~龍牙side~
あれから数年。僕…いや『俺』はもう『孤独』には慣れた。
あれからというもののソウゴ以外の人を探してみたがまったく見つからなかった。
最初の数日はまだ良かった。だが全く誰もいないことにどんどん孤独感を感じて来た。
そしてこのミラーワールドに来てから一年、ようやく気付いた。
一番辛いのは…『死ぬことじゃなく、孤独になることだって』……
その時俺は泣いた。
誰も話しかけてくれない、誰も叱ってくれない、誰も笑わせてくれない、誰もいないということが地獄以外の何物でもないってことが…
だがそんな孤独な俺にも心の支えと言えるものが出来た。
それは【ミラーモンスター】という存在だ。
あいつらはこの鏡の世界の存在らしい。最初見たときは化け物と驚いたがあいつらは俺になついてきた。どうやらあのモンスターたちは俺の『契約モンスター』と言う存在らしい。しかも本来は餌が必要らしいがいらないらしい
その時俺は嬉しかった。この世界に『自分以外の誰かがいる』ってことが……
だがそれでも足りなかった……
俺も元・人間だ。俺はもう現実の世界では死んでいる。だがらもう人間じゃない。
そんなことくらいもう二十歳を過ぎた俺には分かる……『誰かと話したい』。そんな欲望が徐々に大きくなって言った。
そして俺はそんな欲望に耐えられず夜の間に現実の世界に行った。そしたらソウゴの言った通り俺はあの化け物の姿…【アナザーリュウガ】へと姿を変えていた。
『やはりか…』と最初は思った。それで真夜中を歩いていた。こんな姿だったら人に逃げられるくらい分かっていた。だが『人に会いたい』と言う欲望には耐えられなかった。
案の定人に見つかった瞬間叫ばれ『化け物だ!!』と騒がれた。わかってはいた。だが辛かったし嬉しかった。
いつも一人の毎日だった。こんな形でも、人と喋れたことが嬉しかった。
その後俺はミラーワールドに戻った後に泣いた。
嬉しかった。だが悲しさが大きかった。人と話せたのは嬉しい。だけど化け物と言われたのは辛かった。
それは元・人間だったから。
その後は完全に感情というものを失ったような感じになった。自分でもこれに気づいたのはずいぶん後の話だった
あれからもう十数年。
俺はもう完全に笑わなくも、怒らなくも、悲しくもなくなった。
感情ってなんだったっけ…?まあどうでもいいか。俺はこの数十年で『いろいろなこと』をした。
そのいろいろなことってなんだったっけ…?もう忘れちゃった…
まあそれもどうでもいい。
俺は今公園でご飯を食べている。
ご飯はミラーワールドにもあるからコンビニやスーパーで調達して来ている。
今日はインスタントご飯…おいしい。だけど顔の表情が変わったような感じはしない。
ここは公園の離れたところで現実の世界の割れた鏡を通してみている。
相変わらずミラーワールドでも同じように現実の世界も変わりはあまりない。
せいぜいノイズがたまに出現する程度……それもどうでもいい。
何回か現実の世界に行ったことがある。
だがここから出た瞬間俺はアナザーリュウガへと姿を変えていた。
『やはりもう俺は人間じゃない…』そう思える瞬間だった。
試しにミラーワールドで違うライダー【ミラージオウ】【ミラーウォズ】【オーディン】になった。
結果は成功。俺は現実の世界ではすでにいないし死んだことになっている。
だから実像がない。だがライダーと言う姿なら現実の世界でも活動出来た。
そして変身を解いてみたらアナザーリュウガの姿になっていた。
だがこの十数年で気がかりだったのは【仮面ライダーリュウガ】になることが出来なかったことだ。
不思議に思ってこのことを調べてみた。(どうやらミラーワールドには現実の世界にはない本もいくつかあるらしいからそれを見て調べた)どうやら【アナザーリュウガ】は【仮面ライダーリュウガ】の紛い物。つまり偽物だ。アナザーが誕生した時点で俺はリュウガにはなれない。じゃあどうしてソウゴは俺にこのカードデッキを…?
そう考えていると俺が見ている鏡に変化が起きた。
そこに映っていたのは茶髪の少女だった。ここは公園から少し離れている。
迷子か…?俺はしばらくその少女の様子を見ることにした。
するとだ、少女が俺が見ている鏡の方に向かってきた。
なんだ…?
その後少女は俺にとって驚愕することを喋った。
『ねぇねぇ、お兄さん。そこで何してるの?』
少女が鏡に向かってこう話しかけたのだ。
俺はあまりの出来事に持っていた食べかけのインスタントご飯を地面に落した。
(この少女……誰に向かって話しかけてるんだ!?俺か…?いや、そんなわけない。俺は現実の世界の存在には見えないはずだ…!)
『ねぇねぇ…そこのお兄さんってば!!ご飯食べてるお兄さん!!』
!!………まさか本当に見えているのか!!?
「お前…俺が見えているのか?」
『うん!見えるよ!!そこで何をしてるの?』
その時俺は思わず後ろを向いてしまった。
俺の目の前は水……いや涙で前が見えなかった。
十数年ぶりの会話…!まさかこんなところで……なんで、涙が出てくるんだ?
俺の感情はもうとっくに無くなっているんだ。なのに…なんで涙が出てきているんだ!!
俺は鏡を背中にして少女に話しかける
「本当に…本当に見えているのか…?」
『何回言ってるの?聞こえてるって』
「……!!」
『どうしてそんなに泣いてるの?』
「別に…泣いてない…」
俺は涙をぬぐって少女に話しかける。
「なんでお前は俺が見えるんだ…?」
『え、お兄さんって見えてないの?』
「まあな……それで、お前は誰だ?」
『私は【立花 響】!好きな食べ物はごはん&ごはんです!!』
「ハハハ…そうか…俺は【鏡 龍牙】好きなのは……ない」
『本当に?』
「ああ……で、お前は何をしてたんだ?」
『かくれんぼです!!』
「そうか…だったらさっさと隠れな」
『はい!!』
そうして少女、【立花 響】はかくれんぼのために隠れて行った。
「……なんで…なんで…見えるんだよ…!!なんで涙がまだ止まらないんだよ!!もうなくなったはずの感情が…悲しみ?いや……これは……嬉しい?」
その後、俺はずっと泣いていた。
あれからと言うものの、少女はたびたびここに来て俺と話かけてくる。
それは何度も続いた。最初は何かと困惑したがだんだん話していると、【楽しさ】と言う感情が復活したような感覚だった。もう忘れていた感情。まだこれだけだが俺はこの少女、響と出会えたことで感情を少し復活させることが出来た。
ずっと一人だった俺にとって、この時間は正に至福だった。
だが、そんな日も長くは続かなかった。
「どうしたんだ…?なんで泣いている?」
『実は…』
ある日、俺はいつも通りにあの鏡のところに行くと、響が泣きながらここに来たのだ。
何故かと理由を聞いてみた。
どうやら俺と話しているところをクラスメイトに見られてクラスで浮かれた存在になったらしい。
曰く『鏡に向かって話しかける変な人』と言う感じのことが響についてしまってらしい。
それでクラスメイトからいじめられてた…
……俺のせいだ…!!
『私だってね、ちゃんと言ったよ?だけどみんな信じなくて…』
当たり前だ…俺は何故か知らないが響にしか見えない。
しかも鏡の中に人がいるなんて信じるわけない…
「すまない……俺のせいで…」
『うんん。お兄さんは悪くないよ…』
響はそう言ってるが響はまだ小学生。
辛いはずだ……俺はこの辛さをよく知っている…これは、俺と同じ孤独の悲しみだ…
だが響はまだいい方…俺がいるから。だけどそう長くは続かないはずだ…
もう……響のために…
「済まない……響……もう『お別れ』だ」
『えっ…?それってどういう―――――』
《CONFINE VENT!》
――――ドサッ
俺は……『響とその関係者と周りの人間』の俺に関する記憶を消した。
……これでいいんだ…これで響は悲しまずに済む。
響はまたいつも通りの生活を送れる…!!
これで……いいんだ…!!
その時、俺は涙が止まらなかった。
響……お前のことは…俺が守る…!!