堕ちた先は人形道   作:杭打折

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以後、まったり更新である。


1話.君の名は?

 間違いなく、俺は死んだ。

 8月20日のサンクトペテルブルク。あの日は一日かけて町中を物色して過ごしたが、手に掛けたいという獲物を見つけることができなかった。だから、その日は早めに切り上げて隠れ家で活動資金になる絵の作成あたっていた。

 そして作業に没頭していた俺は、完成を目前にして軍の特殊部隊からの襲撃を受けた。

 閃光弾、ガスに始まり次は鉛玉の雨霰。最初の攻撃はしのぐことに成功したが、連中から逃げることはできなかった。

 連中、隠し通路で逃走した俺にすぐ追いついてきやがった。そして銃撃戦が始まった。とは言っても真っ向から撃ち合うようなやつじゃない。頑張って隠れて頑張って一人ずつ仕留めてくようなやつだ。軍人、しかも特殊部隊と正々堂々やり合って殺せるはずがない。

 結果、何人かは返り討ちにしてやったが、指揮官であろう兵士にこちらの手を読まれ、追い詰められて殺された。

 あと男、降伏しろとか言ってたくせに最初から殺すつもりだったぞチクショウ。

 油断を誘おうと言葉を弄したものの、分かった時にはもう手遅れ。だからせめて相打ちにと思って撃ったが、あの手応えだと生きてるだろう。

 

 さて、再三言うが"俺"は死んだ。これ以上無いほど確実に。

 しかし今もこうして意識は残って独白できているのは、なぜか。

 答えは単純、"俺"は死んだが"私"は生きている。

 どういう理屈だって?私にもわからん。

 分かっているのは、この身体が人間の身体ではなく戦術人形のものであるということ。

 

 そして、この身体がAK-15という名の、試作型戦術人形であるということ。

 

 奇しくも"俺"が最期に手にしていた銃と同じ名前である。その繋がりで、こうして今存在しているというのならば、AK-15は恩人ならぬ恩銃である。

 弾が出れば銃なんてどれも大差ないと思っていたが、AK-15だけは特別だ。

 Ура、AK-15。Ура、カラシニコフ。その弾丸に誉れあれ。

 

 人から人形になったことで、当然だが姿も変わった。

 外観データを基に説明しよう。

 白に近い銀のロングポニーに瞳はブルー。口元以外をバイザー状のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が覆っているので見えないが、顔立ちは整っていると断言する。人間基準に考えて美少女と呼べる部類だった。胸は軍用だというのに大きい。製作者の趣味だろう。"俺"としては賛同するが、"私"からするといい迷惑だ。

 リサイズの検討願も提出したが、その程度のサイズであれば支障なしとの返答が返され却下されている。人形に対する女性の権利意識とやらは発達していないらしい。

 

 ここまで造型にこだわるのなら、S-doll(愛玩人形)として売ったら大した儲けになるだろう。しかし、私はれっきとしたT-doll(戦術人形)である。

 しかも有り難い事に、世に多く出回っているという民生品を転用したものとは異なり、設計段階からの軍用タイプ。

 外骨格無しでパワードスーツ並の腕力を持ち、装備次第では更に向上する。反射速度、処理速度共に、非常に高く、極めつけは長期任務対応の為の自己修復(イモータル)

 些か過剰なスペックという気がしなくもない、目も眩むような高性能ボディだ。

 しかしその代償としてダミーリンク機能とやらを廃除しているらしい。当初は搭載予定だったらしいのだが、大人の事情(予算不足)で駄目になったんだとか。

 ただし、その分のリソースを制御ソフトに割いているので単体性能は寧ろ向上してるらしい。技術者とは逞しいものである。

 

 強い体を手に入れて、失った命は戻らなかったが人形として存在は継続するという好待遇で復活した私にも、無視できない大きな問題が一つ有る。

 それは、人形が人間を殺すのはまずい、ということだ。

 人形は人間の創造物。謂わば道具に過ぎない。よって原則として人間に貢献するように機能するべきである。

 その道具が、人間にとって最もわかりやすく、単純にして最大の損害を与える方法である殺害という行為を行ったらどうなるか。

 

 簡単なことだ、廃棄処分になる。

 

 流石にこの幸運がもう一度あるとは思えない。

 死んだら殺せなくなってしまう。なので、可能な限り死を回避する方向で行動したい。

 まず絶対原則として、人間の命令には忠実に従うべきだろう。人間が私に与えたもうた戦闘能力は人間ではどう足掻いても勝てない領域にある。

 俺が死んだあの日の部隊も、この身体であったなら容易く皆殺しにしていただろう。もっと早くこの身体がほしかった。

 そんな私が反逆をしたらどうなるのか。軍人達が理解していないはずもない。

 これは予測に過ぎないが、私のボディには自滅機構のようなものが備わっている筈だ。スイッチ一つで体が弾け飛ぶとか、そういう奴。

 命令違反や反逆行為、それらに該当する行動を取った時にその機能が使われると思っているが、流石に確かめる為に反逆するつもりはない。

 結論から言うと、私にそれだけの力を与えても彼等には問題がないということになる。

 更に言うと、人間には、それだけの力を私に与える必要があったという話でもある。

 その必要性が何処から来るのかというのも、私にとっての問題に大きく関わっている。

 

 この時代の軍が主に相手をするのは、E.L.I.Dという化物共である。

 E.L.I.Dとはコーラップスとかいう物質の拡散により汚染された環境で、突然変異した生物達の総称だ。見た目は一昔前の、ホラー映画で主役を飾るようなゾンビそのものである。

 ただし、数だけやたら多く、個体の性能はゴミクズであるのが映画のゾンビ達だが、奴らはそれとは異なっている。

 奴らは数も居て、個体の性能もかなり高い。お陰で、人類側で対抗可能なのは軍隊だけという有様だ。

 人間が人間と戦争をする時代は第三次大戦で終わってしまったのだ。

 

 察しの良い諸君なら、ここまで言えば私がなんのために作られたのかを理解してくれるだろうと思う。

 

 私ことAK-15は、対変異生命体用特殊戦術人形なのだ。

 

 

 

 




感想とかあったらモチベ維持になるので聞いてみたい。

ただし、理由も根拠も述べない低評価や批判はモチベ下がるので、御遠慮ください。
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