多々田透汰の生存戦略 作:だっかん
01プロローグ
この夢が夢では無いと理解するまでに、約三日。
現実を受け入れられなくて、寝込んでから一週間。
そろそろ受け入れ始めてから二日。
それでも心が拒絶反応を起こしてから五日。
そして、現在。約17日を経てようやく覚悟を決め、私は"俺"として生きる事を(嫌々ながら)ようやく受け入れた。
時は明治23年。場所は開拓のあまり進んでいないどこかの山の集落。私の俺としての名は多々田透汰(ただたとうた)。た行が多すぎて発音がしにくい。齢は9の育ち盛りであるらしい。はあ、泣きたい。現実逃避期間に散々泣き散らしたせいで涙は既に枯れているが。
私は自分に何が起こってしまったかを理解している。それは私がまだ"私"であったとき、所謂オタクと呼ばれる人間であったからだ。異世界転生モノ、ええ、流行っていましたね。なかなか好きなジャンルではあった。もちろん物語の世界として楽しむ分にはの話ではある。
まさか自分がこうして過去の誰かにブチ込まれるなんて夢にも思わなかったし、実際自分が体験するのはノーサンキュー。この状況、唯一幸いであったのは言葉が通じるという部分だけでは無いだろうか。あとは最悪だ。
多々田透汰になる前の話をしよう。平和な世の中に私はいた。中学の頃からオタクをこじらせ、高校卒業と共に同人の世界に腰まで浸かり大学は一年で辞めクソニートをしながら同人活動を続ける毎日を送っていた。おかげで人よりもイラストが上手くなり有難いことにも商業から声がかかり、現在は細々と絵で金を稼ぎながら暮らすまあどこにでもいるかもしれないただの女であった。
そんなインドア極まれりな人間が、たまたまどハマりした漫画の聖地巡礼をしようとしたのが間違いだったのだろうか。それともペーパーゴールド免許の癖に交通費ケチって親の車で遠出したのが間違いだったのか。信号無視の暴走スポーツカーによりにもよって右から突っ込まれたせいで痛みを感じる間も無く昇天したのだから、まあどちらにせよ私は悪くない筈だ。青信号を確認してから発信。いくらペーパーでもそれくらいはできていただろう。今となってはどうでもいいことである。
衝撃と共に意識が暗転した後は、まるで朝を迎えるような、夢から覚めるような感覚で起床。悪夢が始まり17日目の今日を迎えるまでに至る。平和な世で絵描きをしていたあの日々がむしろ微睡みの世界でみていた夢だったのかと思う日もあるが、私はあの日々が嘘であったとは考えたくない。とは言え、今がまだ眠った世界にあるとは到底思えないため、私はあの日死に、なんらかの理由で魂が過去に戻ってしまったとの結論を出した。たったの17日でその結論を受け入れたのは、早いのか遅いのか。ただ創作物の中では受け入れるのが早ければ早いほど生存率は上がる気がするので、遣る瀬無い気持ちを抱えながらも今日この日を、多々田透汰という少年の身体をもって迎えることを受け入れたのである。はあ、憂鬱な気持ちだ。
多々田透汰はきっと愛されていた。"母"が言うには『天真爛漫で、優しく、でも少しだけ喧嘩っ早くて腕のある』少年だったようだ。笑顔が可愛いらしい。親の欲目かもしれないが。
そんな多々田透汰少年の中に草臥れた女の意識が入ったらどうだろう。しかも17日間も錯乱して意味の分からない言葉や質問を繰り返してきたら。恐怖体験である。私の子供はいないがもしいたと仮定して、自分の可愛い息子が発狂し、落ち着いたと思ったらなんだか性格が変わっていた…そんなことになれば怖すぎて距離を置いてしまうかもしれない。そう言うことだ。
20日目。私こと多々田透汰少年は捨てられてしまった。
いや母君よ思ったよりも思い切った決断をなさる。まさか眠っている間に捨てられるとは思わなんだ。
「…どうしよ」
この一言に限る。流石に身一つで捨てるのは良心が痛んだのか、少しの食料と竹筒に入れられた水に小刀の入った風呂敷が申し訳なさそうに置いてあった。手紙も無いのか。さよならの一言も貰えないとは。
一度若くして死んでいる身としては今生ではしぶとく皺くちゃのジジイになるまで生きて寿命尽きるまで人生楽しんでやろうと思っていたが、そんな計画はこの時点で破綻した。まずは生きて森を抜けなければ。
ただ捨てられた身としては、また違う集落に出たいものである。戻ってきたとなれば今度は直接的に殺されかねないものでね。
取り敢えず腹がぐうと存在を主張し始めたため風呂敷の中身を取り出し齧る。小麦粉を練って焼いただけのパサパサの餅のようなものだったため美味い不味い以前の問題だったが、これは喉の水分を多分に持っていくため貴重な水も消費することになった。
育ち盛りの子供にはまだまだ足りない量ではあるが、本当に気持ち程度の食料しか頂けなかったため我慢をして残りを風呂敷に包み直す。はあ、腹一杯のフライドポテトが食べたい。ジャンキーな現代病に侵された元干物女はそんなことを考える。
行ったこともない富士の樹海を思わせる深い森の中、ひたすら歩みを進める。目的地はどこか人間の営みが行われる場所。今求めるは水場。サバイバルのサの字も知らないが、人間ひとまず生きていくためには水の確保が一番だと言うことは心得ている。それに川を辿っていけばいずれは集落などに辿り着けるものだろう。そう信じている。
必死に平常心を装いながら足を動かすことしかできない。心ばかりの護身のために握った小刀を無駄に力を入れて握ってしまうのは恐怖からきているものだとは理解していた。
天辺にいたはずの太陽が少しずつ傾いてきたことに気付いたのは、大きめの木の根っこに足を取られて尻餅をついた時だった。このまま黄昏時を迎え、夜が来る。人の手の入っていない山にはどんな生き物がいるのだろう。明治にはまだ狼はいるのだろうか、猪は流石に出そうだ、きっと熊もいる、なんなら今の自分は鹿にも負けるしリスにも勝てない。この森の中で一番弱いのは自分だ。そんな弱い生き物が無事に次の日の朝日を拝めるのだろうか。そう考えると眠る事が怖かった。
しかし9歳の子供の身体は素直だ。抱えた疲労を回復するためにとろりとろりと瞼を落とす。
せめて、と小刀を今一度懐に抱え直し、鉛のように重い身体を丸めて深い息を吐いた。そうすれば、もう何も聞こえなくなった。
初投稿なので今回だけあとがきを残させていただきます。
はじめましてDACCAN(だっかん)です。
個人サイト以外で小説っぽいものを書くのは初めましてなのでよく機能が分かってませんが、何卒よろしくお願いします。
あまり読みやすい書き方ができず詰め詰めな文、また文学的に正しい文章なども書けません。好き放題に書こうかと思っていますのでご了承ください。
更新頻度もこの日とは定めずに、気の向いた時に書くスタイルです。
なんか変だなーと思ったら予告なく加筆修正など加えていきます。
それでは、以後よろしくお願いします。