堕ちた先は人形道   作:杭打折

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お絵かきに浮気してました。

あといろいろあって今回の話はやるか悩みましたが、やる事に決めました。


10話.PUNISHER

 部隊で戦う状況において、定石というものが幾つかある。

 まずは、明確な目標を設定すること。これにより部隊を効率的に機能させる方針を立てることができる。

 次に、周囲の環境の状況や敵の情報を把握すること。これにより敵に対する有効な手段を構築することができる。

 そして、視界を適切に確保すること。これにより流動的に変化する状況を素早く把握し適切な判断を下すことができる。

 最後に、敵の嫌がる事をやること。これにより敵の目的を挫くことができる。

 

―――新ソ連陸軍士官教範より抜粋

 

 

 

「よし、行ったな……」

 

 自分たちから離れていく自律人形達の背中を見送りながら、一人の男がつぶやく。

 背後を振り返れば、其処には何人かの人間が息を潜めて隠れていた。彼らはこのストリートで起こった襲撃から辛うじて生き残った生存者達だった。あくまでも現時点で、ではあるが。

 彼らに自律人形達が去ったことを告げると、僅かながらに安堵が広がっていくのが見えた。

 

「でも、どうして急に移動したんだ?しかも全部一斉にだなんて」

 

 直面した危機が去ったことで他に気持ちを回すことができる余裕が生まれたのか、一人が疑問を口にした。

 

「さっきまでは此処をずっと周回していて、場所を変える気配なんて無かったのに」

 

 生存者たちは皆一様に考え込んだ。暫くして、先程とは別の一人が口を開く。

 

「そうしなければいけない状況になった……とか。治安部隊が到着して、人手が足りなくなったなら……」

「俺たちは助かるのか!」

 

 一人、また一人と固く閉ざしていた口を開き始める。助かるのかもしれないという希望が、生存者達の緊張を和らげ始めていた。

 

「だったら移動するべきじゃないのか?ここも戦場になるかもしれない」

「移動するなんて無理だ!俺は足を怪我しているんだぞ?」

 

 気づけば、生存者たちのなかで口論が起こり始めていた。主張は大まかに分けて二つ。安全そうな今のうちに此処から出て屋内に移るか、ここでじっとして隠れているかのどちらかだ。

 

「そうじゃなくたって、銃弾が飛んでくる場所に出るなんてお断りだね!」

「だから今、移動するんだろう?あのマシン達もいない、銃声もしない今なら安全なはずだ!」

「外が安全だと?あんたが保証してくれるのか?安全な筈のストリートを歩いていて脚を撃たれた、この俺に?」

 

 男は生存者達の言い争いを酷くどうでもいい気持ちで聞いていた。

 生存者達の論争がどう決着するかに僅かにも興味がわかなかった。移動するにしろ、留まるにしろ、彼にとってはどちらでも良かったからだ。

 気づけば、生存者たちの意見は綺麗に二分されていた。

 

「あなたはどう思うの?」

 

 そして一人の生存者が彼に問う。答える気もないくだらない質問ではあったが、敢えて口にするのであれば、答えはすでに決まっていた。

 

「貴様ら全員、此処で死んでもらう」

「えっ?」

 

 男は懐に隠し持っていたモノを抜き放つ。

 それは自動式の拳銃だった。そして彼は、自分に問い掛けてきた生存者へと銃口を向ける。

 何を向けられているのかも理解出来ず、口を半開きにした間抜けな面で唖然としたままの人間たち。これから殺されようとしているこもすら理解できないような連中。

 そんな奴らの為に自分はすべてを奪われたのか。

 男の腹の奥底から、煮え滾るような怒りが溢れ出る。

 

「我らが祖国に、再びの夜明けがあらん事を」

 

 せめてその命で償えと、祖国と天に召された同胞への祈りを捧げながら、引き金に掛けた指に力を込めた。

 

 銃声が一つ、鳴り響く。

 

 しかし、生存者たちの数は一人として減っていない。その代わりに、男の手に握られていた拳銃が弾き飛ばされていた。

 確りと持っていたはずの拳銃を弾くほどの衝撃に、利き手を抑えながら振り向いた男が見たものは硝煙を立ち上らせる銃口を構えた一つの人影。

 

「皆様ごきげんよう。此方、市民の頼れる味方、軍所属の戦術人形"AK-15"でございます」

 

 銀の長髪、青の瞳。正規軍の制服に身を包んだ戦術人形――AK-15が其処に居た。

 

 

 

 

 

 サブリナは戦っていた。敵の自律人形が仕掛けてくる近接をシールドで受け止め、そして力任せに押し返す。

 敵の旧式のボディが、現行仕様の彼女に敵う道理はなく。それだけで大きくのけぞり、ウィークポイントである装甲と装甲の隙間を晒した。当然、それを見逃すはずもなければSPAS-12の放つ12ゲージが内蔵するベアリングが配線と基盤を食い荒らす。

 機能を停止して倒れようとする旧式戦術人形、サブリナはシールドの先端を開いてそのボディを掴み、別方向から銃撃を加えようとしていた他の敵へと向かって放り投げる。

 今まさに射撃体勢に入っていた人形たちは盛大なクラッシュに巻き込まれ、一時的にエラーを起こす。それに飛びかかったサブリナは、クローの様に展開したシールドの先端で、その人形の胴をねじ切る。力を失った旧型達を放り捨て、彼女は無表情のまま排莢を行い、次に備える。

 

「どういうつもりですか、隊長……」

 

 しかし、彼女の内心は穏やかではなかった。それは隊長のAK-15が、サブリナに与えた命令が原因だった。

 

――別行動を行う。サブリナは敵をひきつけて囮になれ。

 

 あの隊長は、迷わず自分を囮に使った。そして自分は実行犯のところに行くと言って、何処かへいってしまったのだ。

 まあ、それ自体は一向に構わない。自分であれば強固なボディと出力を活かして多少は無理がきく。囮に使うというのなら、妥当な人選だ。

 とはいえ、問題なのは隊長であるAK-15の方だ。彼女は極めて軽装だ。制圧するのは簡単だろうが、独自判断で行動しているからには制限も多い。その状態で果たして無事に乗り切る事ができるのだろうか、と。

 

「……まずは自分の心配をしておけ、でしたか」

 

 サブリナも、命令を受けた際にそれを訊ねたのだ。しかし、彼女は心配ないという一点張りで、其処についての説明がまったくない。そしてあろうことか、装備においては遥かに整っている自分の心配をしろと言ってきたのだ。

 自分のことを棚に上げて何を言っているのか――そこが彼女にとって不満だった。

 

「なら、そうさせてもらいましょうか……」

 

 サブリナは自らの思考をそこで中断し、次の襲撃に備える。

 敵はまだまだ多い。

 あの隊長の自信の出どころは謎だが、しかし自分は命令をこなすだけだ。彼女が言ったとおり、他人の心配をしている暇はない。

 サブリナは自分にそう言い聞かせながらフォアエンドを力強く引いて、次の戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 いやはや、危なかったと言わざるを得ない。

 もし私が間に合わず民間人が撃たれていたら私の立場が危うくなる。"非常事態に巻き込まれた状態での現場判断"という名目で行動してるが、殆ど独断専行のようなものである。私の手の届く位置で民間人に犠牲を出すわけにはいかないというのが、なんとも世知辛い。

 

「貴様……!」

「両手をあげて、膝を付け」

 

 今回の事件の実行犯と思しき男に、降伏勧告を受け入れる様子は無い。

 それどころか、憤怒の形相で此方を睨んでいる。拳銃を向けられているというのに、恐怖を感じている様子はない。

 

「AK-15と言ったか……機械の分際で、俺の邪魔をするのか……!」

「両手をあげて、膝を付け。これが最後だ」

「貴様らのような人間の道具風情が……撃てよ、撃てないのか?」

 

 繰り返し警告をするが、男は従わない。それどころか此方を挑発してきている。しかし、実を言うと彼の言葉の通りだ。

 私に彼を射殺することはできない。

 本当ならば今すぐにでも射殺したいし、それが最も容易い解決方法だと理解はしている。しかし、権限がそれを許さない。

 幾ら私が軍用人形とはいえ、平時においては"殺害もやむ無しと認められる状況"でなければ私は射殺はできないようになっている。

 

 例えば、彼がナイフを抜いて切りかかって来たとしても、私は両方の膝を撃ち抜いて制圧することができる。

 例えば、彼が隠し持っていた銃で民間人を狙おうとしても、それより早く腕を撃ち抜いて制圧することができる。

 故に、私の電脳は、"彼を射殺しなくても良い状況"だと判断してしまっている。

 だから、私は彼を殺したくても殺せない。

 

「図星か……はん、市民の頼れる味方が、笑わせる」

 

 男は、嘲笑うように笑みを浮かべた。今、私が撃てない事を確信した表情だった。

 

「話をしようじゃないか……お前はどうやって、俺の居場所を割り出した?」

 

 時間稼ぎのつもりか?まあ、乗ってやろう。今の状況はあまりにも私が有利すぎる。

 

「この街にはカメラとマイクがどれだけあると思う?」

「さあ、な……」

 

 答えは、無数にある。今この付近でも両手では数え切れないほどだ。

 携帯端末などは特にいい、カメラとマイクを備えるだけでなくネットワークにも繋がっている。それら全てにネットワーク回線から侵入してしまえば、私の目と耳はこのストリートのすべてに行き渡る。

 

「だが、俺の位置を特定は出来たのは何故だ?」

「貴様が戦術人形にコマンドを送る際のシグナルは独特だった。それを私が覚えていたから、二度目に放たれた時に発信源の位置を特定するのも容易だったというだけの事……パニッシャーを気取ったのが、そもそもの間違いだ」

「なんだと……?俺をパニッシャー気取りと言ったか……?我々の報復を、気取ったものだと言ったのか?」

 

 男の顔から、笑みが消えた。地雷を踏んだか?

 

「そうだろう?殺すだけが目的ならば、自律人形を分散させて自分は逃げればよかった。だというのに貴様はそれをしなかった。自分の手で殺す事にこだわった。貴様の本音は透けて見える。貴様はただ、殺したかっただけなんだ」

 

 ならばこそ、機を逃してはならない。目を凝らして、一挙手一投足を観察しながら彼を殺してもいいシチュエーションを構築する。

 

「違う、違うぞ、戦術人形!貴様達のような機械仕掛けの脳味噌では理解出来ないだろうが、これは正当な報復だ。私には大義がある、正義がある!この国に無為に踏み躙られ、奪われた我等には貴様らから奪い返す権利がある!」

 

 血走った目をかっぴろげ、口角泡を飛ばす様相は実に見ていて素晴らしい。見ていて清々しい迄に気取っている。

 殴られたから、そいつの事を殴り返してもいい。とても古典的で王道で素晴らしいまでの自己欺瞞だ。

 本当は、ただ殺したいだけなのに。精一杯その殺意を虚飾で飾り立てている。正当な権利のある殺しだから良いと言って、自分と周囲に訴えかけている。

 きっとこの男も本当は善良な人間で、当たり前の幸福の中に生きていたのだろう。

 ああ、私の好きなタイプだ。初めてこの男を好きになれたかもしれない。

 私はお前の殺意と動機を肯定する。だから、お前を同じ理由で殺したって文句はないだろう?

 

「であれば、貴様も奪い返されるべきだ。その覚悟はあるのだろう?」

「ふざけるな!貴様のような人形風情が何を!」

「そのとおり。私は人形、人間の理屈で動けるはずもない。だが……」

 

 だが、と言って私は彼の後方へと視線を向ける。

 そこには怯えと困惑の混じった表情で、不安に満ちた目で此方を見る市民たちがいる。そして彼らは全員が、人間だ。

 確かに私は人形で様々な権限に縛られている。しかし、彼等が望み許可するのなら、人形である私は動ける 動くべきだ。。

 

「どうでしょうか、市民の皆様。彼は殺すべきだと思いますか?」

 

 男に拳銃は向けたまま、意識も外すことはないまま市民達に問う。

 戦術人形の身体は便利なもので、目を向けていなくても視界の中の映像なら電脳が全て綺麗に処理してくれる。私が問うと、男が一瞬、身体を震わせたのが見えた。

 突然矛先を向けられて困惑しているのだろう。民間人たちは皆、右に左にと顔を見合わせている。

 

「彼は我らの国家が、奪ったから奪い返したのだと言っています。そしてそれが当然の権利であると。ならば同様の権利が、皆様にもあるはずです。私は軍の戦術人形であり、同時に国家の民である皆様が保有する武力なのです。皆様の盾であると同時に、剣でもあるのです。故に、皆様がこの男を殺せと仰るのであれば、皆様が望むとおりに殺害しましょう」

 

 話すうちに皆の視線は少しずつ、私に向けられてきた。

 

「でも、そうだよな……こいつは俺たちを殺そうとしたんだから……」

 

 一人が、彼への恐怖を口にした。

 

「そうよ……こいつのせいで、私の友達がっ!」

 

 一人が、彼への憎悪を口にした。

 

「こいつがこんな事を引き起こしたからっ!お前がそんな事をしたのがいけないんだ……!」

 

 一人が、彼を殺されて当然だと言った。

 

「そ、そうだ……殺せ……っ」

「お願いだから、そんなやつ殺してよ……!」

 

 やがて、皆が口を揃えて殺せと叫び始めた。

 

 "Deus lo Vult(神がそれを望まれる)"という言葉がある。

 はるか昔、神の名のもとにあらゆる暴虐を尽くした時代があった。神の名のもとに全てが赦される時代があった。

 人間が神の言葉を絶対であると叫ぶなら、人形にとっても人間の言葉は絶対であるべきだろう。

 

да-с(りょーかい)

 

 故に、殺す。

 私は彼に恨みは無い。民間人で盛大に花火大会を催したことも、正直に言えばどうでもいい。私はただ殺したいだけではあるが、皆が殺していいと言った。

 既に殺人許可は下されている。だから、殺せる。

 

「待て……!俺を殺したら、解らなくなるぞ……!俺がどうしてこんなことを起こせたのか、調べたいだろう?知りたいはずだ!なあ!?」

「私ではなく、あちらの皆様に言えばよろしい。もしかしたら気持ちを変えてくれるかもしれない。私の殺人許可を、取り下げてくれるかもしれない」

 

 男の振り向く先には彼を殺せと叫ぶ人間たちがいる。血走った目で、口角泡を飛ばす様相で彼が殺される事を只管に望む人間たちがいる。

 

「っひ、ぃ……っ!」

 

 それを見た男は情けなく、怯えきった声をあげる。

 

「待て、知っている事は言う……!言うから待ってくれ!俺を殺すな!殺さないでくれ!」

「重ねて言うが、貴様に恨みはない。しかし、これも人形のやるべきことであるというのなら仕方無いだろう?」

 

 笑ってはならない、楽しんでいると見せてはならない。あくまでも職業的に、粛々と、人形として殺すのだと皆様に見せなければならない。

 撃鉄は既に起きている。あとは撃鉄が落ちるだけで彼を殺す事ができる。じわりじわりと、指先に力が込もるたびに引き金が絞られていく。

 

「ほうら、言うのなら早く言いたまえ。そうしたら気が変わるかもしれないと言ったろう?」

 

 願わくば言わないで欲しい。言ってしまったら彼を生かさなくてはならない理由ができる。あと少し、あと少しで撃鉄が落ちる――

 

「G&K治安部隊です!武器を捨ててください!」

 

――だが、無情にもその直前で、空気を切り裂くような甲高い叫び声が制止の意図を以て割り込んできた。

 声を聞いて、咄嗟に引き金へとかけていた指を外す。同時に路地裏へと雪崩込んでくる重武装の、しかし民生品の戦術人形たち。

 一体が指示を出すと彼女らは、私と市民と実行犯の男のそれぞれを取り囲んでいくよう動いていく。

 というか、私の回りを取り囲む戦術人形が一番多い気がするのだが。

 

 私を囲む人形達の一部が割れると、一体の人形が歩み寄ってきた。つい先程まで手際よく他の人形達に指示を出していた個体だった。

 

「G&K、治安部隊隊長のXM8だ。ご同行願えるかな?」

「ええ、勿論ですとも。同行しましょう」

 

 こうなっては仕方あるまい。殺せなかったのは非常に残念だが、今から殺しにかかるのは私の立場が厳しくなる。引き際を見誤ってはならない。

 それに、私は人を殺したいとは思ってはいるが、彼を殺したかったわけではない。拳銃を預けて欲しいという要求にも、勿論、素直に従いますとも。

 だが武装解除したというのに警戒は解かれなかった。気持ちはわかるが、基本無害な私にはやりすぎだと思わなくもない。

 そんなこんなでG&Kの戦術人形達に取り囲まれながら、装甲車へと乗り込む。

 

 乗り込んだ装甲車の奥の座席を見れば、サブリナが無表情を保ったまま座っていた。

 彼女の無表情からは何を考えてるか分かりにくいが、目を合っても逸したりしないから、さほど悪くは思われてない筈だ。

 

「ご無事でしたか、隊長」

「そっちこそ、サブリナ。損傷は?」

「皆無です」

「よろしい」

 

 隣に座るとあちらから声をかけてきた。

 状態を問えば、損傷は皆無だという。彼女は囮としても盾としても、極めて優秀なようだ。それが分かっただけでも、今回の行動は上々の成果だといえる。

 並んで座る私達の両脇と対面をがっちりと、グリフィン&クルーガーと名乗ったPMCの戦術人形が固めて、装甲車はゆっくりと走り出した。

 

 それにしても、クルーガーか……嫌なことを思い出す名前だ。

 

 




よくわかる人形道10話
「舐めプしてたら時間切れ」
以上


(´・ω・`)やあ
(´・ω・`)久しぶりだね、作者だよ
(´・ω・`)期間が空いてしまったけど、のっそり再開しようと思うんだ
(´・ω・`)応援してくれたら嬉しいかなって
(´・ω・`)感想待ってます 

あ、ちょっとだけ活動報告更新してます。先行してるサーバーの情報を含む内容ですが、それについてみなさんがどう思うかは聞いてみたいので、平気だという方は見てもらえたら幸いです。
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