20☓☓年の冬、ロシア、サンクトペテルブルクにて―
都市であれば必ずどこかに一つは存在する、人気のない区画で、一人の兵士が一人の男に向けてライフルを向けている。
「諦めろ、お前は終わりだ。銃を置いて投降しろ。そうすれば絞首台で楽に死なせてやる」
だから賢い選択をしろと、慮るような言葉遣いとは裏腹に、ライフルを構える兵士の目は冷ややかだ。
なぜなら、兵士の目の前に立ち、今は物言わぬ躯として赤いペンキを部屋にぶちまけている同僚から奪ったライフルを構えている男は、どちらにせよ死ぬからだ。支配機構によって生存を許されていないのだ。
今ライフルを向けられている男が、何かの陰謀に巻き込まれたとかではない。知ってはいけないことを知ってしまい、口封じのために狙われているなどということでもない。
極めて単純で真っ当な理由が、其処にはある。世の誰もが肯定し、称賛するに足る理由で彼は殺されるのだ。
「そうカッカするなって。俺がアンタに何をしたって言うんだい?」
ケタケタとライフルを向けられながらも男は笑っていた。ライフルを向けている兵士の目に冷ややかな殺気が宿る。
「貴様は殺しすぎた」
「おいおい、兵士が殺しを悪と語るのかい?そりゃあ自己否定ってもんじゃあないのか」
「俺は貴様のような殺人鬼ではない。貴様とは違う」
大量殺人鬼―それが目の前の男の正体であった。
故、任務のため、仕事として人を殺す己とは違うのだと兵士は男を否定する。男は大げさな仕草で嘆き悲しんだ。
「全く嘆かわしいねえ、人殺しに貴や賤があるものかよ。命は皆平等、道徳の授業で習わなかったのかい?」
「生憎、俺はあの科目とは反りが合わなくてな」
兵士の目は細くなる。会話の合間、男の指先の位置が変わっていたことに気づいたからだ。まるで降参だと示すようにトリガーから離れていた指は、いつの間にか引き金の近くへと僅かにずれていた。兵士はそれに気づかないフリをしながら会話を続けた。
「へえ、ならあんたの考えはどうだい?聞かせてくれよ」
男は目を伏せ、寂れた笑みを見せて兵士に問う。しおらしく、自分の命を委ねたように見える。しかし、男の瞳が一瞬だけギラつくように輝いたのを、兵士は見逃さなかった。
こちらを殺す覚悟を決めたという事だろう。もともと生死の境に見を置くことの多い兵士は、気配の変化というものに敏感である。とはいえ、目の前の殺人鬼にも同じ事が言えるのだが。
「命の価値は優劣は、存在する。大きく分ければ二種類だ」
「へえ?どんな種類だい」
引き金に指がかけられた。
「クズと、それ以外――お前の命はクズだ」
答えを聞いて、きひ、と男が嗤った。
男が投降する姿勢を見せながらも、捨てずにいたライフルの銃口が、兵士の眉間を捉えた。
一つの銃声が鳴り響いた。
作戦報告書――8月20日。
当内務省軍特殊部隊は、近隣での訓練への従事中、殺人を繰り返しながら逃走を重ねていた■■■■・■■■■■を捕捉。
かねてより危険人物として、内務省でもマークしていた人間であり、神出鬼没として知られていたため、司令部より確保命令が発される。
当部隊はベレゾヴィッチ・クルーガー大佐を指揮官として作戦行動を開始。
………作戦の経緯は、ほぼ黒塗りとなっているため省略。
当部隊は確保寸前まで任務を果たすも、対象が殺害した部隊員より強奪したAK-15ライフル(管理番号895)による抵抗をやめなかった為、ベレゾヴィッチ・クルーガー大佐は已む無く対象を射殺。
以上の事からも、大佐の行動の正当性は認められるべきものであり――
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妄想フロントラインの方でやれないことをやる予定。
ただし需要無さそうだったりしたらたぶん消す。