変わりつつある情勢1
中央暦1936年9月28日
「なんだこれは!?」
パーパルディア皇国第3外務局に所属するカイオスは、フェンにおける懲罰的攻撃の結果報告を聞き、脳の血管が切れるのではないかと思われるほどの怒りを表していた。
およそ1ヶ月前、フェン王国が皇国の領土割譲案を拒否した会談の挑発的な態度への報復とパーパルディア皇国の威信の下、パーパルディア皇国第3外務局所属の皇国監察軍東洋艦隊22隻と、ワイバーンロード部隊2個小隊計20騎が派遣された。
ワイバーンロード部隊により、フェン王国首都アマノキに攻撃を行い、フェン人に恐怖を植え付け、軍祭に参加している文明圏外の蛮国武官に力を見せつける。
そして、艦隊による無慈悲な攻撃により、アマノキを焼き払い、パーパルディア皇国に逆らったらどうなるのかを他国に見せつけるはずだった。
結果は惨憺たるものだ。空襲に向かったワイバーンロード部隊は、6騎だけ生き残り帰還し東洋艦隊は消息を絶った。
何が起きたのかは不明だが、おそらく全滅したのだろう。
これについては当初、ガハラ神国の風竜騎士団が参戦したのではないかと疑われていた。
しかし生き残った龍騎士の言い分では、ガハラではなく国籍不明の兵器が攻撃してきたというのだ。
その兵器の詳細は、
○巨大な昆虫のような頭部とそれを支える三本足の金属製の兵器。
○兵器の動きは遅いが攻撃方法は主に謎の光線によるものであり、威力はワイバーンを消し炭にするほどで命中率は百発百中である。
○魔導火炎弾で攻撃しても無傷であった。
「馬鹿馬鹿しい報告だ」
これらの報告でも、兵器としておかしい部分は多々ある。だいたいなぜ昆虫の頭部をしているのかだ。
どうせあいつらは魔物と見間違えたのだろう。
(いや、もうやめよう。この報告はどうせ負けた言い訳だ)
生き残ったワイバーンロード隊は命令に逆らっため、独房へぶちこんでやった。
「くそっ、このこと皇帝陛下にはどう説明すればいいんだ」
昆虫の頭部を象った三脚の兵器、強固な身体、高威力の攻撃と命中率。古の魔帝でも復活したというのか?
負けたことと、このことを皇帝に報告すると考えたら、ストレスで腹に痛みが襲いかかる。
(いや、恐らくどこかの列強が関わってるはずだ。まずはそれを調べ、後でその国を攻め滅ぼしてやる)
第3外務局カイオスは、裏で引いてるであろうその列強を調べるために情報収集を開始した。
中央暦1639年11月11日午前
第二文明圏の列強国ムーにある情報分析課に、また新たな悩みの種が降ってきた。
前日にはグラ・バルカス帝国の超大型戦艦グレードアトラスターの写真を見て絶望し、次はフェン王国へ行っていたジャーナリストが撮った写真を見て更に絶望へと貶めた。
「なんだ……この兵器は!?」
ジャーナリストが撮った写真は、巨大な円柱、そしてフェンの港が燃え上がり、そびえ立つ巨大な三脚の物体が写っている物だ。
「この兵器……と言えるのか?これがこの円柱から出て来た。これは輸送目的とした円柱なのか?」
ジャーナリストが帰国したのは一週間前。フェン王国から突如帰国して、新聞社に赴いたが、その時何が起きたのか話を聞いてもらえなくて、次は政府へ訴え情報分析課に流れ込んだのだ。
半信半疑で彼の話を聞いたが、整理すると、
○円柱は宇宙(空より遥か高い空間)から飛翔してくる。
なおこの円柱は金属製である。
○円柱から出てきた三脚の怪物は強力な光線と思われるもので町を焼き払い人々を虐殺、町は壊滅状態になった。
○フェン王国軍は三脚の怪物と戦闘となったが手も足も出なかった。
円柱、そこから出た三脚の怪物が暴れまわる写真、光線と思われるものをくらったのか身体がくり貫かれたかのような姿の死体、半分消え去ったフェン王国城、上空から撮ったのか王国軍が戦う写真等が机の上に散りばめられていた。
「嘘や合成では……ないな」
余りにも現実的ではないが、妙な悪寒を感じる。
怪物の大きさでも60メートルは下らない。
この世界にこんな怪物を造り、運用する国はあるのか。あるとしたら何処かの列強だろう。
「もし本当だとしたらコイツはヤバイ。陸上だけではなく海上でも勝てんかもしれない」
金属で出来ている兵器では刀はおろか銃すらも通すことも出来ない。
牽引砲でなら対処は出来るかも知れないが、近すぎれば仰角(砲を上に上げる角度)が足りない。
海上兵力でもラ・カサミでも届かないだろう。
航空機では50kg爆弾を当てれば効果を得られるだろうが、何回も当てないといけない。
それをするなら、全員がそれなりの錬度を持ってないといけない。
確実な破壊をするならもっと大きな爆弾を使わなければいけないが、爆撃機の搭載量が足りない。
せめて500kgほど載せれるものではないといけない。
つまりムー国の兵力では、この怪物に立ち向かえれないということだ。
「上層部に報告しなければ……できれば新型兵器の着手もしなければ」
この写真と情報は遥か遠くの大陸から持ち込まれたもの。だがマイラスにはこの情報の脅威が、すぐそこまで近づいてきてるかのように思えた。