映画 空母いぶき ~空母いぶき建造までの記録~ 作:秩父快急
201X年6月15日 航空自衛隊 百里基地
キイイイイイインンンンン
F15J戦闘機の甲高いエンジン音が空に響き渡る。
「ふぅ…。」
一人のパイロットスーツを着た男が休憩室の椅子に足を組み、缶コーヒーを飲みながで座っている。
「よう秋津。お前また演習で教官機落としたんだってな?」
と、同期の仲間から声をかけられる。
「いや、俺は何もしてないさ。ただ、訓練通りにやっただけ。」
「また、秋津流撃墜論が出たな。」と、同じ部隊の仲間から称える声が出た。すると。
「秋津竜太二佐。至急、司令官室へお越しください。」
と、放送が流れた。基地の司令官に呼び出されるなんてよほどの事がない限り、まずあり得ない。
「秋津竜太二佐。ただいま参りました!」
と、司令官室の前で名前を言う。すると、珍しく司令官直々に扉を開けて秋津を中へ入れた。
「ご用件はなんでしょうか?」
と、秋津が尋ねる。司令官は。
「今日の演習でも教官機を撃墜。小松、三沢で連続撃墜数を大幅に塗り替え。この百里に来てから、これで教官機連続撃墜通算100回か。その上、被弾経験は戦闘機パイロットになってから最初の数ヶ月のみ、3年前から一切被弾判定無しか。防衛省の連中が君を欲しがる理由が分かるよ。」
「は?」
秋津は挙動不審な基地司令官に対して疑問を持っていた。
「秋津。お前、空母乗ってみたいか?」
「…空母。…ですか?」
「ああ。空母だ。」
と、一瞬。部屋の中が静かになった。
「空母ですか…。しかし、我が日本は空母は無いはずでは。」
「今、垂水防衛大臣の下で水面下であるが。自衛隊初の空母の建造計画が進んでいる。」
「空母となると。運用は海自と空自の共同になりますよね?」
「さすがだ。秋津、詳しい説明をしなくとも大丈夫そうだな。」
と、窓の外を眺めていた司令官が振り返り…。
「秋津竜太二等空佐、只今を持って防衛省。市ヶ谷勤務を命ず。」
6月20日0830 防衛省
秋津は百里基地からの移動で防衛省 市ヶ谷勤務となった。だが空母計画参加という指示のみで、実際には市ヶ谷に呼ばれただけの身であり。何が起こるのか疑問に思っていた。防衛省のロビーの椅子に座り待機していると。海自の制服を着た人物が近寄ってきた。
「秋津?お前、秋津じゃないか?」
ふと見上げると。防大同期の新波俊哉 が立っていた。
「あれ?新波さん。なぜここに?」
「相変わらず〇〇さん付けか。変わらないなお前は。それよりお前こそ何故ここに?」
と、話しかけてきた。話を聞くと、新波も秋津と同じように呼び出されて来たのだ。
新波歳也 三等海佐
彼は海上自衛隊呉基地にて、護衛艦 あきかぜ の航海長をしていた。護衛艦 あきかぜ は戦後2代目DDH。哨戒ヘリを3機搭載できる大型のヘリ搭載型護衛艦だ。そんな二人は詳細をほぼ知らされずに市ヶ谷に呼び出されたのだった。
防衛省 地下第二会議室
秋津達が会議室入ると統合幕僚長を始めとして、航空自衛隊と海上自衛隊の幕僚長。などの人員が集まっていた。
「あなた方を市ヶ谷に呼んだのは、我が日本。自衛隊初の空母の幹部になるということだ。」
と、統合幕僚長の話で始まった会議。海上自衛隊の幕僚長がモニターに3Dモデルの、とある護衛艦の図を表示した。
「先の大戦で旧日本海軍が作り上げた東アジア初の航空母艦 鳳翔 。そこから始まった我が国の航空母艦の歴史。正規空母 赤城 加賀 蒼龍 飛龍 翔鶴 瑞鶴…。先の大戦では数多くの大型空母を日本は作り上げてきた。そして今、我が国を取り巻く状況は危機に瀕している …。」
「…東亜連邦軍。」
と、統合幕僚長の言葉に秋津が反応した。
「そうだ。君たちも知っているだろう…。丁度一ヶ月前に操業中の中国国籍の漁船が、東亜連邦の艦船に撃沈させられたのを…。」
4月28日 上海の北東 250㎞
普段通り上海沖で操業していた中国のはえ縄漁船3隻が東亜連邦艦船からの突然の発砲により2隻が撃沈。1隻は拿捕されたのだ。中国政府は抗議を考えたが、朝鮮半島北部は石炭の採石地であり。今後の交流面も考え抗議は断念した。中国という大国が抗議をしてこなかったことに味をしめた東亜連邦は台湾の北西350㎞地点にある。かつて中国海軍が軍事基地化していた島を占領。軍事基地は使われて無かった為にあっさりと占領されてしまったのだ。これにより東シナ海を通行する民間船舶への海賊行為が行われ始め、海上自衛隊の護衛艦が海賊対処行動として派遣されることになった。
「政府は東亜連邦が日本の波間群島や尖閣諸島…。そして、沖縄を狙っていると。」
「その通りだ。」
新波の質問に統合幕僚長は答えた。
「そこで、このペガソス計画。今度竣工する 航空機搭載護衛艦 いぶき の改良点を見つけてきてほしい。既に、米海軍に手配は取ってある。来週からハワイで行われるリムパック総合演習で君たちには米海軍の空母 ロナルド・レーガン にて演習の視察をしてもらいたい。」
統合幕僚長が話終えた直後。部屋に米海軍の服を着た白髪の初老の男性が入ってきた。
「改めて紹介しよう。こちらは米海軍のジョン・タナカ中将だ。今は米海軍厚木基地所属で後任の米海軍幹部生育成を行っているが。空母ジョージ・ワシントン の初代艦長で、なおかつ日系アメリカ人で初めての米海軍空母の艦長を勤めた方だ。今回、米国から同盟国として日本の空母建造に携わっている。」
「初めまして。Mr.秋津。Mr.新波。米海軍の空母の案内は私が行います。よろしくお願いします。」
と、秋津と新波に熱い握手をした。一通りの説明が終わり、最後に統合幕僚長が秋津と新波に任命書を手渡した。そこには
[日本国自衛隊 空母建造 ペガソス計画に伴う 米海軍での研修及び調査を命ず。 防衛大臣 垂水慶一郎]と。
7月10日
キィイイイイインンンンン
米海軍の空母 ロナルド・レーガン からF35B戦闘機が勢いよく離陸していく。
ここは、米国ハワイ島の沖合い。日米間合同の軍事演習が行われていた。秋津と新波は自衛隊の護衛艦ではなく。米海軍の空母に乗っている。
「さすが米軍だ…。」
空母の運用を生で見た新波には驚きの連続だった。まもなく完成する 空母 いぶき と違い機関が原子力であることは違うが。風や波、そして潮の流れを計算し最適なコースになるよう操艦する熟練の乗組員。そして、航空管制とCICから入る敵の動き。そして、甲板上での誘導員達の無駄の無い動き等。今までの 海上自衛隊が持っている いずも型 ひゅうが型 とは訳が違うと言うことを改めて実感させられた。一方の秋津は、海上自衛隊で研修を受けたとはいえ。初めての海上での大規模演習。しかも空母の離着艦を見て何やら掴んだかの様子で、子供が新しい事に目を輝かせるような瞳で米軍の演習を見ていた。
空母 ロナルド・レーガン 格納庫
「どうですか?何か掴めましたか?」と、格納庫内に駐機してるF35Bのコックピットで瞑想してる秋津にタナカ中将が尋ねる。
「ええ。おかげさまで。」
と、何かを悟った顔をしながらコックピットから降りてくる。
「あなたは変わった人だ。」
と、タナカ中将が話す。
「私はもともと、米空軍のパイロットでした。湾岸戦争の時の前線で沢山の地上の敵を殺した。仲間も多く無くした。そのあとは本土に戻り、後輩達の指導をしてきた。そして、空母の艦長になった。」
と、最新鋭のF35Bの機体を触りながら話す。
「戦闘機乗りは死ぬときはいつも一人だ。私は運が良かっただけに過ぎない。日系アメリカ人で初めての空母の艦長になったとはいえ。戦闘機を見るといつも不思議な感覚に包まれる。」
「その感覚とは…?」
と、秋津が尋ねる。
「私の父は、大戦中に日本の零戦の調査をしててね。なぜ、あそこまで出力が高いにも関わらず。軽量で性能のいい戦闘機が出来てるか不思議だった。でも、父は怒っていた。大戦末期、カミカゼという体当たりをあの機体でやったことをね。」
秋津は思った。タナカ中将が一番に教えたいこと。それは
[戦闘機乗りは常に一人だが、必ず帰るべき場所がある。決して、自分の命を犠牲にしないこと。そして、生きて帰ることだと。]
第二回目の投稿となります。秋津さんを中心に書いてみました。兼ねてから自衛隊と防衛省内部で計画されていた空母建造計画。秋津と新波の二人がきっかけで大きく動きそうです。果たしてこれは、専守防衛なのか?それとも軍事拡張。戦略的兵器なのか。護衛艦いぶきの存在する意味とは? あと、オリジナルキャラとして。旧日本軍の零式艦上戦闘機を調査していた父親を持つ。米海軍のキャラクターが登場します。