提督ポクトアールはフェン王国から約50㎞離れた海上で、東の水平線を睨んでいた。
このまま進めばパーパルディア皇国監察軍東洋艦隊22隻は約2時間後にフェン王国の首都アマノキに到着する見込みだ。
「一体どういうことだ?」
ポクトアールは魔導通信によって送られてきた報告に頓狂な声をあげた。
『こちらワイバーンロード隊、フェンへの奇襲は先を越された。フェンは壊滅状態である』
という通信だ。
先に発ったワイバーンロード隊がフェンへ侵入したのはいい。
だが先を越されてかつフェンが壊滅状態というのに疑問を持った。
「そのまま解釈すれば我々よりも先に攻撃をした者がいる、ということになります」
副官がそう答えた。
パーパルディア皇国のほかに攻撃する組織となると隣国に位置するガラハかそれともクワ・トイネ公国とクイラ王国を滅ぼしたロウリア王国……いやロウリア大王国という名前になったか、そいつらの可能性がある。
ただそうなるとワイバーンが飛んでいるはずだからすぐにわかるはずだ。
「我々が知らない敵……か?」
次の通信ではこうだ。
『攻撃中止!攻撃中止!』
突如となる何者かへの攻撃を止める命令。
『攻撃をする、まずは頭、顎、足の順に攻撃せよ!』
『了解!』
この通信でさらに困惑することになった。
「どういうことだこれは?」
ワイバーンからの攻撃であればこのような部位を指定するような命令は出さない。
それに攻撃中止させておいてすぐに攻撃開始するという気の狂ったような命令。
通信兵によればこれらは龍騎士隊長レクマイアの命令だそうだ。
彼なら冷静な判断を下せるはずだ。
もしこれが冷静であるなら……
「フェンでは何か生物が暴れまわっているということか……」
最後の通信はこうだ。
『攻撃終わり。全騎帰投せよ。謎の巨大兵器は健在なり』
巨大兵器……彼らが持ち帰った情報はこれだけだ。
戦っていたのは生物ではなく兵器、第三国からか。列強どもかロウリアの新兵器か。
「巨大兵器がどの国のものか知らないが我が軍の敵ではないわ!全速前進だ!」
『風神の涙』によりマストの帆は更に張上げフェン王国の首都アマノキへ進む。
「あれが兵器だというのか……!!」
およそ7km離れている位置からアマノキから大量の黒煙が空へ舞い上がり城が半分ほど消し去られているのを確認。そしてその城の倍ほどの大きさを持つ異形の物体。昆虫のような頭を持ち大きな三脚が地面を踏みつけている。あれがワイバーンロード隊と接触した兵器。
大きく、この世とは違う世界で生まれた存在かと思ってしまう。
「ワ、ワイバーンロード隊が苦戦するほどの相手です。どうしますか?」
副官が声を震わせ後ろにいる水兵も震え上がっている。
ポクトアールは単眼鏡で兵器を観察し、とあることに気付いた。
動きが鈍い、と。
「鈍いな、あんなものでワイバーンどもはやられたのか。近付き次第砲撃して潰してくれるわ」
22隻は速度を上げ港へ近付く。
兵器は以前鈍く周辺を歩いており、まだ気付かれてないようだ。
更に近づき2.5kmほどになったときに突如兵器は動くのを止め此方に振り向いた。
「今更気付いただと?」
不審に思ったポクトアールだったが突如兵器の先端から光線が発射され最前線に位置するパオスに直撃、瞬間大爆発を起こし爆風が艦隊を襲う。
「なっ……!?」
「せ、戦列艦『パオス』ば、爆沈!!」
ポクトアールは汗を吹き出し、揺らされてる中パオスが居た方向を見る。
パオスは謎の光線に当てられ瞬時破裂したかのように爆発した。恐らく中に積んでいた砲弾や風神の涙等の魔導石が爆発したのだろう。そうでなければパオスが木っ端微塵にならない。
退艦すらもできなかったのだ。悲鳴を上げることもなく乗員は散ったのだ。
「なんたる威力だ!」
「ガリアス爆沈!」
およそ30秒ごとに光線が一隻一隻に向けられ、逃げることも避けることも出来ず爆発消滅し、悲痛の叫びが艦隊全体を襲う。
残るのは……8隻のみだ。
「く!全速前進!やつに近付き叩き込め!」
このまま立ち往生しても全滅するだけ、逃げようにも必中の光線に当たり大爆発、ならば此方の必中の距離まで近付き叩くのみだ。
近付く合間に3隻は順番に光線の餌食になり爆発を起こす。
「面舵いっぱぁい!左舷全砲門開け!」
ポクトアールが号令をかけ艦隊は右へ舵を取り左舷の魔導砲を展開する。
「……撃て!」
距離は1.5kmで合計280門の魔導砲に魔方陣が展開、火を吹き砲弾が飛翔する。
十数秒、兵器の足元に数えられないほどの土煙が吹き上げられ足元は見えなくなる。
一目見て命中したかといえば言えるわけもなく兵器は以前立ったままだ。揺れない倒れないということは足にも当たってないだろう。
お返しとばかりに兵器の光線はとなりの戦列艦に当たり爆発、爆風がポクトアールらに襲いかかる。
「め、命中せず!」
副官は悲鳴の声を上げ爆風に煽られ転倒する。
「あのバカデカイ図体に当てれないのか!!撃て!撃て!」
次はこちらではないか、そんな恐怖がポクトアールだけではなく全員に伝染し無我夢中、盲撃ちをする。
しかしながら全て足元に落ち有効打にはならなかった。
「て、提督!あとは我が艦しか居ません!」
副官が悲鳴を上げる。
周りを見ると僚艦は居らず海面にはその残骸が漂っていた。
次は確実に我々の番だ。
「撃て!」
魔導砲の砲口に魔方陣が展開、魔術媒体が爆発し砲弾が飛翔する。
これが最後の攻撃となる。当てなければ死、それだけではなく一発も当てることもできない、栄光あるパーパルディア皇国に泥を塗ることになる。
数秒後、ポクトアールはこれまでにはない、珍しい生き物を捉えたような歓喜の表情を表した。
砲弾は足元と兵器の頭部と思わしき部位に大量に着弾、砲弾は炸裂し黒煙は兵器を包み込む。
手応えありと見た。
「め、命中!命中!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!やったぜ!」
「ざまぁみやがれ!」
副官と水兵は歓喜の声をあげ兵器に向け罵倒する。
「どうだ!これがパーパルディア皇国の力だ!万歳!万歳!万歳!」
ポクトアールは最後の意地を見せつけ謎の兵器を粉砕させた実感を持ち祖国への万歳三唱をする。
水兵も同じようにする。
「それにしても……残っているのは我々一隻のみか」
ポクトアールは再度周りを見渡す。
あの激戦、いや虐殺とも言えるだろうあの戦いに生き延びたのは一隻のみ。
兵器から発する光線は必中で一隻一隻何もできずに葬られたのだ。
今回は運が良く全滅は免れた。
「未知なる敵だったのです。ですが倒しました。このことを本国へ知らせましょう。私たちは英雄ですよ」
「ふっ、英雄か……ハッハッハッハ!」
ポクトアールは本国へ戻り国民が歓迎され王からの褒美を貰う。そんな妄想をしつつ既に倒れてるであろう兵器の方へ見る。
彼の妄想はすぐ打ち砕かれた。
「な、なんだと!?」
兵器はまだ立っており巨大な頭がこちらに向く。
あれほどの砲弾を受けても倒れることもない。
ポクトアールは青ざめた。
「ば、化け物め……」
一体どこの国の兵器だ、ムーか?神聖ミリシアル帝国か?いや違う。古の魔法帝国?違う、私の直感では古の魔法帝国でもない。この得体の知れない兵器は――
ポクトアール、そして兵器を倒したと勘違いしており最期まで気付かなかった水兵らは光線を浴び砲弾、魔導石が膨張、大爆発を起こし何が起きたのか理解することもなくこの世から一欠片も残さず消え去った。
こうしてパーパルディア皇国監察軍東洋艦隊は消滅したのだ。
やっと、やっとペンが進んだ。
はい、そんなわけでパーパルディア皇国監察軍東洋艦隊編でした。どうあがいてもこうなる(ry
次回はパーパルディア皇国本国の話です。