堕ちた先は人形道   作:杭打折

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ここは私の知らない世界。
見るものすべてが新しい。

しかし、変わらないものもあるのだ。


7話.NEW COMER

「軍人さん、何か買っていっておくれよ。軍票使ってくれたらサービスするよ!」

 

――いえ、軍務中ですから

 

「おや士官さん、腕を怪我してるんかい?なら栄誉が豊富なこいつをだね」

 

――ああ、いや、間に合ってますので

 

 軍人というのはどうやらかなりの人気者のようです。街に出た途端いろんな人から声をかけられ、私は若干困惑しております。

 まあ当然といえば当然かもしれない。今の時代において、軍人というのは最も安定した職業の一つに入っています。

 さて、今の私の格好はバイザーを外して素顔を晒し、髪型はポニーテールのまま。武装は私の名前にもなっているAK-15は手元になく、サイドアームであるPL-15とナイフを携行。左手は、変わらず吊り下げたまま。

 

 そして何故か、女性士官用の制服を着せられています。

 

 何故人形である自分にこのようなものが支給されたのかを聞いてみたところ、その方が色々と都合がつくから便利だ、とか。

 確かに便利かもしれません。最初から人形であると見られるより、知らぬ第三者からは人間と見られている方が、私自身も身動きが取りやすい。

 しかし、いくらなんでも誘惑が多すぎて、AK-15は今とても困っています。

 あの若者も、中年も、老人も、声を掛けてくる者たちが皆、どれもとても魅力的。つい、ふらふらと誘われてしまいそうになるのです。大量の人間が居るのだから、一人くらいならつまんでも良いのではと思ってしまうのです。

 誘われるように近付いて、世間話で盛り上げたところで、そのままサクッとひとひねり――なんて、そんなことをしたら即刻廃棄処分になるのは間違い無いのでやりませんが。

 人間なら罪を言い渡されるだけで済みますが、人形ではそうもいきません。

 人間が人間を殺すのと、人形が人間を殺すのは、大きく勝手が違うので。まあ、相手がテロリストの現行犯なら大目に見てもらえるかもしれませんが。

 

 皆様どうも、AK-15です。

 

 過度な誘惑行き交う市街地へと送り出された私は、こうして見てると第三次世界大戦直後に比べればかなりマシだと言える。叶うことならしばらく街を見て回り、今の世界の情勢や市場がどうなってるかを把握したいのだが、今日はお仕事でここに来ているのでそれに費やせる時間はない。

 少なくとも、AK-15という人形は職業意識旺盛であり、創造主たる人間にとって非常に好評な人形なのですから。

 

 さて、そんな私の向かう先は、この街の中心部に位置する鉄道の駅。

 主任殿より貰った情報によれば、サブリナは列車を利用して輸送されるとのことで、私は小隊長として、支給される物品の受け取りに向かわなくてはならないらしい。

 正直に言えば、人形には自分で移動させても良いだろうとも思っている。地図さえ与えれば戦術人形が道に迷うような事はないのだから、場所を教えておいて歩いて来させれば良いのでは――と。至極真っ当な理論であるし、私もそう思うのだが、どうやら私も私で行かねばならない理由があるらしい。

 私を送り出した主任(MAD)曰く――

 

『喜び給え、AK-15。君のための新装備が届く。その受領手続きをしにいってもらおう。なに、難しいことではない。現地のスタッフに従い、装備に君の所有認証を掛けるだけでよいのだ。胎児にも出来るような仕事だ。ついでに補給物資を受け取り、新入りの人形を迎えに行くことなど、造作もなかろう』

 

 とかなんとか。詳細情報は機密だとかで共有は行われていないのだが、装備の受け取りに関するものということだけは解る。

 どんな装備かは知らないが、私に負担のかからないものであってほしい。最低限、そこは考慮していただきたいものだ。

 

「ま、私からすれば、新装備より戦力が増えることのほうがありがたいんだけど……」

 

 それだけに、今回追加の人形が配備されるというのは素直に嬉しいことだ。優秀な盾役であることを心から祈っている。

 

「それにしても、随分と変わったもので……」

 

 祈りながら歩きつつ、私の時代とは変わった景色に郷愁が湧き上がる。

 建ち並ぶ建築物は、どれもが記憶にあるものより遥かに高い。戦後の復興が進んだ証かと思うのと同時に、それが"俺"の生きていた時代との乖離を感じさせる。

 乖離したのは時代だけではない。こうして、警察組織や一般人の目を気にせず出歩けること。街の中を飛び交う電波の類を認識できること。

 それらが、変わってしまったのは時代だけでなく、自分もなのだと否応なく、実感を伴って訴えかけてくる。

 試しに深く電波を覗く。街の空を行き交う電波は民間のものから公的機関のものまで様々な形が、スクランブル交差点のように絡み合っている。

 

「ん……?」

 

 そんな中に一つ、他とは違う形の波を見つける。波の形や長さが、他とは全く違う。電波の強度的に民間用とは言い難い。私のデータベースには登録されていない形だ。

 

 匂う。それはとても懐かしく、楽しそうな血の匂い。

 

 今すぐ匂いの出処を辿りたい。しかし残念ながら、今はお仕事が優先だ。寄り道をするような時間の余裕はない。

 それにいくら私でも、おつかいも出来ない人形と思われたくはないのだ。

 

 

 

 

 

 目録を眺めるというのは、目を疲れさせる仕事だ。やたら文字が小さく、そしてびっしりと狭い文書の限られたスペースの中に詰め込んでくる場合が多い。生前にもそう言った物に触れる機会はあったのだが、終わった後はいつも目を揉みたくなっていた。

 7.62mm弾が徹甲仕様1500発、HEI(焼夷榴弾)仕様が500発。各種手榴弾とナイフに12ゲージの散弾多数。その他びっしりと並ぶ周期番号やよくわからない文字の羅列されているのは、研究用機材や試作品の類だろう。予め主任殿より受け取っていた受け取りリストと照合し、数の過不足がないかを確認。

 軍の人間のやる仕事というのは殊更に正確だ。かつて裏で運び屋を使ったときのように、余計なものがない。これは幾らか気持ちが楽だ。

 捲りあげたリストを戻して視線を上げると、向かいに立つ東欧系のガタイの良い男はしげしげと、此方を観察するように眺めていた。

 

「目録は確認しましたよ。それで、名前を書けばよろしいので?」

「ああ、頭の書類にサインをしてくれ、それで物資受領に関しては終わりだ。しかし……まさか本当に人形を寄越すとはな、あの男」

 

 やはり、人形がこういった場に出てくるのは多くないのか。先程からこちらに向けている視線の意味も、恐らくはそれだ。

 気にすることは無い。ただ、こういうのは珍しいというだけの話だ。人間に言われた事をこなしてる以上、人形としての意義に反するものではない。後ろ暗いことだって、何一つとしてないのだから。とはいっても、社交辞令的な意味合いも兼ねて会話を続ける。

 

「お気に召しませんか」

「いや、そういう訳じゃない。俺達からすれば、書類に名前を書いてくれるんならそれで良い。ペンを持つ手が天然物(ネイチャーメイド)工業製品(ファクトリーメイド)かは、そいつの好き嫌いでしかないのさ」

 

 担当者の男は毛の薄くなった頭を撫でながら、こともなげに言いはなつ。

 そういうものなのだろうか。しかし考えてみれば、そうかもしれない。

 鉄道輸送部の彼らからすれば、重要なのは荷物の輸送と担当者への受け渡し。受け取る相手が人形だろうが人間だろうが、預かり知らぬことでしかない。

 書類の上にさらさらとペンを走らせ、自分の名前を記入する。名前を確認、AK-15、間違いなし。

 

「確認願います」

「了解」

 

 書類を渡す。彼は受け取り、確認する。 

 

「ほう……随分と品のある字を書くな」

「そう見えますか?」

「ああ。育ちの良い高級士官の連中を思い出すね。士官タイプの戦術人形ってのはそういう仕様なのか?」

 

 文字のクセ、か。生前の逃走生活中は棒線一本引くのにも気にしてたが、言われるまですっかり忘れていた。

 通常の人形にはそういったものはないということか。覚えておこう。

 

「手に染み付いた癖というやつですよ、きっと」

「相変わらず、技術屋の考える事はよくわからんな。まあいい。これで受け取り手続きは完了、明日にはそっちの施設に届く」

 

 まずは仕事を一つ片付けた。次は装備と戦術人形"サブリナ"の受領手続きだ。それを終わらせて、この場所での仕事はお終いだ。

 

「次は戦術人形の受け渡しと、機材の認証登録だったか。こっちだついてきてくれ」

 

 担当者の後に続いて、一つの大型コンテナに向かう。彼が備え付けの端末を操作するとコンテナの口が開いて中が顕になる。

 中には大きな棺桶を思わせる黒い直方体の箱とガンケース、シールドユニットの装備された外骨格がそれぞれ一つずつ。そしてそれとは反対側の壁に固定された、ガンケースよりわずかに細く、長いケースが一つ。

 それぞれの管理端末と無線接続を行い、中身が事前に受け取った情報の通りであることを確かめる。

 つまり片方は戦術人形、もう片方は詳細不明と言うわけだ。

 

「手続きの方法は判るか?」

「マニュアルをインストール済みです」

「便利だな。それじゃあ、終わったら声を掛けてくれ」

「はい。お気遣いどうも」

 

 そう言って男は立会を終えて別の仕事へと向かっていった。いやはや、実にご苦労なことである。

 では、一人になったところで、私も残りのお仕事を終わらせるとしよう。

 彼にも言った通り、戦術人形及び装備の認証登録方法を記したマニュアルは私の電脳の中にインストール済みである。戦術人形というのは本当に便利に出来ていると実感せざるを得ない。

 手順は実に単純だ。まず端末に接続。次に認証キーを通して権限の登録を行い、権限周りのプロテクトを強化。最後に起動コマンドを送信して接続を解除する。

 以上で手続き完了。人間がやるには端末と格闘しなくてはならない手順も、戦術人形同士ならあら簡単。電脳内のやり取りですべて完結する。

 これで戦術人形と武装の権限登録は完了だ。サブリナの眠る鋼鉄の棺桶の蓋が開く。開かれた棺桶の中に眠る戦術人形は、既に起動シーケンスと内部的な初期処理に移行している。

 ご苦労さまでした。実に楽な仕事で、これなら主任が豪語していたように胎児にもできるだろう。

 あとは、正常に起動するかどうかだ。動かなければ適当な貨物として取扱い、我らが主任殿の手で修理されるだけのことである。

 余計な手続きをしなくはならないので、そうならないことを祈る。

 

「ッ―――」

 

 どうやら、私の祈りは届いたらしい。

 コンテナの内壁から背を離し、手首や関節の具合の確認をしているサブリナへと話しかける。

 

「身体の調子はどうか、サブリナ」

 

 声をかけられたサブリナは、瞬きをしない真紅の瞳でこちらを凝視する。

 私も見つめ返すついでに外観データから解析を試みる。色素の薄い肌、白に近い色の髪、瞳の色彩。事前に写真で把握していたが、彼女の容貌はアルビノに近い。 

 しかし、内骨格についてはかなり頑強だろう。それに合わせて出力もかなり高いと見て取れる。紛うことなき軍用規格の戦術人形、及第点以上と言えよう。

 優秀な戦力を回してくれた上層部には感謝の言葉を送りたい。

 

「―――問題ありません、AK-15」

「結構」

 

 そして、登録手続きにも異常はなかったらしい。私を正しく認識しているサブリナはケースから立ち上がると、軍式の敬礼を行う。

 形式的な挨拶。予めインストールされたOSに従っての初期行動。こういった軍人然とした振る舞いをさせる方が、やはり商品としての受けは良いのだろう。

 人間と戦術人形であればいざしらす、戦術人形同士にこのようなやり取りは必要なのかと疑問は残るが。

 

「戦術人形"SPAS-12"、識別名はサブリナ。これより貴方の指揮下に入ります。どうぞ、盾として御利用ください」

「第31独立遊撃機械化実験小隊、小隊長の"AK-15"。君には、望み通り私の盾になってもらう。よろしく頼む」

 

 答礼。

 まあ、如何に不要と思えるやり取りであったとしてもだ、創造主(にんげん)が望んでやらせてるというのなら付き合ってやることも吝かではない。

 やった方が受けが良いと言うのなら、私もそうやって理想的な戦術人形として立ち回るのみ。

 そっちの方が、何かと便利に働くものだ。

 

 

 

 




遅くなって申し訳ない(´・ω・`)
思った以上に8月は忙しかったんだ。
今回はあまり話は進んでないけど、次回もよろしくということで。
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