アルカナって何さ?アルカナって運命さ   作:ゼラチン

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オリジナル作品です。
ある日目覚めたらふと思いついたので書き進めようかと思いました。


第一章~運命って何さ?~
第一話


 

 

 人類を脅かす存在、魔王。

 その魔王が魔物で大軍をなし、魔王としてこの世界の人類を滅ぼそうと進軍していた。

 人類もまたそれに抵抗するために、帝国は対魔王軍を形成し、日々熾烈な戦いを繰り広げている。

 最前線の大国では血で血で争う戦闘が日夜繰り広げられており、人類の防衛線として機能している。

 しかし、世界は広い。最前線で戦争が繰り広げられている中、そんなことは関係ないと言わんばかりに、日常を謳歌し、友人と笑い合い、家族で食卓を囲み、日々の糧を得るために労働に精を出す人々もいる。

 そして、とある村。

 最前線とは程遠く、王都に属しながらも国境の隅っこで密やかに生きる人々がいた。その村では、細やかながらも人々が笑顔で日常で送っている。

 イナバ・ハンスも、またその一人だった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「世知辛い…世知辛いよ…」

 

 イナバ・ハンス。

 16歳、思春期。両親なし彼女なし保護者なし友人ちょっとだけあり。

 童貞。

 この村に住む少年は今、己の境遇に膝を折り、地面に手を付いていた。

 何が彼をそこまで追いつめているのか、それは彼の腹から盛大に自己主張する虫が如実に表していた。彼は空腹だったのだ。

 

「かれこれ何日食べていないのか…いや食べには食べてるんだけど……」

 

 ちらりと道端の雑草を見る。

 このどこにでもある一般的な雑草。名前もなくただ“雑草”と言い現わせてしまうものが、最近彼が口にした唯一の食糧だった。

 何か食べたいのなら買えばいいし、作ればいい。

 そんな当たり前が実行できるのは、当たり前のように収入がある人だけだと少年は語る。

 そう、イナバという少年は、そんな当たり前が当たり前にない環境で生きていたのだ。俗にいう、貧乏。

 両親もいない、保護者もいない。故に16歳という若さで少年は一人で己で収入を得て、糧を得るしかないという現実に直面していた。

 友達は現在この村に住んでいない。昔はそれこそ毎日のように世話になったものだが、村を出て王都に行ってしまった友人の世話にはもうなれない。

 

 彼は激怒した。君は僕を養ってくれるんじゃないのか、と。

 友人は当たり前のように言った。そんなわけないだろう、と。

 

 その通り。そんなわけがないので、友人とはすでに別れを済ませ、少年は日々をその日暮らしで生きている。

 開始当初の一日や二日は、友人のことを恨み妬み文句も言ったものだがそれも今ではいい思い出。一週間もたてばそんな余裕をなくし、日々の糧を得るために必死に毎日雑草を食み、時には家畜の飯を勝手に持ち出してそれを食み、食料と同じく必要な水分は、時には雨水、時には泥水、と一日を何とか凌ぎながら生きていた。

 村人なら助け合うのが道理だろう、と友人の両親は子が王都に去った後でも、イナバを何とかその日暮らしにならない程度には助けてくれていた。しかし昨今、魔王軍との戦いが激化しており、帝都への救援と称し王都もまた対魔王軍を立ち上げた。もちろん徴兵も行われ、税率は上がり、辺境の村もその日暮らしとは言わずとも、日々を生きるのにやっとの生活を皆が送っていた。そんな生活の中、友人の両親もイナバを助ける余裕がなくなり、流石に今まで世話になった人たちにこれ以上無理は言えないと、イナバはある日からその助けを断り始めた。そしてその日から、イナバは雑草とその辺の水で飢えをしのぐ生活を始めたのだった。

 そんな生活が一年。そして今日この時、イナバには限界が来ていた。

 

「雑草御飯(に見立てた雑草盛り合わせ)も雑草スープ(ただ雑草をお湯に浸しただけ)持飽きた…というかこの思春期かつあと2年で成人を迎えようという僕の体にはこれだけじゃ栄養価が足りない……もうやるか、やるしかないか…」

 

 ぶつぶつ、ぶつぶつ…と。

 地面に四肢を突きながら「やるしかない…やるしか…」と呟くイナバの雰囲気には鬼気迫るものがあり、同時に関わったら何事かなぁなぁで今晩の食卓をたかられそうな気配に、村に住まう人々はイナバを遠目から見やり、ひそひそと井戸端会議を繰り広げていた。

 そんな一種の注目を浴びているとは露知らず、イナバは決意を固めて立ち上がり、ちょっとした腹ごしらえと道端の雑草に手を伸ばす。

 その雑草に、犬が用を足しているとも気づかずに。

 

「うっわ!?きったな!?きったなぁ!?」

「わふっ」

 

 犬は満足げにその場を去り、イナバは必死に手に付いた汚水を払いのける。

 

「あの犬め…今度会ったら主婦もびっくりな高級ディナーに変えてやる…ん?」

 

 ふとそこでイナバは自分の手を見る。

 汚水に塗れた我が右手。別名恋人。そんな恋人は哀れにも今、汚水に侵され、嫌なにおいを発している。

 しかし、水は水。つまり水分。さらに栄養価もそこそこと言われている。

 そこまで思い至ったのはすでにかなりの末期症状だったのか。光を写さない瞳でイナバは自然とその手に口を近づけ―――――。

 

「…いやダメでしょこれは!幼女のパンチラを期待するぐらいダメでしょ…!」

 

 その行為にはっと我を取り戻したイナバ。かろうじて、人としての尊厳は守ったのだった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 戦争でその日を生きるか死ぬかの戦いを繰り広げている猛者がいれば、その日を生きるための糧を得るために必死になる貧者もいる。

 その貧者とはイナバだった。彼は今追い詰められている。

 追い詰められた人間は何をするかわからない。追い詰められた戦士が一矢報いようと最後の力を振り絞るように、貧者もまた、最後の力を振り絞って森へと出掛けた。

 この村は近辺にそこまで深くない森に覆われていた。当然、昼夜問わずに魔物が跋扈し、一度森へと入れば命を掛ける必要がある。歴戦の戦士なら鼻歌交じりに散歩ができるぐらいのレベルとはいえ、イナバは村人。最悪のコンディションの中、赴くような場所でもなく、そもそも何の準備もなしに行く場所でもないのだ。

 当然イナバはそのことを認識している。故に彼はこれを最終手段と呼んでいた。「その日を生きるために糧を得るにも、態々死にに行く必要はない」。そう言っていた彼だが、追い詰められれば話は別だったようだ。

 とはいえ、彼が貧弱な第十三村人ぐらいなのは間違いがない。何の準備もしないまま森に入ることは無謀過ぎた。

 村人たちは森に出向くイナバを、嗚呼さらば村の問題児よ……と、憐みの視線をもって出送った…のではなく。

 

「なんだ坊主!ついに行くのか!」

「がっはっは!ようやくか!いやまあ良く持った方だとは思うぜ!今までよく雑草と雨水だけで凌いだもんだ!」

「うっせうっせ!そういうこと言うならおじさん達のチンケな食卓のおかずの一品ぐらい分けてくれたっていいじゃないか!僕だって好き好んでいくわけじゃないんだよ!」

「チンケなおかずで悪かったな!?こちとら娘がいるんだよ!成長期の娘の飯を坊主に分けるぐらいなら家畜にやったほうがマシだ!」

「おじさんにとって僕は家畜以下!?うっそだろ!?村人同士なら助け合って生きていこうよ!?」

「いやお前、助け合うとか言っても実際寄生してるだけだし。助けてもこっちに得がないどころか、寄生されるだけされてハイさよならされそうだし……家畜の餌まで食う寄生虫の面倒とかご免被る」

「よしよーくわかった。おじさんたちが僕をどう思ってるのか。絶対に何も分けてやんないからな!」

 

 そう言い捨て、少年は走り出した。少年が走り出すとその姿はすぐに木々に遮られ見えなくなった。

 出送った村人たちは、イナバのことは大して心配はしていない。それはひとえに、イナバの常人離れした足の速さを知ってのことだった。

 

 曰く、「その速さは風の如し。瞬きの合間にすでに姿は見えなくなっている」

 曰く、「その生命力は大木の如し。ちょっとやそっとのことでは死にそうにもない」

 さらに曰く、「総じてあいつは、台所の片隅に潜む黒光りするあれみたいなやつだよ」

 

 と。これが村人たち共通の認識だった。

 ここまでイナバが食糧難に喘ぎながらも生きながらえているのは、ひとえにその生命力からなのだろう。

 しかしだからと言って腹が空かないわけじゃないし喉も乾く、ちょっとぐらい恵んでくれてもいいじゃないかとはイナバの談。

 こうして少年は、森へと入り、雑草よりかははるかに豪華な、動物の肉という糧を目指し足を動かす。

 視界に入る木々は認識したその時すでに通り越しており、村人の命を脅かしそうな生物はイナバの存在に気づきもしない。

 己の速力に物を言わせて危険な森を駆け回り糧を探すこと数分。

 速力は常人離れしていても、体力は人並みなイナバはものの数分で疲れ果て、木陰に座り込んで息を整えていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…くっそ、だから嫌なんだよ森に入るの…」

 

 座り込みながら誰にというわけでもなく悪態をつく。座りながらもいつ魔物に襲われるかわからない恐怖がイナバを苛む。

 森に入るのは初めてではなかった。それこそ昔、友人と一緒に出来心で遊びに行ったこともあった。子供ながらの出来心とはいえ、森は危険な場所。案の定魔物に襲われ、イナバは友人を抱えて何とかその場から逃げきったが、村に帰った際にそのことを知った友人の両親からこっぴどく怒られたのを今でも覚えていた。

 その時の経験からイナバは知っていたのだ。いくら早く動けても、危ないときは危ないし死ぬときは死ぬ、と。

 そんな経験を経ているからか、己の速力に過信せず、言ってしまえばヘタレたイナバは森に入ることは考えもしなかった。しかし今日、マジで死ぬ5日前という状況に直面してしまったが故に、こうして苦虫を噛み潰したような気分の中、森へと入ったのだ。

 

「はぁ…ふう…。…よし、行ける……ん?」

 

 イナバはふと、茂みから音がするのを聞いた。

 すぐさま飛び出してくる様子もないが、生命の発する反応は聞き逃せず、見逃せないのがサバイバルの常識。

 もしかしたら今日の糧かもしれないし、もしかしたら魔物かもしれない。

 木陰から立ち上がり、慎重に茂みに近づくイナバ。姿勢を低くし、いつでも駆け出せるように構えたその動きは、やはりどこか台所の片隅に凄む黒いあれを連想させるが、そう思う人も今はいない。

 ゆっくりと慎重に近づき、その茂みをかき分けると―――――。

 

「え?」

「……ぅ…」

 

 糧でも、魔物でもなく、銀髪の女性が、傷だらけでその場に倒れているのを発見した。




登場人物
イナバ・ハンス
16歳で思春期の童貞の少年。
容姿は黒髪に赤い目。そして頭頂部から延びる二本のアホ毛(触覚ともいう)
その動きは何となく黒光りするあれを連想させるといわれているが、れっきとした男の子。
足が異常に早く、それでいてしぶといという生命力も持つが、体力は人並みですぐに疲れる。

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