少女短篇   作:杜甫kuresu

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我が最高傑作、という奴です。
スッキリ読めます。


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 WA2000。ワルサー、またはWA、2ヶ月前に配属されたばかりの新人のRF人形。それが彼女の簡潔な自己紹介。

 さて。戦術人形とは実態、鉄血兵やその他含めて何かの殺傷のために働くことが多い傾向に有るわけだが、今日の彼女は違った。

 

「怪我は駄目ですよ」

 

 スプリングフィールドは誰かがドアに手を掛ける度、必ずそう別れの挨拶をする。今回はトンプソン、照れ臭そうな笑顔で手を振る姿にスプリングフィールドは手を振り返していた。

 WAは横で見ていてその言葉はいつも不思議だと思う。

 

 別段特別な言葉ではないし、らしくないという訳でもないだろう。しかし何処と無く、彼女のその一言だけがちらりと思考を過っていく。何か違う。それは普通のようで、普通じゃない言葉なんじゃないだろうか。と。

 今思えば、カフェの手伝いをしようと言い出したのもそれが一員かもしれない。何だかそう思うと、少しだけスプリングフィールドに後ろめたくは感じてしまう。

 

 彼女はきっと、単に善意だとか、そんな風に思ってくれているのだろうから。

 

「どうかした?」

 

 呼ばれて少しどきりとする。胸を抑えながら目を見開いたWAだったが、彼女からは見えない位置に居たのは幸いか。

 不格好な笑顔で誤魔化しながらフィルターを湯につけて作業に没頭する。不思議そうな顔で見られていたのは出来るだけ気にしない方針。

 

 何となくカウンター側とも目を合わせないようにしながら泡立つコーヒー液を眺めていると、突然向こう側から話しかけられる。

 

「ワルサーさん、慣れてきたみたいですね」

「ふぇっ!?」

 

 思わず持っていた新しいフィルターを落とす。声の主はあらあら、なんて言いながらカウンターの上から手を伸ばしたが、低い背が誇張されて少し子供が遊んでいるような絵面になる。横で見ていたFALが笑いを堪えた。

 

 ムッとしている少女――――――Kar98kがぴょん、と席につき直したかと思うとFALに頬を膨らませて怒り始める。相変わらず怒られている件の人形は笑いを堪えたままだ。

 

「何か言いたいことが有るならどうぞ!」

「いや、別に言いたいことなんて…………ふふっ。無いわよ?」

 

 ニヤリとするFAL、表情は含みしか感じられない。

 

「絶対今背が低いって思っているのでしょう! 失礼な方ね!」

 

 笑う方も大概では有るが、Karの身長へのコンプレックスも中々のものだ。この前は資料を取れなかったのを指揮官が手助けしただけで、まるで何か意地悪でもされたようなしかめっ面をしていたような気がする。

 見ていたWAは思わず反面教師としてメモリにその姿を刻み込んだ、というかぶっちゃけ同類なんだなと察してしまうというか。まあ白状すると面白かったというのも少し有る。

 

 ともかく噛み付くKarと飄々と受けるFAL、こんな構図で自分から気が逸れた事にWAは安堵した。

 流石に経験則で変に根掘り葉掘り聞かれるとボロが出るのは学んでいるつもりだ。

 

 が、そうは問屋が卸さない。

 

「――――――それはともかくワルサーさん、考え事でもしていらしたのですか?」

「ほえっ!?」

 

 またフィルターを落とした。懲りない女である。

 WAが一般的にどういう人形と思われているかといえば、これを見れば分かる通り超がつくわかりやすさから憎めないライフル。そのわかりやすさと言えば凄まじく、指揮官には買ってきたと言いながら明らかに不格好な手作りチョコを渡して周囲からは「それで誤魔化せるとでも?」とやや引き気味の空気を醸し出させた。最早才女と言っていいだろう。

 

 ちなみにバレていない、指揮官は恐らく馬鹿に違いない。

 さて。あからさまに目が泳ぐWAにKarは無慈悲な掃討戦を開始する。

 

「べ、別に」

「隠すほどの事なのかしら……………まさか、先日M16さんがほろ酔いで仰っていた「ジャックダニエルキリマンジャロ割り」の感想を言いたいとかそういう感じでしょうか?」

「違うわよ!」

 

 Kar、敢えて聞いてないフリ。完全に遊ぶ構えだ。

 うんうんと微笑み混じりに頷く姿は、低身長に大騒ぎする先程の姿とまるで似つかない。FALもその遊びに興が乗ったのか弄るのは辞めてしまっている。

 

「分かります、あんなどう考えても酔った勢いで考えた狂気のネタ割りをあまつさえ挑戦し、しかもリポートしてしまえるだなんて恥ずかしいですもの。大丈夫、わたくしはワルサーさんの「ちゃれんじすぴりっと」を大いに評価しましてよ! という訳でどうぞ!」

「違うったら違う!」

 

 からかうKarに、名前に違わずわあわあと売り言葉に買い言葉を続けるWA。

 とうとうスプリングフィールドの食指に引っかかったのか、歩いてきたかと思うとにこやかな表情でWAに尋ねてくる。

 

「何の話ですか?」

「な、何でもないわよ。またKarちゃんが!」

 

 指差す頃には席にあの軍帽は見えない。

 気づけば扉の前でKarが手を振っている。WAは勢いのままに腕を組んでそっぽを向いていたが、まあまあと肩を持ちながらスプリングフィールドが何時も通りの別れの挨拶。

 

「ご来店、有難うございました。Kar98k、怪我は駄目ですよ」

「――――――はいはい、分かっていますよ。スプリングフィールド、わたくしは頑張るのは嫌いですから」

「ふふ、そうでしたね」

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ、何でいっつも私をからかうのかしら。そっちが本命だったら怒るわよ」

「心配なのよ、きっとね」

 

 何故、とWAは顔だけで分かるほどムッとして見せた。

 困ったように笑いながらスプリングフィールドが机に突っ伏すM16に毛布をかける。寝言で聞こえる「ジャックダニエルM4割り」の謎の呪詛に関しては、聞く度に笑いを堪えているがWAからするとやはりこれも狂気である。

 

 しかしM4の何で割る気なのか、というか割られたM4はどこに行くのか。考えれば考えるほどこの謎は迷宮入りするばかりで、WAはいよいよ表情を険しくする。

 ちなみに1:1で割るらしい、M4ではなくM2になってしまう。

 

「M4~、悪いなぁ…………だが姉さんは縦セタノースリのM4の方が寒そうだと思うと言うか色々危険というか☆%#$&*…………」

「はいはい、M4さんはきちんとベッドの中でお休みになっていますよ」

 

 M4、の一言で一瞬だけむくりと起き上がるM16。シスコンも大概にして欲しい、と絡み酒に付き合わされるWAはため息が出てしまう。

 

 よくよく考えると、Karに関しても似たような所がある。

 というかそっくりだった。意味もなく風に当たっていると突然やってきて話しかけてくるし、服装が寒そうだとすぐ自分のコートを掛けに来る。生憎とKarの方がコートがないと薄着なのでそればかりは遠慮というか突っ返しているが。

 

「アイツ、お節介焼きっていうの? あれなんじゃない、過保護」

「――――――それは」

 

 スプリングフィールドが何かを言い損ねて固まった。いつも崩れなかった柔和な表情が少しだけ陰る。

 

 何だその顔は。率直に言うとWAはそう感じた、不満というより恐怖が勝ると言えば正しい表現に近づくだろう。そういう、見てはいけない物を見たような怖気。

 瞬きする頃には戸惑ったような表情はなかったが、カウンターを拭く手が妙に気持ち悪い。行き場のない呪いでも貰い受けたかのようだ。

 

「過保護にもなりますよ、ワルサーはちょっと頑張りすぎるから」

「私はKarちゃんみたいに自分の部屋も片付けられないような自己管理能力のない人形じゃないわ。心配しすぎよ」

「…………それでも、よ」

 

 含みの有る言い方に怪訝な表情をしながら、カウンター拭きに戻るとM16がWAに寄りかかってくる。

 

「おいワルサァ~、またアレやってくれよぉ」

「何をするのよ」

「ほら「別にアンタの為にじゃないんだからねっ!」ってやつ~」

「だからやったことないわよ!?」

 

 これで二回目だ。WAは全く見に覚えのない芸の強要に辟易としてきていた。

 

「えぇ~? あんなにやってくれたじゃないか~」

 

 酔いも回ると記憶が混濁するとは聞くが、この酷さにはWAも顔を手で覆うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…………ワルサーさん」

「おはよう、何?」

 

 カルカノM1891が小さく硬直した後、ニコリと微笑む。WAは素っ気ない対応だったが、彼女の笑顔は崩れない。WA自身、酷い仕打ちだと反省はするのに大した快活さである。

 

 朝に銃の手入れをしに来ただけなのだが、出会ってしまっては無言とも行かない。低血圧なのを悟られまいと努めつつ軽い会話だけして繋ぐ。

 

「早いわね、別にしなくてもいいのよ。最悪してくれるやつなんて居るんだから」

「それはわーちゃんも一緒ですよね?」

「わーちゃんって呼ばないで頂戴!」

 

 これは失礼、と食ってかかるWAに両手を上げて眉をひそめる。

 わーちゃん。所謂渾名のたぐいだが、指揮官が嬉々として呼ぶのでWAはあまり好きではない。他の人形にも似ったかよったかな渾名を付けていると言うからタチが悪い。

 

 WAは馴れ馴れしく名前を呼ばれるのは嫌いだ。というより、指揮官のせいでちょっと小馬鹿にされている感覚が有った。

 

「アイツの事思い出してイラッとするのよ、それ!」

「あはは…………あの人は昔からそんな風に呼んでましたから」

 

――昔から?

 

「昔からって?」

「え? あー…………そういう事ですね。ただ単に、以前から変な渾名をよく付ける人なんです」

 

 ふーん、と適当に流す。

 

 銃のメンテナンスはWAの個人的な趣味嗜好、というより拘りの一種だ。自分の命を預けるものだから自分で手入れするべきだ、というそれだけ。口では触られたくないだとかどうのというだろうが、実際は彼女が自分でやりたいだけという方が圧倒的に大きいだろう。

 

 ここのガンスミスを舐めているという訳でなくとも、そこは感情論の問題だ。人形が感情論で動くのは馬鹿馬鹿しいとWAは思い出す度に自嘲する。

 とはいえそう時間を食う作業でもなく、あっという間にWAの手は止まる。

 

「…………よし、問題なし」

「えっ、速いですね。総合戦果2位なだけはあります」

 

 別に嫌味を言われているとは思わなかったが、WAには2位という言葉が引っかかる。

 

 言うまでもなく配属されて二ヶ月の新人が2位まで出張ってくる事自体も中々凄まじいことに違いないが、それにしても中途半端は戴けないのが彼女の性分。

 圏外なら良い、先が有って努力すれば良いと前向きになれるから。

 だが2位だ。後少し、後少しで越えられる壁をまだ越えてないのは大問題なのだ。

 

「あ、今悔しいって顔してますね」

「別にしてないわよ」

「でもカラビナさんは凄い人形ですから、一朝一夕では無理だと思いますよ」

 

 そう。Masuser Karabiner 98 kurz、WAが相手取る彼女は言葉通りの傑物の類だ。

 元々配属された時点で彼女は何らかのバグのように優秀だったらしく、配属週の成績の時点で2位。いや――――――正確には、ずっと2位だったらしい。

 

 つい最近になって首位に居座るようになったそうだが、WAが見る限りWAとKarに匹敵する成績の人形はあまりに少ない。

 大抵は「カラビナに勝とうなんて、自分でも中々考えない」と答える始末。一体どうして彼女が2位でなくなったのかは謎のままである。

 

「ねえ。Karちゃんに勝ってた人形って誰なのよ」

「今は居ません」

「え?」

 

 不意をつく返答にWAが固まった。カルカノが少しだけ寂しそうに笑う。

 

「いや言葉通り。だからワルサーさんが幾ら勝ちたいと思っても、競争なんて出来っこないですよ? まあどの道、土台無理というものでも有るんですけど」

 

 カルカノにしては棘のある最後の言い草に、WAは苛立ちよりも興味が勝った。

 

 あのカルカノが其処まで強い言葉で断言するほどに優秀だった人形。あのKar98kが全く上を行くことが叶わず、しかもとうとう勝ち逃げしたという。

 はっきり言うとこの基地では伝説じみたものすら感じていて、WAはもう競争心より好奇心に頭がいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

「――――あらあら、彼女の話をして欲しいと来ましたか。でも、どうしてわたくしに?」

 

 何時も通りにKarはノンビリと珈琲を飲んでいた、今日は珍しくベランダ。

 何処と無くゆるゆるとした空気感は、WAが話題を切り出すなり消えてしまった。まるでいつものそれが唯の演技なのかと疑うほどにピタリとだ。

 

 戦闘区域に入った時のそれに似た、表情から僅かに怖気を匂わせる貌。

 

「一番悔しい筈の勝ち逃げされた人形に聞けば、コッチが嫌になるくらい話が聞けるんじゃないかと思って」

「成る程。ワルサーさんらしい発想ですが、外れ――――――――別に悔しいなんて、思いませんよ」

 

――というか、思えませんよね。

 

 カップの縁を見ながら、面白くも無さそうに呟く。何だかそれは悔しさなんかよりも、よっぽど寂しさの方が混じっているような、けれどそれが凍ってしまったような、そんな複雑な視線。

 遠いものを見るような冷めた顔に、思わずWAが尋ねる。

 

「で、誰なのよ」

「誰、ですか。貴方もよく知っているというか――――――まあ、恐らく貴方自身が一番知っていると思いますが」

 

 要領を得ない返答。思わずWAが突っかかる。

 

「さっさと答えなさいよ」

「………………断ります、指揮官さんに聞いてみて下さい」

「はあ?」

 

 突然そっぽを向いたかと思うと、素知らぬ顔でまた珈琲を飲み始める。

 あんまりな投げやりにWAがテーブルに乗りかかる。

 

「ちょっと! 何で言うだけ言って」

「指揮官さんはすぐ教えてくれますよ。あの方は隠し事をしているつもりはなくて、貴方が知りたくなったら教えようと思っているだけのようですから」

 

 聞いたWAが早足で向かおうとすると、遠くからKarが

 

「あぁ、でも出来るだけ他の娘には見られない方が良いかもしれませんね。いえ、まあそうでもないのかも? ともかくお気をつけて」

 

 とすっとぼけたような事を大声で言うのを後ろにWAが歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

「え、何? Karより成績上位だった人形? めっちゃ今更聞いてくるのな」

「今更でもへちまでもなんでも良いわ、誰なの?」

 

 おいおい、と食い気味なWAに手を挙げながら仰け反る指揮官。

 何時も通り執務机は少し散らかっている。きっと副官のKarが休憩している間にこうなったのだろう、指揮官は汚くする天才だというのは専らの評判だった。

 

 とうとう下がり続けて机に引っかかった指揮官が机に倒れながらステイステイと必死で宥めにかかる。

 

「落ち着け、落ち着けわにちゃん」

「誰がわにちゃんよ」

「わーちゃん、ともかく待て。教える、教えますからはいはい」

 

 漸く下がったWAにふう、と息を吐くと、指揮官はそそくさと執務机の棚を漁り始める。

 

「えーっとこれでもなーい、これもちゃーう、これ!――――じゃねー、これはちゃう――――――ちゃわんな。これやわ、あそーれ!」

 

 指揮官が投げつけてきた光り物をWAが慌てて受け取る。

 

 唯の鍵のようだ。今時にしては古めかしい、金属製の施錠用。IDカードの類ではないらしい。

 

「これ何?」

「資料室の鍵。直接自分で見てこい、俺も探してやっから」

 

 

 

 

 

 

 

「すぐ見つかったわね。埃っぽい部屋だったけど」

「あの後すぐ新しい資料室が出来たからなあ、こっちは用済みみたいな扱いの所は有ったし」

 

 アレから、というのは恐らくその人形が居なくなってからのことだろう。

 WAが手に持っていたのは戦果報告の表。撃墜王が単純な成績と見れるが、被弾数や欠損部位についても細かい記述と採点が存在するようで、実際総合で高い戦績を常に収めるのは簡単な事ではない。

 

 一般、何度出撃できるかは人形の種類や、他にも色々が混ざるので出撃毎の平均だ。指揮官は「あくまでモチベーションを上げるため、死に急げとは誰にも言ってないしこれが全てでもない」と前置いてこれについて説明するのを彼女はよく見かける。

 

 指揮官が資料室の鍵を閉じると、資料に手を出して読むように催促する。

 

「ほら」

「分かってる…………ええっと。そうね、これくらいで良いかしら」

 

 大体一年前くらい。分厚い紙束を広げて下から読んでいく。

 とうとう五位まで来た。

 

「5位、トンプソン。4位、スプリングフィールド。3位、Ots-14。2位が――――――ああそうそう、Kar98kよね」

 

 一位まで手を滑らせたWAが固まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「WA、2000?」

 

 何故、自分の名前が有る。突然の情報にWAの視界がぐらりとした。

 自分は二ヶ月前に配属された人形で、決して一年も此処に居た覚えはない。ましてやKarに勝った覚えもないし、全く見に覚えのない記録だ。

 

 何故、何故と五度繰り返した辺り。WAの思考が落ち着いて解を導くと同時に指揮官が喋りだす。

 

「そういうこった。お前はうちの基地で二体目のWA2000。先代様はアホみたいに強かったぞ、面倒臭さもお前と同レベルだったが」

「――――――成る程ね」

 

 何処と無く、対応がぎこちない気がしていた。

 

 しかし納得がいくというものだ。

 全員、一体目の自分と時折区別ができていなかっただけだということ。だからM16は自分の言ったことのない芸をさせようとしたし、Karは妙に気にかけてきたし、カルカノが「昔から」なんて言い方をするのだ。

 

 幾ら勝ちたくても競争も出来やしない。WA自身が一番良く知っている? 当たり前だ、だって彼女が探していたのは『彼女自身』だったのだから。

 

「言っちゃなんだが、わーちゃんのロストはとてつもない痛手だった。味方の撤退で殿をした時に無茶をしすぎたんだと…………それで突貫工事じみた対策として来たのが、お前だ」

「わかったか? 聞きたくねえだろ? お前じゃないお前が居た痕跡が違和感の正体なんて、普通は知りたくも聞きたくもならねえってわけだ」

 

 そしてついでに。と指揮官は特に何というわけでもなく事実を並べ立てていく。

 

「春田さんが「怪我は駄目ですよ」って言うのもそれ」

「いつも「頑張ってくださいね」って言って、言い続けて、頑張り過ぎて居なくなったのがお前だからだ。頑張れなんて、あの人はもう一生、誰にも言わねえだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。そろそろ出撃かしら?」

 

 時計を見たKarが、ぴったり。と呟いて席を立つ。珈琲も良い具合に飲み干せたようで、いつもよりせかせかとしていないからか上機嫌だ。

 

 何時も通りにカップを回収した春田が、扉をくぐろうとするKarに微笑むと。

 

「怪我は駄目ですよ」

 

 と何時も通り挨拶をする。

 Karも上機嫌に

 

「だから、わたくし。昔から頑張るのは嫌いなんです、2位が丁度いいんですよね」

 

 とふわふわ笑って扉を閉めようとする。

 

――もう扉が閉まってしまう。そんな直前になって、急いで呼び止める声。

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 Karが手をピタリと止めると、鮮血色の瞳をちらりと覗かせて彼女の言葉を待っている。

 何となく言う言葉は分かっていたのだろう。Karはちょっとだけ笑うのを堪えるような仕草をすると、躊躇っていた彼女の口からついて出た言葉を、待っていたと言わんばかりに出迎える。

 

「無茶、するんじゃないわよ」

「――――――はい。勿論」

 

 とある日。何でもない日の、二体目の気まぐれだった。




オムニバスのつもりはないですが、まあ結果的にそういう形式のときもあります。


次回は噎せこむような恋愛話。
明るい姉に嘘つき妹、加えておとぼけ指揮官が紛れ込んでさあ大変。
色鮮やかに、彼女は嘘をついていく。
次回、「ビビットチョーク」。お楽しみに。
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