特に理由もなくアイドルデビューした最強系主人公が東京喰種のストーリーをぶっ壊す話   作:偽馬鹿

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ヒロインの視点です
鬱っぽいようなそうでないような


番外:蛍

「気持ち悪い」

 

誰の言葉だったか。

いや自分の言葉だ。

自分自身に対する言葉だ。

 

気持ち悪い。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

こんな身体気持ち悪い。

 

ああこんなことなら素直に死んでいればよかった。

こんな風に生き恥を晒すこともなかっただろうに。

狂いそうになる。

いやもしかしたらもう狂っているのかもしれない。

 

『ふん♪ ふんふん♪ ふーんふん♪』

 

ふと、流れていたテレビから歌声が聞こえる。

見ると、そこには煌びやかな衣装で歌う少女の姿。

ああ、可愛らしい。

自分とはかけ離れたそれ。

 

ああ羨ましい。

あれは自分が綺麗だって自覚している。

自分が正しく生きてると思っている。

妬ましい、とも思う。

 

 

 

学校に来る。

何もない。

話す相手もいない。

話しかけてくる相手もいない。

 

ただ単に日々を過ごすだけ。

それだけだ。

生きている実感もない。

 

ふらりふらりと揺れるように歩く。

力のない歩みだと自分でも思う。

けれど、それ以上に自分を動かす原動力というものはなかった。

 

 

 

しかし。

 

 

 

「あ、悪いんだけど、校長室ってどこか分かるー♪」

 

 

 

今この場に原動力が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

綺麗な子だった。

というかアイドルがこんな学校に来るとは思わなかった。

ふんわりといい匂いが香ってきたような気もした。

 

案内した後、自分の教室で授業を受ける。

やはり味気ない。

一度受けた内容はつまらない。

生まれ直した弊害である。

 

一応受けるふりはしているが、それでも教師にはわかるのだろう。

自分がちゃんと授業を受けていないのが。

だからだろうか。

教師が自分に興味を持たなくなったのは。

 

それと、何故か周囲の生徒達も反応しない。

こちらは本当にわからない。

気付いたらという感じである。

 

誰かが仕組んだのだろうか。

それならば理由は、などと考える。

先程まで考える気力すらなかったというのに。

 

「ふん……」

 

それもこれも、今出会ったアイドルのおかげ、ということだろうか。

馬鹿馬鹿しい。

そう思ったが、否定もできなかった。

 

 

 

授業が終わる。

それと同時にふらりと逃げるように学校を抜け出す。

いつものことだ。

 

徒歩で家へと向かい、辿り着く。

移動時間が限りなく少ない学校を選んだのだ。

当然といえば当然。

 

「……」

 

家には鍵。

親はいるがまともに顔を合わせたことはほとんどないだろう。

それほど両親は多忙だった。

 

いつものように鍵を開けて中に入る。

自分一人には不釣り合いな大きな家は冷たさすら感じさせる。

いや、感じるようになったのも今さっきの出会いの影響か。

 

 

 

「ふぅ……」

 

お風呂に入る。

いつものことだ。

外から帰るたびに入るように義務付けられている。

 

自身の身体を眺める。

なだらかな曲線とやや不自然に膨らんだ胸。

不自然な銀髪の髪が腰のあたりまで伸びていて、前髪で目の辺りを隠している。

その眼は右目が青く、左目が赤い。

 

「……気持ち悪い」

 

呟く。

かといってそれで何かが変わるわけでもなかった。

ただ単に自分が卑しい存在だと再確認するだけだ。

 

気持ち悪い。

その言葉が自分を埋め尽くす。

 

しかし、先程の子が脳裏に映り、思考がぶれる。

いや、そんなはずがない。

自分がそんな風に思うはずがない。

()()()()()()()()()()()なんて、おこがましいにもほどがある。

 

「……っち」

 

舌打ちひとつ。

そのままお風呂を出る。

いつものことだ。

いつものこと。

そう自分に言い聞かせる。

 

そして布団に入り、寝る。

いつも通りだ。

身体の能力を維持するには体力がいるのだ。

この身体は燃費が悪く、夕食が用意されてなければ寝るしかない。

いつものことだ。

 

 

 

そう、いつも通りの日常がまた続くと思っていた。

 

 

 

しかし。

 

 

 

「なんだ……?」

 

数日後、アイドルであるあの子の周りから人が消えた。

まるで示し合わせたように一斉にだ。

誰かが指示したとしか思えない。

 

「……ふん」

 

いじめ、か。

自分が置かれている状況を棚に上げ、小さく呟く。

仕方ない。

あれだけ眩しい存在、直視することなんてできるはずもない。

 

もし示し合わせた人がいるのなら。

その眩しさに魅了された人かもしれない。

何となくそう思った。

 

 

 

「にゃん」

 

帰宅中、路地裏から小さな鳴き声。

ふとその先を見ると、子猫が3匹段ボールの中にいた。

 

「……」

 

いつもなら。

あのアイドルと出会うことさえなければ。

放置していたであろう子猫。

 

しかし、今の自分では放置することができなかった。

駆け寄り、しゃがみ込む。

 

「にゃーん」

「うなー」

「にぃ」

 

「……ふふっ」

 

可愛い。

感情が動かされることなんて久し振りだ。

 

手を差し出すとすりすりと寄ってくる。

可愛い。

昼食の余ったパンを上げると一瞬戸惑う様子を見せたが、すぐに齧りついてきた。

お腹が減っていたんだろう。

 

家に連れ帰ろうか悩むが、それは無理か。

一応親のいる身である。

家族の相談なしでは動物は飼えないだろう。

 

残念だがお別れである。

誰か優しい人に拾われることを祈るしかない。

後ろ髪引かれる思いでその場を後にした。

 

 

 

翌朝。

登校途中。

急いで子猫がいた場所へと向かうと、未だに段ボールと一緒に子猫が残っていた。

安堵するやら不安に思うやら。

 

とにかく。

昨日買っておいた猫缶をあげる。

お小遣いはささやかなので、あげる猫缶の値段もささやか。

愛情はお金じゃないけれど、あって困るものではないのでもっと貰いたい。

いや、それまで無頓着だったから貰えないのか。

あとでねだろう。

 

 

 

「ふふん♪ ふふふ♪ ふーん♪」

 

昼休み。

昼食を買うために購買部へ向かおうとしたところで例のアイドルを見つける。

独りでいるのに元気そうだ。

 

「……なあ、お前」

「ん?」

 

話しかけてみる。

最初に出会った時は一瞬だったので、会話らしい会話はしていない。

不愛想になってしまったのは、やはり会話らしい会話をしたことが少な過ぎるせいだろうか。

 

「なぁにぃ?」

「うっ……」

 

こちらをのぞき込むように顔を向けて来る。

何だこの生物、可愛い。

いや、これは自分が可愛いって分かっている。

 

座ったままずりずりと近寄ってくる。

あんまり寄らないで欲しい。

自分と比較されたくない。

 

「もしかしてファンだったりする? サインあげよっか?」

 

キュポンっと音を鳴らしてサインペンのふたを取り、ハイハイで近寄ってくる。

普通の人間では許されないような恰好。

あざとい。

そのくせ可愛い。

腹立つ。

 

「べ、別に……そんなんじゃない!」

「あうっ」

 

つい蹴倒してしまった。

足が出てしまった。

しかしやってしまったことをなかったことにはできない。

慌てて逃げることしかできなかった。

 

 

 

「はぁ……」

 

人を蹴倒してしまった。

ついやってしまったとはいえ、反省である。

でもあっちが無防備で突っ込んでくるのも悪い。

そう自己弁護した。

 

「にゃー」

「なう」

「うんにゃ」

 

子猫が寄ってくる。

今日は少し遠出して美味しいと評判の猫缶を買ってきた。

インターネットくらい使えるのである。

おかげで夜になってしまったが、この辺りの治安はいいので大丈夫。

 

 

 

……だと思ったのだが。

 

「きゃああああああ!?」

 

こんな日に限って喰種に出会う。

ああ、なんてついてない。

だらしない声を上げ、動けなくなってしまった。

 

せめて、せめてこの子猫達だけは。

そんな風に思いながら目をつぶった。

 

 

衝撃、痛みはない。

ただ音が響いた。

目を開くと、目の前で喰種が真っ二つになっていた。

 

「あ……ああ……」

 

動けない。

何故なら、まだ何かがいたからだ。

 

目だけ見えるようにぐるぐる巻きの包帯と、大きめなマスク。

そのマスクに大きく『斬』の文字が書かれている。

右手には身の丈ほどの刀。

そんな姿の何か。

 

喰種だろうか。

それとも人間なのだろうか。

分からない、分からないが。

助けてくれたことだけは事実。

 

お礼を言おうとすると、その人は一瞬でいなくなってしまった。

まるで人間業とは思えなかった。

やっぱり喰種だったのだろうか、

それなら何故自分を食べなかったのか不思議なのだが。

 

「にゃー」

「にゃにゃ」

「むにゃー」

 

子猫達の鳴き声で正気に戻る。

ああ、生きているんだ。

そう思うと急に身体から力が抜ける。

 

「は、はは……」

 

力なく笑う。

さんざん生きることが辛いと言っておきながら、いざ死にかけてみるとこれだ。

度し難い。

 

 

 

ああでも。

あの人にまた会えるのは、少しだけ嬉しいかもしれない。

そう思った。

 

 

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