『
第31独立遊撃機械化実験小隊戦闘詳報
1.形勢
新たに出現した上位個体が群体を形成し周辺地域への脅威となることが不可避の状況となったため、第24独立新鋭自動車化狙撃旅団が、これの撃滅作戦を実施。
我ら第31独立機械化実験小隊(以下、31独立小隊とす)は、この作戦進捗に伴い、近隣に散在する小集団の排除のための部隊展開を実施した。
単体においても戦局を左右しかねない変異生命体を排除することは、主力部隊の作戦遂行のためには不可欠である。また、新たな生命体群形成と統率型の出現を未然に防ぐという点において重要な効力を持つ点を重く見た参謀本部の決定に従ったものである。本詳報は作戦の正当性及び妥当性について議論するものではなく、この様な事前の情勢が存在していたと認識を共有を行うために記載するものとする。
2.作戦実施区域の敵勢力
事前情報として得ていた数は以下の通り。
人型……4体
獣型……3体
しかし、戦局の推移の結果、主力部隊は目標の一つであった統率型撃破を、他の目標達成と兵士たちを犠牲にすることで達成していたが、正規軍主力が多数の打ち漏らしを拡散させたことにより、31独立小隊の担当する地域の敵戦力は以下のように変化していた。
人型……10体
獣型……4体
なお、前述の情報については連絡の混乱により、主力部隊から31独立小隊への伝達が遅れたため、出現まで察知できていなかった。これについては実に憂慮すべき事項であり、今後は優先的に情報が伝達されるよう、現場指揮官の資質的要因も考慮した指揮系統の改善を見込むべきものである。
3.戦果
空挺降下後、直ちに交戦。部隊の戦果は以下を報告する。
人型……撃破8、捕獲2
獣型……撃破4
捕獲したE.L.I.Dは生体サンプルとして、撃破したE.L.I.Dは回収可能な部位に凍結処理を施して回収。残りは辺り一体を含めて焼却処理を施して廃棄。
その他、消耗品については……
』
正規軍参謀本部第2会議室。
はらり、と最後のページを捲くる音が空気を打つ。
参加している者達は皆、黙々と手元の報告書を眺めていた。彼らがどういう身分であるかは、肩章の星と勲章の数が物語っている。
その場での議事進行役を任された一人の士官は、貧乏くじを押し付けてきた上官を内心で呪う。この会議室の空気を吸うくらいなら、上官のように、デスクでのうのうと不味いコーヒーを啜っている方が遥かにマシだった。
「これが、例の新型の作戦結果か」
「はい」
「にわかには、信じ難いな」
「ですが、事実です。先程ご覧いただきました戦闘中の映像も、一切の編集が加えられていないことを確認済みです」
参加者である、一人の高官の投げかけた問いかけ。士官もその気持ちはわかる。まさに前例のない戦果、旧世代のプロパガンダの方が、まだ信じられる。
しかし、紛れもない事実であると、士官は答える。
「そうか……」
溌剌と、淡々と、事実であるという士官の回答を受けた彼は腕を組み、重苦しい表情で思案する。
ツンと、会議室の空気に張り巡らせられた沈黙。
先ほどとは別の出席者――ダークグリーンを基調とする野戦将校服を身に着けた将軍が口を開き、士官に問う。
「損傷は軽微とあるが、どの程度か?」
「はっ」
問われた士官は手元の書類から確認した内容を報告する。
「外骨格及び左腕部のフレームを損傷、その他は軽微な損傷にとどまっているとのことです」
この戦いでAK-15が負った傷は、人間で例えるなら左腕部の、橈骨と尺骨の骨折に該当する。人間なら3週間以上の期間を要する重傷だが――
「なるほど、軽傷だな。次の作戦への投入は問題なさそうだ」
「でしょうな。これだけの戦果を挙げられるのなら、送り込む場所には困りますまい」
所詮は、戦術人形。
基幹部分にかかわらない損傷なら、部品の予備があれば即日で修復可能な程度の軽傷。
だから、この参加者は、AK-15に対して再度作戦への投入は即時可能だろうという判断を口にした。他の出席者も、同調するように頷いている。
戦力としての有用性を共通認識として懐いた高官達は、受けた士官は、言いにくそうな眉間に皺を寄せた。
「その件についてなのですが……」
「なにか、未記載の問題かね?」
怪訝そうに眉を寄せ、将軍は担当の士官へと視線を向ける。その目に若干量込められている圧の意味は、報告していない情報があるのかと咎めるもの。士官は咄嗟に、違うのだと答える。
「詳細は別の報告書に記載しておりますが、技術部門より義体の自己修復機能の検証を行いたいという要望が出されています。また、追加戦力として同型の増産許可と資金投入の要求も」
「修復期間は?」
「同部門主任研究員からの資料によれば、最低でも1週間は欲しいと」
「長過ぎるな。 それに追加資金だと? 既に巨額の資金を投じているはずだが?」
一人の高官が口元を気難しそうに歪め、苛立たしげな口調で問い詰めた。
他の出席者も、それに賛同するように口々に懸念を吐き出していく。
優秀な戦力なら、出し惜しみは不要。
投入している予算以上の戦果は早急に回収すべきである。
人形で新式の高性能義体の検証実験を行う必要性は希薄である。退役軍人を管轄する省庁にやらせた方が軍としての体面も良い。
技術部門からの求めを却下する方向へと流れている参謀本部の流れを見て、士官もやはりこうなったかと考えを浮かばせていた。士官個人としても、一体の人形で多様な技術の検証実験を行うというのには反対だった。
医療技術なら尚更だ。E.L.I.Dとの戦いで身体を欠損し、今も苦しむ同期のことを知っている。
より高度な義体技術が開発されたのなら、今も苦しむ
「まあ、考えても仕方あるまい」
参加者の中で、今まで沈黙していた一人が口を開いた。同時にしんと静まり返る会議室。それぞれ思い思いに技術部門に対する否定的発言を行っていた高官たちも、口を閉ざして彼の意見に耳を傾ける。
「投資分の回収は将来的なものとして、多少の便宜を図ってやるべきだと私は考えるが」
カーター将軍と呼ばれた男は、左手で顎髭をなでながら首を縦に振らず、肯定。
この場の中でも随一の発言力を持つ人物が示した態度に、場はざわめく。
対E.L.I.D特殊部隊を率いるカーターの発言力はこの会議の参加者達の中でも随一を誇る。それは今までの流れを覆し、方向性を決定し得るほどですらある。
高官達は互いに目配せをし、一人が押し負けておずおずと口を開く。彼は今回の作戦の責任者でもあった。
「つまり、カーター将軍は要求を受け入れることに賛成と?」
「ああ」
「有用な戦力を有効に活用するためだ。支援を惜しむ必要はないだろう」
躊躇いなく、確りとした口調でカーターは答える。そして、視線を会議室の端から端まで移動させ、他の出席者らから反論が上がらないことを確認し、そのまま言葉を続ける。
彼の語る支援というのが戦力増強に関するものであると、参加する面々は理解していた。その根拠が、正当な論理によって成り立つものであるということも。
それでも先程まで彼らが技術部門の要請を批判していたのはなぜかと言えば、一つの理由があった。
「私とて、鉄血工造の一件を皆が懸念しているというのは理解している」
その名は、蝶事件。
鉄血工造と呼ばれていた軍用戦術人形を主力商品としていた大手企業がテロリストに襲撃され、管理AIが暴走した末、人間に反乱。人類にとっての敵対勢力となり、民間軍事企業に委託せざるを得ない状況が続いている。
この事件以降、戦術人形の運用を積極的に行っていた軍は方針を変え、人間との混成部隊を主体とする方向へと切り替えた。軍内部でも戦術人形反対派の意見が力を持ち、特に軍の意思決定の中枢たる参謀本部はその色が強くなりつつある。
AK-15が戦果を挙げたにも関わらず、技術部門の要請に反対意見が多かったのは、参謀本部全体にそういった風潮が蔓延していることが原因でもあった。
「しかし、技術部門の行う新型人形と運用方法の研究は、E.L.I.Dとの戦争に打ち勝ち、人類を存続させるために必要不可欠。改めて、重要性の再認識を行うべきだと思うのだがね」
しかし、戦術人形の研究は必要であると、カーターは全員に向けて断言する。
その言葉に、反論するものは居ない。
戦術人形の持つ対E.L.I.D戦闘でのアドバンテージは、鉄血の反乱により人類の生存領域が大幅に縮小したことからも証明されている。人間では、E.L.I.Dとの戦闘によって汚染され、感染者になってしまうことすらある。そう言った意味でも、戦術人形の研究は必須といえるものである。全員が人形の研究の必要性を、頭では理解していた。
「将軍の仰ることは理解しています……ですが、現状の予算では追加のダミーリンクを用意する事は不可能です」
予算の不足――それだけは、理屈ではどうしようもない部分だ。そんな懸念を口にする高官の言葉を、心配は不要だとカーターは首を横に振る。
「なにも、ダミーである必要はあるまい。既存の人形をこの部隊に組み込めば良い。戦力増強の要請にはこれで十分だろう」
カーターは参加する面々を見渡して、問う。
「さて、異論が有る者は?」
どうも皆様、こんにちはAK-15です。
初任務で送り込まれた戦場は、実に最悪な環境でしたがなんとか生き延びることができました。
命のありがたみをひしひしと実感する今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、私が相手にしたE.L.I.Dとかいう化物どもは、やたらめったらすばしっこいくせに馬鹿力で、奴らの攻撃は直撃すれば被害甚大。
しかも、攻撃を加えたとしても致命傷でなければすぐ再生。
再生機能は私もありますが、連中ほど優れてはいないのです。一応これでも、私は最新技術の塊なのですが、これは生命の神秘という奴なのでしょう。
とはいえ、心臓の破壊や頭部の破壊でなんとか出来るのがわかった。まだやりようはあるというのが初仕事の感想です。
主な戦い方も、今回の作戦である程度構築できました。
遠距離においては狙撃し急所を狙う。しかし、私の弾との相性はあまり良くありません。
中距離では、面制圧射撃。しかし弾薬消費量が多いため、非効率的。
最後に、近距離での戦い方。ナイフで体組織を切り裂いて急所を露出させ、そこに弾丸を叩き込む方法。弾薬節約にもなるし、なにより早く敵を倒すことができるのです。
とまあ、そんなこんなで最初の作戦を乗り切ることはできたわけだが、実は一つだけ失態を犯している。
「AK-15、破損した左腕の修復率を報告したまえ」
「はい。今朝時点で60%ほどまで完了、明日には接合工程に入れるかと」
「素晴らしい、計算通りだ」
私の返答にたいそうご満悦な笑顔を見せて、何度もうなずく技術主任。
それに半ば呆れつつ、固定具に支えられた左腕を見下ろす。私の失態とは、敵の攻撃をガードした際に腕を破損したこと。
かなりの威力をもった攻撃だったので、受け止めれば腕を破損するのは必至だろうと分かっていた。しかし、どうせ修復機能を稼働させれば一日ちょっとで治るものと、安心してたかを括っていたのだが――
『君が腕を大幅に損傷してくれたことは実にありがたい。君の骨格は実に芸術的であり、設計の陣頭指揮をとった私としては図面を眺めるだけでも恍惚とできるものだ。実はそのせいで、今の今まで君の自己修復機能を試すことができていなかったのだ。ああ、あの美しい基礎フレームが破壊されたのは実に惜しいが、これはいい機会だ。再生機能は通常モードで稼動させ、完治するまではしばらくはそれで過ごしたまえ』
私が損傷をしたと知った途端、目の前で私の経過観察データを眺めて高笑いをしているこの
とまあ、そんなこんなで傷病生活が始まったのが数日前。私は今、診察を受けている。嬉しそうにデータ達に向き合って、素晴らしいと何度もこぼしながらパネルを操作する様子を眺め、思わずため息が出てしまう。
「主任殿、意見具申許可を」
「なにかね、許可する」
私は、これ以上の傷病生活は無意味であると考えていた。
すでに経過観察データはある程度確保しているだろうし、自己修復機能が正常に働くことも確認されている。これ以上実験をしても、データの精度を上げる以外のメリットが浮かばない。というか、正直なところ、片腕を使えないというのは実に不便なので、すぐにでも終わらせたい。
「これ以上の自己修復機能使用は不要ではないでしょうか」
「不要かどうかは私が判断する。君は黙って従っていたまえ」
「ですが、これでは禄に身体を慣らす事や時間潰しも出来ないのですが?」
暇潰し、というのは絵を描くことや、音楽演奏といったところだ。生前では現場の記憶を抽象化したものを描いては闇市に流し、活動資金を得る手段にしていたものだ。
これが意外といい金になる。
特に資産家連中からの評判が良かったらしく、仲介人からは作品を出す度に喜ばれたものだ。そのお陰か、生前の"俺"の評価の一つには「独自の美的感覚で生命に彩りを与え、有終の美を演出する殺人芸術家」とかいうものもあったらしい。ウケる。
もう一つの趣味の音楽演奏については、幼少期に受けた教育の結果である。ある程度の楽器は人並みか、それ以上に扱える。
ただ、音楽演奏は片腕しか使えない状況でやるつもりはなく、絵を描く事も同様である。現状出来る訓練はといえば電脳空間上での戦闘演習。どちらも、この数日間で飽きるほどやり尽くした。
加えて、この施設には娯楽がない。そのせいで今の私は、これ以上ないほどに暇なのだ。
戦闘に出なくていいので非常に楽なので歓迎ではあるのだが。
「なら、君に仕事を与えよう。君の小隊に一人の人形が追加戦力として送られてくるという連絡があった」
なんと。
私の部隊に人員が追加されるらしい。先日提出した報告書の中で、人員補充の重要性をくどいくらい書き連ねた甲斐があったというもの。
使える人員なら素晴らしいが、使えない人形でも私の弾除けくらいにはなる。どちらに転んだとしても、私にはメリットしかないのである。
現状、これを喜ばずして何を喜べという。
今もブラックな職場で働いているであろう我が先達へ。君は人員補充がされないことを嘆いていましたが、我が職場は少なからず改善に向かっているようです。
「それは朗報ですね。人員の詳細は頂けますか?」
「今送った。確認したまえ」
接続しているネットワークを経由し、人形のデータが私に送られてくる。即座に解凍し、確認。その内容に、思わず小躍りしたくなる。
「盾持ちの前衛ですか。素晴らしい」
武装はショットガン、可動式アームに保持された盾を持つ、重装甲型の前衛タイプ。性能も軍用準拠、文句なしの一言に尽きる。
ああ、素晴らしきかな。Хорошо、Excellent、Très bien、Bravo!!
参謀本部の御歴々の決断に喝采を。小隊規模の編成が可能な人員であれば、更に素晴らしかったのだが、この際贅沢は言うまい。
「君の部下につけるが、実戦経験は君より豊富だ。その辺りも含めてうまくやることだな」
「信用がありませんか」
わざわざ言葉にして、新人とのトラブルを心配された。不服ではあるが、それ以上に彼がそういった人間関係の話題を振ったことに驚いていた。
「最初の作戦でパイロットに転属願を出させておいて、信用もなにもあるまい。彼を引き抜くのにどれだけ苦労したと思っている?ん?」
「それについては、本当に心当たりが無いのですが……」
これについては本当だ。私の最初の作戦後、ヘリパイロットの二人組の片割れが、帰還後即転属願いを出したらしい。あまり話しても居なかったし、変なことをした覚えもない。ただまあ、この職場環境はよろしく無いので、その辺りだろうと思っている。
私の返答を聞き、主任は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「まあいい、今更彼の事を気にしても仕方あるまい。AK-15、君は追加人員の人形を迎えに行きたまえ。腕が折れていてもそれくらい容易かろう」
「わかりました。では行ってきますよ、主任」
そう言って、再び端末のデータとの熱いハネムーンに旅立った主任に背を向け、待ち合わせ場所への移動を開始する。
「確か、名前は……」
歩きながら、名前は把握して置かなければと思い至る。プロフィールを再び開いて個体名を確認する。
「サブリナ」
それが、その人形の名前らしい。
遅くなって本当に申し訳ない。
なんか、色々やってたら時間が空いてしまった。
今後ともよろしく。
感想とかあったら、よろしくお願いします