってた時と一緒だ。
あらゆる状況、タイミングが一致しないと発動しないのならば、数打って発動条件を絞っていくしかない。
さっきは先制で仕掛けて不発だった。なら次は……。
「来い!骨ヤロウッ」
スカルサーペントが俺へと一直線で突っ込んでくる。
そして攻撃を仕掛けるため、骨の尻尾を振りかぶる。
(よしッ、今だ)
俺は剣で防御体制を取りつつ、敵にスロウを発動しようとした。
が、意表を突かれた俺は行動に移せなかった。
――ッ!!?
目の前の敵が消えた。
と言うよりも、辺りを見回しても先程の魔物の群れが忽然と姿を消した。
(どういう事だ?)
そう思いながらも、アベル達の姿を確認しようと後ろを振り返ろうとした瞬間。
ドゴッ!!
「ッぐあ!!」
体の側面から強い衝撃が加わり、俺はその場で膝をついた。
何が起きたんだ!?
俺は防御体制を取りながら周囲を確認する。
しかし先ほどと同様、一向に敵の姿は見えない。
そう考えていると、またしても俺の体に衝撃が加わる。
(クソッ、いるはずなのに見えない……!)
しばらく耐え凌いでいると、攻撃が不意に止む。
その瞬間、服の襟元を誰かが掴み俺はすぐ側にある木の陰へと連れて行かれた。
そして間髪入れずに、俺の受けた傷がみるみる回復していく。
「……ン!…………オン!!……レオンッ!!」
「えっ」
ふと我に帰ったような感覚に陥る。
目の前にはベラ、そして俺の隣でホイミを唱えるアベル。
あれ、いつの間に?
「ハァ、気がついたみたいね。ごめんなさい、早くマッドプラントを処理したかったのだけどてこずっちゃって」
「えっと、何がどういう……」
「アイツの呪文、マヌーサは幻を見せるのよ。幸い私達にはかからなかったのだけど、レオンは運が悪かったみたいね」
あー、そう言う事か。今までマヌーサかかったこと無かったから自分がかけられてるかもって自覚を持つことがなかった。
呪文にかかったタイミング全然わからなかったな。てかデバフ呪文って俺みたいな貧弱ステータスにとったら1番厄介なんじゃ……おぉ恐い。
「私はサボテンボールを相手するわ。体制が整ったら戻ってきて」
「オーケー。すぐ行く」
俺はアベルにボロンゴの援護を頼み、木の陰からスカルサーペントに目を向ける。
敵はベラの方へと向かっている最中だった。
(ここからならどうだ)
スカルサーペントに手を掲げる。
「『スロウ』」
…………チッ、これも外れか。
敵が『俺を視認していない』状態でもダメなようだ。
俺は直ぐさま考えを切り替え、敵の方へ向かい剣を振るう。
スカルサーペントはノックバックした。が、何とスカルサーペントは倒れながらも俺に対し反撃を仕掛けてきた。
(ヤベッ!!)
マジか!その体勢から攻撃すんのかよッ……。
タイミング的に『カウンター』は無理だと悟った。
俺は慌てて防御態勢を取る。それと同時に、反射的にもう一つのスキルを詠唱した。
「『スロウッ!』」
骨の尻尾が、俺の剣へと触れるか触れないかのところで――。
ピタリ。
敵の動きが止まった。
いや、完全には止まっていない。視認出来るレベルで、かなりゆっくりと敵の行動が遅くなっていたのだ。
「ハァッ!!」
好機と思った俺は剣を握り直し、すかさず敵へと一撃を振るう。
「ギェェ!!」
この一撃が