堕ちた先は人形道   作:杭打折

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私も、開発者達も、あれのカタログスペック以上の事は何一つとして理解していなかったのだ
 ~ある退役士官の手記より~



5話.MONSTER

 私は管制としてベテランとまでいかないかもしれないが、それでも数々の経験を積んできたという自信がある。

 管制士官としての任についたのは、この汚染された世界にE.L.I.Dという化物が姿を表して、凡その対抗戦術が確立され始めたころだったと記憶している。

 様々な戦場を見てきた。甘美なる勝利も、唾棄すべき敗北も味わってきた。

 故に断言しよう。

 

 AK-15は無事では済むまい。出来るとしてもせいぜい時間稼ぎで、その中で1体でも削ってくれれば大金星。

 

 それが管制としての経験則と人形という単一戦力を客観的に評価した上での結論だった。

 

 あの、技術部門肝入りのプロジェクトの産物だ。さぞ高性能なのだろうとは思う。

 しかし、それが通常の戦術人形の発展型であるというのならば、群れを成したE.L.I.Dに勝てるとは思えない。

 

 だからAK-15には、救援要請を受け取った近郊の部隊が駆けつけるまでの間、E.L.I.Dの群れを引き付けて時間を稼ぐことを期待することにした。

 その中で1体でも倒してくれたのならば、後に訪れる正規部隊の負担が大幅に軽減される事となる。

 よって、管制としてAK-15に与える指示は一つしかなかった。

 

「AK-15、遅滞戦闘に従事せよ。可能な限り数を減らせ」

 

 E.L.I.Dは同族以外への強い攻撃性を有している。今もAK-15へとまっしぐらに向かっているのはそれが理由だ。

 そして一度見つけた標的は完全に見失うか、獲物が死ぬまで追うのを止めない。

 つまり此処でAK-15が逃げ出したとしてもE.L.I.D達はそれを追いかける。そうして少しでもAK-15に時間稼ぎをさせることができれば、捕捉したE.L.I.Dたちの群れを見失うことはなく、更にAK-15の攻撃により損耗を与える可能性もある。

 

 要するに、餌役をやらせようという事だ。

 良心の呵責が無いと言えば嘘になる。しかし、それを考えていられないのが管制である己の立場でもある。彼女が人間であったとしても、同様の命令を与えただろう。

 

「AK-15より管制へ。任務の意図は了解。攻撃の方法は、私に一任されると考えてよろしいか」

「無論、許可する」

 

 もともと、今の状況でAK-15がE.L.I.Dを倒すのはあわよくば程度の期待だ。

 それに、ある程度現場が好きに動くほうが、うまく回るものでもある。

 

 私はAK-15の提案に許可をした。

 直後、その返答を後悔することになる。

 しかし、誰も小官を責める事はできないはずだ。

 

 いったい誰が、E.L.I.Dの群れに突撃するなどと想像できるというのか。

 

 

 

 

「AK-15、遅滞戦闘に従事せよ。可能な限り数を減らせ」

 

 皆様こんにちは、AK-15です。どうやら管制士官殿は私に時間稼ぎを行わせたいらしい。

 まあ、妥当な判断だろう。常識的に考えて、単騎で立ち向かうには彼我の戦力差が開きすぎている。

 間違いなく、近隣へ緊急出動の要請も出していると予測する。なら、現場の私に時間稼ぎをやれというのは、当然の帰結。

 戦術人形の使い方としては妥当といえる。

 

 幸いにも管制士官殿は現場でのやり方にはそれほど口を出さない御仁である様子。戦い方は私の好きなようにしていいらしい。

 自由にしていいという権限は何とも清々しい。

 さて、理想的なのは、此方に迫る敵を撃ちながら後退して距離を維持し続ける漸減戦術。

 しかし、私はそれを早々に諦めた。諦めざるを得なかったというのがより正確な表現か。

 試してはみたのだ。敵の動きは実に素早く当てるのは困難だったが、何発か撃てば感覚も掴めた。350m程の距離からであれば、脚や胴体を狙い撃つことは出来るだろう。

 

 しかしだ、連中は止まらなかった。

 

 おそらくは、異常に活性化している筋肉の鎧が原因。直撃し、皮膚を貫いたとしても筋肉に受け止められて、貫通するに至らないのだ。

 素材が人体であった事を疑いたくなるが、猪猟や熊猟においても、散弾銃などの弾では野生の獣の筋肉や密度の高い脂肪を貫通できないという。

 自分が相手にしているのは軍隊も手こずるような化物連中。常識で語る相手でもないと思えば、納得も行くというもの。

 それに、言葉を飾りはしたが実に単純な話なのだ。

 要するに、今よりも更に的確に急所を狙わなければならなくなったというだけ。

 

 さて、人間サイドからのオーダーは遅滞戦闘と、敵を少しでも多く狩ることときている。

 無論、最低限のノルマとして当初予定されていた数は狩らねばならないのは言うまでもない。

 

 そして、今では口走ってしまった事を後悔しているが、一匹も逃さないと言った以上は14体全てを撃滅するくらいの気概は見せねばならないことも付け加えよう。

 

 となれば、突撃という選択肢が最有力候補に上がってくる。

 結局の所、離れた位置から撃って駄目なら、近くで撃つという選択肢しかないのだ。相手にダメージが行くまでチクチクと遠くから嫌がらせを繰り返すというのは、弾薬不足がそれを許さない。

 

 それに、これは存外妥当な戦術でもあるのだ。

 敵から逃げる戦術を採用したとしよう。距離を保つ速度を確保するには、外骨格と躯体にそれなりの量のエネルギーを回さなければならない。

 さて、私のエネルギーが尽きるまで何体倒せるかだろうか。

 ノルマ分を達成することすらも厳しいと、私は答える。

 

 しかし、接近してしまえばどうか。

 此方の攻撃方法は多少なりとも増えるし、距離減衰を受けている弾薬も多少はマシになって火力と共に命中率もあがる。

 

 加えて連中、頭数は多いが、私一人に対する戦力としては過剰にもほどがある。

 私を追い詰め、群れとして狩りを行う分にはそれはデメリットとして目立たないだろうが、私が正面から衝突することを選択したら話は変わる。

 

 端的に言って、戦力を持て余すのだ。

 

 武器を持たず、近接戦を主体とするE.L.I.D共にとって、一人の交戦距離に留まれるのは3体ほどが限度。

 ほかは自分の手番が回ってくるまで、味方の邪魔にならないように待機しなくてはならない。

 群れという一個集団である敵と、あくまで個人である私。その時点で既に、機動力に雲泥の差が存在している。

 戦闘の規模を小さく、狭い範囲で行うにつれ相手の数的優勢はその価値を劣化させるのだ。

 つまり、圧倒することは不可能でも対等に渡り合う事は不可能ではないということ。仕掛けるのも、離脱するのも、そのタイミングは非常にシビアになることは否めないが、ようは私が見誤らなければ良いだけの話。

 

 実に、実に簡単な理屈である。

 あとはこの机上の空論を実戦で証明すればいい。

 我が事ながら、簡単に言ってくれる。しかし、やってやろうではないか。

 

 敵との距離は既に200メートルを切っている。その場合、此方も最大加速で近づいたとして、接敵は4秒程か。

 相対速度と互いの質量から衝突で生じる運動エネルギーを算出――行けそうだと見切りをつけ、地面を思い切り蹴っとばす。

 

 周囲の景色が早送り映像のように変化する中、それ以上の速度で正面から接近してくるE.L.I.Dの最先鋒を視認する。

 一歩、二歩、と接近する中で敵も此方を視認。迎え撃つため、丸太よりも太い腕を振りかざしている。

 

 互いの衝突まであと5歩もない距離、時間にして0.1秒にも満たないその刹那、強化外骨格脚部に仕込まれている指向性爆薬をセット(起動)トリガー(撃発)

 

 数歩の距離を刹那で詰める加速を得て肉薄。E.L.I.D(獲物)は愚鈍にも拳を振りかざしたまま、醜い双眸を想定外だと見開き、見つめる私とバイザー越しに目が合った。

 黄色く濁り血走った眼球。原形を失っているその顔は、目の前の相手が男だったのか女だったのかさえ不明なほど。

 見るに堪えない醜い顔は、私の精神を不快な感情で満たす。

 

 

 さて、話は変わるのだが諸君はゾンビの倒し方はなにかと言われたら何を浮かべるだろうか。

 燃やす、バラバラにする、銃殺、ミンチ、車で突き飛ばす、溶鉱炉に落とす……色々あると思う。

 

 では、最も早く倒すには、と聞かれたらどうか。

 

 そう聞かれたら大勢はきっと、頭を破壊すると答えるだろう。

 

 そのとおり、大正解だ。

 

 広域性低放射感染症――要するにE.L.I.Dと略される病を発症した者達は超人的な身体能力を有する化物に変化する。

 しかし、彼らの身体は強化されているとは言っても、基本的なメカニズムにおいては元になった生物と大差ない。

 脳が思考を司り、身体全体に指示を出す。

 よって、頭部を破壊することは連中に対抗する手段として非常に有効なのである。

 

 感想から告げると、E.L.I.Dの頭を蹴り砕く感触は、心地よいとは到底思えないものだった。

 

 まず最初に伝わるのは硬いものを蹴った感触。だが次の瞬間には硬度をなくし、やがて形も喪った。

 胸の内を満たすのは、急所の粉砕に必要なエネルギー量の計算結果。幸いにも、私の主火力となる弾薬でも、今の距離からであれば数発叩き込めば破壊できると判った。

 達成感と呼べるものは、無い。

 

 生前散々味わった歓びは、少しだって顔を見せてはくれない。

 異形とは言え人の形をしているものを破壊するのだから、似た感覚は得られるかと期待していた部分があるのは否定しないが、どうやらそれも駄目らしい。

 あまりにも人間から外れすぎているからなのか、私が彼らを人間とは少しも見做せないからなのか。

 

 それとも、私が既に人間で無いからなのか。

 

 理由はわからないが、いずれにせよ私の欲求を満たすには至らない。ならば、早く終わらせて帰りたい。

 除染措置を受け、身体に飛び散ったE.L.I.Dの体液をシャワーで洗い流したい気分だ。

 

「よ……っと」

 

 蹴り飛ばした衝撃の反作用を駆使して減速。頭を失ったE.L.I.Dの身体は踏み台にするには申し分ない屈強さだ。有効活用する以外の選択肢はない。

 E.L.I.Dの分厚い胸板を足裏で蹴って姿勢を制御、連中の頭上を跳び越える高さで宙返りしつつ眼下を見下ろし、戦況と配置を把握。

 

 敵、残り13体。

 

 見上げる彼らの足元は一様に抉れている――急制動をかけて此方を捕捉した段階。

 敵が動きを止めることを優先してくれたおかげで、此方は未だに完全に包囲されてはいない。

 初動としてはまずまずの成果。

 敵の位置情報を把握する。即座に排除すべき対象は、3体。

 

 次の狙いは定まった。

 

 着地地点へ落着すると同時に外骨格を強制駆動、ライフルの照準がぴったりと、こちらに向けて手を伸ばしている獲物の頭部へ。引き金を引いて、頭部を粉砕。

 使用した弾薬の数は、きっちり計算通り。

 

 

 なるほど、ふむ。

 どうやらこの戦い、勝てそうだ。




おまたせして申し訳ない(´・ω・`)
それともう一つ、コイツ実は強いんだ(´・ω・`)


足裏の炸薬について
まあロシアだからね。突然足の裏が凍って地面に張り付いてしまうかもしれないだろう。
だから爆裂ボルトみたいなもので強制的に引っ剥がすようなものだと思って欲しい。



あと、この作品についてだけど、ストーリー進行を優先する方針だから戦闘描写をこってりやる予定はあまりないんだ。
だからキンクリすることがあると思う(次回予告)


あと、次の更新はこっちになると思う。


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